映画 Feed

2017年11月17日 (金)

「橋本愛」追補 & 『サウダーヂ』追補

Img_0853

(写真をクリックすると、もう少し大きくなります)

■橋本愛はいま、『POPEYE』に連載ワクを持っている。「橋本愛のカルチャー日記」だ。この12月号で、連載13回になる。

Img_0888

(写真をクリックすると、もう少し大きくなります。)

(活字もなんとか読めると思います。)

2017年10月 4日 (水)

「映画おたく」少女なのか? 橋本愛。

Img_0880

(写真をクリックすると、もう少し大きくなります)

■今年の「小津安二郎記念蓼科高原映画祭」は、第20回記念の節目を迎え盛大に行われた。ぼくは、9月23日(土)の夕方、茅野市民館で上映された『秋刀魚の味』(1962)と、翌24日(日)の『バースデーカード』(2016)の2本を見てきた。以下は当日のツイートから(一部改変あり)。

今日は、茅野市民会館で小津の遺作『秋刀魚の味』を見てきた。上映前に、主演の岩下志麻さんが素敵な真っ赤のドレスでステージに登壇して映画に関するトーク。有名な巻き尺のシーンとか、アイロンがけの場面とか。颯爽としていて、よく声が通ってカッコよかったなあ。佐田啓二のアパートがある駅。池上線の石川台だったね。

岩下さんは言った。「小津先生は、映画のフレーム内に必ず紅いモノをアクセントに置いたのね。それから小道具の食器とか、九谷、古伊万里。みんなホンモノ。小津先生が行きつけの小料理屋から持ってきて使っていたわ。」


YouTube: GoutDuSake-Ozu

『秋刀魚の味』といえば、岸田今日子がママの「トリスバー」。加東大介と笠智衆がカウンターに並んでいる。笠「けど、負けてよかったじゃぁないか」 加東「そうですかねぇ? う〜ん。そうかも知れねえなぁ。バカな野郎が威張らなくなっただけでもね」

続き)『秋刀魚の味』で使われている映画音楽は、広末涼子が出ているサントリーのCM「のんある気分」で、ロバート秋山が金の斧を持って池の中から登場するシーンに転用されている。斉藤高順作曲の「燕来軒のポルカ」だ。

でも、デジタル・リマスター版の映画って、どうなんだろう。劇場で映画館で古い昔の映画をずいぶんと見てきたけれど、あの雨が降り、左右上下に微妙にブレるフイルムの加減、ぷちぷち言う音声。自宅リビングで寝転びながら見るなら、デジタル・リマスター版のほうが、確かにいいのだけれど。難しいね。

第20回小津安二郎記念蓼科高原映画祭最終日。今日は茅野市民館で、諏訪・茅野・富士見でロケされた映画『バースデーカード』を観る。上映終了後、主演の橋本愛、吉田康弘監督が舞台挨拶。前から4列目の席だったから、スクリーン見上げて肩凝ったけど、愛ちゃんはよく見えた。顔ちっちぇー。やっぱりキレイだなぁ。

映画『バースデーカード』に主演した橋本愛の役名は「紀子」だ。映画の冒頭と後半の大切なシーンで、彼女自身が自分の名前の由来を説明している。ところで「紀子」って、原節子が小津安二郎監督作品『晩春』『麦秋』『東京物語』の3本で演じた役名だ。名字は平山だったり間宮だったり変わるけど、名前はみな「紀子」。その事に、橋本愛さんも監督も触れなかったのが残念。

橋本愛。先週の日曜日に茅野市市民館での壇上トーク。いろいろと発見があった。彼女はまず「映画」を監督で観る。気に入ったら、その監督作品ばかりを見続ける。そのことを彼女は「勝手に個人映画祭」と呼んでいた。面白い娘だなぁ。

続き)映画『バースデイカード』に関して、橋本愛は脚本を読んで「ダメ出し」をしたらしい。

Img_0881

(写真をクリックすると、もう少し大きくなります)

■映画『バースデーカード』。不治の病のおかされた母親(宮崎あおい)は、10歳になった娘に約束します。毎年「バースデーカード」を彼女に送ると。娘が11歳の誕生日を迎えた日、すでに母親はこの世にいません。リビングに笑顔の写真があるのみ。

けれどもこの日、お父さん(ユースケ・サンタマリア)は、母親から彼女宛の「バースデーカード」を取り出したのです。それから毎年、彼女の誕生日に母親からの「バースデーカード」が届きました。その内容は毎回違っていて、おいしいクッキーの作り方とか、上手なキスの仕方とか、ちょうど「スパイ大作戦」の冒頭、フェルプス君に当局から指令が来て、メンバーがその任務を苦労のすえ達成するみたいな展開になります。

中学生時代の「紀子」を演じた子が、橋本愛に雰囲気がそっくりで驚きです。高校生になった17歳の紀子から橋本愛の登場です。この年の母からの指令は、母親の生まれ故郷「小豆島」へ渡って、彼女の同級生たちと「タイムカプセル」を掘り起こすこと。

小豆島では、母親の親友だった木村多江が待っていて、橋本愛を歓待します。木村多江には不登校の中学生の女の子がいて、母娘の関係はギクシャクしています。最初は橋本愛を無視していた娘は、彼女が大好きなバンド「GOING STEADY」と「銀杏BOYZ」のCDを、ある朝、橋本愛に聴かせるのでした。

次のシーン。その娘の自転車を借りて、島の細い道を駆け下りる橋本愛。BGMは、峯田和伸の絶叫が爆音で流れます。ここは「この映画」の中で、最も気持ちがいいシーンだったな。このあと、宮崎あおいと木村多江の当時の確執と友情の回復が語られるのだが、それは映画を見て下さい。

Img_0889

(写真をクリックすると、もう少し大きくなります)

■さて、19歳の誕生日がやってきます。もちろん、母親からの「バースデーカード」が届きました。しかし、橋本愛は「カード」を開封しようとはしません。どうしてだ? と訝る父親に、彼女は言うのです。「私、イヤなの! おかあさんの思い通りに生かされて行くのが」

正確なセリフを憶えていないのだけれど、「ここ」の部分に関して、橋本愛は監督に意見したのだそうだ。当初のシナリオでは、彼女は素直にずっと「指令」に従っていた。でも、それって嘘じゃない? 彼女の人生は母親のものではなくて、彼女自身の人生でしょ。と。

吉田康弘監督は、彼女の意見を取り入れ脚本を書き換えたという。確かに、この19歳のエピソードが加わったことで、映画が薄っぺらいものではなくなったように思う。

吉田監督は、撮影中のエピソードとしてこんなことを紹介した。

宮崎あおいと子役の「紀子」の撮影現場に、自分の出演シーンはないにも関わらず、橋本愛は何度も通っては、じっと宮崎あおいの演技を見学していた。普通、役者さんはそういうことをしないから驚いたと。

橋本愛は言った。「宮崎あおいさんと共演するシーンは一回しかなかったので、その現場だけで母娘を演じたら嘘になってしまうと思って、宮崎さんが子役の娘と演じる母娘のシーンを一緒に体験することで、母娘の関係をイメージしようと思ったのです」

2017年9月23日 (土)

映画『サウダーヂ』を、赤石商店の蔵のミニシアターで観た!やっぱ凄いな、この映画

■今週の水曜日の午後は休診にしてるので映画を見に行った。妻は美容院の予約が入っていたから別行動。それにしても驚いたな。平日の午後2時開演なのに、満席! 若者やオーガニック系・夫婦、よく訳の分からないオジサン等々が、どこかしこから湧いてきていた。まぁ、俺だって何処からか「わいてきた」得体の知れないオジサンなワケだけれど。みな地元民なのかな? 駐車場の車は松本ナンバーか、諏訪ナンバーだった。(以下は、その日のツイートより。一部改変あり)

空族プレゼンツ、映画『サウダーヂ』富田克也監督作品(2011年)を、東春近の民泊「赤石商店」の蔵の中のミニシアターで観てきた。予想とぜんぜん違った映画だったけど、うん。面白かった。先に『バンコクナイツ』を見ちゃっていたからね、両方出ている人が多いからさ、なんか懐かしい感じがしたんだよ。

続き)『サウダーヂ』だけに出ていた人で、笑っちゃったんだけど、宮台真司。それから「鉄割アルバトロスケット」の中で一番妙な役者さんが、危ないバーのマスター役で出ていた。そうそう中島朋人さん。中島兄弟の兄ちゃんのほう。

それからラストシーンに、文科省の「ゆとり教育」推し進めた、寺脇研氏が刑事役で出演しています。これは、なんだかな。だな。

少し前に甲府の「桜座」へ、姜泰煥(カン・テーファン)のアルトサックスを聴きに行ってきたばかりなので、映画に何度も登場した甲府の盛り場のシーン。そう、ビジネス・ホテル「ドーミー・イン」のあたりね。リアルに場末感があふれていて、しみじみしてしまったよ。

続き)あ、そういえば、あの甲府の商店街アーケード。NHKBSドラマ『奇跡の人』のロケでも使われていたな。峯田和伸くんと麻生久美子が抱き合う重要シーンだった。第7話だったっけ。

2017年7月11日 (火)

映画『バンコクナイツ』を観てきた。+『満月』豊田勇造


YouTube: 豊田勇造「満月」

■この間の日曜日、松本へ映画を観に行ってきた。以下は帰宅後寝る前、酔っぱらって一気に連続ツイートしたので、恥ずかしい間違いだらけだったのだが、訂正して再び載せます。

---------------------------------------------------------------------------------

松本シネマセレクト企画、富田克也監督作品『バンコクナイツ』を、まつもと市民芸術館へ観に行ってきた。3時間強の上映時間だったけど、今日は座蒲団持参だから尻は痛くない。それにしても見終わった頭の中が未だカオス状態で、うまく言葉に出来ない。それに、じつはタイへは一度も行ったことないんだ。(7月9日)

今まで見たことのない不思議な映画だったな。角田光代の旅エッセイを読みながら、行ったこともない東南アジアの熱帯夜を体感したような。いや違うな。牯嶺街少年たち「外省人」家族が、台湾で生きてゆくしかない閉塞感に苛まれたように、もはや日本に帰ることはできない「沈没組」の菅野の言葉にこそ「リアル」を感じた。

映画『サウダーヂ』は観てないんだ。ただ、菊地成孔氏が絶賛しているのをブログで読んでたし、ラジオで菊地さんが『バンコクナイツ』にはクラウドファンディングで、そこそこのお金を出していると言ってるのも聴いた。さらに、作家の山田正紀氏がツイッターでめちゃくちゃ褒めているのも読んだ。だからこそ見に来たんだ。

 

上映後のアフタートークに登壇した共同脚本の相澤虎之助さんの話が示唆に富んでいたなぁ。一つは「楽園&桃源郷」の意味するもの。それから、元自衛隊員オザワが、パタヤビーチで元ベトナム帰還兵の老人から購入した45口径(9mm)の拳銃の使いみちに関して。あのラスト、荒井晴彦氏からは怒られたとのこと。

監督の富田克也氏が自ら演じた、PKOでカンボジアに投入された元自衛隊員オザワだが、彼が醸し出す不思議と醒めた(諦めきった)雰囲気。以前にもどっかで観た気がして家に帰るまでずっと気になっていたんだ。あ、そうだ。日活ロマンポルノの傑作、田中登『まる秘色情めす市場』の主人公、芹明香がシャッターが閉まったアーケード商店街で出会った、指名手配の殺人犯そっくりの男だ。

芹明香は、いまだに同業(娼婦)を営んでいる母親(花柳幻舟)を心底憎んでいる。そんな母親が産み落とした弟は白痴だ。飛田遊郭街を死ぬまで出て行くことが出来ない諦め。そのとき「ここより他の場所」へ彼女を連れ出してくれるかもしれなかったのが、あの指名手配の殺人犯そっくりの男だった。

バンコク「タニヤ通り」で日本人相手に体を売るヒロイン「ラック」と、飛田新地で売春する「トメ」(芹明香)は、じつは境遇がよく似ている。そういうことに思い至った。

映画『バンコクナイツ』。カメラがね、とにかくすばらしい! バンコク夜の歓楽街。国北イーサン地方の、とうとうと流れるメコン川を高所から見下ろすシーン。夕闇。いつも満月。ラオスの田舎の山。ベトナム戦争の時、アメリカ軍が空爆して出来たラオスの沢山のクレーター。ぜひとも行ってみたいと思ったよ。

---------------------------------------------------------------------------------------------

■この『バンコクナイツ』という映画は、観客を選ぶと思った。若い頃、国内外を彷徨った経験のある、かつてのバックパッカーは、圧倒的共感をもって激賞するだろう。間違いない。だから、ぼくは映画を見終わった直後に思い浮かべたのは、作家の角田光代さんであり、6つ年が離れた成田の兄貴のことだった。

兄貴は学生時代から世界各国を旅して廻っていた。ヨーロッパも東南アジアも。60を過ぎたいまだに旅を続けている。南米マチュピチュ、カンボジア、イギリス、ポルトガル。未だ行ったことのない所は、南極大陸ぐらいじゃないか。

兄貴がなぜ旅に出るのか? よく分からなかった僕は、大学3年生の夏休みに兄貴のバックパックを借りてヨーロッパ1周1ヵ月半の旅に出た。いろいろなことがあったよ。貴重な体験だったと思う。

そんなようなことを、小児科医になってから当時の助教授に偉そうに話したんだ。そしたら、助教授は言った。「君は、インドへ行ったことはあるか? 俺は行ったことがある」と。

 

恥ずかしかったなぁ。何を偉そうに「旅」を語っていたんだ、オレは。

ぼくは東南アジアを旅したことがない。そんな奴に「旅」を語る資格なんかないのだ。間違いない。

 

この映画『バンコクナイツ』を観ながら、あの時の助教授の言葉をリアルに思い出していたよ。

旅とは何か? そのことは長年の謎だった。

日本各地を旅して廻っていた学生の頃、ぼくが考えていたその定義とは、

   旅行:おみやげを買って帰る 

   旅: おみやげは買わない

つまり「旅」とは、非日常の中に「日常」をたぐり寄せる作業。だからもちろん、おみやげは必要ない。その観点からすると、映画『男はつらいよ』の主人公「寅さん」には、お土産を買って「帰って行く場所」が常にあった。

■この、結局は失敗しても常に帰る場所があるってことが、寅さんの甘えだったワケだ。でも、映画『バンコクナイツ』に登場する日本人はみな、帰る場所がない。そのことは重要だと思う。

ぼくはとっくの昔に「旅すること」を止めてしまったのだけれど、いまだに諦めきれず「ここより他の場所 = 楽園」を夢見て、異国のバンコクで蠢いている日本人たち。あぁ、哀れなのか? それとも……。

■映画『バンコクナイツ』には、何度も夜空に月が出ている。しかも、いつも「満月」なんだ。少し前に観た、急逝したマレーシアの女性監督の映画『タレンタイム』にも、満月が何度も登場した。

月は女性の象徴だ。そう思ったよ。

それから、『タレンタイム』と『バンコクナイツ』の重要な共通点が「音楽」だ。ワールド・ミュージック好きを自称するこのぼくが、聴いたこともない超ローカルな地元音楽にあふれているんだ。これ、ちょっと凄いよ! 

タイの東北部、ラオス国境に近いヒロイン「ラック」の生まれ故郷「イーサン地方」にカメラが移動すると、彼女は祈祷所のような部屋に行って、イタコのおばさんが古い物語を語り出すんだ。「モーラム」という語り芸なんだって。このオバサン、次第に語りが「謡い」みたいになって朗々と唄い出す。このシーンはゾクゾク来たな。

あと、メコン川のほとりでオザワが出会う革命詩人の幽霊。ミスター・マリックみたいな風貌で飄々としていて、なかなかに味わい深かった。

■で、映画の最後。エンドロールもそろそろ終わりかと思う頃、流れ出すのが、この豊田勇造さんが唄う『満月』って曲。タイでは誰でも知ってる名曲なんだって。沁みるよね。

■検索したら、監督の富田克也氏への「ロングインタビュー」があった。ビックリだな。最初は、映画作りに関してまったくの素人だったんだね。

 

2017年5月19日 (金)

映画『牯嶺街少年殺人事件』エドワード・ヤン監督作品をみた

■映画とは、本来、真っ暗な映画館のスクリーンに向かってたった一人、その観客はこれからの上映時間を「この映画」に捧げることを覚悟のうえスクリーンと対峙するものであった。少なくとも、ぼくが映画を見始めた頃はそうだった。

まずは闇だ。映画は闇から始まることになっている。

斉藤耕一『旅の重さ』のファースト・シーンを見よ。


YouTube: 旅の重さ

■この、真っ暗な闇に、縦に白い光が差し込む瞬間が映画の始まりなのだ。ちなみに、このシーンは、ジョン・フォード監督作品『捜索者』へのオマージュとなっている。このことを教えてくれたのは、当時映画雑誌『リュミエール』編集長だった、蓮実重彦氏。


YouTube: 捜索者(プレビュー)

「リュミエール」とは、フランス語で「光」という意味だ。ただ、世界で初めて「映画」を発明した兄弟の名前が、偶然にも「リュミエール」であったことが全てを象徴しているのかもしれない。

Img_0638


■映画雑誌『リュミエール』の最終号(vol.14 / 1988年冬号)は、どうしても棄てられなくて未だに持っている。エドワード・ヤン監督のことは、同じ台湾出身の映画監督、ホウ・シャオシェンと共に、この雑誌を通じて蓮実重彦氏から教わった。

ただ当時、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の映画は何本か観たが(『恋恋風塵』『童年往事』『非情城市』)何故か楊徳昌(エドワード・ヤン)監督の映画には触手が伸びなかった。当時は1本も観てないのだ。バカなことをしたものだ。どうして観に行かなかったのだろう? 

■『牯嶺街少年殺人事件』の紹介記事では、藤えりかさんの「この記事」がよい。

■それから、今回公開された、3時間56分のオリジナル全長版の「あらすじ」を【ネタバレ】で最後までコンパクトに分かり易く紹介しているのが「こちらのサイト」だ。映画を観た人が、よく分からなかったところを整理するのに実に良く出来ているのでオススメです。

■以下は、今回初めて「この映画」を観た直後の感想ツイート(一部改変あり)

エドワード・ヤン監督作品の台湾映画『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』を初めて観た。松本シネマセレクト。圧倒的な3時間56分。これは凄いな。大傑作。思春期特有の残酷さ。切なく痛い映画だ。公開時なぜ見に行かなかったんだろう。
続き)むかし、スクリーンで見た『青春の殺人者』『十九歳の地図』『サード』などの日本映画を思い出した。主人公の家族が日本家屋に住んでいたせいか、妙に懐かしい感じもしたんだ。侯孝賢『非情城市』は公開時に見た。あれは本省人の苦悩の話だったが、今度は外省人の家族の生き辛さか。
続き)『牯嶺街少年殺人事件』の英語のタイトル名が『A Brighter Summer Day』なのが泣ける。エルヴィス・プレスリーの「Are You Lonesome Tonight」の歌詞から取られている。懐中電灯を持ち歩く主人公は言う。「この世界は僕が照らしてみせる」と。
続き)映画の光と闇。山東 (217 グループ) 一味のビリヤード場がやたら停電する設定になっていて、だからこそ、台風が来た夜に彼らを急襲する、台南ヤクザと小公園一味に停電がミカタするのだ。敵ボスの死に際を懐中電灯で照らす主人公。ここのシーンは忘れられない。『牯嶺街少年殺人事件』
続き)あと、中国本土から逃げてきた家族、知人、恩師の奥さん皆で記念写真を撮るシーン。侯孝賢『非情城市』にも、トニー・レオン一家が写真館で家族写真を撮るシーンがあったな。それから小津安二郎『麦秋』にも、印象的な家族一同での記念撮影のシーンがあった。『牯嶺街少年殺人事件』。
続き)おっと忘れていた。主人公の父親がじつにいい。父親が学校に呼び出されたあと、自転車の父子が家路につくシーンが「3回」登場するが、この反復はズルいな。しがない公務員の父親は、外省人であるがために毛沢東中国共産党のスパイではないかと、台湾当局から執拗な尋問を受ける。拷問に近いな。
続き)もうさ、4時間近くお尻痛いのを我慢してスクリーンを凝視してるとさ、映画の主人公と完全に一体化しちゃうんだよ。ちょうど『昭和残侠伝』の高倉健と池部良を見ているみたいに。『牯嶺街少年殺人事件』
映画『牯嶺街少年殺人事件』のことを、もっとよく知りたくて、季刊誌『映画芸術』最新号(2017年春/第459号)を買ってきて読んでいる。故・梅本洋一氏によるエドワード・ヤン監督インタビュー(1991年10月東京)がまずは読ませる。いくつも発見があったぞ。
続き)父親が拷問に近い尋問から解放され帰宅した後、彼の妻は公務員を辞めて民間企業に再就職を薦める。その面接の日、主人公の小四(シャオスー)は母親に映画を見に行って時間を潰すよう言われて、映画館で小翠(小馬の当時の彼女)と会うのだが、彼らが観ていた映画は、音声だけで何かは解らない。
続き)ところが! 梅本洋一氏は音声だけで映画の名前とそのシーンまで特定してみせる。凄いな。その映画とは、ジョン・ウェイン主演、ディーン・マーティン共演、ハーワード・ホークス監督作品『リオ・ブラボー』だ。エドワード・ヤン監督は、この映画を少なくとも10回は見たと言っている。
続き)ここで西部劇を主人公が観ていることが、後半中学校の誰も居ない保健室で、校医の若先生のハットをかぶって「鏡」を見ながらジョン・ウエィンになりきる主人公に繋がるし、小馬の家で、小明(シャオミン)が、まるで南海キャンディーズ「しずちゃん」みたいに『ばーん!』て発砲する場面に繋がる
続き)主演のチャン・チェンは一番最後に決まったんだそうだ。楊徳昌監督は言う。「それに、何よりも、僕が彼に引きつけられたのは彼の目です。彼の目の表現には、時にはすごく深いものがあるし、また時には、何かはっきりとは形にならない感情を伝えてくれたんです。他の少年にはない目の表現が」
続き)「あの子にあった。」小明と二人、午後の授業をサボって河川敷での軍隊演習を遠く見学している時に絡まれた、主人公と敵対する「217グループ」の下っ端を見事撃退した後の主人公が、自転車を引きながら彼女と帰路につくシーン。彼の眼は、東大寺詩仙堂に安置された「広目天」みたいだったぞ。
続き)ただ、よくわからないのはヒロインの小明(シャオミン)だ。決して美人ではない。目は小さいし離れている。ひょろりと痩せていて、胸もないし、ただ首が長いだけの14歳の少女だ。そんな小明が、次々と男を手玉に取る。もちろん本人にその意識はない。ただ生き延びる手段に過ぎなかったのだ。
続き)でも、そんな彼女のために、男たちは自らの命を捧げた。ハニーに殺された、217グループ・リーダー。小公園リーダー「ハニー」、中山堂経営者の息子「滑頭」、建国中学校の校医の若医者、建国中学校バスケット部のエース「小虎」、台湾国軍司令官の息子「小馬」、それに主人公の小四。7人の男
続き)【ネタバレ注意!】映画館で小翠から、あの夜、滑頭が会っていたのは小明であったことを知る主人公。しかも、その小明は母親と共に親友「小馬」の家の住み込み家政婦として働くことになったことを知る。主人公にとっては「もう、なんだかなあ」の世界だ。映画撮影スタジオに、大切な懐中電灯を置いてゆくのは、もちろん意識的だ。だって、遺書みたいな文章もしたためているのだから。つまりは、主人公の総決起決意表明なワケだ。となると、彼が殺したかったのは「小馬」なのか? ぼくはそうは思わない。だとすれば『曽根崎心中』みたいになるべき? いや、それとも違う。難しいな。
続き)この世で一緒になれないならば、あの世で一緒になろうとしたのが、曽根崎心中だったワケだが、牯嶺街少年殺人事件の主人公は自ら死のうとはしなかった。そのことは、じつは重要だと思う。
『牯嶺街少年殺人事件』の主人公シャオスー(小四)とシャオミン(小明)は14歳の中学2年生だった。『タレンタイム 優しい歌』の二人は17歳の高校2年生。無垢の二人は、キスさえためらう。ところが、14歳の小明は既に幾多の男を知り尽くしている。大竹しのぶみたいに。無知な小四が実に憐れだ


2016年12月25日 (日)

今月のこの一曲。『チーク・トゥ・チーク』

Img_0280

■先達て(12月11日)に観た、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出『キネマと恋人』に、いまだに囚われている。ほんと、よかったなぁ。観劇中の3時間が夢のようだった。

それにしても「贅沢なお芝居」だ。東京では、客席数が218席しかない「世田谷パブリックシアター」の「シアター・トラム」で上演され、ぼくが観た松本公演も、大劇場ではなくて収容人数300人の「実験劇場」のほうで上演された。

出演する役者さんが、妻夫木聡・緒川たまき・ともさかりえ・橋本惇(NHK朝ドラの名作『ちりとてちん』に出演していた、貫地谷しほりの弟役の彼じゃないか!)・三上市朗・佐藤誓・村岡希美・廣川三憲・尾方宣久+ダンサー5人という布陣の豪華メンバーであれば、東京なら「シアター・コクーン」とか三軒茶屋でも、三谷幸喜のお芝居『エノケソ一代記』と集客上でもタイマン勝負を張ることができる人気なのに、あえてケラさんは「小劇場」を選んだ。

昨年の「KERA MAP」で企画された『グッドバイ』も傑作だった。僕はまつもと市民芸術館「大ホール」で観た。ただ、チケットを取るのが遅れたために、1階最後列での観劇だった。だから、折角の小池栄子の熱演も彼女の表情がよく見えなかったのがホント残念だった。双眼鏡を持ってけばよかったな。

今回なぜ、作演出のケラさんが「小さなハコ」にこだわったのか? それは、観客全員に役者の微妙な表情を見逃さないで欲しいと思ったからに違いない。

と言うのも、今回のお芝居の元になっているのが、ケラさんが大好きだと以前から公言していた、ウディ・アレンの映画『カイロの紫のバラ』だからだ。ケラさんが大好きな「奥さま」である緒川たまきさんを主演に芝居を作るとしたら、当時ウディ・アレンの愛人であった、ミア・ファローをヒロインにして作られた傑作映画『カイロの紫のバラ』を選ぶしかあるまい。

女優:緒川たまきには、独特の雰囲気がある。彼女の舞台は、松本で『グッドバイ』の他にも、清水邦夫の『狂人なおもて往生をとぐ』を観た。ひとことで言えば「レトロ」な女優だ。竹久夢二が描く帽子を被った上品な洋風美人の感じ。そう、モボモガが帝都東京の銀座を闊歩していた1920年代末の典型的な美人。


YouTube: Cheek to Cheek - The Purple Rose of Cairo (1985)


で、ほとんど「ネタバレ」になってしまうのだけれど、映画『カイロの紫のバラ』のラスト・シーンが「これ」です。ミア・ファローの微妙な表情の変化を、おわかり頂けましたでしょうか?

ミア・ファロー役を緒川たまき主演で、まして映画ではなく「お芝居」でやるには、このラストシーンを舞台上でどう見せるかが勝負になる。だからケラさんは「小劇場」での上演にこだわったに違いない。

また、映画の翻案なので場面転換が早くて多い。これを舞台上でどう表現するのか? それから、スクリーンの中から登場人物で飛び出してきたり、映画の中の人と舞台上の役者が、あうんの呼吸で会話したり、さらには、妻夫木君が2人同時に舞台上に登場して語り合う場面も必要だ。

プロジェクション・マッピングの有効利用には長けているケラさんではあるが、技術的にもかなりの高度なワザが要求された舞台であったはずだ。そして、それらが「完璧」にこなされていたのだから驚いた。

12月11日
『キネマと恋人』まつもと市民芸術館の夜公演から帰って来て、なんだかずっと「しあわせ」な気分に浸っている。ほんとよかったなぁ。また月曜日からの1週間。がんばってやってゆく元気をもらった。ありがとう。凄いな、お芝居って。

続き)ただ、ときどき妻夫木くんが「ますだおかだ」の岡田圭右にかぶって見えてしまった。ゴメンチャイ。あと、緒川たまきさんのウクレレ上手かった。あの『私の青空』の歌のシーンには泣けた。

『キネマと恋人』の余韻に浸っている。購入したパンフを読みながら。このパンフ、もの凄く充実している。ケラさんへのロングインタビューは必読だ!

ちなみに、ミア・ファロー主演でぼくが大好きな別の映画がある。『フォロー・ミー』だ。イギリスの大監督キャロル・リードが、小予算の片手間企画で撮ったに違いないこの小品。ぼくは、TBSラジオの深夜放送「林美雄のパックイン・ミュージック」で教えてもらって、たしか、テレビの吹き替え版で見た。ジョン・バリーのテーマ・ミュージックが切なくてね、絶品なんだよ。


YouTube: アステアの歌7「cheek to cheek」

■1930年代が舞台の『カイロの紫のバラ』にも登場する、フレッド・アステア & ジンジャー・ロジャースの『トップ・ハット』(1935)。アステアが歌うのが『チーク・トゥ・チーク』だ。

Heaven. I'm in Heaven

And my heart beats so that I can hardly speak

And I seem to find the happiness I seek

When we're out together dancing cheek to cheek

作曲はアーヴィング・バーリン。『キネマと恋人』でも、当然のごとくテーマ音楽として使われ、アレンジを変えて何度も流れた。それから、劇の後半に緒川たまきがウクレレの生伴奏をして、妻夫木聡が「私の青空」を歌うシーンがあった。ここはよかったなぁ。たまきさん、ウクレレ上手い!

■お芝居の劇評は、元六号通り診療所所長の石原先生のブログ、と「しのぶの演劇レビュー」が詳しいです。


YouTube: Lady Gaga Cheek to cheek Live 2015

■「チーク・トゥ・チーク」といえば、レディー・ガガ & トニー・ベネットだ。男性ジャズ・ヴォーカル界のレジェンドであるトニー・ベネットの最新作の2曲目で披露されているのが「この曲」。

二人の共演は、実はこのCDが初めてではない。トニー・ベネットのひとつ前の作『デュエッツ Ⅱ 』の1曲目に収録されているのが、レディー・ガガとのデュエット曲「The Lady is a Tramp」。このCDも買ったけど、とにかくレディー・ガガの歌が上手いのにホント驚いた。奇抜な衣装で歌うゲテモノ歌手だと思っていたのだが、とんでもない。

なんなんだ、このスウィング感。エラ・フィッツジェラルドまっ青の、強烈なグルーブ。恐れ入りました。ところで、この曲の「トランプ」の意味って、あまりいい感じじゃぁないぞ。「その淑女は、じつはとんでもないアバズレ女」みたいな感じか。


YouTube: Tony Bennett, Lady Gaga - The Lady is a Tramp (from Duets II: The Great Performances)



 



2016年9月26日 (月)

第19回 小津安二郎記念「蓼科高原映画祭」茅野市で、『東京暮色』をみる。

Img_0095

■お昼12時から、茅野市民館で『晩春』デジタル修復版を観る。素晴らしい画像と音声がよみがえっていた。続けて午後2時より、「新星劇場」へ移動して『東京暮色』をみる。

Img_0093

       ■観客は、ジジババばかりじゃないか!

Img_0094

■茅野市駅前の「新星劇場」で小津安二郎監督作品『東京暮色』を観る。30年前からレーザー・ディスクでは持っていたのだが、じつは見たことはない。暗いとか失敗作とか、さんざん言われていたからね。いやいやどうして、面白いじゃないか! 140分間まんじりともせずスクリーンに釘付けだ。今こそね!

今回の上映は、プロジェクターでのビデオ上映でなく、ちゃんと 35mmフィルムでの上映だった。思いの外フィルムの状態も良く、子持ちで出戻りで、大きなマスク姿の原節子は妙に美人が際立っていたぞ。それから山田五十鈴。よかったなぁ。ただただその場で流されて行くしょうもない女を見事に演じていた。

それにしても『東京暮色』って、それほど悪くないんじゃないか? むしろ昭和32年の公開当時よりも、平成28年の「いま」観たほうがリアルに響いてくるような気がする。特に、有馬稲子の切実さが何ともやるせない。何故あんなにも最低な男に惚れちゃったんだよ。

『東京暮色』上映の前に、茅野市民会館で『晩春』デジタル修復版(2015)を観る。先だって、NHKBSで放送されたのは録画したのだが、テレビで見ると、白黒スタンダード画面は両端が切れてしまうので、しらけてしまうのだ。だから映画館で観たかった。素晴らしい画像で明瞭な音声。感激だ!

小津の『東京暮色』は、バイプレーヤーの宝庫だ。杉村春子、浦辺粂子、田中春男、藤原鎌足、中村伸郎、長岡輝子、高橋とよ、桜むつこ、高橋貞二、須賀不二雄、宮口精二。『東京物語』の、山村聰もパチンコ屋に登場した。宮口精二と言えば、黒澤明『七人の侍』もデジタル修復完了とのこと。

是非とも観たい!

小津安二郎『東京暮色』の続き。この映画が、アンチ『晩春』であるという感覚は、一昨日たまたま続けて見たから、僕もホントそう思った。「小津安二郎『東京暮色』のすべて(その1)〜(その8)」の詳細な分析は凄いぞ! ameblo.jp/kusumimorikage…

■さらに『東京暮色』の続き。BGMがね、めちゃくちゃ暗い映画には完全にミスマッチの異様な明るさ。『お早よう』〜『秋刀魚の味』で流れる、あの能天気であっけらかんとした音楽が、そのまま使われているのだ。不思議だ。それから、藤原鎌足のラーメン屋「珍々軒」のシーンでは、何故か必ず沖縄民謡の「安里屋ユンタ」。

さらに『東京暮色』。銀行家の笠智衆が住む、坂の上の雑司ヶ谷の家。家に帰る人(笠智衆、原節子、有馬稲子)家を訪れる人(杉村春子、山田五十鈴)みな、坂をのぼってくる。自宅での夜のシーンが多いが、外で犬が遠吠えしていて、山田五十鈴が訪れるシーンで「その犬」が初めて画面に登場する。

■終盤、上野発 21:30分の青森行き夜行列車に乗って、出発を待つ山田五十鈴と中村伸郎。原節子が見送りに来るかもしれないと、冬なのに列車の窓を開けて必死にホームの人混みの中をさがす山田五十鈴が哀しい。来るわけないのに。

列車が停車しているのは、12番ホームだ。小津安二郎は、12月12日に生まれて、12月12日に亡くなっている。

■この映画に関しては、もう少し掘り下げたいと思うので、ネットで見つけた注目すべきサイトを以下に上げておきます。

 ・「ビッグ・ウエンズデーのためのレジメ」ミズモト・アキラ

 ・同上「当日の様子」 ミズモト・アキラ & 堀部篤史

2016年4月 9日 (土)

小津安二郎と戦争(その1)

■映画監督、小津安二郎の死生観を決定付けたのが、1937年(昭和12年)に盧溝橋事件を発端に始まった日中戦争である。同年9月に小津は招集され、以後約2年間にわたり中国大陸を従軍し、一兵卒(伍長)として実際に最前線で戦争体験をしたのだ。

その詳細を初めて明らかにしたのが、『小津安二郎周游(上)』田中眞澄(岩波現代文庫)の第8章、第9章だ。『昭和史』半藤一利(平凡社)によると、昭和11年に 2.26事件が起き、その結果、陸軍「皇軍派」は一掃され、陸軍の実権を握った「統制派」の主導により、翌昭和12年7月7日夜「一発の銃声」(本当はかなりの数の銃弾だったそうだが)が演習中の日本駐屯軍に向けて放たれたことを理由に、盧溝橋事件が起こる。

当初陸軍は、蒋介石が率いる中国国民党軍の本拠地であり、実質的な中国の「首都」であった「南京」を落とせば、簡単に日中戦争を完全勝利で終結できると高をくくっていた。ところが、イギリスやアメリカの後ろ盾があった中国軍は思いのほか強かった。

上海での激戦は、日比野士朗『呉松(ウースン)クリーク』に書かれている。日本から大軍を送り込んで、やっとこさ撃破すると、揚子江をさかのぼって、南京へ後退した中国軍を日本軍は追撃に追撃を重ねる。そこで「南京事件(南京大虐殺)」が起こる訳だ。

小津は中国上陸後、呉松(ウースン)に入る。そして南京が陥落した直後に、小津は南京に入城している。1937年12月20日のことだった。

「小津安二郎と戦争」に関しては、同タイトルの田中眞澄氏の著書(みすず書房)が出ているが、ぼくは未読。田中眞澄氏以外で、小津と戦争との関連を取り扱った人は、ぐぐると案外多い。

■保坂正康『太平洋戦争を考えるヒント』(PHP/ 2014/6/20)第14章「小津安二郎と『戦争の時代

茂木健一郎「日常が底光りする理由」(文學界 /2004年1月号所収)

■ガディスの緑の風さん:小津安二郎における戦争の影響 - 追悼の陰膳

             小津安二郎監督が映画に託す追悼の意 

2016年4月 3日 (日)

映画『おみおくりの作法』を見る

■礼服を着る機会が、結婚式よりも告別式のほうが格段と多くなったように思う。小学校や高校の時の同級生の葬儀にも何度か出席した。そして、自分の葬式のことが具体的に気になりだしたのだった。簡素な家族葬がいいんじゃないか、とか、墓はいらないから、どこか木の根元にでも散骨してほしいとか。

■そんなことを考えていたから、「この映画」が妙に沁みたのかもしれない。それから、最近の映画はやたら長いのが普通だが、「この映画」は昔の2本立てプログラム・ピクチャーみたいに、きっちり90分の上映時間。そこが偉い! 以下、ツイートを再録(一部改変あり)

たまたまWOWOWで、映画『おみおくりの作法』を見た。これは参った。もろ好みの映画だ。モノクロみたいな押さえた色調。3回でてくる立ち小便など、随所に織り込まれるとぼけたユーモア。『晩春』の笠智衆みたいにリンゴの皮をむく主人公。私立探偵が関係者を訪ねて聞き込みして廻るハードボイルド小説の味わい。(3月28日)

続き)この映画、イギリス版『おくりびと』みたいなキャッチコピーがされているが、むしろ、是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』を見たときの印象に近い。映画の原題も『STILL LIFE』だし。ああ、いい映画をみたな。

映画『おみおくりの作法』が沁み入った一番の理由は、映画が「小津的」であったこと。本来居るべき人がいない無人の部屋のショットとか『晩春』だし、ラスト近く主人公のオフィスのショットから4カット、パッパッパと風景だけでつないでいくシーンは『東京物語』ラスト近くで挿入される、無人の尾道の町並みと同じ効果。

続き)あと、「黄色」の使い方。アキ・カウリスマキは「朱色」にこだわったけど、この監督は「朱色」を避けて、小津のカラー映画を「渋い黄色」で再現しようとしたのではないか? ソファーの色とか、電車のラインとか、漁師の銅像が着ている合羽の色とかね。(3月30日)

ウベルト・パゾリーニ監督は、小津安二郎の死生観に影響を受けたと語ったそうだが、小津の死生観は、日中戦争が始まった昭和12年からの2年間、中国大陸での従軍体験によるところが大きい。今晩『小津安二郎周游(上)』田中眞澄(岩波現代文庫)の第8章、第9章を読む。衝撃が走る。(4月1日)

TSUTAYAで『おみおくりの作法』を借りてきて、改めて見ている。スタークの娘は、フォークランド紛争で落下傘部隊として活躍した父親のベレー帽と同じ煉瓦色のジャージを着ている。彼女が働く犬舎の床は青色だ。そして、父親と同じく、足の折れたソファーに何冊も本を挟む。親子なんだね。

続き)映画『おみおくりの作法』の主人公は、いわば人知れず子供の頃からの発達障害を抱えたまま大人になってしまったアスペルガー症候群の中年だと思う。スクエアーで四角四面。毎日決まり切った日常を変わりなく過ごすことが重要なのだ。だから、道路を渡る時には横断歩道を信号が青になっても、まず、右を見て左を見て、それからもう一度右を見てから道路を渡ってきた。

それくらい、普段と違うことをするのには慣れていないのだ。でも、一番重要なことは、そんな彼に「一人も」友達がいないことを、彼自身は全く何とも思ってはいない。つまりは、決して淋しい人生ではなかったのだ。(4月3日)

続き)几帳面でど真面目な公務員の主人公には、勤務が終了した後、アフター・アワーズの私的楽しみを行きつけの居酒屋(パブ)で味わう経験はなかった。彼のテーブルには、ウィスキーのストレート一杯に、チェイサーの水が2杯。ふと見上げると、喧騒な中に人々がそれぞれに連んで語り合っているのだった。

続き)ただ、その事を主人公は何とも思っていない。他者と自然にまじわわれない自分に対して、仕方のないことだと、静かに諦めているのだ。でも、22年間勤め上げた民生委員の仕事に対しては、確かな自信と誇りがある。こういう性質の彼には、まさに天職であった。(4月3日)

■映画評はいっぱい出ているが、沢木耕太郎氏の評がいちばんしっくりくるな。それから、

「こちらの方」の解説もたいへん分かりやすい。確かに、この映画の主人公は、村上春樹『かえるくん、東京を救う』の「片桐さん」みたいだ。人知れず、誰に褒められる訳でもなく、淡々と「よいこと」を続けてきた彼の人生。すばらしいではないか。

■この映画は、まるで脱色でもしたかのような淡いカラー映像で始まって、主人公の気持ちと同調するように、後半になって次第にカラーの色合いが濃く鮮やかになってゆく。それから、この監督は画面上での「色の配置」にもの凄く意識的だ。特に、黄色と青色、それにエンジ色。

これはやはり、小津のカラー映画『秋刀魚の味』や『彼岸花』を強く意識しているのであろう。

そして、「反復」と「微妙な差異」。これも小津だ。しかし、映画の後半になると、正面からの固定ショットは減って、斜めからやカメラが移動しながら主人公をとらえている。たぶんこの変化も、主人公の気持ちと同期しているのだろうな。

それにしても、映画人の職人気質にあふれた、映画でしか表現できない、実に端正な映画であった。

2016年3月24日 (木)

麻生久美子の舞台『同じ夢』。それから映画『亀岡拓次』のこと(その2)

■舞台『同じ夢』に登場する人たちはみな、それぞれに「手かせ足かせ」の左門豊作状態で、どうにもならない状況下にある。それでも自らの人生を破綻させることなく「いま」をただ、しょうもなく生きている、一見「夢も希望もない」無名で市井の、冴えない中年男ばかりだ。

主人公の「光石研」は、父親が始めた肉屋を引き継ぎ、妻を10年前に交通事故で亡くしたあと、男手一つで一人娘を育て上げた。娘は成人し就職したが同居中。父親は倒れて寝たきり状態だ。夜ひとりリビングを掃除し終わり、掃除機を仕舞おうとしてコード収納ボタンを押す。しゅるしゅるしゅる。また、コードを引っ張り出す。また押す。しゅるしゅるしゅる。

ふと、掃除機のコードを自分の首に巻いてみる。でも、いま死ぬことはできない。

なぜなら、通いのホームヘルパーさん(麻生久美子)と、あわよくば再婚できないか、という「はかない夢」があったから。

■『同じ夢』は、地方公演ももう終わっているから、一部ネタバレします。ごめんなさい。

・このお芝居では、役者さんがみな「タバコ」を吸う。驚いたことに、麻生久美子も登場早々にタバコを吸うのだ。でも、「タバコを吸うこと」に必然性があるのだ。特に何も劇的展開は起こらないこの舞台で、ぼくが最も「劇的」に感じた場面は、登場人物がみな肩寄せ合って1箇所に集まり「いつでも夢を」を唄う場面だった。

その、1箇所に集まる必然性が「タバコを吸うこと」なのだ。主人公の光石研は禁煙していた。だから、友人の田中哲司はタバコを吸う時に、キッチンの流し左横上にある「換気扇」を回して、その下で吸うのだ。大森南朋も麻生久美子も、換気扇の下へ行ってタバコを吸う。終いには光石研も禁煙を破ってタバコを吸う。(赤堀雅秋さんだけ吸わないので、一人離れて淋しそうだった。しかも、実際の赤堀さんはヘビー・スモーカーなのに

そういう訳で、「換気扇の下」が、登場人物がみな肩寄せ合って集う場所になったのだ。

・キッチン流し台の換気扇の下でタバコを吸う芝居を以前に観た。三浦大輔・作・演出『母に欲す』だ。峯田和伸(銀杏BOYZ)・ 池松壮亮・片岡礼子・田口トモロヲが出演し、池松壮亮が何度も「そこ」でタバコを吸った。

・それから、舞台上で役者さんがタバコを吹かす場面が印象的だったお芝居に、宮沢章夫・作・演出『ヒネミの商人』があった。タバコをふかすのは、先だってテレビ東京の『テレビチャンピオン』を卒業した「中村ゆうじ」。このお芝居では、銀行員役だった「ノゾエ征爾」が履いてきた「靴」が、片方だけ無くなってしまう。

・『同じ夢』でも、光石研が舞台に登場した時から、片方だけ「靴下」を履いていない。行方不明なのだ。ところで、ノゾエ征爾は映画『ウルトラ ミラクル ラブストーリー』横浜聡子監督作品(2009年)の中で、主人公「松山ケンイチ」の幼なじみで農協職員、でも上京して役者になりたい男を演じていた。

・そんな松山ケンイチが一目惚れしてしまうのが、保育士の麻生久美子だ。彼女が同棲していた恋人(井浦新)は突然出て行ってしまい、他の女が同乗した車で交通事故を起こし死んでしまう。しかも首から上が未だに見つからない。彼女は東京からわざわざ青森に移り住み、カミサマ(イタコ)に「元彼の首」がいまどこにあるのか、どうして彼女のもとを離れていってしまったのか、死んだ彼に訊こうとするのだった。

・自閉症で衝動性と多動、軽度知的障害も合わせ持ったまま大人になってしまった「松山ケンイチ」の頭の中では、絶えず農薬散布のヘリコプターの爆音が聞こえている。舞台『同じ夢』でも、ときどき「肉屋」の上を自衛隊のヘリコプターが爆音を響かせ通過する。

・さらにこの4月から、障害児を育てる麻生久美子に恋してしまった峯田和伸(銀杏BOYZ)が、母子を支援するドラマ『奇跡の人』が、NHKBSプレミアムで始まる。しかも、このドラマの脚本は、あの『泣くな、はらちゃん!』の「岡田惠和」。

・『泣くな、はらちゃん!』には、光石研が出ている。生きて死んで、死んだまま、越前さんにマンガで描かれたことで復活するのだ。それから、あのヤスケン(安田顕)も一話だけ登場しているぞ。

そういえば、松山ケンイチも『ウルトラ ミラクル ラブストーリー』の中で農薬浴びすぎ、心臓はもう動いていないのに、町子センセイ(麻生久美子)のことが好きすぎる「彼の脳味噌」だけが生きているのだった。

・さらに、『泣くな、はらちゃん!』と同じワクで放送された『ど根性ガエル(実写版)』のヒロシ役が松山ケンイチで、どことなく子供のまま大人になってしまった「陽人」の面影があった。脚本は、これまた岡田惠和。


YouTube: 泣くな、はらちゃん 【私の世界】 ロックバージョン


 

・麻生久美子は舞台『同じ夢』の中で、光石研に彼の寝たきりの父親を介護する中で、自らのおっぱいを「そのエロじじい」に揉まれていたことを告白する。映画『俳優 亀岡拓次』の中では、大女優・三田佳子が舞台上で安田顕に自らの乳を揉まれる。

■なんか、ぼくの中では「いろんなこと」がリンクしてつながって行くのだった。

2835


光石研さんは橋口亮輔監督の映画『ハッシュ!』で田辺誠一の兄貴役の演技が光ってたので、今日のお芝居『同じ夢』を松本まで観に行ってきた。いや、よかった。すっごく面白かった。大森南朋に田中哲司。みんなよかった。橋幸夫の『いつでも夢を』だから『同じ夢』か?ナマ麻生久美子は想像以上だったよ。2016年2月24日
続き)それから、舞台が始まる前から劇場場内に「不思議な香り」が微かに漂っていたんだけれど、あれは、稲葉さん(赤堀雅秋)が付けていた、安物のオーデコロンの匂いだったのだろうか? 舞台『同じ夢』まつもと市民芸術館にて。
昨日の昼休みに、伊那市役所ロビーに行って、伊那谷フィルムコミッションの展示を見てきた。「orange 松本ロケ地 Map」と「俳優亀岡拓次:呑んだくれロケ地 MAP」「伊那谷ロケぶらり」のパンフレットを入手。映画「俳優亀岡拓次」はすごく期待してるんだ。2月27日より伊那旭座で公開
続き)映画主演の安田顕さん。『水曜どうでしょう』に、たまにゲスト出演していた頃から注目していたのだよ。個人的には『下町ロケット』よりも『みんなエスパーだよ!』や『ゴーイング・マイ・ホーム』での、とぼけた演技が好き。(2016/02/06)
映画にも実際に登場する「伊那旭座」で『俳優 亀岡拓次』を観た。しみじみ良かった。先週松本で観たお芝居『同じ夢』に続いての麻生久美子だ。安田顕が帰った後の居酒屋「ムロタ」のカウンター内で一人、立ったまま「お茶漬け」をすする麻生久美子。『麦秋』の原節子を彷彿とさせる名シーンだったな。2016年3月6日
『俳優 亀岡拓次』感想の追加。ヨーロッパ映画みたいだった。フィンランドの映画監督アキ・カウリスマキがフランスで撮ったような。テンポをわざと外して、前のめりに突っ掛かった所で観客を「くすっ」と笑かすみたいな。個人的には、山形のスナックで喝采を唄うオバサンが2度映る場面が一番笑った。2016年3月8日
変な映画『俳優 亀岡拓次』を観て引っかかった横浜聡子監督の『ウルトラ ミラクル ラブストーリー』のDVDをレンタルしてきて観た。おったまげた。めちゃくちゃ変。ラストシーンに唖然。監督の妄想が疾走している。otanocinema.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/p… 読んで、もう一度見ないとな。2016年3月22日
続き)幼稚園の子供たちが自然に過激だ。そこがまず凄い。それからカメラの長回し。麻生久美子が自転車を押しながら松山ケンイチと二人夜道を帰るシーン。画面奥の浜辺で花火をしている。緊張と緩和。ここが好き。まるで、テオ・アンゲロプロスか、相米慎二の『雪の断章』ファースト・シーンみたいだった。2016年3月22日

Powered by Six Apart

最近のトラックバック