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2010年2月10日 (水)

『横道世之介』吉田修一(毎日新聞社)

■日曜日の夕方、妻の携帯に「テルメなう。」ってメールしたら、
帰ってから妻に「なうって何よ」と言われた。


「ハマコーさんだって使ってんだぜ」と言おうかとも思ったが、やめにした。
Twitter 用語をメールとかでこれ見よがしに使うのは、かえって格好悪いな。


■そんな Twitter のぼくのタイムライン上に、T先生の「つぶやき」が表示された。
2月5日のことだ。
ぼくと同じく、つい最近 Twitter を始めた T先生のフォロワーになったからね。
それはこんな「つぶやき」だった。


あーっ、ERは、きついなー。 どうして? だって、みんな痛いじんせいで。だれか、幸せになってよー、て。


いやいや、ホントそのとおりだよなぁ。うまいことを言うものだ。
ぼくも「ER」見ながらいつもそう思っていたんだ。

「みんな痛いじんせい」だなって。メンバーに次々と降りかかる苦難やトラブル。
いつも誰かどうか落ち込んで悩んでいるよね。


でも、ふつうの人々の実際の人生では、そんなに辛く切ないことは
次々と起こらないし、多少浮き沈みはあるにせよ、日々の生活は
これと言って特別な出来事のない平凡な毎日だ。


そうやって、何となく1年が過ぎ去ってゆく。


■『横道世之介』吉田修一(毎日新聞社)をようやく読み終わった。
面白くて読みやすい小説なのに、バタバタしていて時間がかかってしまった。


大学生になって長崎から上京してきた18歳の男の子、横道世之介が主人公だ。
大学1年生の彼が過ごした1年間の日々が淡々と綴られた青春小説なのだが、
この世之介クン、いつも飄々としていて、ERの登場人物たちみたいに、
悶々と悩むことなんて一度もないのだ。そいで、サンバを踊っている。

この世之介クンがいいんだな。彼のまわりの人々も
みんないい人。しかも魅力的。倉持くんとか、加藤くんとか。
それから、千春さんに祥子ちゃん。特に、祥子ちゃんサイコー!


読み始めて、文章のテンポや言い回しに夏目漱石の「坊ちゃん」か「三四郎」の
雰囲気を感じたが、その不思議な軽さとでもいうか、さわやかさが
とてもいい。

小説の舞台は、作者が大学生活を送った、バブル時代の東京で、
ぼくが大学生になった時のちょうど10年後にあたる。だから、
ぼく自身が体験した学生生活とはずいぶん雰囲気が違う。田舎だったしね。


でも、読みながら何とも幸せな懐かしさに包まれた気分になった。


そうそう、そんな感じだったよなぁって。
結局、青春時代というのは誰にとっても同じ時間が流れているのか。


■20年後、40歳になった加藤くんがこう「つぶやく」のだ。


「いや、大学一年の頃だけど仲の良かった友達がいてさ」
「……世之介って名前だったんだけどさ、(中略)当時、年上の女に一目惚れしてて、それが高級娼婦っていうか、ほら、当時、バブル真っ盛りだったろ?(中略)」

 世之介と出会った人生と出会わなかった人生で何か変わるだろうかと、ふと思う。たぶん何も変わりはない。ただ青春時代に世之介と出会わなかった人がこの世の中には大勢いるのかと思うと、なぜか自分がとても得をしたような気持ちになってくる。
(p169 ~ p171)


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