ジャズ Feed

2014年12月30日 (火)

今月のこの1曲。Judy Bridgewater 『Never Let Me Go』

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カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』(早川書房)を読んだのは、もう随分と前なのだけれど、ずっと気になっていることがあって、このブログでも何回か取り上げたことがある。

小説の主人公、キャシー・H が何度も何度も聴くカセット・テープに収録された曲、Judy Bridgewater 『Never Let Me Go』のことだ。

(その1)「2006/11/15 の日記」と、11/23、11/25の日記。

(その2)今月のこの一曲『'Cause We've Been Together』アン・サリー

・ポイントは2つ。

1)ジャズ・スタンダードの『Never Let Me Go』とは、どうも違う曲らしい。

2)「この小説」が出版される少し前のこと。村上春樹氏が東京でカズオ・イシグロ氏と会った際に、スタンダードの『Never Let Me Go』が収録された JAZZのCDをカズオ・イシグロ氏にプレゼントしたらしいのだが、「そのジャズCD」が何だったか不明であること。

ところが最近、思いも寄らぬところから事実が判明した。

なんと! 村上春樹氏ご本人が「その種明かし」を季刊誌『考える人』(2013年秋号)誌上においてしてくれたのだ。現在、その全文は『小澤征爾さんと、音楽について話をする』小澤征爾・村上春樹(新潮文庫)のラストに、文庫版ボーナス・トラックとして『厚木からの長い道のり』というタイトルで収録されている。

ネタバレになるので、「そのCD」が何だったか興味のある人は「この文庫」に直接当たって下さい。

もう一つ。『わたしを離さないで』は、2010年にイギリスで映画化されていて「予告編」は公開前に見た。原作を読んでイメージした寄宿学校「ヘールシャム」や、ノーフォーク海岸の映像が、ほぼイメージどおりだったので驚いた。で、逆にちょっと怖くなったのだ。

だから、この映画は見なかった。

でも、「この曲」のことを、映画ではどう処理したのか、ずっと疑問だったので、このあいだ TSUTAYA から借りてきて見たんだ。映画は原作に忠実に作られており、主人公たち3人の切ない思いが映像からストレートに伝わってきて、想像以上にとてもよかった。

ところで、このジュディ・ブリッジウォーターの「Never Let Me Go」は、実際には存在しない歌手の小説の中だけの架空の楽曲だが、映画では案外軽く扱われていて残念だったけれど、ちゃんと2度ほど流れた。いかにもそれらしいレコードジャケットも映画用に作られている。

これだ。

Judy Bridgewater - Never Let Me Go
YouTube: Judy Bridgewater - Never Let Me Go

小説では、以下のように書かれている。

 テープに戻りましょう。ジュディ・ブリッジウォーターの『夜に聞く歌』でした。レコーディングが1956年。もともとはLPレコードだったようですが、わたしが持っていたのはカセット版で、ジャケットの写真もLPジャケットのそれを縮小したものだと思います。

写真のジュディは、紫色のサテンのドレスを着ています。こういうふうに肩を剥き出しにするのが当時の流行だったのでしょうか。ジュディはバーのスツールにすわっていて、上半身だけが見えています。(中略)

このジャケットで気になるのは、ジュディの両肘がカウンターにあって、一方の手に、火のついたタバコがあることです。販売会でこのテープを見つけたときから、なんとなく人目にさらすのがはばかられたのは、このタバコのせいでした。(p106) -- 中略 --

スローで、ミッドナイトで、アメリカン。「ネバーレットミーゴー……オー、ベイビー、ベイビー……わたしを離さないで……」このリフレインが何度も繰り返されます。わたしは十一歳で、それまで音楽などあまり聞いたことありませんでしたが、この曲にはなぜか惹かれました。いつでもすぐ聞けるように、必ずこの曲の頭までテープを巻き戻しておきました。(『わたしを離さないで』p110)

確かに「スローで、ミッドナイトで、アメリカン」そのものなんだが、メロディはよくあるチープなR&Bって感じで、歌も妙にセクシーなだけでぜんぜん上手くないし、主人公が何度も何度も繰り返し聴いて心ときめかす楽曲とはとても思えないんだよなぁ。

ぼくが小説を読みながらイメージした「この曲」は、キース・ジャレットの「Standars, Vol.2」B面1曲目に収録された「Never Let Me Go」だった。これです。

Keith Jarrett Trio - Never Let Me Go
YouTube: Keith Jarrett Trio - Never Let Me Go

ちなみに、村上春樹氏はどうもキース・ジャレットが嫌いらしい。

ヴォーカル入りだと、やはりアイリーン・クラールかな。

Irene Kral - Never Let Me Go
YouTube: Irene Kral - Never Let Me Go



2014年11月29日 (土)

今月のこの1曲。アメリカ版:年末のデュエット曲 『 Baby, It's Cold Outside(外は寒いよ)』

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■先日購入した(コレは廉価盤ではない)ブロッサム・ディアリー 1979年のライヴ『 Needlepoint Magic 』がすごくいい。トリオではなく、彼女のピアノ弾き語りのみで、しんみりと聴かせる。

以前ご紹介した「 I Like You, You're Nice」や「 I'M HIP」「I'm Shadowing You」といった、彼女の代表的なオリジナル曲も入っているぞ。客席の笑い声が絶えない何ともくつろいだ雰囲気が実に楽しい。

■中でも、5曲目にゲストで登場したボブ・ドローとのデュエット「BABY IT'S COLD OUTSIDE」が最高だ。歌う前の二人の掛け合いが何とも洒落てる。大人の男女の小粋な感じ。

YouTube で探したら、あったあった。これです。

Blossom Dearie & Bob Dorough - Baby it's cold outside
YouTube: Blossom Dearie & Bob Dorough - Baby it's cold outside

■この曲は、クリスマス&ウインター・ソング・アルバムには欠かせない、アメリカでは大変有名な曲で、まぁ実にに多くの歌い手がデュエットしている。つい最近では、元祖『アナと雪の女王』の、イディナ・メンゼルが、マイケル・ブーブレと歌っているぞ。

■ぼくは、ジェイムス・テイラーのクリスマス・アルバムの5曲目に入っている、ナタリー・コールとのデュエットが好きで、毎年12月になるとさんざん聴いてきた。これだ。

Baby, It's Cold Outside - James Taylor (with Natalie Cole)
YouTube: Baby, It's Cold Outside - James Taylor (with Natalie Cole)

■それから、わが家にあるCDだと、ロッド・スチュワートの『THE Great American SongBook vol.3 』12曲目。

そして、オリジナルのMGMミュージカル映画『水着の女王』でのシーンがこちら。まぁ、他愛のないコミカル・ソングではあるなぁ。後半の男女逆ヴァージョンが面白い。

Baby it's cold outside
YouTube: Baby it's cold outside



2014年11月24日 (月)

このところの「1000円ジャズ廉価盤」発売ラッシュはどうにかならないものか。

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■楽曲は、ネットからのダウンロードでなくて、やっぱりCDで持っていたい。TSUTAYAからCDをレンタルしてきて、iTunes に取り込むのでもダメだ。ちゃんとCDジャケットがあって、中にライナーノーツが同封されていないと嫌なのだ。おじさんはね。

そのあたりの心情をよーく心得ている日本の音楽業界は、このところ「1000円廉価盤CD」再発ラッシュで、われわれ中高年を悩ませているのだった。それはジャズ関係にとどまらず、ロックやR&B分野にも及んでいる。毎月「かつて欲しかったけれど買えなかったCDたち」が続々と出るものだから、うれしい悲鳴というか、正直とても追いつかないのが現状。例えば……

1)SONY music ジャズ・コレクション 1000 シリーズ

2)ユニバーサル ジャズの100枚

3)Jazz The New Chapter「今ジャズ」¥1500シリーズ

4)コンコード・ジャズ・セレクション

5)フュージョン・ベストコレクション 1000

6)ユニバーサル ブラジル 1000

7)ボンバレコード ブラジル音楽名盤1000

 

2014年10月31日 (金)

今月のこの1曲。『 アフロ・ブルー』

Mongo Santamaria - Afro Blue
YouTube: Mongo Santamaria - Afro Blue

■本当は8月に取り上げる予定だったのだ。モンゴ・サンタマリアが作ったとされる『アフロ・ブルー』。彼が1959年に録音したオリジナルがこれだ。

■ヴォーカル盤で一番有名なのが、アビー・リンカーンのこれ。

Afro Blue - Abbey Lincoln
YouTube: Afro Blue - Abbey Lincoln


■この曲を一躍有名にした「本命」といえば、やっぱりコルトレーンだな。

John Coltrane Quartet - Part1 - Afro Blue
YouTube: John Coltrane Quartet - Part1 - Afro Blue

ぼくは「バードランド」のライヴ盤よりも、ハーフノートでのライヴをラジオ放送した『ONE DOUN, ONE UP / LIVE at the HALF NOTE』での演奏が気に入っている。

とにかく、マッコイ・タイナーの気迫が凄い!

ラジオ放送なので、演奏の途中でフェイドアウトしてしまうのが本当に残念だ。

 

■ただ、最近よく耳にするのがこのヴァージョンだ。ロバート・グラスパーのヤツね!

Robert Glasper Experiment - Afro Blue (Feat. Erykah Badu)
YouTube: Robert Glasper Experiment - Afro Blue (Feat. Erykah Badu)

■あと、ディー・ディー・ブリッジウォーターが、1974年に日本で録音したデビュー盤のA面1曲目。

これもいい。

Dee Dee Bridgewater - Afro Blue (1974)
YouTube: Dee Dee Bridgewater - Afro Blue (1974)

■意外なところでは、『矢野顕子×上原ひろみ Get Together - LIVE IN TOKYO』の、2曲目。

それから、ぼくが大好きなのは、向井滋春『フェイバリット・タイム』

板橋文夫、渡辺香津美が参加しているレコード。CDは持ってないんだ。

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2014年7月27日 (日)

アン・サリー「森の診療所コンサート 2014」@めぐろパーシモンホール

■1週間前の日曜日。じつは所用で東京にいた。

夕方からは一人でフリーだったので、当初の予定では上野鈴本演芸場へ行って7月中席夜の主任:入船亭扇辰師の落語をじっくり聴こうと思っていた。ところが、タイムラインで 7/20(日)の夜に

アン・サリー「森の診療所コンサート 2014」@めぐろパーシモンホール 

があることを知り、落語はやめにしてネットでこちらを予約した。アン・サリーは是非一度ナマで聴いてみたかった歌い手さん。この機会を逃すわけにはいかない。

■宿泊先のアパホテル新宿御苑前を出た時には小雨パラパラ程度だったのが、東京メトロ副都心線直通の東横線を「都立大前」で下車すると、外は土砂降りの雨。カミナリゴロゴロ。これが噂のゲリラ豪雨というやつか。傘は持ってたから頑張ってパーシモンホールまで歩く。でもズボンはびしょ濡れ。

ようやく辿り着いたホールは、なかなかシックで落ち着いた雰囲気。集まってきた人たちも「オトナな感じ」で年齢層もやや高めだ。場内には鳥のさえずる音が小さく流され、外の喧噪が嘘のような静けさ。

夜7時をまわって暫くした頃、そっと場内が暗転しステージ上に彼女が現れた。そしていきなり映画『おおかみこどもの雨と雪』の主題歌『かあさんの唄』をアカペラで歌い出した。いやぁ、たまげた。その澄み渡る透明な歌声に、1曲目にして早くも涙で目が霞んで、ほんと参ったぞ。

■伴奏は、ピアノ:小林創、ギター:小池龍平、フリューゲルホルン:飯田玄彦の3人というシンプルなステージ構成で、彼女の人柄そのものといった、アットホームでしっとりほんわかと心地よいサウンドを奏でる。曲目は、最新CD『森の診療所』に収録されていた曲がほとんどだったかな。

CM曲特集として、霧島酒造「芋焼酎・吉助」、マルコメ味噌「料亭の味」、小田急ロマンスカー「ロマンスをもう一度」、映画『かぞくのくに』イメージソング、ビリー・バンバンの『白いブランコ』。それから、CDで聴いた時もすごく印象的だった『たなばたさま』。この曲の時には、ステージに満天の星空が広がった(スクリーンに映すのでなくて、天井から星がひとつひとつ吊されていた!)あと、『懐かしのニューオリンズ』が沁みた。

意外とよかったのが「チャタヌガチューチュー」から汽車つながりで「銀河鉄道999」のテーマ。懐かしいゴダイゴの曲ではないか! 谷川俊太郎&武満徹『死んだ男の残したものは』に続いて、ソウル・フラワー・ユニオンの傑作『満月の夕』。そう、この曲をどうしてもナマで聴いてみたかったのだ。以前よりやや速めのテンポで力強い歌声が素晴らしかったよ。

アン・サリー 満月の夕(ゆうべ)
YouTube: アン・サリー 満月の夕(ゆうべ)

あとどんな曲やったっけな。そうそう、チャップリンの『スマイル』。それから『時間旅行』。スケールが大きいこの曲も大好きだ。

アンコールでは、ステージにブラスバンド(トランペット:女性、スーザフォン:女性、トロンボーン:小林創、太鼓:男性、小太鼓:男性、タンバリン:小池龍平。それから、飯田玄彦&アン・サリー)が登場して『 Do You Know My Jesus(違うかも?)』と『聖者が街にやってくる』をステージからフロアに降り、ぐるっと場内を2廻り行進しながら演奏した。これがまたよかったな。

鳴りやまない拍手に、再度ステージ登場したアン・サリーが最後に歌ってくれたのが『蘇州夜曲』。いやぁ、ほんと満足いたしました。

■コンサート終了後、あわよくば持って行ったCDにサインをしてもらおうと考えていたのだが、大きな会場だからサイン会はなしだよなと勝手に諦めて場外へ。雨はすでに上がっていた。

あとでツイッターを見たら、CD販売コーナーにふらりと彼女が現れてサインをしてくれたらしい。そう言えば、彼女の娘さんらしき元気のいい小学生たちが、CDの売り子さんをしていた。


2014年5月23日 (金)

『ハリエットの道』(日本キリスト教団出版局)を読む。

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『ハリエットの道』キャロル・ボストン・ウェザーフォード文、カディール・ネルソン絵(日本キリスト教団出版局)を読む。「女モーゼ」とも呼ばれたハリエット・タブマンの生涯を、力強い迫力のタッチで描いた傑作絵本。感動した!

「ハリエット・タブマン」は、南北戦争前後のアメリカに実在した黒人女性で、日本でいうと江戸時代末期、メリーランド州の黒人奴隷だった彼女は、理不尽な仕打ちに耐えきれなくなって、ある晩、保守的な夫を残し「ご主人様」の家を脱走する。彼女は、北斗七星が指し示す「自由な北」を目指して、たった一人 145km の道のりをひたすら歩いてペンシルヴェニア州フィラデルフィアにたどり着き、とうとう自由の身になることができたのだった。

ただ、もちろん彼女一人の力では、その逃亡劇は実現不可能だった。

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当時、先進的な奴隷制廃止論者の白人や自由黒人、宗教関係者を中心とした「秘密のネットワーク」が各地にあり、彼らの組織のことを、隠語で「UnderGround RailRoad」と言った。この「自由への地下鉄道」は、実際に「地下鉄」があった訳ではなくて、支援者・協力者がいる「点」を「線」で結んで、ちょうど「駅伝」のような仕組みで、北の自由の地、遠くは「カナダ」まで黒人奴隷を逃がしてやっていたのだった。

逃亡者たちは、昼は支持者の教会や農家の納屋に隠れて過ごし、夜になって北へと移動した。

John Coltrane - Song Of The Underground Railroad
YouTube: John Coltrane - Song Of The Underground Railroad

■ジョン・コルトレーンが、インパルス・レーベルで最初に出した『アフリカ/ブラス』に、当初収録されるはずだった「Song Of The Underground Railroad」は、その政治的意味合いからかレコード会社は「お蔵入り」にしてしまい、コルトレーンの死後になってようやく日の目を見た楽曲だ。力強く自信にあふれ、スピード感と勢いがある名曲だというのに。

CDのクレジットを見ると、Traditional をコルトレーンがアレンジしたとあるが、今回いろいろと YouTube で「自由への地下鉄道」関連の楽曲を調べてみたけれど「同じ曲」は見つからなかった。もしかすると、曲調からしてコルトレーンのオリジナルなのかもしれないな。

 インパルスのセッション記録を見ると、『アンダーグラウンド・レイルロード』は当初、『北斗七星をたどれ』というタイトルにする予定であった。逃亡する黒人たちは、夜陰にまぎれ、北斗七星の輝きを頼りに北へ向かった。”北斗七星をたどれ”という曲名は、そのことを暗示している。

 嗅覚に優れた犬を使う追ってを攪乱するため、逃亡奴隷は胡椒を撒き、小川やクリークの中をたどって匂いを分断した。捕らえられれば引き戻され、見せしめのリンチが待っている。運良く逃げおおせても、その首には懸賞金がかけられ、生かすも殺すも、これを捕らえた者の裁量に任された。

たどり着いたオハイオ川の北岸シンシナティ、リプリー、ポーツマスといった街には、逃れてきた黒人たちの受け入れ拠点があったが、1850年に強化された「逃亡奴隷法」以降は、さらに北のカナダへ逃れなくてはならなくなった。

南部に生まれ、北部フィラデルフィアを第二の故郷とするコルトレーンは、学校だけでなく、牧師であった祖父からも学んで、そうした奴隷の歴史、すなわち自分のルーツを熟知していた。

『コルトレーン/ジャズの殉教者』藤岡靖洋(岩波新書 1303)p116〜117

■ハリエット・タブマンの凄いところは、その後「自由への地下鉄道」の「車掌」となって、何度も南部へもどり、自分の命の危険を犯してまで、他の奴隷たちを北に逃がしたことだ。

「1860年までにハリエットは19回も南部へもどり、300人もの乗客の奴隷たちを自由の身にしました。ハリエットがかかわった奴隷は、ひとりの例外もなく全員が自由になったのです。」(『ハリエットの道』作者あとがきより)

2014年4月28日 (月)

『今月のこの一曲』。「I Like You,You're Nice」ブロッサム・ディアリー

I Like You, You're Nice - Irene Kral
YouTube: I Like You, You're Nice - Irene Kral

■「今月のこの一曲」は、ブロッサム・ディアリーが作曲した『I Like You,You're Nice』。大好きな曲で、アイリーン・クラールの歌でさんざん聴いた。小品ながらも小粋な佳曲。

とある女性が、イケメン男に一目惚れしてしまう歌。オリジナルは、『BLOSSOM DEARIE SINGS』5曲目に入っている。先日、名古屋市大須の中古CD店でようやく入手できた。コイツはよかった! ずっと探していたのだよ。うれしかったなぁ、見つけたとき。このところ毎日ずっと聴いている。じつに良い。

Blossom Dearie - I Like You, You're Nice / Saving My Feeling For You (Parkinson, 1972)
YouTube: Blossom Dearie - I Like You, You're Nice / Saving My Feeling For You (Parkinson, 1972)

■この曲を唄うアイリーン・クラールのCDは3枚持っていて『Irene Kral LIVE』では9曲目に入っている。ラストの「コーヒーを一杯」のくだりで客席に笑いが起こる。何故だ? その理由がよくわからない。歌詞カードがなかったから尚更だ。ところで、オリジナル盤にはちゃんと英語の歌詞カードが載っていた。

で、例の「コーヒー1杯」のくだり。 " I'll make you a marvelous, wondrous and quite notorious cup of Costa Rican coffee " と、ある。

よくわからないのは「quite notorious」。

直訳すれば、「極めて悪名高き」となる。コスタリカのコーヒー豆に、血に塗られた暗黒の歴史でもあったのか? 単に「有名」なら、famous とか、well known を使うはずなのに、何故「quite notorious」なのか? 未だに、わからないのだ。

でも、ここで笑いが起こるのはたぶん、すっごく期待させておいて、なんだコーヒー1杯だけかよ!

っていう落ちに対してなんだろうなぁ。

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■納戸を整理していたら、「I Like You,You're Nice」をA面5曲目で唄っている、アン・バートンのレコードが見つかった。ボサノバ・タッチで、アイリーン・クラールほど「しっとり」しすぎず、小粋に軽く唄っている。1983〜84年の録音だから、晩年のレコードか? ベースは、セシル・マクビー。渋いぞ!

2014年4月 6日 (日)

「おかあさんの唄」こどものせかい5月号付録(にじのひろば)至光社

■月刊カトリック保育絵本を出している「至光社」さんから原稿の依頼があった。

「よぶ」というテーマで書いて欲しいという。

案外むずかしいテーマだ。正直困った。

四苦八苦して書き上げたのが以下の文章です。

『こどものせかい5月号:こんにちは マリアさま』牧村慶子/絵、景山あきこ/文(至光社)の折り込み付録「にじのひろば」に載せていただきました。ありがとうございました。

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『おかあさんの唄』           北原文徳(小児科医)

 アン・サリーの歌声が好きだ。ジャズのフィーリングとリズム感が抜群で、英語やポルトガル語の歌詞の発音もネイティブ並にいい。でも、聴いていて一番沁み入るのは、『星影の小径』や『満月の夜』などの日本語で唄った楽曲だ。

 最新CD『森の診療所』は、うれしいことに日本語の歌が多い。中でも映画『おおかみこどもの雨と雪』の主題歌が素晴らしい。ぼくは映画館で聴いて、それまで我慢していた涙が突然止めどなく溢れ出し、照明が点くのが恥ずかしくて本当に困った。映画は、子供の自立と、親の子別れの話だった。

 昨年の夏、児童精神科医佐々木正美先生の講演を聴いた。先生は以前から同じことを繰り返し言っている。子育てで一番大切なことだからだ。

「子供が望んだことをどこまでも満たしてあげる。そうすると子供は安心して、しっかりと自立していきます。ところが、親の考えを押しつけたり、過剰干渉すると、子供はいつまでも自立できません。」

「生後9ヵ月になると、赤ちゃんは安全基地である親元を離れて探索行動の冒険に出ます。母親に見守られていることを確信しているから一人でも安心なんです。ふと振り返り、母親を呼べば、いつでも笑顔の母親と視線が合う。決して見捨てられない自信と安心を得た子供だから、ちゃんと自立できるのです。」  

 アン・サリーの歌にも「おおかみこども」が母親を呼ぶ印象的なパートが挿入されている。優しいアルトの落ち着いた歌声。彼女自身、二人の娘の母親だ。レコーディングやコンサートに、彼女は必ず娘たちを連れて行くそうだ。

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■ついでに、1年前、福音館書店のメルマガ「あのねメール通信:2013年6月19日 Vol.142」に載せていただいた、「ぐりとぐらと私」

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2014年3月30日 (日)

復活「今月のこの1曲」 『Ballad of the Sad Young Men』

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■しばらく忘れていた「今月のこの1曲」を、ふと復活させようと思ったのだ。

「この曲」を初めて聴いたのは、「こちらのブログ」の筆者と同じく、コンテンポラリー・レーベルから出た、アート・ペッパーの復帰後3枚目のLP『ノー・リミット』でだった。最もハードでフリーキーなアート・ペッパーの演奏を記録したこのレコードの、A面2曲目に収録されていたのが「 Ballad Of The Sad Young Men」だ。

さんざん聴いたなぁ。この曲。

1950年代の軽やかで艶のある演奏と違って、ちょっとブッキラボウに、とつとつと途切れ途切れにフレーズを奏でるペッパーのバラード演奏は、ほんとうに沁み入った。アルトの音色が切なかった。

なんなんだろうなぁ、若い頃はブイブイ言わせて大活躍していたのに、麻薬禍から1960年代後半には知らないうちにジャズ界から消え去っていた。そんな彼が50歳をとうに過ぎて奇跡的に復活し、アルト・サックスで吹く「 Ballad Of The Sad Young Men」のメロディには、その一音一音に彼の特別な想いが込められているような気がしてならない。もう若くはない「いま」だからこそ、ようやく吹けるようになったのだ。

ちょうど、ビリー・ホリデイ『レディ・イン・サテン』の「I'm a Fool to Want You」を聴いた時と同じ印象。彼の(彼女の)人生(生きざま)が、そのままダイレクトに演奏に反映されていた。


YouTube: Art Pepper Quartet - Ballad of the Sad Young Men



■先達て松本へ行った際、久しぶりに「アガタ書房」へ寄って中古盤の2枚組『オール・オブ・ユー』キース・ジャレット・トリオ(ECM / HMCD)を入手した。2枚目のほうに、僕の大好きな曲が2曲も収録されていたからだ。

その2曲とは、「All The Things You Are」と「Ballad Of The Sad Young Men」。

このCDの原題は『Tribute』で、リー・コニッツ、ジム・ホール、ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ロリンズ、マイルス、そしてコルトレーンにそれぞれ曲が捧げられている。

で、ジャズ・ヴォーカリストのアニタ・オデイに捧げられていたのが「この曲」だった。僕は彼女が歌った「この曲」を聴いたことがなかったので、早速検察してみると、彼女が1961年にゲイリー・マクファーランド・オーケストラと録音した『All The Sad Young Men』の5曲目に収録されていることが判った。

さらにググると、ボズ・スキャッグスやリッキー・リー・ジョーンズ、それに、ロバータ・フラックも「この曲」を歌っているらしい。

YouTube には、ロバータ・フラックのヴァージョンがあった。それがコレだ。

Roberta Flack - Ballad of the Sad Young Men
YouTube: Roberta Flack - Ballad of the Sad Young Men


ロバータ・フラックがピアノの弾き語りで歌っている。冒頭の印象的なベースの弓引きは、ロン・カーター。アート・ペッパーの演奏は、このロバータ・フラックのアレンジを「そのまま」いただいていたんだね。そっくり同じだ。

こうして、初期のロバータ・フラックを聴いてみて感じるのは、同じピアノの弾き語りをしている「ニーナ・シモン」のことを、すっごく意識していることだ。ソウルフルでありながら、シンガー・ソング・ライターの楽曲をいっぱい取り入れている点。ジャニス・イアンとか、レナード・コーエンとかの曲をね。彼女のこのデビュー盤、なかなかいいじゃないか。

■さらに先週、東京に行って、新宿のディスクユニオンで「アニタ・オデイ盤」を中古で入手した。でも、凝ったアレンジがかえって邪魔してしまい、この曲のシンプルな切ない味わいが損なわれてしまっていて残念だったな。

曲のタイトルと、CDのタイトルが微妙に異なっているのには訳がある。

『All The Sad Young Men』というのは、『華麗なるギャツビー』の作者フィッツジェラルドの小説のタイトルなんだそうだ。なるほどね。

Radka Toneff - Ballad of the Sad Young Men (live, 1977)
YouTube: Radka Toneff - Ballad of the Sad Young Men (live, 1977)


あと、さらに検索を続けたら、ノルウェーの歌姫ラドカ・トネフのヴァージョンが見つかった。これもいいな。今までぜんぜん知らなかった人だ。CDも持ってない。北欧系の女性ジャズ・ヴォーカルは、このところけっこうフォローしてきたのにね。

調べてみると、30歳で自ら命を絶って、いまはもういない人だった。

2014年3月18日 (火)

『昭和・東京・ジャズ喫茶』シュート・アロー著(DU BOOKS)

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■『昭和・東京・ジャズ喫茶』シュート・アロー読了。なんか、おいらのために書かれたんじゃないかと錯覚してしまうくらい、ピンポイントでツボにはまったストライク本。面白かった。今度の日曜日、宮沢章夫氏の芝居『ヒネミの商人』を観に久々に上京するので、歌舞伎町の『ナルシス』には行ってみたい。

確か、以前に一度行ったことがあるような気がした店『ナルシス』だが、僕の記憶では1階にあった。じゃあ違う店だったのか? でも、行って『モノケロス』エヴァン・パーカーA面をリクエストしてみたいぞ!

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■それにしても、なんなんだろうなあ、著者の尋常でない「場末感」へのこだわり。『東京ジャズメモリー』でも最初に紹介されていたのは、渋谷道玄坂百軒店の奥の小路にあったジャズ喫茶「ブレイキー」だったしね。

ただし、前著と一番異なる点は、今回紹介されている「ジャズ喫茶」がすべて、今現在も現役で営業中であるということだ。ここ重要!

この本の巻頭に載ってる店は、神楽坂「コーナーポケット」(僕は行ったことがない)で、2軒目に登場するのが、たぶん誰も知らない、大井町の「超場末」飲み屋街の端っこにひっそりと営業している「Impro.」という名のジャズバー。ここは凄いな! 載ってる写真からして凄すぎる。めちゃくちゃディープだ。よくこんな店見つけてきたよなあ。ぜひ行ってみたいぞ!。

映画『時代屋の女房』で、夏目雅子が降りてきた「歩道橋」も見てみたいし。

それから、シュート・アロー氏にはぜひ、次回作で「日本全国各地でいまも営業を続けている、地方の場末のジャズ喫茶」を行脚した本を出して欲しいぞ。古本屋に関しては『古本屋ツアー・イン・ジャパン』という本が最近出版されている。

当地「伊那市」にも、宇佐見マスターが経営する『Kanoya』があるし、箕輪町には『JAZZ&ART CAFE  PLAT』があるよ。

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でも、ほんと面白かった。
この本に紹介されている「ジャズ喫茶」。ぼくが行ったことがあったのは、渋谷「デュエット」と新宿「DUG」、そして、陸前高田「ジョニー」の旧店舗だけです。歌舞伎町「ナルシス」は一度行った記憶があったのだが、どうも自信ない。
そして、今回も感心したのは、ネット上によくある「単なる店紹介」で終わるのではなく、著者は各章で「その街・その店」に関わる、極めてパーソナルなオリジナリティにこだわった「物語」を紡ぐことに尽力していることだ。村上春樹の『ノルウェーの森』は、確かぼくも出てすぐ読んだはずんなんだけど、ストーリーをぜんぜん憶えていないことに、新宿「DUG」の章を読んでいてショックを受けてしまった。
とにかく「その街」の雰囲気がリアルに味わえる文章が、ほんと、いいと思った。大井町、蒲田、新宿歌舞伎町、そして渋谷。ぜったい行ってみたくなるもの。

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   【以下、3月2日のツイートから】

■昭和・東京・ジャズ喫茶』シュート・アロー(DU BOOKS)を読んでいる。面白い!『東京ジャズメモリー』に続いて、今度はこう来たか。この本では、エリック・ドルフィーがフィーチャーされていて嬉しいぞ。1960年前後、ニューヨークに存在した伝説のライヴハウス「ファイブ・スポット」と、新宿歌舞伎町にある不思議なジャズ喫茶「ナルシス」のこと(p213)

続き)『昭和・東京・ジャズ喫茶』シュート・アロー(DU BOOKS)の表紙の絵は、なんと和田誠なんだけれど、手に取って『週刊文春』の表紙みたいだなあって、思った。既視感があったのだ。そしたら、「みたい」じゃなくて「まさにそれ」だったんだね。原宿にあったジャズ喫茶「ボロンテール」。

と言うのも、以前、週刊文春の表紙に和田誠氏が描いた『ボロンテール』が、そのまま「この本の表紙」になっているのだな。それを見たんだ。

続き)それから、懐かしい渋谷道玄坂から東急本店通りへ抜ける小径(確か、恋文横町)の右側の地下にあった、ジャズ喫茶「ジニアス」のこと。ジャズ批評の広告に載った「ジニアスおじさん」の由来。知らなかったよ。おじさんに奥さんと息子までいたとは!

■『昭和・東京・ジャズ喫茶』というタイトルでありながら、何故か最終章で取り上げられているのは岩手県陸前高田市にある「ジャズ喫茶ジョニー」のこと。3年前のあの日。店のレコードもオーディオも椅子も机もお皿もコーヒー茶碗も建物すべて、なにもかも津波に流された。でも、どっこい生きてる

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