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2011年11月 8日 (火)

今月のこの一曲 「Estate」安次嶺悟トリオ

■なにもこの時期に「夏のうた」を取りあげなくてもいいだろう、そう思うでしょ。 でも、「いま、ここ」で僕の中では「夏のうた = Estate(エスターテ)」なのだった。 111108 僕が初めて「この曲」を耳にしたのは、確か倉敷でだった。なんとかスクエアーから少し行った所にあったブティック2階のジャズ喫茶。記憶では倉敷で泊まった憶えはないから、たぶんあの日は土曜日で、ぼくは映画館のオールナイト営業で翌朝を迎えたのだろう。大学生の頃は、金はなかったけれど、体力と時間だけはあったからね。 1970年代中半の「硬派ジャズ喫茶」はどこも斜陽だった。だから、夜はお酒を提供し、スピーカーのボリュームも落として、客の会話のじゃまはしない「カフェ・バー」の走りが各地に生まれた。あの倉敷の店も、まさにそんな感じだった。ちょっと軽い雰囲気のマスターが、カウンター席に陣取る常連客にこう言ったのだ。 「もうジャズはダメだね。これからは、アダルト・コンテンポラリー・ミュージックの時代さ!」 そうして彼がターンテーブルに載せたレコードが、ジョアン・ジルベルトの『イマージュの部屋』A面だった。1曲目は「ス・ワンダフル」。ヘレン・メリル with クリフォード・ブラウンでの名唱で有名なジャズのスタンダードを、ジョアンは英語で気怠くやる気なさそうに歌う。で、2曲目が「エスターテ」。イタリア語で「夏」という意味の哀愁に満ちたバラードを、ジョアンは今度はイタリア語でとつとつと、切なくやるせなく歌っている。しびれた。


YouTube: JOAO GILBERTO - ESTATE (BRUNO MARTINO)

3曲目に「チンチン・ポル・チンチン」をポルトガル語で軽快に聴かせ、4曲目が「ベサメ・ムーチョ」。これはスペイン語で歌っている。これまた哀切感に溢れた歌声。旅から帰ったぼくは直ちにレコード屋さんに走り、このレコードを購入したのだった。1980年のことだ。


YouTube: Michel Petrucciani Trio - Estate

■1981年にフランスのマイナーレーベルから初リーダーアルバム(赤いジャケットに大きすぎる帽子をかぶった子供?いや実は本人のモノクロ写真が印象的だ)を出し、世界中のジャズファンの度肝を抜いた、天才ジャズ・ピアニストのミシェル・ペトルチアーニが、1982年に発表したセカンド・アルバムが、この『ESTATE』。名演である。


YouTube: Estate - Satoru Ajimine Trio

■そして最後の「ESTATE」は、大阪を中心に活動するジャズピアニスト、安次嶺悟(あじみね・さとる)の遅すぎたデビューCD『FOR LOVERS』からの7曲目。これがまた実にいい。 2009年末、限定1000枚で発売されたこのCDは、彼の地元大阪を中心に口コミで評判を呼び、瞬く間にソールドアウトしたという。噂を聞きつけた全国のジャズファンからの再発を求める熱い要望に答えて、今年の9月に再プレスされ再び市場に出た。ぼくはこのCDのことを、今はなき「ジャズ専門店ミムラ」のブログで知ってからずっと探していて、ようやく入手できたのだった。 地味ではあるが、上品で端正で、確かなテクニックと歌心にあふれた繊細なタッチ。実にすばらしい。 アップテンポの曲では、終板のブロック・コードを多用したドライブ感、浮遊感が何とも気持ちいいのだが、それ以上にバーラード系の曲をじっくり弾かせたら絶品で、深夜一人でしみじみ聴くにはマストアイテムだ。例えば3曲目の「And I Love Her」。ビートルズの有名曲を思い切りスローに情感を込めて弾いている。あれ? こんな感じの曲だったっけ、と思ってしまう。そして「ESTATE」。これ、もしかしてペトルチアーニ盤よりもいいんじゃないか?

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