小児科 Feed

2014年9月 2日 (火)

日本外来小児科学会で大阪に行ってきた

■8月30日(土)・31日(日)と大阪国際会議場で日本外来小児科学会があったので行ってきた。

毎年いろいろと新しいTIPSを教えていただけるのが大変ありがたいし、そして何よりも、講演される先生方の小児科医としての「こころざしの高さ」に感銘を受けるのだった。すごい先生がいるなぁ。俺もがんばらんとダメだぞと、毎回「喝!」を入れてもらって帰ってくるのでした。

今回特に印象に残ったのは、

1)シンポジウム「私がおこなってきたこと」で、岐阜県恵那市で小児科を開業している蜂谷先生のおはなし。タトゥーや付け爪、おへそピアスのある若いおかあさんたちを決して咎めることなく、そのまま受け入れて認めてあげていると仰ったこと。

2)「子供の貧困問題」に関して、飯田市健和会病院の和田浩先生の講演。優しい淡々とした語り口だからこそ、逆にその言葉が沁み入ってきた。

3)田中先生のランチョンセミナー「これでいいのか! インフルエンザ診療」

4)崎山浩先生のランチョンセミナー「予防接種事故防止ガイド」

5)SF作家・瀬名秀明氏の特別講演。新作の構想と生命倫理のはなし。サンデル先生の本、ぼくも読んでみよう。最後に小松左京氏の写真が映された。瀬名氏は本当に尊敬しているのだね。

■ぼくが担当したワークショップも、ホワイトボードをお願いするのを忘れていたり、いろいろと会場準備で不備があって、サブリーダーの住谷先生やWS担当の岡藤先生に多大なご迷惑をおかけしてしまったが、それでも何とか時間内に無事終了することができた。よかったよかった。

とにかく、参加してくださった皆さんそれぞれの個性がよくでた素晴らしいプレゼンの連続で驚いた。皆さんの「絵本」に対する熱い想いがじんじん伝わってきましたよ。司会進行がアタフタでダメでしたが、参加者の皆さまのおかげで、予想以上に充実した時間が共有できたのではないかと思います。

2014年4月 6日 (日)

「おかあさんの唄」こどものせかい5月号付録(にじのひろば)至光社

■月刊カトリック保育絵本を出している「至光社」さんから原稿の依頼があった。

「よぶ」というテーマで書いて欲しいという。

案外むずかしいテーマだ。正直困った。

四苦八苦して書き上げたのが以下の文章です。

『こどものせかい5月号:こんにちは マリアさま』牧村慶子/絵、景山あきこ/文(至光社)の折り込み付録「にじのひろば」に載せていただきました。ありがとうございました。

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『おかあさんの唄』           北原文徳(小児科医)

 アン・サリーの歌声が好きだ。ジャズのフィーリングとリズム感が抜群で、英語やポルトガル語の歌詞の発音もネイティブ並にいい。でも、聴いていて一番沁み入るのは、『星影の小径』や『満月の夜』などの日本語で唄った楽曲だ。

 最新CD『森の診療所』は、うれしいことに日本語の歌が多い。中でも映画『おおかみこどもの雨と雪』の主題歌が素晴らしい。ぼくは映画館で聴いて、それまで我慢していた涙が突然止めどなく溢れ出し、照明が点くのが恥ずかしくて本当に困った。映画は、子供の自立と、親の子別れの話だった。

 昨年の夏、児童精神科医佐々木正美先生の講演を聴いた。先生は以前から同じことを繰り返し言っている。子育てで一番大切なことだからだ。

「子供が望んだことをどこまでも満たしてあげる。そうすると子供は安心して、しっかりと自立していきます。ところが、親の考えを押しつけたり、過剰干渉すると、子供はいつまでも自立できません。」

「生後9ヵ月になると、赤ちゃんは安全基地である親元を離れて探索行動の冒険に出ます。母親に見守られていることを確信しているから一人でも安心なんです。ふと振り返り、母親を呼べば、いつでも笑顔の母親と視線が合う。決して見捨てられない自信と安心を得た子供だから、ちゃんと自立できるのです。」  

 アン・サリーの歌にも「おおかみこども」が母親を呼ぶ印象的なパートが挿入されている。優しいアルトの落ち着いた歌声。彼女自身、二人の娘の母親だ。レコーディングやコンサートに、彼女は必ず娘たちを連れて行くそうだ。

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■ついでに、1年前、福音館書店のメルマガ「あのねメール通信:2013年6月19日 Vol.142」に載せていただいた、「ぐりとぐらと私」

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2013年3月16日 (土)

こどもはどうして「カゼ」をひくのか?

■以前、伊那市の子育て支援小冊子「ひとなる」(子どもネットいな)のために書いてボツにした文章をアップしましたが、最終的に載ったのは以下の文章です。けっこう気合いを入れて書きました。

4月から入園するこども、生まれたばかりの赤ちゃんがいるお父さん、おかあさんに読んで欲しいです。

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子供はどうして「カゼ」をひくのか?

               北原こどもクリニック 北原文徳

 

1)はじめに


 子供は本当によくカゼをひきます。しかも、冬だけでなく夏でも春でも秋でも1年中ひきます。でも、子供はカゼをひくことが仕事のようなものですから仕方ありませんね。カゼの原因になるウイルスは200種類以上もあって、イギリスの調査では、小児は1年に12回、成人でも2〜4回カゼをひくそうです。1つカゼをひく毎に免疫ができ、保育園に入園して半年〜1年も経てばずいぶんと丈夫になってきます。そうして10歳になる頃には、もうあまり病気をしなくなるのです。


 子供はカゼを吸い寄せる「歩く磁石」のようなものですから、子供が大勢いっしょに生活する場所は、カゼをはじめ様々な病原体の「るつぼ」になります。例えば、双子ちゃんは乳幼児期に頻回にカゼをひき、しかも治るのに時間がかかるし、兄弟の下の子は、お兄ちゃんが保育園からもらってきたカゼをみんなうつされてしまいます。ゼロ歳児、1歳児のうちに保育園に預ける場合には、さらにその傾向は強まります。



 また、生後2〜3ヵ月の赤ちゃんは母親の免疫があるからカゼはひかないと思っている人が多いですが大まちがい。兄姉がいればカゼをひくし、インフルエンザにだって感染します。ただ確かに軽く済むことが多い。しかし、百日咳とRSウイルス感染症(細気管支炎)は逆に重症化しやすく入院が必要となる場合があるので、お兄ちゃんが「咳のひどいカゼ」を持ち帰った時には要注意です。


 それから、水痘やおたふくかぜは1回罹ったら原則もう2度と罹りませんが、RSウイルスやインフルエンザ、ロタウイルス、ノロウイルスなど、多くの風邪ウイルスや、溶連菌は何度でも感染しますので、なかなか厄介なのです。

 

2)大切な予防接種


 子供の感染症を予防する一番よい方法は、他の子供たちから完全に隔離してしまうことです。保育園には出さず、子育て支援センターにも行かず、小児科医院は絶対に受診しない。兄弟もいなくて、子供と接するのは父母、祖父母のみ。そうすれば、まず間違いなくカゼをひかなくなる。でも、そんな「無菌室育児」は絶対に無理ですよね。第一これでは子供に免疫ができない。


 でも、病気にかからずに「免疫」を作る方法があるのです。そう、それが「予防接種」です。予防接種で防ぐことのできる病気は、保育園に通い始める前にできるだけ予防接種を済ませておくことが何よりも大切です。

特に、1歳までに発症することが多い細菌性髄膜炎を予防するヒブワクチンと肺炎球菌ワクチン(初回免疫3回+追加免疫 の4回接種)は、生後2ヵ月から接種できますので、できるだけ早くに接種を開始して下さい。


ロタウイルスワクチン(2〜3回経口接種)は任意接種で個人負担金額が高いワクチンですが、生後3.5ヵ月までに初回接種を済ます必要があるので、「赤ちゃんのワクチンデビューは生後2ヵ月」を合い言葉に、ヒブと肺炎球菌の2種、もしくはロタウイルスも合わせた3種の「同時接種」を薦めています。


 乳児期は、この他に四種混合ワクチン(不活化ポリオ、ジフテリア、百日咳、破傷風/初回免疫3回)とBCG(結核予防のための生ワクチン)の接種があって、種類や回数も多く接種間隔や接種計画をどう進めていったらよいのか混乱してしまいますので、訪問指導や健診の時に保健師さんに相談したり、最初にワクチン接種を受けた医師にスケジュールを決めてもらうとよいです。


平成254月からは、今まで生後6ヵ月未満だったBCGの接種期間が1歳未満(接種の推奨時期は生後5カ月以上8カ月未満)に延長されたので、ずいぶん予定は組みやすくなりました。また、スマホのアプリに「予防接種スケジューラー」という大変便利なスグレモノツールも登場しました。


 1歳のお誕生日を過ぎたらすぐに、MRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)を受けましょう。こちらは肺炎球菌の追加接種(4回目)と同時接種が可能です。未満児で保育園に出す場合には、任意(費用は個人負担)ですが水痘とおたふくかぜ、それにインフルエンザのワクチンを受けておくことをお薦めします。


 3歳から接種(計4回)される日本脳炎ワクチンは、最近、接種直後の死亡例の報道があり不安に思われた方も多いと思いますが、たいへん特殊なケースで、ワクチンとの直接な因果関係はなかった模様ですのでご安心ください。



3)感染経路から見た子供の感染症


 次に大切なことは、保育園などで流行する子供の感染症の「感染様式」の違いを理解することです。以下の表をご覧下さい。


 
 

●空気感染:空気を介して鼻、のど、肺からうつる

→ 麻疹、水痘、結核

 
 

飛沫感染:くしゃみ、咳で飛んだ「飛沫」を吸い込んでうつる

 

 

→ インフルエンザ、マイコプラズマ肺炎、百日咳、SARS、

 

     RSウイルス、アデノウイルス、おたふくかぜ、風疹、

 

     手足口病、伝染性紅斑(りんご病)、ヘルパンギーナ

 
 

接触感染(直接):肌が直接触れることで感染する

 

 

→ とびひ(伝染性膿痂疹)、みずいぼ(伝染性軟属腫)、

 

      帯状疱疹、口唇ヘルペス、咽頭結膜熱とウイルス性結膜炎

 

     (目から感染)、あたまじらみ、白癬(水虫、たむし)

 

   
 

接触感染(間接):ウイルスや細菌が付着したものを触れた手を「鼻」に持っていってうつるもの。

 

 

 

 

→ ライノウイルス(鼻かぜ)、パラインフルエンザ、

     RSウイルス、インフルエンザ、溶連菌感染症

 
 

接触感染(間接):ウイルスや細菌が付着したものを触れた手を「口」に持っ

 

  ていって、経口的に「消化管」に感染する(糞口感染

 

 

 

→ ロタウイルス、ノロウイルス、カンピロバクター、サル

 

     モネラ、病原性大腸菌、A型肝炎、E型肝炎、赤痢、蟯虫

 

     腸炎ビブリオ、腸管アデノウイルス、エンテロウイルス、

 

     コクサッキーウイルス など

 

 


注目して頂きたいポイント(その1):「空気感染」と「飛沫感染」とでは意味が異なります。


 くしゃみや咳に含まれる「飛沫」は水分が多く重いので、感染者から半径2m以上先には飛び散りません。これに対して空気感染の場合は、水分が蒸発し軽くて小さな「飛沫核」で感染するので、室内の空気中に長時間漂いながら感染のチャンスをうかがいます。麻疹と水痘の伝染力が他の感染症と比べてずば抜けて強力なのは、このような理由によるのです。

 

ポイント(その2):カゼの伝染は、飛沫感染よりも案外「手を介した接触感染」の方が重要な感染経路だったりします。


  同じウイルスでも複数の感染経路を持つものがあります。インフルエンザは主に飛沫感染で伝染しますが、例えば患者が右手を口に当てて咳をした後にその右手出ドアノブに触れるとインフルエンザウイルスがドアノブに付着しその場で8時間近く生き続けます。その館に別の人がドアノブを握って、その手で鼻をこすると、それでも感染が成立するのです。


こうした接触感染で主に伝染する代表的なカゼが、いわゆる「鼻かぜ」の原因であるライノウイルスで、すべてのカゼの原因の40%近くを占めています。人間は無意識のうちに何度も手で鼻や目をこすります。

カリフォルニア大学バークレー校の学生を被験者にした観察によると、学生たちは1時間に平均16回も眼や鼻、唇を手で触り、そのうち5回は鼻孔に指を入れたそうです。こうして患者の鼻水中のライノウイルスが手に付着し、その手が触った様々な物(エレベーターの昇降ボタン、ドアノブ、照明スイッチ、テレビリモコン)にウイルスは付着することになります。

そして、ライノウイルスはその物体の表面で18時間は生き長らえ、他の人が触った手に移動して、さらにその手が鼻や眼に触れた時に体内に侵入するのです(ライノウイルスやアデノウイルスは、眼からも感染します)。つまり、鼻水がカゼをうつす主犯格なら、手(ウイルスがついた指先)は共犯者という訳です。

 

ポイント(その3):ノロウイルス、ロタウイルスの生命力、感染力は驚異的!


 これらの風邪ウイルスが増殖できるのは、ヒトの細胞内のみで、人間の体外では増えることができず、やがて死に絶えます。体外で生きていられるのは、インフルエンザウイルスが数時間〜半日、ライノウイルスで2〜3日といったところでしょうか。

 ところが、ノロウイルスは2週間から1ヵ月近くも体外で生き長らえることができます。また、 ノロウイルス、ロタウイルスの伝染力は驚異的です。下痢便1g中には約110億個、吐物1g中には10万〜100万個のウイルス粒子が含まれ、このうちの「たった10100個」のウイルス粒子が人間の口に入っただけで感染が成立すると言われています。


しかも、このウイルスは飛沫核となって空気感染する可能性もあるのです。さらには、遺伝子の異なるサブタイプが多数存在するために、人によっては毎年感染を繰り返す人もいます。まさに、最強のウイルスですよね。唯一救いなのは、症状が軽く短期間で治まり、重篤な合併症が少ないことです。


 ノロウイルスに汚染された吐物や糞便で汚れた、フローリング、カーペット、衣類、寝具の消毒は、加熱が可能であれば、85℃で1分間熱湯に浸すか、スチームアイロンで熱します。加熱できない場合は、塩素系漂白剤(ハイター)を、500mlのペットボトルのキャップ2杯入れ、水を加えて500mlにした溶液で拭きます。汚染された衣類や容器の浸け置きには、500mlにキャップ1杯の溶液を作って下さい。ただし、漂白剤で色落ちすることがあります。

 

4)カゼをひかないようにするには?

 

こうして見てくると、風邪ウイルスは「汚染された物」に触れた手から接触

感染するケースが一番多いことが分かります。すなわち、「顔を触らない」(汚染された手を鼻や眼に持っていかない)ことと、「正しい手洗い」をその都度実践することに尽きます。たぶん手洗いは「うがい」よりもずっと予防効果が高い。

基本は、石鹸を泡立てて「手のひら→手背→指の間→爪と指先→親指→手首」

の順番で洗い、水道の流水でよく流します。ネットで花王「ビオレU」のサイトを見に行くと、「あわあわ手洗いの歌」の歌詞と動画が載っています。これスグレモノです。子供といっしょに歌いながら楽しく手洗いして下さい。

 速乾式アルコール消毒は便利ですが、過信は禁物。ノロウイルスやロタウイ

ルスは、アルコール消毒では不十分といわれています。また、抗菌石鹸は細菌には有効ですがウイルスには効果がありません。


 ただ、その度に手洗いすることは子供には無理があります。そこで、右利きの子供は、眼や鼻を左手で触るよう訓練するといいと提案する学者もいます。また、咳やくしゃみをする時は、顔を自分の服の袖に当ててするか、ティッシュの中にするようにしましょう。


 それから、鼻水は正しく上手にかみましょう。鼻をズルズルすすったり、両方の鼻を一度に力まかせにかむと、中耳炎や副鼻腔炎、気管支炎になってしまうので注意して下さい。ポイントは、1)片方ずつかむ 2)口から息を吸ってから鼻をかむ 3)ゆっくり少しずつかむ 4)強くかみすぎないことです。お風呂で暖まって湯気を吸うと、鼻水が出やすくなります。

 赤ちゃんも「鼻水吸い器」を使って小まめに吸ってあげて下さい。コツは、先端を鼻の上の方向に向けるのではなくて、真下に(顔の表面に対して垂直に)向けると吸いやすいです。また、母乳を1〜2滴片方の鼻の穴に垂らしてから吸うと上手く吸えることがあります。

 

5)おわりに

 

 残念ながら、カゼを予防する方法はありません。あまり神経質にはなりすぎず、上手に風邪ウイルスと付き合っていくしか仕方ありませんね。 

2012年1月 7日 (土)

『なずな』堀江敏幸(集英社)を読む(その2)

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■毎日こどもと接している小児科医であるにも係わらず、この小説に登場する赤ちゃん「なずな」の描写を読みながら、ぼくの長男が2ヵ月半だった頃のことを妙にリアルに思い出していた。その息子も、いまや中学3年生。あっという間だったなぁ。


例えばこんな描写がある。


両手は顔の横に半開きの状態で置かれていた。指の一本一本が、指と指のあいだの影が、いつもよりくっきりと見えるのはなぜだろう。似ているようで似ていない。似ていないようで似ている。閉じられたまぶたの細い皺までが、なぜか胸を打った。赤ん坊というのは、こんなにやわらかく目を閉じられるものなのか。力が入っているのかいないのか。なにものをも拒まない閉じ方だ。光さえも、声さえも……。(『なずな』堀江敏幸・著、集英社 4ページより)


それから、ここ。

なずなは飲む。飲んでくれる。心配になるくらいに飲む。どんどん飲む。うどんどんどんだ。あっというまに飲み干したと思ったら、ぺんぺん草の手足からくたんと力が抜けて、もう目がとろとろしはじめている。ミルクのぶんだけ身体が重くなり、眠くなったぶんだけどこか大気中からもらったとしか思えない不可思議な重さが、こちらの肩に、腕にのしかかる。

哺乳瓶を置いてまっすぐ縦に抱きなおし、肩よりうえに顔が出るようにして、背中をそっと叩いた。励ますように、祈るように、静かに叩き続けた。(中略)五分、十分。なにも考えず、てのひらでなずなの背中に触れる。どんな顔をしているのだろう。こちらから彼女の表情を確かめることはできない。気持ちがいいのかよくないのか。起きているのか眠っているのか。反応のなさに不安になりかけた頃、耳もとで、がっ、と小さく湿った空気の抜ける音がした。(40〜41ページ)


あと、ここもいいな。

洗い終わったらガーゼケットで身体を包んで、いっしょに湯船につかる。なずなはまだこちらを見つめて、目をそらそうとしない。しばらくすると、丸く開いたさくらんぼのような口から、ほう、という声が漏れ出て、ユニットバスの壁に跳ね返った。ほう、と私も返事をする。もう一度。もう一度、ほう、と言ってくれないか。しかし彼女は、やわらかい肌だけでなく瞳まで湿らせて、満足そうに、ぼうんやりこちらを見あげるばかりである。(98ページ)


水筒のお湯を使ってミルクを作る。口もとに持って行くまでの時間のほうが、ミルクの吸い込まれる時間よりもながくなった気がする。真っ白な顔にどんどん赤味が差し、満足したところで、爆音とともにまた一連の儀式がはじまる。すべてすっきりさせると、私も丁寧に手と顔を洗い、無精髭を剃り、つるつるにした状態で、なずなにそっと頬ずりした。

頬を寄せるなんて、人間にとっては最高の贅沢ではないか。向き合う努力と苦しみを乗り越え、真横に密着して、おなじ方向をながめることのできるたったひとつの姿勢。(322〜323ページ)


■この堀江敏幸氏の文章がじつに心地よい。不思議な懐かしさがある。それから、読者の五感を刺激するのだ。赤ちゃんの身体が発するミルクのにおい。下痢したときの、ちょっとすっぱいウンコの臭い。お尻のぷよぷよとした弾力。何かを訴えるように必死で泣き続けるその声と涙。


信州大学小児科学教室に入局させていただいた最初の日に、当時の医局長だった塚田先生からこう訓辞を受けた。「小児科医は、自分の子供を育ててみてはじめて一人前の小児科医になれるのです」と。


あの頃は、その言わんとする意味が、なんだかよく判らなかったが、富士見高原病院医局で夜遅くまで内科の先生と駄弁ってからようやく帰宅すると、夜泣きの酷い長男をおんぶした妻が、疲れ切った顔で暗く出迎えた「あの晩」のことを思い出すのだ。当時はまだ「父親としての自覚」がぜんぜんなかったなぁ。ごめんなさい。偉そうなこと言ってても、実は半人前の小児科医だったのだ。いや、いまだにそうかもしれない。


■こどもの親になる、ということはどういうことか? その解答が「この本」に書いてある。


 人は、親になると同時に、「ぼく」や「わたし」より先に、子どもが「いること」を基準に世界を眺めるようになるのではないか。この子が、ここにいるとき、ほかのどんな子も、かさなって、いることは、できない。そしてそれは、ほかの子を排除するのではなく、同時にすべての「この子」を受け入れることでもある。マメのような赤ん坊がミルクを飲み、ご飯を食べてどんどん成長し、小さなゾウのようになっていく。そのとき、それをいとおしく思う自分さえ消えて、世界は世界だけで、たくさんのなずなを抱えたまま大きくなっていくのではないか。(256〜257ページ)

「(前略)生後二ヶ月の子どもの肺なんてまっさらの消毒済みガーゼより清潔なんだから、どうせ汚すのならいい汚れにしてあげないと」

 いい汚れ、という言葉に心地よい驚きを感じて、震えがおさまっていくような気さえする。汚れにいいも悪いもない、汚れは汚れであって、落とせるものは落とし、落とせないものはそのまま放っておくか捨てるかのどちらかでいい。私はそんなふうにしか考えてこなかった。(7ページ)


おいしい弁当を食べ、珈琲を飲み、甘いものを食べて、赤ん坊の排泄物を処理する。世のお父さんお母さんは、みなこうして、きれいきたないの区別の無意味を悟るのだろう。なずなの発した芳香は杵元の私の部屋でのように籠もることもなく自然の風に流れていく。(436ページ)


■このあたりの感覚を、現役「イクメンパパ」である高橋源一郎氏がうまいこと「連続ツイート」してる。


それから、ジャズに詳しい方の「こちらの感想」もじつに要を得ているな。


こんなふうに考えると、この作品は映画にうってつけの
ような気がしてくる。
友栄さんは深津絵里、美津保のママは松坂慶子で
決まりでしょうね。
どなたかぜひ映画化を!


なるほど確かに友栄さんは深津絵里、美津保のママは松坂慶子だ。


■すごくリアルで私小説みたいに写実的な小説ではあるのだが、ぼくは正直、この小説世界は「ファンタジー」だと思う。その意味では、震災後に放送されたNHK朝ドラ『おひさま』に似ている。悪人は一人も登場しない。そうして、周囲の人々がヒロイン「陽子」と接することで幸せになるのだ。


それは「なずな」を囲む人々にも言える。


要するに、基本は「近くにいる」ということではないか。遠く離れていても、心と心がつながっていさえすればよいという人もいる。遠距離恋愛、単身赴任、別居婚。(中略)

 いつも近くにいて顔を見るだけで感じられることが、離れているとできない。電気信号ではなく、空気の振動で伝わる生の声や気配だけで、支えられることもあるのだ。(163ページ)


「なずなちゃん、周りにいる人をみんな親戚にしちゃうみたいですね」(266ページ)


血のつながった家族であろうとなかろうと、人は人とつながって生きていくしかない(341ページ)


こんなふうに、彦端の親父の背中に触れたことがあっただろうか、と不意に思った。親父どころか母親の背中にも、肩にも、手にも、最後にいつ触れたのか思い出せない。人に触れるという感覚を、私はなずなのおかげではじめて知ったことになるのかもしれない。(352〜353ページ)


「(中略)離れているより、ひっついていたほうがいい。子どもでも女房でも、いっしょにいたほうがいいんだ。赤ん坊は人を集める。そういう力がある」(359ページ)


■何が言いたいのかというと、つまり「この主人公と赤ん坊のなずな」は、世間(世界)に対して「外に開いている」ということだ。彼らの周囲にには、危なっかしい主人公をほっておけない「他人」がいっぱいいる。ここが重要だと思う。


近々読む予定の『マザーズ』金原ひとみ(新潮社)とは、対極にあるような「この小説」は、こうあってほしいという著者の「希望」に満ちている。いや、もうほとんど「祈り」と言ってもいいかもしれない。


赤ちゃんて、可愛いよ。子育てって掛け替えのない経験だよ。作者は、まだ独身の子供にはぜんぜん興味のない男子や女子に、それからまた、子育てにちょっと疲れたお父さんお母さんに「そう」伝えたかったのではないか。

この小説が書かれたのは、3.11. の前だが、明日の見えない右肩下がりのいま、乳飲み子を抱えて「内に内にただ閉じてゆく」母親と父親にこそ読んで欲しいと切に願う。


2011年7月24日 (日)

「子どもたちの脳は疲れている」三池輝久先生の講演会

■毎年7月恒例のツール・ド・フランス。3週間の熱戦を繰り広げて今日が最終日。いまパリ・シャンゼリゼの周回コースに入ったところ。今年は最後まで混戦続きで面白かったな。あぁ、今日で終わってしまうのか。


■そんな訳で、ここ3週間はツールTV観戦に忙しくてブログの更新がおろそかになってしまった。すみません。


忘れないうちに、覚え書きとして、先だって7月16日(土)の午後、伊那文化会館小ホールで開催された「子ども・若者支援地域ネットワーク形成のための研修会・第1回公開講座」での、「「子どもたちの脳は疲れている」と題された、「小児慢性疲労症候群」に関する日本における第一人者、兵庫県子供の睡眠と発達医療センター長、三池輝久先生の講演会を聴いてきたことを書いておかねばならない。

「上伊那子どもサポートセンター」代表の戸枝さんから、今回の連続講座開催のことを、この5月下旬にメールと電話でお話をうかがった際、戸枝さんから「最近話題になっている、小児慢性疲労症候群のことについて北原先生に連続講座の中で話して欲しい」との依頼があった。ちょうどその時、ぼくも所属する「外来小児科フリートーク・メーリングリスト」で、三池輝久先生が「小児慢性疲労症候群」の子供たちを治療した報告が話題になっていて、三池先生が提唱する「その疾患」と、われわれ一般小児科医がこの時期(春から夏にかけての)よく遭遇する「起立性調節障害」との異動が、メーリングリストで議論されていたのだった。

だから正にタイムリーな話題であったのだが、専門知識に欠けるぼくには到底「小児慢性疲労症候群」の話はできません、無理です。と、戸枝さんにお断りしたのだった。でも、戸枝さんは凄かった! 「小児慢性疲労症候群」と「小児の睡眠障害」に関するエキスパートの、三池輝久先生に直接講演依頼をし、なんと、三池先生の講演会が伊那市で実現することになってしまったのだから。いやはや驚いた。


■そんな訳で、当日ぼくは外来を午後1時で終了して伊那文化会館へと向かったのだ。

三池輝久先生は大変才気溢れる先生で、頭が良すぎる上に言いたいことがいっぱいありすぎて、われわれ一般的聴衆の理解度の低さを最初から諦めているような感じさえあったが、いやいやどうして、大変示唆に富む面白いご講演であった。

■「人はなぜ眠る必要があるのか?」「睡眠は子供の脳の発達にどう係わっているのか?」 という話から講演は始まった。


・睡眠は子供の脳の発達に必要欠くべからずものだ。睡眠は「脳を創り、育て、そして守っている」のだと。REM睡眠は覚醒を促す。眠っている間に海馬が働き記憶を整理する(長期記憶)。そして、眠っている間にシナプスの点検整備(メインテナンス)が行われている。


・人はなぜ眠る必要があるのか? それは、ヒトの脳内のシナプスを守る3つの重要な働きがあるから。

1)活動している時に使用した、神経伝達物質残渣をクリーンにする(シナプスの清掃とメインテナンス)
2)神経突起からミトコンドリアが細胞内に移動しそこで複製がおこる(エネルギー生産を守る)
3)神経伝達物質の脳幹調節機構やその他の部位での再分配がおこる。(神経伝達物質の供給)


だから、脳が発展途上にある子供たちにとって「睡眠」はとっても大事!


・小学4年生までは、最低10時間の睡眠が必要。
・小学5〜6年生では9時間の睡眠。
・中学生でも、7〜8時間は睡眠が必要。


子供が起床しなければならない時間、そこから逆算して、ベッドに入る時間を決めればよい。例えば、朝6時には起きなければならない中学1年生は、夜10時台には入眠する必要があるということ。


しかし、今の日本の子供たちは、大人の都合でどんどん「夜更かし」となり、「慢性的睡眠不足状態」に陥っているのだった。そうなるとヒトの体はどうなるか?


・ミトコンドリアの機能が低下する
・糖代謝が落ちる → 肥満
・脳幹部にある「視床下部」の機能が落ちる
・そうすると、認知機能が落ちる(集中力・持久力・意欲の低下)
・朝はテンションが上がらず、疲労度は増すばかり。でも夕方になって急に元気がでてくる(別人28号)
・そうなると、逆に10時間以上の過眠状態に逆転してくる
・つまりは、脳内にある「体内時計」が壊れてしまうのだ
・体内時計が壊れると、体温・血圧調節(自律神経機能)が壊れ、
 ホルモン分泌バランスが崩れる。

これらの症状が「小児慢性疲労症候群」なのだった。
その結果、朝起きられず、何時しか昼夜逆転した子供たちは不登校となってしまう。


■こうなってしまったら、どうしたらよいか?


このことに関して、三池先生は決してバラ色の話はしなかった。


焦らず、不足した睡眠時間を十分に確保して(平日不足した睡眠時間を土日で補充するなど)、無理せず然るべき時期が来るまで、できる範囲で学業の準備しつつ「じっとチャンスを待つ」その時期とは、高校入学の頃のことが多い。とのことでした。

2010年12月 1日 (水)

講演は難しい

■昨日の中日新聞5面「紙つぶて」欄(名古屋では一昨日の夕刊)で、カレーハウス CoCo壱番屋チェーン創業者の宗次徳二氏が「講演で伝えたいこと」と題して、こんなふうに書いている。

 今月の講演回数は実に16回となった。8年前に経営の一線を退いてから、年間の講演回数は90回ほどと増えている。40歳の時、熱心に頼まれて始めたのだが、全部で1400回近くになるだろうか。(中略)

 いまだに慣れないのだが、多くの聴衆を相手に長時間話をしている自分に、ふと不思議な気分になることがある。皆さんは何を求めて会場に足を運ばれたのか。ズブの素人夫婦が始めたカレーチェーンが1200店舗を超える規模にまでなったその理由なのかな、と想像してみたりもする。

 といっても、聞き手の価値観は十人十色で、ニーズを一つにまとめることはどだい無理な話だ。となれば、そこは開き直って私の体験談が少しでも皆さんの心に響いて何かに気付いてもらえたなら、と願って話し始めるしかない。

 講演で、原稿は持たない。皆さんの表情を見ながら「分かりにくかったかな」と思えば同じ論旨を何度も繰り返すこともある。話しているうちにどんどん話題がそれていくこともある。でも、それは聴衆の皆さんとの生身の対話の結果だ。理路整然とした話し方よりも重要なこと。(後略)


■よく、長野県人は「講演会好き」だと言われる。みな勉強が好きなんだね。今どき、安直な新書を読んで新しい情報を得るのも最低2時間はかかるが、講演会を聴きに行けば、1時間で最新の情報通になれるから。

内田樹先生のブログを読んでいると、センセイがよくぼやくのだが、とにかく講演依頼が多いのだそうだ。しかも、内田センセイの著書を1冊も読んだことがない人が平気で電話してくるという。そういう相手には「私の本を読んでいただければ何もお話しすることはありません」と言って、お断りするそうだ。それは尤もな話だよなぁ。自分で勉強しろよ。本ぐらい読めよ。たかだか1時間、講師の話を聴いただけで頭良くなったなんて思うのは、安直過ぎるぜ。そういうことだと思う。

でも、講演を聴きに来る聴衆の皆さんはこう思っているに違いない。どうせ講師の先生はあちこちで同じ話を飽きもせず繰り返ししながら高額のギャランティを貰うのだから楽な商売だよな、と。

いや、ぼく自身もずっとそう思ってきた。世の中にはちゃんと「講演会の講師斡旋ブローカー」という業者があって、そこの資料とか見ると、例えば「超Aランクの講師」(1回の講演料が100万円以上)には、佐賀のがばいばーちゃんで売れたB&Bの島田洋七氏や、アグネス・チャンがいる。

じゃぁ、宗次徳二氏が講演料をいくら取っているかは知らない。


大切なことは、その講演料に見合った満足感を聴衆のみなさんが得ことが出来たかどうかだ。プロはその点を最重要視する。ぼくは講演を「演芸」だと思っている。聴衆を寝かすことなく、如何に満足していただくか? それが全てだ。だから宗次氏が書いているように、毎回同じ話をしているようでいて、じつはその場の聴衆の反応に合わせて毎回違った話になるのだと思う。

だから、講演は難しい。(つづく)


2010年11月23日 (火)

講演依頼をこれからは断ろうと思っているのだ。

■いろいろと思うところがあって、この夏以降の講演依頼を全て断ることに決めていた。偉そうなことを言ったって、自分自身が出来ないくせに、そんなの嘘っぱちじゃんって、思ったからだ。特に、メディア漬けの話。

そうは言っても、最近は以前よりも講演依頼はずいぶんと減ってきたので、ぜんぜん取り越し苦労だったのだが、どうにも断れない依頼が駒ヶ根市立図書館からきた。いや、最初は断ったのです。でも「講演内容は先生にすべてお任せしますから是非!」とまで言われてしまうと、断れないのだよなぁ。


■いままでは、講演を頼まれれば決して断らなかった。人に話をするためには、いっぱい勉強して「自分のもの」として消化吸収しないと、説得力のある講演はできないから、自らが新たに勉強するいいチャンスと、むしろ歓迎していたくらいだ。締切と負荷を日々の日常に設けることは、生きて行くうえで案外大切なことだと思う。でないと、人間ちっとも進歩がない。


今回も、講演準備のために読みたいミステリ『音もなく少女は』ボストン・テラン(文春文庫)を読むのもガマンして、いっぱい関連本を読んだ。

講演テーマが「赤ちゃんの言葉はどうやって生まれてくるのか?」だったので、再読、再々読本を含め目を通したのは以下の本。


『言葉はなぜ生まれたのか』岡ノ谷一夫・著(文藝春秋)
『ことばはどこで育つか』 藤永保・著(大修館書店)
『子ども虐待という第四の発達障害』杉山登志郎(学研)
『子を愛せない母、母を拒否する子』ヘネシー澄子(学研)
『0歳児がことばを獲得するとき』正高信男(中公新書)
『子どもはことばをからだで覚える』正高信男(中公新書)
『子どもとことば』岡本夏木(岩波新書)
『幼児期』    岡本夏木(岩波新書)
『ことばの贈りもの』松岡享子・著(東京子ども図書館)
『赤ん坊から見た世界』無藤隆(講談社現代新書)
『絵本から擬音語擬態語ぷちぷちぽーん』後路好章・著(アリス館)
『心を生みだす脳のシステム』茂木健一郎(NHKブックス)
『赤ちゃんと絵本をひらいたら・ブックスタートはじまりの10年』(岩波書店)
『赤ちゃんはなぜなくの・ウィニコット博士の育児談義』D.W.ウィニコット(星和書店)
『母の友・ことばとからだを結ぶうた/ 2010/11月号』(福音館書店)
『絵本の本』中村征子(福音館書店)
『絵本が目をさますとき』長谷川摂子(福音館書店)
『13日間で「名文」を書けるようになる方法』高橋源一郎(朝日新聞出版)

『愛おしい骨』を読み終わったのが先月の10月23日なので、それから1ヶ月間ずっと上記の本を読んで勉強してきたうえで、11月21日(日)の駒ヶ根市立図書館での講演会に僕が臨んだということを、駒ヶ根市立図書館の館長さんも、当日来て下さった聴衆の皆様も、決して分かってはくれないだろうなぁ。その成果が、ぜんぜん出てなかったもんなぁ。

そう思うと、何かこう、すっごくむなしいのだ。


何よりも、聴衆の心に響かない講演ををしてしまった自分の落ち度、未熟さ加減が許せないのだよなぁ。


こういう後悔は、いままでにも何十回もしてきたはずだ。

なのに何故、また繰り返す?
お前はバカか!


でもまぁ、とにかく終わった。これでやっと好きな本が読めるぞ。と思ったら、

12月8日(水)の午後、保育園などの栄養士さんたちに「食物アレルギーのはなし」をするよう、頼まれていたことをすっかり忘れていた。あと2週間。やれやれ、また勉強だ。

2010年9月 2日 (木)

外来小児科学会で、福岡に行ってきた(その2)

■20回を迎えた外来小児科学会は、小児科開業医を中心にした学会で、その特色は、医師だけでなく、看護師、事務スタッフ、検査技師、薬剤師、さらには経理担当の院長夫人も参加する学会であることと、学会の中心をワークショップに置いていることにある。今回も、土曜日の午前午後、日曜日の午後と合わせて60以上のワークショップが開かれた。


ぼくが担当したWSは、土曜日の午前9時〜11時45分の時間帯で開かれた「あなたも絵本の読み聞かせに挑戦してみよう!」だ。事前登録の参加者はぼくを含めて21人(医師10人、看護師・受付事務・院長夫人が11人)北は北海道から南は九州、沖縄まで日本各地から参加して下さった。ほんと、ありがとうございました。


当初は、参加者同士で絵本の読み合いをして、経験者が初心者にアドバイスする形式を考えたのだが、大人だけを相手に絵本の読み聞かせをするのは正直かなりシンドイ。反応は悪いし、決して笑ってはくれない。だから、初心者はきっと萎縮してしまって、もう二度と読み聞かせなんかしたくない! そう思ってしまうかもしれない。それはではマズイ。


■ぼくが、自分の子以外の子供たちの前で初めて絵本を読んだのは、忘れもしない平成14年11月のことだった。園医をしている高遠第一保育園で、秋の内科健診が終わったあとに、園長先生に無理矢理お願いして年中組で絵本を読ませてもらったのだ。『さつまのおいも』中川ひろたか・文、村上康成・絵(童心社)と『でんしゃののって』とよたかずひこ(アリス館)の2冊。


もう、大受けだったな。読み終わるなり直ちに「もっかい読んで!」の大合唱となった。「じゃぁ、今日はこれでおしまい。また今度ね」そう言って帰ろうとすると、子供たちがワーっと集まってきて、握手やハイタッチの嵐。そのまま保育園の玄関まで移動。「ゴンズイ玉」ってご存じですか? まさに「あの」感じです。「せんせい! おもしろかったよ」「またきてね!」まるで、アイドル・スターにでもなったみたいな人気だった。うれしかったなぁ。夢のようだった。

あの時の成功体験が、いまのぼくを作っていると言ってもいい。


だから、ぼくらのWSでは是非とも保育園に行って子供たちの前で実際に絵本を読む体験が必要だ、そう思ったのです。そこで、学会会場の福岡国際会議場の近くにある保育園を、まずはネットで検索してみた。そしたら「みなと保育園」があった。幸いHPもあったので、今年の4月30日にメールしてみたのだ。これこれこういう訳でWSを行うのだが、みなと保育園の子供たちの前で絵本の読み聞かせ実践をさせていただけないか、と。そしたら、ラッキーにも園長先生から受け入れOKの返事がきたのだ。有り難かったなぁ。


みなと保育園は、定員60名の福岡市では一番小さな保育園だ。しかも、8月最後の週末だったので、8月28日(土)に登園してきた子供たちは少なかった。全部で25人(1歳児が8人、2〜3歳児が6人、4〜5歳児が10人)くらいだったかな。


■当日は、まずは学会WS会場に集まっていただき、3グループに分かれて(0〜1歳児、2〜3歳児、4〜5歳児)保育園で実際にどう読み聞かせするのか、各グループリーダーを中心に話し合ってもらい、午前9時50分に会場を出て、みんなで歩いてぞろぞろと「みなと保育園」へ移動。午前10時過ぎ〜10:40 まで、各グループごとに分かれて別々に絵本の読み聞かせを実践。


10:40〜11:00 には、年長組の部屋にみんなで集まって、住谷先生が『やさいのおなか』(福音館書店)を、ぼくが『どうぶつサーカスはじまるよ』西村敏雄(福音館書店)を読んで、沖縄県沖縄市で長年読み聞かせ活動を続けてきた石原さんが、縦1メートル、横7メール近くある『おおきなかぶ』の絵本絵巻を実演した。


ぼくは事前のコーディネートと当日の記録係が担当だったのだが、今回もつくづく感じたことは、絵本というものは大人になっても読んでもらうとほんと楽しい。特に子供たちといっしょにいると、彼らの反応に触発されて、知らずと自分も子供時代に戻ってしまったかのように楽しくなるのだ。


保育園をあとに、学会場に戻って各グループごとに反省会とまとめの作業。はたして、参加者のみなさんはどのような感触を得たのだろうか? 楽しんでもらえたらうれしいな。

2010年8月30日 (月)

外来小児科学会で、福岡に行ってきた

8月27日(金)28日(土)29日(日)と、福岡で日本外来小児科学会があって、一人で九州まで行ってきた。


当初、高速バスで名古屋へ出て、あとは新幹線という行程を考えていたのだが、23日(月)の深夜、暑くてぜんぜん眠れないので仕方なく起き出してきて、ネットで新幹線の運賃とか調べてみたら思いのほか結構かかる。それなら、飛行機は? と、松本空港(13:35 発)→ 福岡空港(15:05 着)FDA (Fuji Dream Airlines) を調べてみたら、まだ割引チケットで空席があって、片道 24,400円とのこと。それなら、割高でも飛行機の方が楽だなと、深夜の2時半過ぎに「ぽちっ」とチケット購入ボタンを押してしまったのでした。


ただ難点があって、帰りの便が日曜日の早朝、福岡発(07:40)→ 松本着(09:05)1日1便しかないのだ。車で行って松本空港の無料駐車場に駐めておくので、帰りは新幹線という訳にはいかない。月曜日の朝着では、診療に間に合わないので、日曜日も午後の市民講演会まで聴いて帰るつもりだったのだが、あきらめて日曜日の予定をすべて止めにした次第。


28日(土)の午前9時から、ぼくがリーダを勤めるWS「あなたも絵本の読み聞かせに挑戦してみよう!」があるので、金曜日は朝から1日臨時休診としてあったのだが、ゆっくりと午前11時過ぎに家を出て、途中塩尻のブックオフへ寄り道。諸星大二郎のコミックスを4冊と堀晃『遺跡の声』(創元SF文庫)を購入。それでも、フライトの1時間以上前に松本空港へ到着した。この6月から就航したFDA機は、80人乗りの小さなピンクの機体がかわいいジェット機だったよ。


松本空港は山里の谷間の空港なので、離陸後高度を上げるために松本平を2回ぐるぐると旋回して高度を稼ぐ。でも、小さいながらもジェット機は快適だ。ドリンクとシャトレーゼのお菓子のサービス、キャンディも配ってくれた。で、午後 2:55 には福岡空港着。地下鉄で10分も乗らないうちにJR博多駅に到着した。


JR博多駅中央改札前で、WSサブリーダーの住谷先生と待ち合わせ、バスで移動して福岡国際会議場5階のWS会場と、子供たちの前で絵本の読み聞かせ実践をさせていただく、学会会場から徒歩10分の所にある「みなと保育園」の下見。まずは酒瀬川園長先生にご挨拶。きれいな保育園で、全館クーラーが効いている。子供たちもみな人懐っこい。これならいけるな、大丈夫だ! ぼくはそう確信した。


夜は先輩と約束があるという住谷先生と別れて、宿泊先のデュークスホテル中洲へ。福岡の歓楽街、中洲の北の外れにある。この日の夕飯はすでに決めてあった。「さとなお」さんのサイトで知った、居酒屋「久米」だ。場所がよく判らなかったので、ホテルのフロントで調べてもらって、タクシーに乗り込む。天神から国体道路を西へ進んで、警固(けご)小学校の通り(大正通り)に左折。しばらく行って秋本病院を通り越してすぐの左手にあった。ほとんど目立たない小さな古い店なので、タクシーの運ちゃんは見逃して通り過ぎてしまったよ。


一人きりだったので、店に入るのに勇気がいった。予約なしだったが、ラッキーにもカウンター席が空いていた。ぜんぜん気取ったところがない店で、女将さんも人懐っこい下町のおばちゃんといった感じで、ひとりの一見さんにもかかわらず優しく親切に応対してくれて助かったな、ほんと。

食べたものは、石鯛刺身の昆布じめ、牛テールの塩焼き、しいたけ、おでん(だいこん、いわし団子)、それに、〆の「中華そば」。いやぁ、本当にどれもこれもしみじみ旨かったなぁ。牛テール肉のとろける柔らかさ、薄めの上品な出汁が効いた大根、焼き椎茸にはだし汁をかけて一味唐辛子が少量ふってあって、噛みつくと口の中にじゅわ〜っとだし汁が沁みだしてくるのだ。たまりませんね。

そうして、小ぶりのお椀に入った中華そば。これが絶品でしたよ。きれいに澄んだスープに極細縮れ麺。福岡なのに、豚骨スープじゃありません。このスープが、今までどこのラーメン屋でも味わったことのない、こくと深みのあるスープでほんと、感動してしまったな。ぜひもう一度行きたい!


久米を後にしたぼくは、満腹で満足しきっていたので、そのまま歩いてホテルまで。途中、天神のブックオフに寄って絵本を物色。なんだ、九州福岡まで来て BookOff かよ。


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