『白鍵と黒鍵の間に ジャズピアニスト・エレジー銀座編』南博(小学館文庫)
■ちょうど、外来小児科学会で福岡に行った直後に読み終わったから、かれこれ1ヵ月近く経ってしまって詳細を忘れかけているのだが、すっごく面白かった本なので何とか乏しい記憶を書き留めておこう。
■ Twitter に書いたこと。
8月末までに仕上げなければならない仕事が手つかずだ。それなのに『白鍵と黒鍵の間に ジャズピアニスト・エレジー銀座編』南博(小学館文庫)を読み始める。プロローグの「巨大な寿司桶」がいきなり面白い。困った。止められないぞ。(2010/08/24)
『白鍵と黒鍵の間に・ジャズピアニスト・エレジー銀座編』南博(小学館文庫)読了。これは久々のヒット本だ。面白くてやがて哀しきしみじみ感が、そこここのページにあふれている。この人は文章が上手いな。続編の「アメリカ編」はやく文庫化してくれないものか。(2010/08/31)
■印象に残っているのは、脇役でそっと登場する人たちだ。まずは「小岩のチャーリー・パーカー」(p41)。
著者は小岩の場末のキャバレーHでピアノを弾いていた。バンドの楽屋は、何かが饐えた匂いと、ネズミの匂いがした。その横には廃墟のような空間があり、そこにはフィリピン人のホステスがウレタンが爆裂しているようなマットレスの上に寝起きしていた。
その頃アルトサックス・セクションにK君という人物がいた。彼は一見朴念仁風で、あまり人としゃべらなかったが、セットの間の休み時間も明日地球がなくなってしまうといった勢いで、チャーリー・パーカーをコピーしたり研究したりしていた。(中略)ある日、早めに楽屋に行ってみると、相変わらず一番乗りのK君が、パーカーのフレーズを練習していた。(中略)そして次にK君が言った言葉を僕は忘れない。
「ほら、パーカーってさ、宇宙の音楽じゃん、吹いてるときにオレ、目の前に星が見えるもん、パーカーは宇宙につながっていたんだと思う。色々ほかのアルトサックスプレイヤーも聴いたけどさあ、宇宙が見えん。僕は、演歌だろうが何だろうが、演奏中には星が出ないと我慢できない。」(p43〜45)
このK君、いまどうしてるのかなぁ。すごく気になる。
■次は、「ツアー」(p74)。広島県福山市のクラブへ向かう途中で台風に遭遇した一行は、ライブがキャンセルになってしまい、仕方なく前に新宿ピット・インで従業員やってたベーシスト志望のヤマさんが住む、瀬戸内海の島に行って一晩泊めてもらうことになる。暴風の中、深夜に到着したにもかかわらず焼酎で歓待してくれた「ヤマさん」がしみじみいいんだ。(詳細は、94ページを読んでみて)
■その次は「支配人のアベちゃん」(p115)。変な名古屋弁を操るアベちゃん。転勤が決まって、ホテルのフロントに寂しそうに立つアベちゃんは、哀愁そのものだ。
「まぁ、また東京にもどることもあるがね。そんなときはまた、南君に連絡するかもしれんがや。」 アベちゃんのその言葉を聞いて、なぜだか分からないが、多分永遠にアベちゃんから電話がかかってくることはないだろうと直感した。(p124)
■そうして、「ジョージさん 」(p198)。銀座のクラブSで、幇間か男芸者のような役割を演じていたジョージさん。でも本当は歌手なのだ。このジョージさんのエピソードもいいなぁ。あとは、著者が掛け持ちした、銀座の2つのクラブの、それぞれのバンマスたち。(もう少し続く)
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