復活「今月のこの1曲」 『Ballad of the Sad Young Men』
■しばらく忘れていた「今月のこの1曲」を、ふと復活させようと思ったのだ。
「この曲」を初めて聴いたのは、「こちらのブログ」の筆者と同じく、コンテンポラリー・レーベルから出た、アート・ペッパーの復帰後3枚目のLP『ノー・リミット』でだった。最もハードでフリーキーなアート・ペッパーの演奏を記録したこのレコードの、A面2曲目に収録されていたのが「 Ballad Of The Sad Young Men」だ。
さんざん聴いたなぁ。この曲。
1950年代の軽やかで艶のある演奏と違って、ちょっとブッキラボウに、とつとつと途切れ途切れにフレーズを奏でるペッパーのバラード演奏は、ほんとうに沁み入った。アルトの音色が切なかった。
なんなんだろうなぁ、若い頃はブイブイ言わせて大活躍していたのに、麻薬禍から1960年代後半には知らないうちにジャズ界から消え去っていた。そんな彼が50歳をとうに過ぎて奇跡的に復活し、アルト・サックスで吹く「 Ballad Of The Sad Young Men」のメロディには、その一音一音に彼の特別な想いが込められているような気がしてならない。もう若くはない「いま」だからこそ、ようやく吹けるようになったのだ。
ちょうど、ビリー・ホリデイ『レディ・イン・サテン』の「I'm a Fool to Want You」を聴いた時と同じ印象。彼の(彼女の)人生(生きざま)が、そのままダイレクトに演奏に反映されていた。
YouTube: Art Pepper Quartet - Ballad of the Sad Young Men
■先達て松本へ行った際、久しぶりに「アガタ書房」へ寄って中古盤の2枚組『オール・オブ・ユー』キース・ジャレット・トリオ(ECM / HMCD)を入手した。2枚目のほうに、僕の大好きな曲が2曲も収録されていたからだ。
その2曲とは、「All The Things You Are」と「Ballad Of The Sad Young Men」。
このCDの原題は『Tribute』で、リー・コニッツ、ジム・ホール、ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ロリンズ、マイルス、そしてコルトレーンにそれぞれ曲が捧げられている。
で、ジャズ・ヴォーカリストのアニタ・オデイに捧げられていたのが「この曲」だった。僕は彼女が歌った「この曲」を聴いたことがなかったので、早速検察してみると、彼女が1961年にゲイリー・マクファーランド・オーケストラと録音した『All The Sad Young Men』の5曲目に収録されていることが判った。
さらにググると、ボズ・スキャッグスやリッキー・リー・ジョーンズ、それに、ロバータ・フラックも「この曲」を歌っているらしい。
YouTube には、ロバータ・フラックのヴァージョンがあった。それがコレだ。
YouTube: Roberta Flack - Ballad of the Sad Young Men
ロバータ・フラックがピアノの弾き語りで歌っている。冒頭の印象的なベースの弓引きは、ロン・カーター。アート・ペッパーの演奏は、このロバータ・フラックのアレンジを「そのまま」いただいていたんだね。そっくり同じだ。
こうして、初期のロバータ・フラックを聴いてみて感じるのは、同じピアノの弾き語りをしている「ニーナ・シモン」のことを、すっごく意識していることだ。ソウルフルでありながら、シンガー・ソング・ライターの楽曲をいっぱい取り入れている点。ジャニス・イアンとか、レナード・コーエンとかの曲をね。彼女のこのデビュー盤、なかなかいいじゃないか。
■さらに先週、東京に行って、新宿のディスクユニオンで「アニタ・オデイ盤」を中古で入手した。でも、凝ったアレンジがかえって邪魔してしまい、この曲のシンプルな切ない味わいが損なわれてしまっていて残念だったな。
曲のタイトルと、CDのタイトルが微妙に異なっているのには訳がある。
『All The Sad Young Men』というのは、『華麗なるギャツビー』の作者フィッツジェラルドの小説のタイトルなんだそうだ。なるほどね。
YouTube: Radka Toneff - Ballad of the Sad Young Men (live, 1977)
あと、さらに検索を続けたら、ノルウェーの歌姫ラドカ・トネフのヴァージョンが見つかった。これもいいな。今までぜんぜん知らなかった人だ。CDも持ってない。北欧系の女性ジャズ・ヴォーカルは、このところけっこうフォローしてきたのにね。
調べてみると、30歳で自ら命を絶って、いまはもういない人だった。
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