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2024年6月

2024年6月 7日 (金)

  いま再び、山上たつひこ 作画 『光る風』を読む

『長野医報』2024年6月号「特集:こんなマンガを読んできた」が発刊されました。

 6月号は県医師会広報委員のぼくが編集担当で、テーマもぼくが決めました。マンガのことならぜひ原稿を書いて頂きたいと考えていた、岡谷の小野先生、松代の池野先生、伊那の高橋先生、北原先生には僕から直接電話で執筆をお願いし、快く承諾を頂いて期待以上の力作が集まりました。感謝感謝です。充実した特集になって、ほんとよかったでした。

 じつは僕も原稿を書いたのです。それを以下に転載させていただきます。

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いま再び『光る風』を読む

上伊那医師会 北原文徳

 

 『光る風』は、近未来の日本を舞台に繰り広げられる、ただただ暗いディストピア漫画です。作者は『がきデカ』で一世を風靡した山上たつひこ。「こまわり君」という破壊的ギャグ漫画キャラクターを発明した同じ作者の作品とは到底信じられない、真面目で社会風刺精神に満ちたポリティカルSF漫画なのです。

 『光る風』は 1970年の4月から11月まで「週刊少年マガジン」に連載されました。同時期に連載されていたのが『巨人の星』梶原一騎・川崎のぼる、『あしたのジョー』梶原一騎・ちばてつや、『アシュラ』ジョージ秋山、『無用ノ介』さいとうたかお、『ヤスジのメッタメタガキ道講座』谷岡ヤスジ、『リュウの道』石森章太郎です。赤塚不二夫の『天才バカボン』は当初「少年マガジン」で連載されていたのですが、この時期だけ何故か「少年サンデー」に移籍連載されています。

 

 物語は、近未来の日本。東北の寒村沖合の人工島「出島」に隔離幽閉された藻池村の奇形児たちが夜通し繰り広げる「異形祭」のシーンから始まります。漫画連載当時、水俣病やイタイイタイ病などの公害病が大問題になっていました。

 主人公の六高寺弦(17歳)は、先祖代々軍人の家系の次男で、父親は元国防隊陸将、長男はこの年国防大学を卒業した国防隊のエリート幹部防衛官。しかし弦は父兄に反発しドロップアウトします。

 日本は、国家による徹底した管理・監視社会が進み、言論統制が成され、異端・反逆分子は特務警察や憲兵隊によって徹底的に抹殺されました。また、アメリカがカンボジアへ侵攻したのに伴い、政府は「国連協力法案」を作成し

「国連が世界の平和および安全の維持または回復のために軍事力の行使を必要と認め、そのための措置を決定した場合は、政府は国防隊を含めた人員、労力の提供、飛行場、港湾その他基地の提供、物資輸送手段の提供などを行うことができる」

とし、国連軍への参加は憲法に違反せず国防隊法の一部改正で可能という判断で法案を通し、国防隊のカンボジア派兵が決定。弦の兄も出征します。

 

 ぼくはこの漫画を断片的にですがリアルタイムで読んでいます。小学6年生でした。1970年は大阪万博があった年で、夏休みに千里ニュータウンの伯母の家から万博会場へ通いました。日米安保条約は自動更新され、東大安田講堂陥落から学生運動は消退気運に転じ、赤軍派による日航機よど号ハイジャック事件以降、国際的武装革命集団へと先鋭化、あるいは党派間の内ゲバ抗争・殺人へと内部に沈潜して行きました。そして、この年の11月25日に三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊東部方面総監部にて割腹自決。1972年2月19日、連合赤軍あさま山荘事件が起こり政治の季節は終わりを迎えました。

 

 当時ぼくは兄が買ってきた「少年マガジン」を『巨人の星』目当てに読ませてもらっていて、ある時『光る風』を見つけ「何だこれは!?」とビックリしたのです。今でも鮮烈に憶えているページの「コマ」が3つあります。

 政府はカンボジアへの補充戦力として収監中の政治犯300人と「出島」の男たちを招集し戦地へ送り込みます。フリースタイル版『光る風』230ページ。出島に乗り込んで来た国防隊特務班の兵士たちが火星人みたいな容貌の異形の者「堀田」を発見した場面。堀田らは密かに武器を集め反乱を計画していました。

 堀田は主人公の弦に言います「きみたちのように“正常”な人間として生まれ“正常”な環境で育った人間と、おれたちのように奇形人としてこの世に生まれてきたものとでは平等という言葉の感覚そのものが違うんだよ」「わかるか。さっき俺が言った破滅的とさえいえる革命観をささえるものは、困窮からくる絶望感なんだよ!」と。先だって改めてこの部分を読んだ時「まるでガザ地区のパレスチナ人じゃないか!」そう思いました。

 2つ目は、同374ページ。憲兵隊に逮捕された弦は、拷問を受け収容所へ移送されます。囚人たちは米軍の機密建築工事に従事し、完成したあかつきにはみな抹殺される運命にありました。弦たち二人は便所からの脱獄を試みます。このシーンが凄まじい。脱獄といえば、映画『大脱走』か『ショーシャンクの空に』を思い浮かべますが、ぼくは『光る風』が一番です。

 3つ目が、同414ページ。衝撃的でした。弦の兄は負傷兵として戦地から生還します。ただし、映画『ジョニーは戦場へ行った』もしくは江戸川乱歩の『芋虫』状態で。この次の章「暴走列島〔12〕」は「ビッグコミックオリジナル」戦後70周年増刊号(2015年8月30日刊)に特別収録されました。

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 戦後80年を迎えようとする現在、みんなすっかり親米従属に慣れ親しんで、日本はまるでアメリカの51番目の州であるかのようです。だから逆に、六高寺弦の父親や憲兵隊の天勝大尉が示す強烈な反米感情に今の若者たちは違和感を覚えるかもしれません。でもですよ、もしもトランプが次期大統領に当選したなら、アメリカはまず間違いなく「この漫画」と同じ態度で従うことを日本に要求してくるでしょう。いまから覚悟しておいたほうがよいかもしれません。

 最後に『光る風』の巻頭扉に書かれた言葉を紹介してお終いにします。

 

   過去、現在、未来 ------

   この言葉はおもしろい

   どのように並べかえても

   その意味合いは

   少しもかわることがないのだ

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