読んだ本 Feed

2010年3月21日 (日)

『赤ちゃんと絵本をひらいたら ブックスタートはじまりの10年』(つづき)

■3月13日の日記にも少しだけ書いたが、「この本」は文章がいい。
努めて抑えた筆致で、淡々と綴られてはいるのだけれど、
何故か読みながら、書き手の、そして登場人物たちの「熱い血潮」を感じてしまう。
その点が、ルポルタージュとしても非常に優れているところだ。


「第三章:地域に根ざした取り組み」に登場する、北海道恵庭市、鳥取県鳥取市、岡山県西栗倉村でブックスタート実現のために頑張ってきた人たちのことが丁寧にルポされているのだが、読みながら彼らの息づかい、体温、そしてその笑顔がビビッドに感じられるのだ。例えば、116ページにはこんな記載がある。


 そして恵庭市の関係者は、「最終的に活動の継続にとって一番大切なのは、人だ」と口をそろえる。例えば地方自治体の財政難の流れがさらに深刻になり、ブックスタートが予算カットの対象とされてしまいそうな時に、「これは単なる配布物のための予算ではなく、子育て支援の方策として継続するべき事業の予算なのだ」ということを、きちんと説明できる人の存在が必要になってくるという。

 内藤さんは、新しくブックスタートに関わる人たちに、活動を立ち上げた時の気持ちをどう伝えていくかが、これからの課題だと言う。「泣いている赤ちゃんが、自分が絵本を読んだことで初めて泣きやんだ時の喜びは忘れられません。最初に始めた人には大変な苦労もありましたが、やっぱり立ち上げた時の喜びも大きくて、ブックスタートを誇りに思っている人が何人もいるんです。このあたたかい思いのつながり、ブックスタートの大切な核の部分を、人が変わっても代が変わっても、ちゃんとつなげていくことが大切なんです。」

 ブックスタートは恵庭市の図書館を変え、健診を変え、市民と行政の関係をも変えてきた。恵庭市に蒔かれたブックスタートという種は、関係者が協力して土を耕し、水をやり、肥料を与えて、手間をかけ、大切に育ててきた結果、恵庭の地にしっかりと根を張り、花を咲かせ、今、最初の果実が実りはじめているのかもしれない。そして豊かになったその土壌には、また違った種から出た新しい芽も元気に育ちはじめているのだろう。

■富士見町でガーデニングを始めた頃、よく苗を買いに訪れたのが小淵沢の五十嵐ナーセリーだ。

今から15年くらい前のことだったが、現在ホームセンターで当たり前に売られている花々が、当時はまだ珍しかった。訊けば、五十嵐さんが自分でイギリスから種を買い付けて、ハウスで大切に育てきたのだと言う。同じ品種でも、同じに育てても、種によって微妙に違った色合いの花を咲かせるのだそうだ。当然、同じ種でもイギリス本国と輸入された日本とでは咲かせる花も違ってくるのだろう。


ブックスタートもまったく同じだな。
佐藤いづみさんがイギリスから持ち帰った種を、
いまのNPOブックスタート実働部隊である斉藤かおりさん他のスタッフが苗床に蒔き育てて、全国各地で待つ「生まれたすべての赤ちゃんの幸せを願う子育て支援に携わる人々」に彼女らは苗を配って回っているのだ。


新たに事業を始める人たちのために、基本的な大切なポイントが書かれた『ブックスタート・ハンドブック』はあるが、それは、マクドナルドの新人スタッフ研修マニュアルでも、セブンイレブンお客様接待マニュアルでもない。その地区の実情に合わせて話し合い、試行錯誤を繰り返し、さまざまな工夫をしながら、毎日水をやり、肥やしを蒔き、汗水たらして畑を耕すのは、その土地に住む人々なのだ。


北海道と九州では気候も違えば土質も違う。
土地の広さだって、日照時間だって違うはずだ。
だから、同じ苗を育てても、咲く「その花」実る「その実」は、
それぞれの土地特有のオンリーワンになるに違いないのだ。


そのことが、このブックスタート活動の一番大切なポイントなのだと
改めて思った次第です。


ぜひ、読んでみてください。

2010年3月19日 (金)

『赤ちゃんと絵本をひらいたら ブックスタートはじまりの10年』

100318『赤ちゃんと絵本をひらいたら ブックスタートはじまりの10年』NPOブックスタート編著(岩波書店)読了。これは本当に素晴らしい本だ。

日頃、現場で赤ちゃんと関わっている全ての大人(保健師、保育士、小児科医、子育て支援ボランティアほか)は当然読むべき本だし、行政のお偉いさんにも是非読んでいただきたい。この1冊を読めば「ブックスタートとは何か」が本当によく分かる。なるほどそうかと思う。


まず、本の装丁が何ともいいではないか。淡い水彩絵具で描かれた「まる」。風船? それとも。赤ちゃんの顔?
あったかそうで、ほんわり、ふんわりしてて。思わずそおっとやさしく両手で包みたくなるようだ。


いろいろと読みどころの多い本だが、
ぼくが注目したのは「第二章 ブックスタートの歩み」と「第三章 地域に根ざした取り組み」だ。


何よりも驚いたことは、この10年間で瞬く間に日本全国各地に広がっていった
この「ブックスタート」の日本での活動の始まりが、
出版最大手取次「日販」に入社してまだ2年目の新人女性社員だった佐藤いづみさんが、
たった一人で行動を起こしたことがきっかけになったということだ。ぜんぜん知らなかった。

会社の創立50周年記念の海外視察研修に応募するために、飯田橋のブリティッシュ・カウンシルの図書室を訪れた佐藤さんは、1992年に始まった英国のブックスタート活動のことを、雑誌の特集記事の中に偶然発見する。1999年5月のことだ。そしてその年の10月、彼女は一人で2週間のイギリス研修に旅立つ。バーミンガム市立中央図書館で担当者からブックスタートに関して現場の生きた情報を聞いた彼女は、ぜひこの取り組みを日本の人たちにも伝えたいと、この時強く願ったのだった。

タイミングもよかった。翌2000年は「子ども読書年」で、子ども読書推進会議事務局長の白井氏が彼女の報告に興味をしめした。「まず佐藤さんの熱心な様子から、何かを伝えたい、という意志が伝わってきました。そしてシンプルで分かりやすく、あたたかなメッセージを持ったブックスタートの内容を聞いて、これは何か大切なものがある、動かしていく価値があるな、と直感したんです」と、白井氏はふりかえる。


2000年7月、今度は白井氏、佐藤さん他5名のメンバーで英国のブックスタートを視察する。本書40ページに載っている、この時のエピソードは感動的だ。英国のブックスタート発案者であるウェンディ・クーリングさんとの会見の席で、佐藤さんはあまりにも基本的すぎて今さらだれにも聞けないと感じていた質問をしてみることにした。それは「まだ字も読めない、単語の意味をきちんと理解できるわけでもない赤ちゃんは、本を読めるのか」ということだった。

その問いに対してウェンディさんはどう答えたのか?

それはぜひ、この本を直接手にとって確かめてみてください。(まだつづく)


2010年2月25日 (木)

個人的には、三遊亭円丈さんに七代目「圓生」を継いでもらいたいな

■『子どもとことば』岡本夏木(岩波新書)読了。
う〜む、難しかった。特に後半。


「情動的・行動的性質のくびき」とか、「対人関係のくびき」とか、
ところで「くびき」って何?

あっ「足かせ」と同じ事?

「くびき」とは「縛るもの。自由を妨げるもの。」という意味

だとしたら、よけい分からん。あと、
シンボルの「恣意性」とか。


最終章の「自我の形成とことば」とか、
「ことばによって失われるもの」とかは、
何となく判ったかな。


でも、すっごく大切なことが書いてある本。
もう一回読もう。


■で、いま読んでるのは、
『5人の落語家が語る ザ・前座修行』(NHK出版生活人新書)


最初に読んだのは、
三遊亭円丈さんのインタビュー。
面白い!


本当は小心者なのに、目一杯強がって、
自信満々なふりをしている円丈さんが、ぼくは好きだ。

だって、A型なんだもん。


typical なB型の落語家、柳家小三治さんのインタビューは
いかにもだなあ。ぼくの好みの落語家さんはみなB型。
喬太郎さんとか。ていうか、落語家さんにはB型の人が多いのだ。


まだ読み始めたばかりが、林家正蔵さんの血液型はA型。
ところで、立川志らくさんの血液型は、何型かな。

あと、川柳川柳師匠はどうなんだろう。

2010年2月18日 (木)

『身の上話』佐藤正午(光文社) ほか

『ウェブを炎上させるイタい人たち—面妖なネット原理主義者の「いなし方」』中川淳一郎(宝島社新書)読了。

『ウェブはバカと暇人のもの』が面白かったから買ってきて読んだのだが、
まぁ買ってまで読む価値はない本かな。
言いたいことはもう十分わかったよ。
そのとおり、リアルの世界を大切にしろと。


twitter 信者はあまりに無邪気で牧歌的すぎると。あと暇人のもの。
確かにね、自営業で個人事業主でもないと四六時中垂れ流され続ける「つぶやき」を
リアルタイムでフォローすることはできないもんなぁ。


あと、フォローされてなんぼの、有名人のためだけのツールだよな。
まぁ、僕なんかは個人的に興味のある人をフォローさせてもらうだけで
十分面白いんだけれど。


それから、2ちゃんねると違って、たとえ匿名でも発言者の背景が
何となく見えてくるところが twitter のいいところだと思う。

最近は、診察室の iMac で、twitter のホームを常時開いていて、
患者さんが途切れると
更新して新たなツイートを読んでいる状態。


という訳で、twitter の可能性に関しては、
もう少し使ってみてから判断したいと思ってます。


■『身の上話』佐藤正午(光文社)は、あの中江有里さんが
NHK週刊ブックレビューで絶賛していたので
これは読みたい! そう思っていた。

しばらく前に、高遠町図書館にリクエストして
ようやく順番が回ってきた。


まず読んだのは、ぼくの妻だ。
最近妻は、なんだかいつも本読んでる。
面白い本に当たると、次々とまた読みたくなるのだ。
ハリー・ポッターの最終刊(下)を読み終わって、
次に手にしたのが『身の上話』だった。


「ほう!」とか、「えぇ!?」とか、
「うっそぉ!」とか、

とにかく読みながらうるさいのだ。


ぼくはと言えば、まだ『横道世之介』の
ほのぼのとした世界に浸っている身だったので、
「いったい何なんだい?」

って訊いてはみたものの、
ネタバレは御免だから実に歯がゆいのだな。


これは僕も読み終わるしかない訳で。

それにしても、最初は苦行だった。
何なんだ! この女!
じつに嫌なオンナ! 俺キライだよ、コイツ。
何考えてんだよ、ほんと。


ところが、勤務先の先輩に頼まれて、事務的に購入した
宝くじ43枚のうちの1枚が、
2億円の「当たりくじ」であることが判明したあたりから、

ぼくは彼女と一身同体になってしまった。


そうだよね、まずは落ち着いて
銀行に行こう。


それから、口座を開いて、2億円を入れる。
その通帳は、肌身離さず持っていなきゃね。


そんな主人公の思惑とは裏腹に、
彼女の周囲では、予想外の事態が次々と
展開するのだった。


これには僕もまいったな。
それは読者の想定外でしょ。
ぜんぜん先が読めないのだ。だから、
主人公がこの先どうなるのか気になって、
読みだしたら途中で止められなくなってしまい、
一気にラストまで行ってしまった感じ。


そうか、そうやって決着をつけるのか……

まぁ、読者としてはこれほど「作者に任せっきり」にした
小説も珍しい。

ジェットコースターに乗せられて、
あとは「キャーキャー」言ってるだけで
終着してしまうといった小説。

だから、手練れの小説好きにこそ
読んで欲しいな。


久しぶりに
嵐の夜の木葉のように、作者に弄ばれる
読者としてはこれほどの「しあわせ」は
ないんじゃないかと思う傑作小説なのだから。



 


2010年2月16日 (火)

さよなら ディック・フランシス

■じつは奥さんがゴースト・ライターだったのでは?という噂が立って
暫くしてからその奥さんが亡くなってしまったので、これでもう二度と
ディック・フランシス「競馬シリーズ」の新作は読めないのだと
諦めていたら、数年後、そうした風評を見事に払拭して新作が発表されたので
ぼくは本当に驚いた。

やるじゃん、ディック・フランシス。恐れ入りました。


イギリス人の作家で一番好きなのは
クリストファー・プリーストだが、一番たくさん本を読んでいるのは
何と言っても、ディック・フランシスだった。


そうは言っても、いま確かめてみたら
思ったほど読んではいなかったか。


『興奮』 『本命』 『度胸』 『大穴』 『血統』
『罰金』 『利腕』 『名門』 『証拠』
『直線』 『標的』 『帰還』 『密輸』
『決着』 『女王陛下の騎手』


一番好きなのは『度胸』かな。鼻の差で『大穴』か。
リアルタイムで読み始めたのは『直線』から。
だから『直線』にもすっごく思い入れがあるよ。


ただ、「菊池光・訳」でなくなって、奥さんが亡くなってからは
正直読む気をなくしていた。

ほんと、ごめんなさいね。

今度こそ、本当にディック・フランシスの新作が読めなくなってしまった。
悲しい。寂しい。

不撓不屈の「ジョンブル魂」は、誰が引き継いでくれるのだろうか?

謹んでご冥福をお祈りいたします。


2010年2月10日 (水)

『横道世之介』吉田修一(毎日新聞社)

■日曜日の夕方、妻の携帯に「テルメなう。」ってメールしたら、
帰ってから妻に「なうって何よ」と言われた。


「ハマコーさんだって使ってんだぜ」と言おうかとも思ったが、やめにした。
Twitter 用語をメールとかでこれ見よがしに使うのは、かえって格好悪いな。


■そんな Twitter のぼくのタイムライン上に、T先生の「つぶやき」が表示された。
2月5日のことだ。
ぼくと同じく、つい最近 Twitter を始めた T先生のフォロワーになったからね。
それはこんな「つぶやき」だった。


あーっ、ERは、きついなー。 どうして? だって、みんな痛いじんせいで。だれか、幸せになってよー、て。


いやいや、ホントそのとおりだよなぁ。うまいことを言うものだ。
ぼくも「ER」見ながらいつもそう思っていたんだ。

「みんな痛いじんせい」だなって。メンバーに次々と降りかかる苦難やトラブル。
いつも誰かどうか落ち込んで悩んでいるよね。


でも、ふつうの人々の実際の人生では、そんなに辛く切ないことは
次々と起こらないし、多少浮き沈みはあるにせよ、日々の生活は
これと言って特別な出来事のない平凡な毎日だ。


そうやって、何となく1年が過ぎ去ってゆく。


■『横道世之介』吉田修一(毎日新聞社)をようやく読み終わった。
面白くて読みやすい小説なのに、バタバタしていて時間がかかってしまった。


大学生になって長崎から上京してきた18歳の男の子、横道世之介が主人公だ。
大学1年生の彼が過ごした1年間の日々が淡々と綴られた青春小説なのだが、
この世之介クン、いつも飄々としていて、ERの登場人物たちみたいに、
悶々と悩むことなんて一度もないのだ。そいで、サンバを踊っている。

この世之介クンがいいんだな。彼のまわりの人々も
みんないい人。しかも魅力的。倉持くんとか、加藤くんとか。
それから、千春さんに祥子ちゃん。特に、祥子ちゃんサイコー!


読み始めて、文章のテンポや言い回しに夏目漱石の「坊ちゃん」か「三四郎」の
雰囲気を感じたが、その不思議な軽さとでもいうか、さわやかさが
とてもいい。

小説の舞台は、作者が大学生活を送った、バブル時代の東京で、
ぼくが大学生になった時のちょうど10年後にあたる。だから、
ぼく自身が体験した学生生活とはずいぶん雰囲気が違う。田舎だったしね。


でも、読みながら何とも幸せな懐かしさに包まれた気分になった。


そうそう、そんな感じだったよなぁって。
結局、青春時代というのは誰にとっても同じ時間が流れているのか。


■20年後、40歳になった加藤くんがこう「つぶやく」のだ。


「いや、大学一年の頃だけど仲の良かった友達がいてさ」
「……世之介って名前だったんだけどさ、(中略)当時、年上の女に一目惚れしてて、それが高級娼婦っていうか、ほら、当時、バブル真っ盛りだったろ?(中略)」

 世之介と出会った人生と出会わなかった人生で何か変わるだろうかと、ふと思う。たぶん何も変わりはない。ただ青春時代に世之介と出会わなかった人がこの世の中には大勢いるのかと思うと、なぜか自分がとても得をしたような気持ちになってくる。
(p169 ~ p171)


2010年1月23日 (土)

『流星の絆』と『黄色い部屋の秘密』(その2)

『黄色い部屋の秘密』を読んでみようと思ったのは、「翻訳ミステリー大賞シンジケート」で、三津田信三さんのインタビュー記事を読んだからだ。何だか面白そうじゃないか。


WEB本の雑誌には、『8・1・3の謎―怪盗ルパン全集 (ポプラ文庫クラシック)』の紹介が載ってるぞ。小学性の頃読んだはずだが、全く憶えていない。こちらも読まなきゃ。


ところで、『黄色い部屋の秘密』には『黒衣夫人の香り』という続編があって、ミステリーのトリックとしては大したことないが、『黄色い部屋の秘密』では未解決だった驚愕の事実が明らかにされているらしい。どうも『ミレニアム1』と『ミレニアム2』の関係みたいなのだ。うーむ、何だか気になるではないか。2008年に出た「創元推理文庫(新版)」の巻末には、戸川安宣氏による「『黄色い部屋の謎』解説(表版)」が載っているのだそうだ。本篇はともかく、この解説だけは読んでみたいぞ。


■さて、『流星の絆』のはなし。そもそもの始まりは、中1の長男がクラス担任の先生から「この本」を借りてきてたことに始まる。先生があまりに面白そうに読んでいたので貸してもらったのだという。彼は夢中で一気に読み終わり「東野圭吾、すごいよー、おかあさんも読んでみなよ!」というワケで、今度は妻が「その本」を一気に読むこととなった。


長男は、TSUTAYA から TBSでドラマ化されたDVD版『流星の絆』(嵐の二宮クンが主演)を借りてきた。原作を読み終わった妻と二人して、イメージが違うだの「あーだこーだ」言いながら楽しそうに見ている。面白くないのは僕と次男だ。クドカン脚本のドラマは、それなりによく出来ているのだが、やはり原作のほうが気になる。小5の次男は言った。「ぼくも本を読む!」と。


本は先生に返してしまったので、伊那図書館手良分館にあるのを本館に取り寄せてもらって借りてきた。長男と違ってふだんあまり本は読まない彼だったが、読めない漢字、判らない言葉は無視しながら、めずらしく熱中して3日で読み終わった。そして、ドラマ終盤のDVDを3人して楽しそうに見ている。ぼくが見ようとすると、「おとうさんは見ちゃダメ! 犯人ばれちゃうから」と、家族の中で一人きり仲間はずれの状態に陥ってしまったのだ。


そんなぼくを不憫に思ったのか、次男がやって来て言った。「おとうさんも読んでみなよ」


長男から薦められた本を読んだことはあったが(クロニクル太古の闇シリーズとか)、次男から読むように薦められたのは、この『流星の絆』が初めて。そりゃぁ読まなきゃね。というワケだったのだ。


遅ればせながら、ぼくも DVD(vol.5) で第9話・最終話を見た。確かに、ドラマ版は軽いな。行成役の要潤は、もう少し何とかならなかったのか? あの小説の中では一番いい役なのだから。

2010年1月20日 (水)

『流星の絆』と『黄色い部屋の秘密』

■今週から来週にかけてが忙しさのピークか。先だっての 17日(日)と今度の 24日(日)は、まる一日新型インフルエンザ・ワクチン接種。今週は、休診にしている水曜日の午後と、土曜日の午後も新型インフルエンザ・ワクチンの接種で休日がぜんぜんないのだ。それに加えて、金曜日の昼休みには「いなっせ」7Fちびっこ広場で「ノロウイルス感染症」の話をすることになっていて、新ネタの仕込みがまだできていない。


来週の火曜日の夜には、小中学校養護教諭と学校医との懇談会があって、養護教諭からの要望事項の一つ「新型インフルエンザの概要を教えて欲しい」に、ぼくが答えるよう委員長の先生から指示されている。もちろん、まだ何も準備ができていない。さらに、来週の水曜日の午後には、伊那ケーブルテレビの番組「医師会健康アドバイス」の録画撮りがある。内容は「ノロウイルス感染症」と決めてあるのだが、女性アナウンサーの質問内容も含め、全てこちらで台本を作っておかないとならないから大変だ。


■そういう、のっぴきならない時に限ってついつい読書に逃避してしまうのは昔からの悪い癖。


『流星の絆』東野圭吾(講談社)は、先週の土曜日の夜一晩で一気読みした。途中で止められなくなってしまったからだ。素直に面白かった。ただ、個人的には『白夜行』の暗い路線のほうが好きだ。何故この本を読むことになったかについては、また別の話があるので、詳しくは次回に。


今日先ほど読了したのは、『黄色い部屋の秘密』ルルー著、榊原晃三訳(春陽堂少年少女文庫・推理名作シリーズ2)。小学生の頃、学校の図書館に岩崎書店やあかね書房の推理名作シリーズやジュブナイルSFシリーズがあって、エラリー・クイーン『エジプト十字架の謎』とか『宇宙大作戦』『ドゥエル博士の首』とか、いろいろと読んだ記憶がある。もちろん、ポプラ社のルパン・シリーズや江戸川乱歩の少年探偵団、名探偵ホームズものも少しは読んだ。


あの頃のぼくは、それほど読書好きではなかったけれど、当時の小学生はみんな本格推理小説やSFを読んでいたな。でも、最近の小中学生は「そういうの」をぜんぜん読まないんだね。うちの子はそう。だから、お父さんが昔読んだジュブナイル版の本格推理小説を息子たちにも読ませようと思って、ブックオフの100円コーナーで見つけた『黄色い部屋の秘密』を買ってきたのだ。「完全密室もの」の古典的傑作とされているミステリーだが、ストーリーをぜんぜん憶えていない。もちろん真犯人も。


もしかすると読んでなかったのかもしれないね。息子に薦めるには、自分で読んでみないと父親としては無責任だ。そういう訳で『黄色い部屋の秘密』を読んだ。完訳本でなく、児童向け短縮訳本だったので読みやすかった。さっと読めた。ただ、いまの時代に子供たちが読んで面白いのかどうかは、ぜんぜん自信はない。


個人的には、100年も前に書かれた推理小説にしては、後半の展開なんかスピーディーでサスペンスフルで、いまのエンターテインメント小説に通じるものが既にあって感心した。でも、息子に薦めるのはやめとこう。息子たちも『流星の絆』を読み終わっているからね。

2010年1月 9日 (土)

『もののけ姫』と『神無き月十番目の夜』

■いま、テレビで宮崎駿監督作品『もののけ姫』をやっている。この映画を見るのは、「おっこと(乙事)」や「えぼし(烏帽子)」という名の地区がある、諏訪郡富士見町に住んでいた頃に、松本の映画館で観て以来のことだ。いま調べたら、1997年7月12日公開とあった。すごく面白かったのだが、ラストが不満だった。なんか中途半端で投げやりで、大風呂敷を広げるだけ広げといて、きちんと落とし前をつけなかったから。

何故そう思ったのかというと、この映画を観る前に、ほぼ同じ主題の小説『神無き月十番目の夜』飯嶋和一(河出書房新社)を読んでいたからだ。いま調べたら、この小説が発刊されたのが 1997年6月25日で、奇遇にも『もののけ姫』とほとんど同時期だった。当時、この小説と『もののけ姫』との類似性に触れた映画評はなかったと思う。

時代設定は微妙に違う。『もののけ姫』が室町時代末期、『神無き月十番目の夜』は徳川家康が江戸幕府を開く前年、慶長七年十月の出来事。舞台も、山陰地方と関東常陸と違うが、網野善彦の歴史観に大きく影響されているところが共通している。それから、アジールとしての「里山」と、そこに縄文の大昔から中世まで、人々から奉られてきた「土着の神」の存在。ここも同じ。

そこへ「近代」を象徴する専業武士(職業軍人)の軍隊が攻め入り、土着の神と民との共同体を殲滅する話。つまりは、時代の転換点を活写していることでは共通しているのだ。それなのに、小説『神無き月十番目の夜』には読後の圧倒的なカタルシス(かつ、圧倒的な虚無感)があったのに対して、映画『もののけ姫』には残念ながら「それ」はなかった。たぶんそれが不満だったのだ。


■ぼくは、とことん暗い「これでもか!」っていう話が好きなのだ。コーマック・マッカーシー『ブラッド・メリディアン』は、ようやく「第6章」まで読み終わった。まだ全体の 1/4。主人公の少年が、メキシコ・チワワ市の刑務所で、あのトードヴァィンやホールデン 判事と再会し、釈放されたところだ。これからいよいよインディアンの頭皮狩りが始まる。こういう(『神無き月十番目の夜』と同じく、読者に有無も言わせぬ)小説がぼくは好きなのだ。


■閑話休題。今日(昨日)は、今年初めての伊那中央病院救急部の当番日。前回と違って、救急車が1台も入らず、全体に閑な夜だったのだが、夜の8時半を過ぎてから子供が受診しだした。来るならもっと早く受診してよね。だって、聞けば「子供の熱」は今日の午前中からだったり、午後2時からだったりしてるのだ。だったら、日中に開業医を受診できたでしょうに。そう思っても、決して親御さんには直接は言わない。

午後9時までに2人診て、さて帰ろうかと救急部の廊下へ出たら、発熱の子供が受付していた。見て見ぬふりして帰る訳にもいかない。しかたなく第2診察室に戻って、看護師さんの問診が済むのを待つ。夜の9時20分を回っていた。診察が終わって、インフルエンザの迅速診断の結果を待ち、陰性を確認してから処方を打ち込み、親御さんに説明し終わって、さて、今度こそ帰ろうかと思って救急部の廊下へ出たら、デジャブーのように、新たな発熱の子供が受付していた。

でも、ここは心を鬼にして「その子」を無視し、救急口玄関を後にした。だっておいら、明日も午後2時まで診療があるのだよ。しかも、明後日の日曜日は、午前と午後の「まる一日」、伊那市保健センターで小学生に新型インフルエンザの集団予防接種に従事することになっているのだよ。ごめんね。

2010年1月 1日 (金)

2009年「読んだ本」ベスト10+α

喪中のため、新年のご挨拶はご遠慮させていただきます。


■ 2009年「読んだ本」ベスト10+α ■

<フィクション篇>

1)『光車よ、まわれ!』天沢退二郎・著(ピュアフル文庫・ジャイブ)
2)『ミレニアム2 上・下』スティーグ・ラーソン・著(早川書房)
3)『神器―軍艦「橿原」殺人事件 上・下』奥泉光・著(新潮社)
4)『粘膜蜥蜴』・『粘膜人間』飴村行・著(角川ホラー文庫)
5)『鬼の橋』・『えんの松原』伊藤遊・著(福音館書店)

6)『あの犬が好き』シャロン クリーチ・著、金原瑞人 ・訳(偕成社)
7)『みのたけの春』志水辰夫・著(集英社)
8)『おもいで』内田麟太郎・作、中野真典・絵(イースト・プレス)
9)『大きな大きな船』長谷川集平・作(ポプラ社)
10)『いそっぷのおはなし』木坂涼・再話、降矢なな・絵(グランまま社)

11)『ひみつのカレーライス』井上荒野・作、田中清代・絵(アリス館)
12)『みさき』内田麟太郎・作、沢田としき・絵(佼成出版社)
13)『トムとことり』パトリック・レンツ作(主婦の友社)
14)『しでむし』舘野鴻・著(偕成社)
15)『すみ鬼にげた』岩城範枝・作、松村公じ・絵(福音館書店)
16)『しきぶんとんさん、かけぶとんさん、まくらさん』高野文子・作絵(こどものとも年少版/2010/2月号)

<ノンフィクション篇>

1)『スペインの宇宙食』菊池成孔・著(小学館文庫)
2)『落語論』堀井憲一郎・著(講談社現代新書)
3)『支援から共生への道』田中康雄・著(慶應義塾大学出版会)
4)『この世でいちばん大事な「カネ」の話 』西原理恵子・著 (よりみちパン!セ / 理論社)
5)『どんとこい貧困!』湯浅誠・著 (よりみちパン!セ / 理論社)

6)『東京大学のアルバート・アイラー 東大ジャズ講義録・歴史篇&キーワード篇』菊池成孔&大谷能生(文春文庫)
7)『17歳のための世界と日本の見方』松岡正剛・著(春秋社)
8)『単純な脳、複雑な「私」』池谷裕二・著(朝日出版社)
9)『水曜日の神さま』角田光代・著
10)『とんぼの目玉』長谷川摂子・著
11)『LIFE なんでもない日、おめでとう! のごはん。』『LIFE 2』飯島奈美・著(ほぼ日刊イトイ新聞)
12)『33個めの石』森岡正博・著(春秋社)
13)『世界は分けてもわからない』福岡伸一・著(講談社現代新書)
14)『人はなぜツール・ド・フランスに魅せられるのか』土肥志穂(小学館文庫)
15)『13日間で「名文」を書けるようになる方法』高橋源一郎・著(朝日新聞社)


■個々のコメントは省略します。多くは以前に「このサイト」内で発言しているはずですので、ご参照ください。

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