今月のこの1曲 Feed

2012年4月11日 (水)

『土岐麻子 BEST!』(つづき)

■土岐麻子は、FM長野で日曜日の朝9時半から「トキシック・ラジオ」という番組を持っている。ただこの番組は JFN系列全国20局でオンエアされているのだが、何故か放送元の「東京FM」では放送されていない。不思議だ。面白いのに。 同じく、日曜日の早朝FM長野で放送されている「SUNDAY FLICKERS」も、何故か「東京FM」ではオンエアされていない。今をときめく「春風亭一之輔」さんがDJなのにね。どうもこの、JFN系列(ジャパン・FM・ネットワーク)と「東京FM」の関係が理解できないのだった。 ■お互いにリスペクトしている、EPOと土岐麻子だが、確かに今流れている「資生堂のCM」はよい。コラボがはまって、これはヒットするんじゃないか?(あ、もうすでにヒットしたのか) でも、ぼくが思うに土岐麻子の今後は「この曲」ではないと思うのだ。これ、もろ「EPO」そのまんまじゃん。いまの時代に、この楽曲は合わないとぼくは思うのだよ。どうしても、あの80年代のバブリーな時代を思い出してしまうから。 それよりも、断然こっちだな。この曲はほんとイイ! 心に沁みるぜ!!


YouTube: 土岐麻子 & 秦 基博 / やわらかい気配


YouTube: 土岐麻子 & 秦 基博 / やわらかい気配[後半]

曲もいいが、詩がすっごくいいじゃないか! ね。 ■あと、カヴァー集がいいんじゃないか? この BEST! でも「セプテンバー」とか「私を野球に連れてって」がいい。JuJu みたいな「ジャズ」のカヴァーじゃなくって、「羊毛とおはな」みたいな感じで 70〜80年代のポップスあたりの渋い曲をいろいろと聴いてみたいな。

2012年3月19日 (月)

伊那東部中学校卒業式での、3年生「フィンランディア」

■先週の金曜日、3月16日は、伊那東部中の卒業式だった。 わが家の長男も、無事卒業することができた。ほんとよかった。 以前にも書いたが、ぼく自身のダメダメな中学校時代と違って、わが長男の中学校生活は、陸上部の部活動に完全燃焼したまさに由緒正しき「古典的正統派中学生」だったと思うのだが、彼に訊いてみると必ずしも順風満帆ではなかったようだ。彼なりに小さな挫折と失敗、苦難と反抗を繰り返してきたのだという。そうかそうか、ほんとよくがんばったな。 卒業おめでとう!  


YouTube: 2012年3月16日 伊那市立東部中学校卒業歌 フィンランディア

■卒業式当日は、診療があったので参加できなかったし、中継録画した伊那ケーブルTVの番組を契約切れで見れなかったので、妻の話だけから想像するしかなかった、伊那東部中の卒業式だったが、ラッキーなことに、当日3年生294人が歌った卒業歌「フィンランディア」が YouTube にアップされていた。これが、圧倒的迫力の混声合唱でほんと素晴らしい!! 指揮をした唐沢流美子先生は、伊那東部中「合唱部」顧問として長年指導し、伊那東部中を全国大会でも常勝の合唱部に育て上げた凄い先生。でも、今年度を限りに引退することが決まったのだった。

2011年11月 8日 (火)

今月のこの一曲 「Estate」安次嶺悟トリオ

■なにもこの時期に「夏のうた」を取りあげなくてもいいだろう、そう思うでしょ。 でも、「いま、ここ」で僕の中では「夏のうた = Estate(エスターテ)」なのだった。 111108 僕が初めて「この曲」を耳にしたのは、確か倉敷でだった。なんとかスクエアーから少し行った所にあったブティック2階のジャズ喫茶。記憶では倉敷で泊まった憶えはないから、たぶんあの日は土曜日で、ぼくは映画館のオールナイト営業で翌朝を迎えたのだろう。大学生の頃は、金はなかったけれど、体力と時間だけはあったからね。 1970年代中半の「硬派ジャズ喫茶」はどこも斜陽だった。だから、夜はお酒を提供し、スピーカーのボリュームも落として、客の会話のじゃまはしない「カフェ・バー」の走りが各地に生まれた。あの倉敷の店も、まさにそんな感じだった。ちょっと軽い雰囲気のマスターが、カウンター席に陣取る常連客にこう言ったのだ。 「もうジャズはダメだね。これからは、アダルト・コンテンポラリー・ミュージックの時代さ!」 そうして彼がターンテーブルに載せたレコードが、ジョアン・ジルベルトの『イマージュの部屋』A面だった。1曲目は「ス・ワンダフル」。ヘレン・メリル with クリフォード・ブラウンでの名唱で有名なジャズのスタンダードを、ジョアンは英語で気怠くやる気なさそうに歌う。で、2曲目が「エスターテ」。イタリア語で「夏」という意味の哀愁に満ちたバラードを、ジョアンは今度はイタリア語でとつとつと、切なくやるせなく歌っている。しびれた。


YouTube: JOAO GILBERTO - ESTATE (BRUNO MARTINO)

3曲目に「チンチン・ポル・チンチン」をポルトガル語で軽快に聴かせ、4曲目が「ベサメ・ムーチョ」。これはスペイン語で歌っている。これまた哀切感に溢れた歌声。旅から帰ったぼくは直ちにレコード屋さんに走り、このレコードを購入したのだった。1980年のことだ。


YouTube: Michel Petrucciani Trio - Estate

■1981年にフランスのマイナーレーベルから初リーダーアルバム(赤いジャケットに大きすぎる帽子をかぶった子供?いや実は本人のモノクロ写真が印象的だ)を出し、世界中のジャズファンの度肝を抜いた、天才ジャズ・ピアニストのミシェル・ペトルチアーニが、1982年に発表したセカンド・アルバムが、この『ESTATE』。名演である。


YouTube: Estate - Satoru Ajimine Trio

■そして最後の「ESTATE」は、大阪を中心に活動するジャズピアニスト、安次嶺悟(あじみね・さとる)の遅すぎたデビューCD『FOR LOVERS』からの7曲目。これがまた実にいい。 2009年末、限定1000枚で発売されたこのCDは、彼の地元大阪を中心に口コミで評判を呼び、瞬く間にソールドアウトしたという。噂を聞きつけた全国のジャズファンからの再発を求める熱い要望に答えて、今年の9月に再プレスされ再び市場に出た。ぼくはこのCDのことを、今はなき「ジャズ専門店ミムラ」のブログで知ってからずっと探していて、ようやく入手できたのだった。 地味ではあるが、上品で端正で、確かなテクニックと歌心にあふれた繊細なタッチ。実にすばらしい。 アップテンポの曲では、終板のブロック・コードを多用したドライブ感、浮遊感が何とも気持ちいいのだが、それ以上にバーラード系の曲をじっくり弾かせたら絶品で、深夜一人でしみじみ聴くにはマストアイテムだ。例えば3曲目の「And I Love Her」。ビートルズの有名曲を思い切りスローに情感を込めて弾いている。あれ? こんな感じの曲だったっけ、と思ってしまう。そして「ESTATE」。これ、もしかしてペトルチアーニ盤よりもいいんじゃないか?

2011年9月15日 (木)

今月の「もう一曲」。『満月の夕』

■中秋の名月はもう終わってしまったけれど、満月の夜には「この歌」を聴きたい。


YouTube: ソウル・フラワー・ユニオン 満月の夕

「この歌」は、1995年1月17日に起きた「阪神淡路大震災」当日の夜、神戸の海に上った満月を見て作られた、ソウル・フラワー・ユニオンのオリジナル曲なのだそうだ。ちょっと沖縄民謡のテイストがある名曲だ。ぼくは、アン・サリーのカヴァーで初めて聴いた。悲しいけれど、ホントいい曲だなぁ。しみじみ思ったよ。


YouTube: アン・サリー 満月の夕(ゆうべ)

あれから16年が経った今年の夏の終わりに、日本外来小児科学会が神戸であって行ってきたのだが、その爪痕の痕跡はまったく残ってはいなかった。ほんとビックリするほどに。 あの震災は無かったのか? 僕は、ふとそう思ってしまった。でも絶対に違うのだよ。通りすがりの旅人には分からないけれど、地元神戸に住んで生活している人たちは決して忘れはしまい。ことあるごとに「あの日」を思い出しているに違いないのだ。この曲にあるようにね。 さて、最近になって新たな「この曲」のカヴァーが YouTube に投稿された。これだ。


YouTube: 満月の夕 Noche de Luna Llena ラテンアメリカ連帯バージョン

歌っているのは、知る人ぞ知る「闘う、ラテン歌手」八木啓代さんだ。 キューバ、メキシコ、アルゼンチン、チリ。八木さんは中南米音楽・情勢の専門家であり、自らも歌う歌手。まだ、インターネットが始まる前から、ニフティのフォーラムでは「パンドラ」のハンドル名で一世を風靡していたし、当時から絶大な人気を誇っていた人だ。かく言う僕も、彼女の大ファンで、「ハバタンパ」のCDも購入したし、『パンドラ・レポート 喝采がお待ちかね』ほか彼女の著書を何冊も買って持っている。 最近は、例の前田特捜部検事の不祥事事件を追っている。頑張って欲しいと思うぞ。 ■あと、もう一人。忘れられたジャズ・シンガー「酒井俊」が「この曲」を「現地」で唱ったヴァージョンが素晴らしい! これだ。


YouTube: 酒井俊『満月の夕』東北関東大震災 チャリティーJAZZライブ

2011年9月10日 (土)

今月のこの1曲。 サケロック「やおや」

■作曲家としての星野源はスゴイ。 ぼくは個人的に、日本のセロニアス・モンクだと思っている。 あの独特のタイム感覚。絶対に誰にも真似できない音楽だ。 演奏家としての星野源は、マリンバ奏法がとにかく異常に上手い。 まるで谷啓みたいなトロンボーンを吹く浜野謙太(ハマケン)とのデュオ演奏には、なんとも言えない人生の情けなさと、どうしようもなさを。そうして、どうでもいいような日々のくだらなさと適当さの匂いがある。そうさ、人間そう毎日「有意義」には生きていないのだよ。だから、そんなに力まずに肩肘張らずに、何となくのほほ〜んて生きていければいいじゃん、ってことを、宣言してくれているような音楽なのだな。 そういう音楽って、いままでありそうでなかった。と思う。だから、サケロックは貴重だ。


YouTube: インストバンド / SAKEROCK(PV)


YouTube: SAKEROCK / 会社員と今の私 PV

■このところ毎日聴いているCDが、サケロックの『ホニャララ』。 中でも好きなのが、「老夫婦」と「やおや」だ。 でも、ネットで探しても画像も音源も無料ではないみたい。試聴はできます。 「こちら」で。 このCDの中では、ラストに収録された「エブリデー・モーニン」も実に味わい深い、なかなかの名曲であるぞ!

2011年7月13日 (水)

今月のこの1曲。キャスリン・ウィリアムス「ハレルヤ」と「These days」と「Birds」

110713テルメの帰りによく寄る、伊那のブックオフで見つけて 400円(サービス券100円分あったのだ)で購入した、洋楽のコンピレーションCD『Beautiful Songs 〜ココロデ キク ウタ〜』が、なかなかによかったのだ。 1曲目2曲目はFMで何度も聴いたことあったし、ラストに収録された、おおはた雄一のこのCDは持っている。でも、その他の曲は初めて聴く曲ばかりだった。いや、正確には 17曲目の「ハレルヤ」は、オリジナルのレナード・コーエンで知っている。しかし、このイギリスの新人女性シンガー・ソングライター「キャスリン・ウィリアムス」がとつとつと静かに歌う「ハレルヤ」が、本家よりも数十倍よくって驚いた。


YouTube: Hallelujah - Kathryn Williams

■で、この曲が収録された彼女カヴァー曲集『relations / kathryn williams』をイギリスの業者から購入し、はるばる海を越えて届いたのだ。いい時代になったものだ。 ちょうど、スザンヌ・ヴェガみたいと言えばよいか。ちょっと根暗で内気な女の子が、自信なさげにぼそぼそって録音スタジオで歌ってる。「Hallelujah」は、ライヴ音源だが、もう1曲同じステージから収録された曲があって、それはCDラストの14曲目に入った「These days」だ。この曲もすっごくいい。オリジナルは、ジャクソン・ブラウンが16歳の時に作ったという名曲。彼女のヴァージョン(歌詞がちょっと違う)はなかったが、ジャクソン・ブラウンの弾き語り映像があった。ホントしみじみいい曲だな。 たかが女に振られたくらいで、16歳にしてこんなにもシブい大人の歌作ったのか!? 老成しすぎてるぜ。


YouTube: Jackson Browne - These Days

このカヴァー曲集は、ぼくの知らない人の知らない曲のカヴァーがほとんどなのだが、2曲目はニール・ヤングの「Birds」だった。こちらも、本家がピアノで弾き語りしている映像があった。


YouTube: NEIL YOUNG / BIRDS (Live)

2011年6月21日 (火)

「今月のこの1曲」Bill Evans "The Dolphin ---- After" 『From Left to Right』より

■ビル・エバンスの『フロム・レフト・トゥ・ライト』は、じつに思い出深いレコードだ。 ずっと欲しくて、30年以上東京都内の中古ジャズ・レコード屋さんを探し廻ったけれど、とうとう手に入らなかった。悔しかった。輸入盤CDでようやく入手したのは、つい5〜6年前のことだ。


YouTube: Bill Evans - The Dolphin (After)

このレコードを初めて聴いたのは、確か 1977年頃の茨城県新治郡桜村、追越学生宿舎(何号棟かは忘れたが、たぶん12号棟だな)3階の有賀淳くん(いま彼は東京女子医大の教授じゃないか。おいらと違って優秀だったんだね。)の部屋だったと思う。飯田高校出身で同じ長野県だったし、バスケット同好会に入った仲間だったので、仲良くしてもらっていたのかな。 あの頃、追越学生宿舎12号棟には、相田、大野、大滝、奥村、柏木、金子、河合、狩野、菅間とかが住んでいて、僕は少し離れた14号棟の1階に居たんだけれど、12号棟にしょっちゅう出入りしてしたんだ。 で、ある夜「おい、きたはらぁ〜。これ、中古盤で見つけてきたんだけど、いいだろう?」って、有賀くんが彼の部屋で聴かせてくれたのが『From Left to Right』 Bill Evans なのだった。 当時、すでに結構ジャズにのめり込んで参考書とか買い込んで、都内のジャズ喫茶も足繁く通って勉強していた僕は、半可通のジャズ・ファン気取りだったのだが、ビル・エバンズの「このレコード」は、何故かどの本にも載っていなかったから全く知らなかった。でも、聴いてみてすっごく良かったのだ。正直ショックだった。すごく。 あの口惜しさは、今でも忘れられない。 オイラの方が絶対的にジャズに詳しいはずなのに、有賀君のほうが、なんで俺よりビル・エバンズのことを判っているのかってね。それくらい、このレコードは良かったんだ。特に「ザ・ドルフィン」って曲が絶品だった。ビフォーよりもアフター(ストリングスやリズム・セクションが多重録音されたもの)のほう。 ■この曲は、タンバ・トリオでピアノを弾いていたルイス・エサが作った曲で、オリジナルは CTI から出た『二人と海』に収録されている(残念ながら、Youtube には音源なし) ■このレコードのポイントは、あのビル・エバンズが「フェンダーローズ」のエレピを弾きまくっているってことだ。そういう時代だったのだね、当時の。あの頃って(リアルタイムでは知らないけど)エレピが大活躍する、チック・コリアの『リターン・トゥ・フォー・エバー』が出たのが 1972年のことだから、その2年前に「このLP」を出したビル・エヴァンズの選択は、決して間違ってはいなかったんじゃないかと思う。時代を先取りしていたのだ。 だって、猫も杓子も「エレピ」の時代だったからね。あの、オスカー・ピーターソンですら「フェンダーローズ」のエレピに夢中だった(ホントかどうかは自信ないが)のだから。 ただ、ぼくは正直「エレピ」は好きではなかったな。 あの頃、唯一納得して好きになった「エレピ」は、 映画『まる秘色情めす市場』田中登監督作品の中で、主人公の伊佐山ひろ子が行きずりの男と出会った後に、商店街のアーケードで彼女の最愛の弟が首を吊ってぶら下がっている場面のバックで流れる「エレピ」なのだな。 そんなこと言っても、誰もわかってはくれないだろうが。


YouTube: Stan Getz "The Dolphin"

■ところで、エレピに血迷った軟弱イージー・リスニング盤として当時の日本ジャズ界ではまったく評価されなかったこの「ビル・エバンスのドルフィン」を、いち早く日本で最初に認めた人がいる。 その人とは、松任谷由実だ。 (つづく)


YouTube: North Sea Jazz 2009 Live - Toots Thielemans - The Dolphin (HD)

2011年5月 1日 (日)

ビリー・ホリデイ「言い出しかねて」 村上春樹『雑文集』より

ようやっと『雑文集』村上春樹(新潮社)を読み終わった。面白くて、しかも濃い内容で「村上春樹のエッセンス」が見事に凝縮されていたな。 読みどころはいっぱいある。 前回取り上げたほかには、 「東京の地下のブラック・マジック」 「スティーヴン・キングの絶望と愛」 「スコット・フィッツジェラルド ---- ジャズ・エイジの旗手」 「カズオ・イシグロのような同時代作家を持つこと」 「安西水丸は褒めるしかない」 「デイヴ・ヒルトンのシーズン」 「正しいアイロンのかけ方」 「違う響きを求めて」 「遠くまで旅する部屋」 「物語の善きサイクル」 「解説対談」安西水丸 x 和田誠  などなど。 ■ただ、読みながらすっごく悔しい思いをした文章がある。 「言い出しかねて」( p171 〜 p180 ) だ。 なぜなら僕は、ビリー・ホリデイが唄う「言い出しかねて」を今まで一度も聴いたことがなかったのだ。もちろん、彼女のLPは6〜7枚、CDも4枚持っていて、1930年代の絶頂期の録音から最晩年の傑作『レディ・イン・サテン』まで、繰り返し愛聴してきた。でも、それらの中には「言い出しかねて」は収録されていなかったのだ。 あわてて YouTube で検索したら、米コロムビアで、1938年6月にスタジオ収録された演奏が見つかった。レスター・ヤングのテナー・ソロが素晴らしい。これだ。


YouTube: Billie Holiday & Her Orchestra - I Can't Get Started - Vocalion 4457

でもこのピアノは、カウント・ベイシーではない。 村上氏は言う

「言い出しかねて」ならこれしかない、という極めつけの演奏がある。ビリー・ホリデイがカウント・ベイシー楽団とともに吹き込んだ1937年11月3日の演奏だ。ただこれは正規の録音ではない。(中略) 音は今ひとつなのだけれど、演奏の方はまさに見事というしかない。ベイシー楽団のパワーは実に若々しく圧倒的だし、アレンジも楽しい。とくに楽団のアンサンブル間奏のあとに出てくるレスター・ヤングの情緒連綿たるテナー・ソロは、まさに絶品である。レスターの吹く吐息のようなフレーズが、本当に「言い出しかねる」みたいに、ビリーの歌唱にしっとりと寄り添い、からみついていくのだ。(中略)  この1937年のビリー・ホリデイの歌唱と、バックのベイシー楽団の演奏がどれくらい素晴らしいか、どれくらい見事にひとつの世界のあり方を示しているか、実際あなたに「ほら」とお聴かせできればいいのだけれど、残念ながらとりあえずは文章でしか書けない。

読者の目の前にニンジンをぶら下げながら、絶対に食べさせない「いじわる」を、村上氏はよくやるが、これなんかはその最たるものだな。だって、聴きたいじゃないか。ラジオ放送を私家録音した、ベイシー楽団とビリー・ホリデイの「言い出しかねて」。でも聴けない。こういうスノッブ的嫌らしさが、一部で村上春樹が嫌われる原因ではないかな。 ■しかし、村上氏は甘かった! インターネットを駆使すれば、たちどころに判明するのだ。あはは! ビリー・ホリデイの百科事典みたいなサイトがあるのだよ。 そこに載ってました。「1937年11月3日の演奏」。村上春樹氏が書いているのは、まさにこの時の演奏に違いない。この演奏が収録されたCD一覧もあるぞ。 でも、ふと思いついたのだが、iTunes Store へ行けば、曲単位で安く購入できるじゃないか。で、iTunes Store で「Billie Holiday I can't get started」を検索したら、50曲も見つかった。おおっ! この中のどの演奏が「それ」なんだ? 困ったぞ。 仕方なく、1番からかたっぱしに試聴していった。しかし、そのほとんどが 1938年6月スタジオ収録版のようだった。でも、よーく聴いていくと、3,6,34、の演奏は違うみたい。思い切って、34番目をダウンロードしてみた。う〜む、これかなぁ。自信ないなぁ。だって、レスター・ヤングのテナー・ソロが入ってないんだもの。 でも、ビリー・ホリデイがサビを唄うバックで、彼女にぴったり寄り添うようにサックス吹いてるなぁ、レスター・ヤング。 やっぱりコレだな。きっと。

2011年4月 9日 (土)

今月のこの一曲『'Cause We've Been Together』アン・サリー

■今週の日曜日はいろいろと用があって、家族4人で朝9時過ぎに伊那を発ち長野まで行ってきた。帰りには松本に寄ってもう一つの用を済ませて自宅へ帰り着いたのは夜の9時前だった。疲れたが充実した一日だったな。 松本では、妻と次男がリハーサルに行ってる間に、ぼくと長男はいつもの「ほんやらどお」へ行って中古CDを物色。長男はウルフルズのベスト盤を、ぼくはエグベルト・ジスモンチのECM盤と、アン・サリー『デイ・ドリーム』を1000円未満の安価でゲットした。 アン・サリーの「このCD」は、知ってる曲が一つもなかったから、じつは聴いたことなかったのだが、なんだ、めちゃくちゃイイじゃん。 じつに渋い選曲で、1970年代日本のレアグルーブのカヴァーが特に聴かせるのだな。細野晴臣「三時の子守歌」、佐藤奈々子&佐野元春「週末のハイウェイ」、吉田美奈子「レインボー・シー・ライン」。そうして、りりィの『'Cause We've Been Together』。オリジナルはコレです。


YouTube: Lily - 'Cause We've been together

でもこの曲は、アン・サリーのカヴァーのほうがずっといいな。 YouTube にもあったみたいだが、今は見れないのが残念。サビの歌詞がこれだ。

JASRAC からの通告のため、歌詞を削除しました

このCDを繰り返し聴くうちに、「オー、ベイビー、ベイビー、ベイビー、行かないで」というフレーズ。以前に何度も目にしたことあるぞ!? って気がついたのだな。 そう、映画にもなった、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』(ハヤカワ epi 文庫)だ。 主人公のキャシー・Hがずっと大切にしていてなくしてしまったカセット・テープ。ジュディー・ブリッジウォーターが 1956年に録音した『夜に聞く歌』A面3曲目に入っていた曲『わたしを離さないで』の歌詞といっしょじゃん。

 スローで、ミッドナイトで、アメリカン。「ネバーレットミーゴー……オー、ベイビー、ベイビー……わたしを離さないで……」このリフレインが何度も繰り返されます。わたしは十一歳で、それまで音楽などあまり聞いたことありませんでしたが、この曲にはなぜか惹かれました。いつでもすぐ聞けるように、必ずこの曲の頭までテープを巻き戻しておきました。(『わたしを離さないで』p110)

■カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』に関しては、この「ネバーレットミーゴー」って曲がどんな曲なのか、以前にもしつこく考えたことがある。と言うのも、ジャズのスタンダードに「Never Let Me Go」って曲が実際に存在していて、インストでは、ビル・エバンズやキース・ジャレット・トリオ。ヴォーカル版では、ナット・キング・コールやアイリン・クラール、ジェーン・モンハイト。 でも、このオリジナルの「Never Let Me Go」って曲には「オー、ベイビー、ベイビー……わたしを離さないで……」なんてフレーズはどこにもないのだった。だからここの「2006/11/15」で言っているように、本当に"Never Let Me Go" だったのだろうか? って疑問がわくのだ。 この Never Let Me Go よりも、「'Cause We've Been Together」のほうが断然「スローで、ミッドナイトで、アメリカン」なんじゃないか? ぼくはいま、確信を持って言おう。あの時、村上春樹氏がカズオ・イシグロ氏にプレゼントしたCDとは、アン・サリーの『デイドリーム』だったに違いない! と。ほんとかよ(^^;;

2011年3月27日 (日)

「Hard times come again no more」once more

■この曲の中では「我如古より子 with 吉川忠英」のヴァージョンが一番沁みるかも。歌詞がほんとうにいい。iTunes で200円です。


YouTube: Hard Times Come Again No More・我如古より子wt吉川忠英(g)


YouTube: 辛い事・難波屋Live2st02・唄・Henry&Lucy・詞・Henry松山


YouTube: Kate & Anna McGarrigle - Hard times come again no more


YouTube: 「Hard times come again no more」09.7.11 横浜


YouTube: Hard Times Come Again No More

-------------------------------------------------------------------------------- 「HARD TIMES COME AGAIN NO MORE」 Let us pause in life's pleasures and count its many tears, While we all sup sorrow with the poor; There's a song that will linger forever in our ears; Oh Hard times come again no more. (Chorus) Tis the song,the sigh of the weary, Hard Times,hard times,come again no more Many days you have lingered around my cabin door; Oh hard times come again no more. While we seek mirth and beauty and music light and gay, There are frail forms fainting at the door; Though their voices are silent,their pleading looks will say Oh hard times come again no more. (Chorus) Tis the song,the sigh of the weary, Hard Times,hard times,come again no more Many days you have lingered around my cabin door; Oh hard times come again no more. There's a pale drooping maiden who toils her life away, With a worn heart whose better days are o'er: Though her voice would be merry,'tis sighing all the day, Oh hard times come again no more. (Chorus) Tis the song,the sigh of the weary, Hard Times,hard times,come again no more Many days you have lingered around my cabin door; Oh hard times come again no more. Tis a sigh that is wafted across the troubled wave, Tis a wail that is heard upon the shore Tis a dirge that is murmured around the lowly grave Oh hard times come again no more. (Chorus) Tis the song,the sigh of the weary, Hard Times,hard times,come again no more Many days you have lingered around my cabin door; Oh hard times come again no more. ----------------------------------------------------------------------------------   「厳しき時代よ,もう二度と来ないで」 人生の喜びに安らぎ,人生の涙を数えよう われらが不幸な者達と悲しみを分け合うときには そこにはずっと耳に残っているひとつの歌があるのだ 「おお,厳しき時代よ,もう二度と来ないで」と  (合唱)  それがこの歌だ,疲れ果てた溜息の歌 「厳しき時代よ,厳しき時代よ,もう二度と来ないで  ずっと長いこと,おまえは小屋の戸口に粘ってきたが  おお,厳しき時代よ,もう二度と来ないで」 陽気なものや美しいもの,楽しく明るい音楽を探してみても それらの姿は戸口の前ではかなく消え入るのみ でも声は聞こえないが、それらは姿で訴えかける 「おお,厳しき時代よ,もう二度と来ないで」と (合唱)  それがこの歌だ,疲れ果てた溜息の歌 「厳しき時代よ,厳しき時代よ,もう二度と来ないで  ずっと長いこと,おまえは小屋の戸口に粘ってきたが  おお,厳しき時代よ,もう二度と来ないで」 人生に苦しむ,青ざめた伏目がちの乙女がいる 楽しき日は過ぎ去り、擦り切れた心が残る 彼女の声は明るく聞こえても、それは日がなの溜息だ 「おお,厳しき時代よ,もう二度と来ないで」と (合唱)  それがこの歌だ,疲れ果てた溜息の歌 「厳しき時代よ,厳しき時代よ,もう二度と来ないで  ずっと長いこと,おまえは小屋の戸口に粘ってきたが  おお,厳しき時代よ,もう二度と来ないで」 それは争いの波間を漂う溜息 それは浜辺に聞こえる嘆きの声 それは墓石のまわりでささやかれる哀歌 「おお,厳しき時代よ,もう二度と来ないで」と (合唱)  それがこの歌だ,疲れ果てた溜息の歌 「厳しき時代よ,厳しき時代よ,もう二度と来ないで  ずっと長いこと,おまえは小屋の戸口に粘っ てきたが  おお,厳しき時代よ,もう二度と来ないで」 ------------------------------------------------------------------------------------- ■この歌詞、訳詞は http://homepage2.nifty.com/182494/LiederhausUmegaoka/songs/F/Foster/S808.htm より転載させていただきました。


YouTube: Bruce Springsteen - Hard Times - Bern 2009-06-30 CLOSEUP


YouTube: Hard Times, Come Again No More - Thomas Hampson

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