2020年3月20日 (金)

『栃東の取り組み見たか』吾妻光良とスウィンギンバッパーズ

■長野県医師会「広報委員会」で随分とお世話になった、松本の野村先生が、先月CDを貸してくれた。

というのも、野村先生が引退する最後の広報委員会の時に、僕が強引に「Jポップの原点」となるCDたち(荒井由実、細野雅臣、大瀧詠一、矢野顕子、大貫妙子、シュガーベイブ、竹内まりや、はちみつぱい、小坂忠)を無理矢理貸した。そのCDたちを先月「ゆうパック」で返却してくれた際、オススメのCDを同封してくれたのだ。

そのCDたちとは、パット・メセニーが4枚、熊谷幸子が3枚、そして、吾妻光良とスウィンギンバッパーズのCDが4枚だった。ちょうど、ライル・メイズが亡くなった次の日だったから、レコードは持っていたがCDはなかった『トラベルズ』を心して聴いた。めちゃくちゃ良かった。

熊谷幸子もよかった! あの『夏子の酒』のテレビドラマ主題歌を歌った人だ。

■そうして、最後に聴いたのがこの曲。ぶったまげた! のりのりのジャイヴ&ジャンプ! カウント・ベイシー・ビッグバンドも真っ蒼じゃん!! それに、まるで平家の落ち武者みたいな、ハゲなのに長髪の「変なオッサン」誰? 彼が吾妻光良なの? デビュー40周年を迎えたバンドなのに、僕は今まで一度も聴いたことがなかった。なんと恥ずかしい!

 


YouTube: 吾妻光良&The Swinging Boppers "最後まで楽しもう"

■ジャズ好きを自認する俺が、なぜ「吾妻光良とスウィンギンバッパーズ」を今まで一度も聴いたことなかったのか? 60過ぎても聴いたことのない「めちゃくちゃ凄い音楽」が、まだまだいっぱいあるのだなあ。

野村先生! 教えて頂いて、ほんと有り難うございました。

ちょっと調べたら、吾妻光良氏はアマチュア(日テレで音響関係の社員として勤務されているらしい)を貫き、学生時代(早稲田大学理工学部に5年いたらしい)に既にブルース・ギターの教則本を出版したらしい。お〜、ギターめちゃくちゃ上手いじゃん!


YouTube: 『Player』6月号 ぶるーすギター高座 特別編 吾妻光良meets KORG KR-55 Pro

■で、彼らのCDを聴いてきて最後の4枚目に収録されていたのが、かの名曲『栃東の取り組み見たか』だったのだ。ただ、オリジナルは YouTute にない。全て著作権(原曲管理者がアメリカで五月蠅いのだ)の関係で削除されてしまった。

見つけたのは、憂歌団みたいな関西のバンドがカバーしたこれ。


YouTube: 栃東の取り組み見たか

おお! ニコニコ動画には、オリジナル残ってたのか!

https://www.nicovideo.jp/watch/sm24361739

う〜ん。うまく画像が貼れないぞ。

この曲は彼らのライヴでは昔から有名な定番曲だったが、原曲の著作権管理者から許可がなかなか下りず、音源化されなかった。でようやく認可されて『シニア・バカナルズ』に収録されたのだった。

ラストの歌詞は、当初「栃東は次は優勝だ」だったのが、→「栃東はすぐに横綱だ」に変わり、CD収録時には、とうとう「栃東は今や親方だ」になってしまった(^^;

2007年5月に渋谷クアトロで行われた「吾妻光良とスウィンギンバッパーズ」のライヴに、なんと引退直後の栃東が聴きに来ていたとのこと。もちろん『栃東の取り組み見たか』が演奏されたよ。


YouTube: Tochiazuma vs. Asashoryu : Hatsu 2002 (栃東 対 朝青龍)

■「この曲のオリジナルはなに?」ってツイッターで訊いたら、すぐに教えて下さる方がいた。ありがとうございました!

原曲は、"Did you see Jackie Robinson hit that ball ?" 1949年カウント・ベイシー楽団&タップス・ミラー(Vo) で、アメリカの黒人メジャー・大リーガーの草分け「ジャッキー・ロビンソン」讃歌だ。これです。


YouTube: Did You See Jackie Robinson Hit That Ball? (1949 Version)

■彼がドジャーズで黒人としてメジャーデビューを果たした4月15日は、毎年「ジャッキー・ロビンソン・デイ」として大リーガー全員が彼の背番号42 を付けたユニフォームを着て試合をする。「42」は、米球界全体で永久欠番となっているそうだ。



YouTube: "SENIOR BACCHANALS" Trailer

■ ほんと、そう思うぞ! 「カッコイイよね福田さん!!」


YouTube: 吾妻光良トリオ 福田さん

2020年3月 7日 (土)

「保育園で感染拡大を防ぐためにできること」2019/12/6 上伊那保育協会未満児部門での講演会のスライドより

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■「空気感染」が、一番感染力が強い!

■「不顕性感染」(症状がない・軽度なのにウイルスを排出している児童や保育士)が多いほど、潜伏期間が長いほど、保育園で感染拡大を防ぐのはほとんど不可能に近い。

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■「1つのウイルスに罹ると」とスライドにはありますが、現在進行形で「1つのウイルスに罹っていると」という意味です。例えば、ウンコがしたくなってトイレへ駆け込んだら、大便所(個室)にすでに人が入っていてウンコができない。というイメージです。

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■新型コロナウイルスにも、油の膜「エンベロープ」がある。だから、石鹸やアルコールが有効!

しかし、ノロウイルスには「エンベロープ」がないため、アルコールは効きにくい。(石鹸と水道水で、しっかり手洗いすれば洗い落とすことはできます)

だから、ノロウイルスは胃の中でも胃酸で失活せずに小腸まで行って、小腸の粘膜細胞に感染し、嘔吐下痢症を発症することができるのです。

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■新型コロナウイルスも、ライノウイルスに近いので、数日は失活せずに体外で「生きて」います。乾燥にも強いという報告もあります。ドイツの文献では、9日間経っても活性があったとの報告もあります。

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■右側の値段は、当院で仕入れている「検査キット」1回分の仕入れ値です(医療機関によっては、金額は異なります)

■開業の一般小児科医院の多くは、3歳未満児の医療費は「定額制」です。つまり今で言うところの「サブスク」ですね。この4月からは「6歳未満」に引き上げられる予定です。

当院では3歳未満の場合、迅速検査の保険適応の有無に関わらず、必要とあらば検査を行っています。例えば、RSウイルスの検査は当院では保険適応はありません。

ですので、価格の高い検査キットを一度に何種類もすると、正直「赤字」になってしまいます。保育園の先生は、熱が出るとすぐ「小児科へ行って検査してもらってきて!」と言います。

いまの時期だと「ヒトメタニューモウイルス」の検査をしてもらって! ですかね。

でも、ヒトメタの迅速検査は値段が高いんですよ! しかも、3歳以上で肺炎の臨床診断がないと保険適応がありません。

■それから「感度」と「精度」の問題も大切です。いま、新型コロナウイルスのPCR検査でも言われていることですね。「擬陽性」と「偽陰性」の問題。そのキットが、どの程度信頼できるか? ということです。

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YouTube: 花王 ビオレu ビオレu泡ハンドソープ 「あわあわ手あらいのうた」練習編 CM

2020年1月 8日 (水)

MMTが日本を救う!?(つづき)

■新年あけましておめでとうございます。

本年もお付き合いのほど、どうぞよろしくお願いいたします。

■今日、ツイッターを見ていて「おっ!」と思ったサイト。「関内関外日記」

文章というものは、書けば書くほど上達するものではありません。それは肉体が衰えるのと同じように、年齢とともに衰えていくものです。あなたが十年もブログを書けば、十年前の自分の文章を見て、そのみずみずしさ、機転、リズムにおどろくことがあるでしょう。それでも、その十年前を読むためには、十年後が必要なのです。

ほんとその通りだと思った。ぼくのブログを一番熱心に何度でも読んでいるのは、ぼく自身さ。それでいいじゃないか。実際、16年前からネット上に文章を残してきたが、あの頃に較べると「書きたい!」という意欲も、文章のパワーも面白さも、現在のぼくはすべて劣化していることを自覚する。

以前は週何度でも記事を更新していたのに、このところは「月イチ」だ。日々のつぶやきは、ツイッターに移動したことがその主な原因ではあるのだが、140字では言えないことはやはり多いし、タイムラインを流れていく「言葉」は、所詮その時目に留まっただけで、忘れられて行く運命にある。そういうものだ。

ただ、書きなさい。写真を載せたければそうすればいい。イラストを描きたければそうすればいい。そして、あなたの見た世界を、あなたの価値観と重なり合うことのある、ただ少数の者のために送りなさい。送り先不明の手紙を、ただひたすらに書きなさい。いろいろの先人の言葉を借りながら、それでも自分の言葉を刻みつけなさい。

そうすることで得られる世俗的な報酬はいっさい期待することのないようにしなさい。十年後に、十年前の自分を振り返ることのできる、ただその権利のためだけに書きなさい。だれにほめられることもなく、だれにけなされることもない、あなたの思う少数の者のためだけに、手紙を送りつづけるのです。たとえ読者がおのれ自身だけであってもいい。ただ、ひたすらに手紙を書くのです。

もし自分がまだ元気で生きていたとして、10年後にも「しろくま通信」のサイトが残っていたなら、

たぶん自分で、今日ここで書いた文章をまた読んでいるのではないか? それでいいじゃん。そんなことをしみじみと思ったよ。

閑話休題

■「MMT理論」に関する個人的なまとめ(その2)

『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』中野剛志(KKベストセラーズ)より。

・ポイントは、世界で日本だけが「この30年間デフレが続いている」ということ。1960年〜1970代の高度経済成長時代、1980年末のバブルを経て、右肩上がりの時代が知らぬ間に終焉し、今やどんどん右肩下がりで、みな貧乏にあえいでいる。ここが大事。

 そのことは、日々の日常診療の中で実感することでもある。みな貧しい。ゆとりも豊かさもほとんど感じられない親子が目につく。中には、明らかに貧困の渦中でぎりぎりセイフティ・ネットに引っかかっている親子もいる。以前は、ぼんやり診療していれば着ているモノも小綺麗だし気づかなかった。でも今は明らかに可視化されるようになってきていると思う。

「子供の貧困」問題は、小児科医にとっても最重要課題だ。(まだ続く)

2019年12月29日 (日)

MMTが日本を救う!?

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■ MMT (Modern Monetary Theory:現代貨幣理論) に関する本を3冊読んだ。

ほんとうに目からウロコが落ちた。

いまや瀕死の日本経済は、この「MMT」に賭けるしかないのではないか?

以下は『MMTによる令和「新」経済論』藤井聡(晶文社)より抜き書き。

・現代社会における「紙幣」とは(中央政府と中央銀行とで構成される)「国家」が作り出すものである。

・政府は、自国通貨建ての国債で破綻することは、事実上あり得ない。言い換えるなら、「日本政府が日本円の借金を返せなくなってしまうことはあり得ない」。

・「緊縮病」借金を恐れて政府支出を削り、消費増税を行えば経済は低迷し、かえって税収が減る。そうなればさらに借金が膨らんでしまうから、政府はさらに激しい緊縮に走り、その結果さらに経済は低迷する ---- こうした「悪夢のスパイラル」に、日米欧の先進諸国は軒並み苛まれたわけだ。その中でも最も激しく衰弱してしまったのが我が国日本だ。(p40)

「民間の黒字」=「政府の赤字」

・好況と不況の違いは循環しているオカネの総量「貨幣循環量」が多いか少ないかの違いなのだ。「好況」の状況にに変化させていくためには、この民間市場に、外部からオカネを注入すれば良い。つまり、政府は財政赤字をどんどん拡大して政府支出量を増やせばよい。

・政府支出の下限値:デフレになってしまう程度に少ない政府支出額

・政府支出の上限値:過剰インフレになっていまうほど多い政府支出額

・そもそもMMTは、経済の目標を「国民の幸福」の確保・拡大においている。失業者がいない完全雇用を目指す(就労保証)と同時に、政府が設定した最低賃金を実現させる(賃金保証)ことを目指す。

・「万年筆マネー」:おカネというものは刷ってできるものではない。おカネというものは実は、人が人から借りることでできる(作られる)ものなのだ。あなたが銀行に行って「100万円貸して下さい」と依頼すると、銀行は100万円の札束をあなたに渡すのではない。あなたの銀行口座に100万円と(万年筆で)書き込むことで、あなたに貸し付けるのである。

・オカネは「負債の記録」である。だから、オカネを返した途端に、オカネは「消える」。さらに言えば、オカネは返済期限のない「国家の借用証書」である。

2019年12月24日 (火)

伊那のパパズ絵本ライヴ(その138)箕輪町役場「子ども未来課」

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■箕輪町「子ども未来課」は、毎年12月欠かさずに「伊那のパパズ」を呼んでくださる。ありがたいことです。12月は「クリスマス・バージョン」のコスプレでの登場だ。去年も呼ばれたはずだが、このブログには記録がない(その134回)。ということは、僕が欠席だったのだ。インフルエンザ・ワクチンの「まとめ接種」の日だったかもしれない。

■それからやはり毎年11月に呼んでくれているのが、飯島町「子育て支援センター」だ。今年も呼ばれた。11月17日(日)。「ぼくも出席OKで〜す!」と皆に返信してあったのだが、なんと「その日は当番医」だった。スケジュール帳の記載もれだったのだ。ごめんなさい。ぼくは欠席でした。

■で、今年は12月15日(日)午前10時〜11時に「松島コミュニティセンター」で絵本ライヴが行われたのでした。

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           ■ <本日のメニュー> ■

1)『はじめまして』新沢としひこ →全員

2)『らくがきボール』鈴木のりたけ(小学館)→伊東

3)『たいこ』樋勝朋巳ぶん・え(福音館書店)→北原

4)『かごからとびだした』→全員

5)『まわる おすしやさん』藤重ヒカル(こどものとも 2020年1月号)→坂本

6)『おならまんざい』長谷川義史(小学館)→倉科&坂本

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7)『どうぶつれっしゃ』しのだこうへい(ひさかたチャイルド)→全員

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8)『へんなおでん』はらぺこめがね(グラフィック社)→伊東

9)『じゃない!』チョーヒカル(フレーベル館)→北原

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10)『ねこガム』(福音館書店)→坂本

11)『メリークリスマスおおかみさん』みやにしたつや(女子パウロ会)→倉科

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12)『ふうせん』(アリス館)

13)『世界中のこどもたちが』新沢としひこ&中川ひろたか(ポプラ社)

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2019年11月17日 (日)

英国在住の保育士「ブレイディみかこ」さんて、何モノ?

英国在住の保育士「ブレイディみかこ」さんて、何モノ?

 北原こどもクリニック 北原文徳

 (「長野県小児科医会会報:最新号」に投稿した原稿より)

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 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ(新潮社)が、ベストセラー爆走中です。僕も出てすぐ読みました。テンポのよいパワフルな文章に引き込まれ一気読みでした。たまげました。傑作です。特に小児科医は絶対に読むべき本だと思いました。

 日本よりもずっと貧富の格差が進み、移民が次々と流入するイギリス。本来先住の「ホワイト」の方が貧困にあえぎ、反対に、努力した移民が中流住宅街に住んで子供たちを中上流小中学校に通わせているとう現実。その結果として、移民が「ホワイトのアンダークラス」をヘイトし差別するという「ねじれ」が生じています。

 そんな中、彼女の息子(11歳)は、地元のアンダーな白人だらけの「元底辺公立中学校」に入学し、学校が力を入れている音楽部に入部します。最初に仲良くなったのは、ハンサムで歌も上手く、見事ミュージカル『アラジン』の主役を射止めたハンガリー移民の子ダニエル。レストラン経営で成功した父親がとんでもないレイシストで、その影響から息子も当然レイシスト。差別発言だらけのダニエルと何故か友情を育む息子。

 ところが、ダニエルは学校内で次第に陰湿な「いじめ」に会うようになります。正義が悪を懲らしめるのは当然だという理由で。それでも、彼は毎日学校へ通い続けます。父親に怒られるからです。そんな彼に、彼女の息子はずっと寄り添い続けます。

「いじめているのはみんな(彼に)何も言われたことも、されたこともない、関係ない子たちだよ。それが一番気持ち悪い。僕は、人間は人をいじめるのが好きなんじゃないと思う。……罰するのが好きなんだ」(p196)

 クールでスマートな息子の言動に、読んでいて胸がすく思いがしました。もう、すっかり真っ暗闇の世の中ですが、彼のような若者が世界を変えてくれる希望の星なのかもしれません。そんな彼は、どんな両親のもとで生まれ育ってきたのでしょうか?

 ブレイディみかこさんが世間で認知されるようになった契機は、内田樹先生の「それ」とよく似ています。二人とも遅咲きのコラムニスト・批評家で、40歳代までは全くの無名人だったのに、当時アップしていたネット上のブログ記事が一部で話題となり、注目したプロの編集者がコンタクトを取って書籍化、それが次々とベストセラーになったのです。

 ただ、ブレイディさんの場合は「この本」が世に出て初めてブレイクしたと言ったほうが良いかもしれません。

 彼女は1965年6月、福岡県福岡市に生まれました。先祖に隠れキリシタンや殉教者がいるカトリック教徒でしたが、極貧家庭に育ち、荒廃した中学校でイヤイヤ学び、地元でヤンキー娘として一生を終えるはずが、担任教師の強引な薦めで福岡一の有名進学校、県立修猷館高校に見事合格。ところが……。

 

「70年代から80年代にかけての『一億総中流時代』が政府とマスコミによってクリエイトされたまことに愚かなスローガンであった。でも一番愚者だったのはそれを本気で信じていた一般市民であり、『親が定期代を払えないので学校帰りにバイトしている』という10代の少女に『遊ぶ金欲しさでやってるくせに嘘をつくな、いまどきの日本にそんな家庭はない』と断言した福岡の某県立高等学校の教諭などは、その最たる例であった。

少女はバカたれは許すが愚者は許さん性質だったので、翌日には髪を金髪にしてつんつんにおっ立てて登校した。担任の生徒管理能力の低さを世に示すために」

p221(『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』みすず書房より)

 当時からとんでもなくトンガリ・パンク少女だった彼女のアイドルは、大正時代に名を馳せた同郷のアナキスト伊藤野枝でした。彼女は関東大震災直後の戒厳令下、同志であり愛人であった大杉栄と甥の宗一と共に甘粕大尉率いる憲兵隊に惨殺されます。ちょうど同じ頃、大逆罪容疑で恋人の朝鮮人パクヨルと共に警察に逮捕され、死刑判決から一転恩赦がおりたにも関わらず獄中で自死した金子文子もまた、彼女のアイドルでした。

 ゴミのように親に捨てられ戸籍にも登録されなかった金子文子は、日本における闘う女性の元祖と言ってもよいかもしれません。ブレイディさんは、授業をサボっては図書館に入り浸り、この2人を発見したのだそうです。

 高校卒業後、彼女は大学へは進学しませんでした。親にその資金がなかったことはもちろん、彼女がパンクロックにはまっていたことも関係しています。当時の彼女が生きる糧にしていたのは、アイルランド移民で労働者階級出身のジョン・ライドンが率いるイギリスのパンクバンド「セックス・ピストルズ」でした。彼女は福岡の中洲や銀座でバイトして金を貯めては渡英し、パンクロックのシャワーを全身で浴びました。渡英を何度も繰り返すうち、1996年に入国した際、空港の入国審査官が、ニコッと笑って「ようこそ!英国へ」と言ってくれたのだそうです。この時彼女は電撃的に「私はここに永住するのだ」と確信しました。

 ロンドンではキングスロードに下宿し、某日系新聞社のロンドン支店で事務員として数年間勤務。そうこうするうちに、金融街で働くアイルランド移民で9歳年上の銀行マンと結婚。ロンドンから南へ列車で1時間の海辺の保養地ブライトンに移り住みます。ところが、旦那は銀行をリストラされ、自らミドルクラスから転落して、子供の頃から憧れていた「大型トラックの運転手」となるのでした。

 日本でも英国でも貧困に喘ぐ日々。しかも亭主はガンに罹患。彼女の最初の著書『花の命はノー・フューチャー』(ちくま文庫)を読むと、こんなことが書いてあります。

 

「先なんかねえんだよ。あれこれ期待するな。世の中も人生も、とどのつまりはクソだから、ノー・フューチャーの想いを胸に、それでもやっぱり生きて行け。」(p18)

「わたしも子供が嫌いである。なぜなら、小さな人々とは、文字通り、人間の未熟なものだからだ。純粋だのイノセントだのという言葉で彼らのことを表現する方々もおられるが、子供がよからぬことや邪なことばかり考えて生きていることは、大人と呼ばれる年齢の人間であれば、自らの経験から誰しも知っているはずである。そもそも、子供には人生における挫折の経験がない。」(p199)

 

 そこまで言っていた彼女が、何故か40歳を過ぎて体外受精で男児を高齢出産しました。そして生まれたのが彼です。そしたら、わが子は可愛いし面白い!

 2008年、その乳飲み子を抱えながら彼女は地域のアンダークラス(失業者、生活保護受給家庭)を支援するセンター付属の「無料底辺託児所」にボランティアとして参加します。そこには「幼児教育施設の鑑」と専門家からもリスペクトされている責任者アニーがいて、彼女の元で幼児保育の実践教育を受けながら2年半かけて保育士の資格を取りました。

 当時、労働党のトニー・ブレア政権は抜本的幼児教育改革を行い、移民保育士を積極的にリクルートしました。ブレア政権では多様性(ダイバーシティ)を大切と考え、子供たちがいろんな人種の外国人と共に生活することに、小さな時から慣れて行く必要があるとし、外国人移民の保育士養成費用を政府が負担したのです。

 ところが、2010年に保守党が政権を握ると一気に緊縮財政へと梶を切り、労働党が作った福祉制度を次々とカットしたため、底辺託児所の様相は一転します。『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)には、保育士として働くブレイディさんのリアルな毎日が綴られていて、こちらも必読です。水泳が得意なリアーナの凶暴だった幼児期の記載もありますよ。

 

 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、そんなパンクでホットなかあちゃんとクールでワイズな息子の成長物語でもあります。しかも現在進行形で新潮社の月刊PR雑誌『波』に続編が連載中です。

 僕は椎名誠の名作『岳物語』『続岳物語』(集英社文庫)のことを思い出していました。ただ『続岳物語』は岳君が中学入学の場面で終わっていて『続々岳物語』が書かれることは残念ながらありませんでした。なぜなら……。

 

「もうこれ以上彼のことを小説の題材として書いていくのは申し訳ない、という気持ちをじわじわと感じていたからである。そしてそれとまったく同じ時期に、岳本人からそのことを言われたのであった(中略)猛烈に怒っていた。その怒り方は、親の私が萎縮してしまうくらいだった。それはそうだろうな、とその時私は思った。中学ぐらいになれば彼の友達もいろんな本を読む。『岳物語』はベストセラーになり、教科書などにも載りはじめていた」(椎名誠『定本岳物語』あとがき より)

 岳君本人も「『岳物語』と僕」という文章を寄せています。

「残念ながら、僕はまだ『岳物語』を読んだことがありません。読めないのです。過去に何度か挑戦してみたこともあるのですが、成功したことはありません(中略)

僕はこの本が嫌いでした。大嫌いでした。トウサン、あなたはいったい何てことをしてくれたんですかい、何度もそう思いました。ある時期には、この本、そしてこれを書いた父親のことを真剣に憎んでみたりもしました。」

 (『定本岳物語』p452、『本人に訊く(壱)よろしく懐旧篇』椎名誠・目黒孝二:集英社文庫 p230〜236 )

 

 ブレイディさんの話では、日本語が読めない息子ケン君も「この本」のことが気になっていて、スマホで接写すると日本語を英語に自動翻訳してくれるソフトを使って密かに内容をチェックしているらしいというのです。それはちょっとマズいんじゃないか? 

でも、椎名父子と違って、母親と息子だから険悪な親子関係に陥る危険性は少ないかもしいれないし、そもそも彼の生活の基盤はイギリスです。だから、寛大な彼のこと、きっとパンクな母ちゃんを許してくれるに違いありません。

 

2019年10月29日 (火)

『将軍の子』佐藤巖太郎(文藝春秋)を読む

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■高遠町の生まれなので、保科正之を主役に NHK「大河ドラマ」を作って欲しいとずっと思ってきた。署名もした。数々の「大河ドラマ」を手掛け、あの司馬遼太郎『坂の上の雲』をドラマ化した、NHKプロデューサー西村与志木は、伊那市長谷村の出身。でも、未だ実現していない。

■保科正之と言えば、作家・中村彰彦氏だ。ぼくも『保科肥後守お耳帖』(平成5年刊・双葉社)『保科正之』中村彰彦(中公文庫 1227)1995/1/25 発行『名君の碑』中村彰彦(文藝春秋)1998年10月刊 を読んだ。正直言って、保科正之に関する歴史小説は、中村彰彦氏がとことん絞り尽くした感がある。

ところが、令和の時代に入って思わぬ伏兵が登場した。

福島県出身で福島県在住の作家、佐藤巖太郎だ。『将軍の子』(文藝春秋)は、著者が雑誌「オール讀物」に連載した、保科正之を巡る連作短編集なのだが、これが実にいい!

各短篇の主人公は、保科正之の脇に存在した人々だ。彼・彼女等は、保科正之と出会うことによって、己の人生が変わってゆく。いい意味でも悪い意味でもね。どの短篇でも、イメージとしてはラストに一陣の風が吹く感じだ。すると、主人公は「あっ!」と思う。「風」は保科正之ね。そのため、なんとも鮮やかで爽やかな読後感を残すのだ。

つまり言うなれば、三谷幸喜の『古畑任三郎』的な演出が施されているのだよ。

■以下、ツイートより。多くは改変編集ありです。

『将軍の子』佐藤巖太郎(文藝春秋)を読み始める。保科正之を巡る連作短編集だ。巻頭の「将軍の子」の主人公は、武田信玄の娘で穴山梅雪の妻。ああ、こういう語り口があったのか!じつに上手い。乳児が着る祝い着の小袖が描かれる。誰かがこの小袖を母親には内緒で幼子に着せようとしている。そんなシーンで小説は始まるのだ。

小袖は、黒地に白く武田菱が染められている(裏表紙に絵がある)。70歳を超える主人公(見性院:けんしょういん)は、この稚児を養子に迎える覚悟を決めるのだ。武田氏の末裔を途切れさすことを防ぐべく。折角この世に生まれたのに、お江からは殺されそうになり、父親から歓迎されなかった保科正之を、見性院が救った。実に鮮やかな短篇。

『将軍の子』佐藤巖太郎(文藝春秋)より「跡取り二人」「扇の要」「権現様の鶴」を読む。いやあ上手いなあ。保科正之の連作短編集なのだが、各々の主役は、高遠藩主保科正光の先の養子左源太、徳川忠長、そして徳川家光。各々が保科正之と出会うことで、自らが変わってゆくのだ。

「跡取り二人」では、高遠・建福寺の階段を小日向左源太が上がってゆく場面で始まる。建福寺和尚・鉄舟に仏の木彫りを指導してもらっているのだ。高遠藩の正当な後継者に指名される日も近い。武術の鍛錬だけでなく、精神修練のために鉄舟の教えを請うたのだ。だが、心が惑わされている彼のノミ裁きは普段とはあまりにかけ離れていた。

何故なら、高遠藩主・保科正光の元に、新たな養子が来ることを知ったからだ。

「扇の要」の視点は保科正之だが、この短篇の主役は、駿河大納言忠長だ。兄(家光)より先に、静岡まで養父と共に会いに来てくれた弟(正之)に、彼はこう言うのだ。

「よいか、この国を治めるのは徳川家なのだ。われらは二代将軍の息子ぞ。他の大名たちの上に立ち、諸侯を束ねる役割がある。亡き権現様(家康)もそれを望んでおろう。

わしもいま以上に、領国を増やすつもりだ。55万石では少なすぎる。前田や伊達より少なくては、面目が立たぬ。そうではないか。居城は大坂城でもよいくらいだ。多くの領国を治め、国の要となる。手柄を立て、名を馳せなければ、徳川家に生まれてきた甲斐がない」

幼い頃から病弱で小心者で吃音だった兄と違って、利発で活発だった国松(忠長)は父親母親から溺愛されて育った。秀忠配下の家臣たちも、三代目は家光ではなく忠長に違いない、誰もがそう思っていた。ところが、春日局が家康に御注進したことで、状況は逆転する。皮肉なものだ。

そんな思いの兄と会った正之も、兄に感化されてこう思う。「徳川の血筋として生きる人生を最初から与えられたとしたら-----。」

・「権現様の鶴」の主役は、徳川家光。家光はいつ保科正之が異母兄弟だと知ったのか? 中村彰彦氏は、新井白石『翰譜』の記述より、家光が目黒方面へ鷹狩りに行った際に休憩で立ち寄った寺「成就院」の住職より偶然知らされたと書いている。じつに劇的だ。でも本当だろうか? 駿河の忠長は、正之が会いに行く前から知っていた。

生まれた正之を武田信玄の娘「見性院」の養子とし、さらに高遠藩主保科正光に委ねたのは、幕府大老の土井利勝だ。家光の側近中の側近が、母親「お江」の死後もずっと秘密にしていたとは思えない。

著者の佐藤巖太郎氏は、家光は土井利勝から異母弟の存在を既に知らされていたとし、さらには、茶会に正之を呼んで、その人柄を確かめたとする。ただそうなると、家光が成就院で劇的な思いに打たれた史実が一致しなくなる。そのあたりを著者はじつに上手く処理していて感心した。

あと、家光と忠長の確執がある中で、家光は「忠長はどうしようもない嫌な奴で大嫌いだが、保科正之は本当に兄想いのイイ奴だ」と直ちに思ったのだろうか? 突如現れた正之だって、忠長と同じく家光の地位を追い落とす危険な存在と思うはずだ。それに、家光は忠長に本当に「死ね!」と言ったのだろうか? そこまで冷酷だったのか? 「権現様の鶴」では、そのあたりのことも納得できる解釈がなされている。

続く「千里の果て」は、土井利勝が主人公。この一篇を読んで初めて「この本」のタイトルが『将軍の子』であることを理解した。将軍の子は、保科正之だけを指すワケではないのだ。忠長、家光、それに土井利勝だって「将軍の子」だった。じつは、土井利勝は徳川家康のご落胤だったのだ。

土井は、自らの出生と保科正之を重ね合わせたに違いない。

『将軍の子』佐藤巖太郎より「夢幻の扉」を読む。この一篇だけ書かれた時期が早い。2011年の第91回オール讀物新人賞受賞作で、福島県出身在住である著者のデビュー作。語り手は、江戸町奉行加賀爪忠澄。彼が裁く牢人を巡るミステリ仕立ての短篇なのだが、いやあ鮮やかなラスト!予想できない展開だった

佐藤巖太郎『将軍の子』より、ラストの「明日に咲く花」を読む。主役は「知恵伊豆」こと老中松平信綱。明暦三年(1657年)の冬、本郷丸山の本妙寺から出火した火災は、江戸の町を3日3晩焼き尽くし、江戸城も本丸と天守閣が焼け落ち、大名屋敷160軒、旗本屋敷793軒、町屋800町が消失した。

家光の死後、殉死しなかった信綱に世間の風当たりは強かった。なぜ彼は殉死しなかったか? 家光が死の床で彼にまだ幼い家綱の政道を補佐することを、彼に託した(託孤寄命)からだった。ただ、同じ命を受けた人物がもう一人いた。家光の異母兄弟の弟、保科正之だ。
 
 
だから信綱にとっては、保科正之はちょっと面倒で厄介な存在だったワケだ。正之は信綱に言う。「この大火は、前代未聞の尋常ならざる厄災。多くの命が公儀の救済に委ねられたものと存ずる。いまは、手段は選ばずに被害を抑えることこそ何より大切。この際、平素の懸案には構わますな」と。
 
 
信綱は、島原のキリシタン蜂起では総大将となって一揆を兵糧攻めにして鎮圧した。意気揚々と原城内に乗り込んだ時に目にした光景を、焼け野原となった江戸で思い出す。その信綱に正之は言う「江戸の建て直しは、武家だけでなく民の力をどれだけ活かすかにかかっておりましょう」「民の力を活かすとは……」「この状況で、江戸の民にそのような力がござりましょうか」「なければ、支えればよかろうと存ずる。さればこそ、市中への救済金として金16万両の支払いの裁可を、それがしより上様に進言いたしまする」「ご金蔵を空になさるおつもりか」
 
 
信綱は黙考した。金16万両で物が買われれば、職人や農民にお金が回る。彼らが物を買えば、それを売る者が潤う。お金は回り続ける。正之は、町人を町の建て直しの導火線にして、江戸繁栄と言う灯を灯すつもりだ。
 
 
これって、反緊縮政策そのものではないですか! 今の政治家さん(与党も野党も。特に立憲の方々)に、是非とも保科正之の治世を学んで欲しいものです。
 
 
明暦の大火は、NHKが 2016年1月3日に放送した『ザ・プレミアム 歴史エンターテインメント「大江戸炎上」』の中で再現ドラマにして、信綱を柄本明、保科正之を高橋一生が演じた。
■ところで、佐藤巖太郎氏が『オール讀物』に連載していた「保科正之もの」の中で、何故か『将軍の子』に収録されなかった一篇がある。『オール讀物』2018年1月号に掲載された「所払い」だ。
 
年代的には、正之の青年時代。まだ高遠で養父のもと治政を学んでいた頃の話。当時も今も、治水は政治の要だ。高遠藩で水を争う農民たちの闘争が描かれる。あの、先の養子だった、真田左源太とその妹も登場するらしい。
 
この本が文庫化された際には、是非とも「所払い」も収録してほしいものだ。

2019年9月12日 (木)

映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』

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■最初に、先だってからツイートしてきたものを再録します(一部改変あり)

映画『ニューヨーク公共図書館』を塩尻市の「東座」で観てきた。3時間25分のドキュメンタリー。途中休憩あり。噂に違わず面白かった。何やかや言ってもアメリカの民主主義は「当たり前」なのが凄いな。「図書館は本の置き場ではない。図書館とは人」「図書館は民主主義の柱。図書館は雲の中の虹」
 
 
続き)映画の冒頭、図書館司書が電話で「ユニコーンについて教えて欲しい」という市民に答えている。言わば『人力Google』だ。「中世のある僧がこんなことを書いています。男は外見はオオカミだが、心にユニコーンを飼っている」(ちょっと違うかも?)このシーンから一気に映画に引き込まれていった。
 
 
続き)エルヴィス・コステロの公演インタビューでは、彼の父親(ジャズ歌手)が『天使のハンマー』を歌うビデオが流れた。親子でホントそっくり! あと、コステロが鉄の女サッチャーをケチョンケチョンにけなしていて痛快。(映画ではモノクロ映像で、YouTube とは違う時の演奏だった)
 
 
 
 
続き)アメリカにも「歴史改ざん教科書」問題があったとは驚いた。奴隷をアフリカから働くために移民してきたと記載されていたという。子供たちに奴隷制も公民権運動のことも正しい歴史をきちんと伝えて行かなければならないと、黒人文化研究図書館長は力説する。
 
 
 
 
追補)映画『ニューヨーク公共図書館』。 何でも直ちに検索できるこのネット時代に、図書館なんて存在意義あるの?と思う人はいるだろう。ところが NYPL(ニューヨーク公共図書館)はそれを逆手に取って活動を進める。ネット民はむしろ孤立している。彼らが実際に集まって情報交換する場所を図書館が提供しようと。
 
 
追補)それから、映画を観ていてニューヨークに行った気分になれるのもいい。ぼくは行ったことないけれど。場面のつなぎに必ず街の風景がカットインされていて、○○番街○○丁目という標識がアップで映る。で、ここはハーレムかとか、チャイナタウンかとか何となく分かるのだ。
 

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追補)視覚障害者のための「点字・録音本図書館」で『ロリータ』で有名なウラジミール・ナバコフ『マルゴ』の録音本収録場面。役者志望の青年ボランティアが、感情を込めて「濡れ場」を朗読する。思わず照れてしまって直ちにカット。取り直し。ちょっと笑った。
 
 
追補)ガルシア=マルケス『コレラの時代の愛』の読書会のシーンもよかったな。もうろくしたジジババばかりの読書会だけど、ちゃんと作品を読み込んで来ていて、みな適確な発言をしている。なんてハイブロウなんだ、ニューヨークは。
 
 
追補)ニューヨーク市民の 1/3 が未だにネットにアクセスできないという。このため、NYPLは期限付きだが無料でポータブルWiFi を貸し出している。
 
後半、若き詩人でラッパーのマイルズ・ホッジスが自らの詩をステージ上で暗唱する場面。フロアで赤ん坊が大泣きしている。でも詩人はラップを続ける。その赤ん坊の親も退出しない。他の観客もブーイングもなく真剣に聴き続けている。ニューヨーカーは日本人と較べてなんと寛大なんだ!
 
 
あと、ニューヨークにおける初期のユダヤ人コミュニティが「デリカテッセン」を中心に築かれたという話も面白かったな。
 
 
追補)『利己的な遺伝子』リチャード・ドーキンス博士の講演「アメリカ国民の20%が無宗教で一番多いのに、政治家はキリスト教原理主義者の顔色ばかり伺っている」と怒っていた。「マクロの宇宙もミクロの細胞も突き詰めれば科学的にも詩的にもいっしょだ」とも。
 
 
追補)18世紀のアフリカ・セネガルでムスリムが革命を起こした話。それから、あのマルクスが共和党のリンカーンに奴隷制が労働者の権利を迫害していると手紙を送ったという話。いずれも初めて聞くことばかりで、興味はつきない。
 
 
追補)印象的だったシーン。SF『火星シリーズ』で有名なウイリアム・バロウズの直筆書簡をチェックしている人。詩人イエーツの書簡も NYPL本館に保存されている。それが無料でアクセスできるのだ。凄いぜ! 写真アーカイヴも豊富だ。テーマごとに分類されていて、アンディ・ウォーホルはその写真を何度も盗んだとのこと。
 
 
映画『ニューヨーク公共図書館』を検索していたら発見したサイト。hatenanews.com/articles/2019/ 対談者は「図書館は民主主義の柱」って言うのはどうよ? と発言をしているが違うだろ。ホームレスでもブラックでもメキシコ人の移民でも、アメリカ国民なら誰でも NYPL が収集した知的財産に無料でアクセスできて当然。アメリカ市民はその権利がある。その権利を守り維持してゆくのがニューヨーク公共図書館の義務であるという決意であり心意気なんじゃないのか。それこそ「民主主義」でしょ。
 
 
 
『未来をつくる図書館』菅谷明子著(岩波新書)読了。映画『ニューヨーク公共図書館』に映っていた、そのほぼ全てに関して、この本の中では既に詳しく解説されていた。映画ではよく分からなかった寄付金収集方法も詳細に載っている。2003年刊行で16年前の本だが、図書館のデジタル化に関する記載も映画と同じだ。その情報は、決して古びていない。驚いたな。
 
■映画を観た人は「この本」は必読の書だ。映画のパンフレットよりも断然分かりやすい。あのシーンはこういう意味があったのか! と読みながらいちいち合点がいくのだから。
 
■とにかく長い映画なので、1回しか観てないから記憶違いもたぶん多いと思う。でも、この映画は本当に面白かった! 観察映画の巨匠フレデリック・ワイズマンのドキュメンタリー映画は、今回初体験だった。彼のことを師匠と仰ぐ想田和弘監督の『演劇1』『演劇2』は観た。どちらも、とにかくナレーションも文字テロップも BGMも何もない観客にははなはだ不親切な映画なワケだが、そのためか、逆に観客は真剣にスクリーンを注目せざろう得なくなり、画面に集中することができるのだ。
 
 
映画『ニューヨーク公共図書館』では、頻回に「スタッフ・ミーティング」の場面が繰り返されるのだが、映画では何の解説・テロップっもないから、いったい誰が図書館長なのかが分からない。パンフレットを買って見て、あ、あの饒舌なオジサンが館長さんだったのか! と、初めて分かった。そういう映画なのだ。
 
「ユニコーン」の検索を図書館司書に依頼する男性に続いて、自分のルーツを調べている中年の太った女性が登場する。彼女の祖先は、いったいヨーロッパ大陸の何処から来たのか? すると、図書館司書はいとも簡単にこう言うのだ。「たぶん判ると思いますよ。その人がアメリカに上陸した年月が判れば、当時の移民登録台帳を確認すれば、彼がどの船に乗って来たか判るから、その船が何処から出港したか、たぶん判ります」と。
 
 
ビックリですよね。図書館司書がそこまで調べてくれるとは!
 
図書館の使命はそれだけではありません。失業者のための就職ガイダンスが無料で開催されていて、しかも! 履歴書の書き方から、面接時における対応の仕方まで講師が指導してくれる。「とにかく、大きな声でハキハキと答えましょう!」ってね。
 
 
■大切なことは、NYPL を運営しているのが、ニューヨーク市ではなくて、NPO法人であることだ。図書館の運営資金の半分は、確かにニューヨーク市から貰ってはいるが、あとの半分は、理解ある個人〜法人の寄付金に寄っているということが重要なのだ。
 
だからこそ、時の政府に忖度することなく、右も左も平等に資料を収集し、それを市民に公開している。このことは、本当に重要だと思う。
 
映画の中で、ハーレム135丁目にある『黒人文化研究図書館』の館長が確かこう言っていた(違うかもしれない。ごめんなさい)「赤狩り激しかったころの共和党元代議士○○氏が、当図書館を訪れて公民権運動に関する資料を見て苦虫を噛みつぶしたような顔をした。でも歴史の真実は、未来の子供たちのためにちゃんと保存されて行かなければならない」と。
 
 
 
 

2019年8月15日 (木)

映画『まぼろしの市街戦』

■先日のツイートより。一部改変あり

予約注文してあった映画『まぼろしの市街戦』4Kデジタル修復版 Blu-ray が届いたので久々に見て驚いた! ラストが違うのだ。それと、中学生で見たと記憶していたが、淀川長治の『日曜洋画劇場』で放映されたのは 1974年だから、高校1年だったのか。何か鮮烈なイメージが僕の心に刻印された映画だった。

映画館では観た記憶はない。でもその後もテレビの深夜映画劇場とかで何度か目にした。東京12チャンネルだったか。だから、今回も日本語吹き替えで字幕は消して見たのだ。ところが、テレビ放映ではカットされたシーンが幾つもあって、そこは急にフランス語になってしまう。だから字幕はあったほうがよい。

なぜこの映画が気に入ったのか判った。まだ小学生(いや中学生?)だった頃見てショックを受けた海外テレビドラマ『プリズナー No.6』に登場する、あの「村」と雰囲気がそっくりだったからだ。数字でしか呼ばれないあの村の住人達と、映画に登場する精神病院の入院患者たちが同じだと思ったのかな。何か諦めにも似た住人達の雰囲気が。

ウィキで調べたら『プリズナー No.6』は 1967年制作で『まぼろしの市街戦』の公開後だ。ということは、パトリック・マクグーハンは「この映画」を観ているんじゃないか? って想像してしまう。あと、NHKで放映されたのが1969年だから、やっぱ小学生だったんだ。

■この映画を愛する映画人は多い。面白いのは、そのほぼ全員が、初見は映画館ではなく、淀川長治が解説していた『日曜映画劇場』(1974年11月17日放映)か、その後に東京12チャンネルの午後の洋画劇場もしくは深夜ワクで何度も再放送されたものを見ていることだ。ということは、必然的に世代が近い(当時中学生〜高校生)ことになる。

例えば、生涯のベスト10にも入れている町山智浩さんは 1962年生まれ。ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏は 1963年の早生まれ。映画監督の瀬々敬久氏が 1960年の生まれ。ついでに僕は 1958年生まれだ。

瀬々監督が、前リンク先の対談で言及していた本は、岩井俊二(1963年1月24日生まれ)『トラッシュバスケット・シアター』(メディアファクトリー)。そう言えば、単行本を昔中古(95円税別)で買って持っていたことを思い出し、先ほど納戸から出してきて読んでみた。p19〜p26。岩井監督もやはり仙台で過ごした子供の頃にテレビで日曜日の正午から放送されていた「サンデー映画劇場」で「この映画」で見たと書いている。

ただ、妙に記憶に残っているのにタイトルもわからない気がかりな映画だったと。

ずっと気になっていたが、大学時代、映画好きの友人がこの謎を解決してくれた。この話を聞くや否や彼は声を震わせてこう言ったのである。

「そ…それは…『まぼろしの市街戦』だあぁぁぁぁ!(中略)僕が一番観たい映画なんだよ、それはぁあああああっ!」(同書 21ページより)

岩井監督は「サンデー映画劇場」で見て、未だにタイトルが判らなくて気になっている「もう一本の映画」のことも続いて書いている。その映画には『まぼろしの市街戦』と同じく「サーカスの綱渡りの少女」が登場する。その金髪の少女に妻子ある青年将校が恋をし、二人は逃避行に…… という映画だ。

ぼくは見たことがない。気になって調べて見たら、スウェーデン映画『みじかくも美しく燃え』

という映画が見つかった。このタイトルは聞いたことがあるな。

■ところで『まぼろしの市街戦』Blu-rayディスクで見てみると、初見時の感動をもう一度っていう期待が大きすぎたのか、案外たんたんと見終わってしまった。当時テレビで見た印象的なラストの後に「なんと」続きがあったとは! でも、あれは蛇足だったんじゃないかな。

そう言えば『プリズナー No.6』も Blu-ray が出てすぐ買って、 NHKで放映された「日本語吹き替え版」で見たのだが、やっぱり期待していたほどのインパクトはなかった。思い入れが強過ぎると、往々にしてよくある現象だ。

■今回の Blu-rayディスクには、ボーナス映像として「綱渡りの少女」役のジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド(おばあちゃんになっても凜々しい!)インタビューと、先達て亡くなった撮影監督のピエール・ロム インタビューが収録されている。ピエール・ロムの話でビックリしたのは「主演のアラン・ベイツが撮影途中で足首を骨折してしまい、以降の撮影に難渋した。彼が立っているシーンをよく見てみてごらん。たいてい片足で立っているから」と言っていること。

■それから、今回初めて町山智浩さんの「映画有料解説」(税込216円)をダウンロードして聴いてみた。なんと1時間も『まぼろしの市街戦』について熱く語っている。面白かったのは、フィリップ・ド・ブロカ監督は、バスター・キートン、ハロルド・ロイドと、ジャッキー・チェン『プロジェクトA』『スパルタンX』を結ぶ、代役無しのアクション・コメディーの名手として紹介している点だ。

スピルバーグほか、たくさんの映画監督が「この映画」の影響を受けていると。それから「すべてが逆」になっていること。さすが、じつに深い。映画を見たあとに、ぜひ聴いてみて欲しい。

2019年7月31日 (水)

オススメのラジオ番組

■『長野医報6月号』特集「ラジオは友だち」の続きです。実際に掲載されたものに一部追加しました。ご了承ください。

【コラム】パソコン・スマホでラジオを聴くには

 <radiko(ラジコ)で聴く>

・無料だと、NHK、SBC、FM長野のみ。プレミアム会員(350円/月)になると全国エリアフリーで聴くことができます。

・タイムフリー機能:過去1週間以内に放送された番組を後から何度でも聴くことができます。ただし、1日に3時間まで。でも、NHKの番組はタイムフリーで聴くことができません。

 

<「らじる★らじる」でNHKラジオを聴く>

・「聞き逃し」:過去1週間以内の一部の番組を聴くことができますが、全てではありません。「NHKラジオ第2」の語学番組を繰り返し聴くのにたいへん便利です。

<ポッドキャスト(podcast)で聴く>

・文化放送、ニッポン放送、東京FMは、ホームページから「ポッドキャスト」で番組の一部をいつでも聴くことができます。

・TBSラジオは、「TBSラジオCLOUD」に無料登録すると聴くことができます。

JFNパーク からもFM放送の聴き逃しが聴けます。

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【コラム】 オススメの「ラジオ番組」

1)平日の帯番組

・NHKラジオ第1  『すっぴん!』 月〜金(8:30〜11:50)

  月)サンキュータツオ 火)ダイアモンドユカイ 水)能町みね子 

 木)川島明 金)高橋源一郎、:アンカー 藤井彩子アナ

・NHKラジオ第1  『ラジオ深夜便』 月〜日(23:05〜AM.5:00)

・ニッポン放送『高田文夫のラジオビバリー昼ズ』 月〜金(11:30〜13:00)

・文化放送『大竹まこと ゴールデンラジオ』 月〜金(13:00〜15:30

・TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』       月〜金(22:00〜23:55)

 

2)対談・トーク番組

・FM長野    『坂本美優のディア・フレンズ』         月〜金(11:00〜11:30)

・FM長野     『木村拓哉 Flow』           日(11:30〜11:55)

・NHK FM    『トーキングウィズ松尾堂』松尾貴史  日(12:15〜13:55)

・NHK FM    『岡田惠和 今宵、ロックバーで』   日(18:00〜18:50)

・TBSラジオ  『神田松之丞:問わず語りの松之丞』  金 (21:30 - 22:00)

・TBSラジオ  『久米宏 ラジオなんですけど』    土 13:00 - 14:55)

 

3)音楽番組

・FM長野    『山下達郎 サンデー・ソングブック』  日(14:00〜14:55)

・SBCラジオ  『星野源のオールナイト・ニッポン』   火(25:00〜27:00)

・FM長野    『村上RADIO』 村上春樹   日曜日の不定期放送(19:00〜19:55)

・NHK FM    『ディスカバー・マイケル』 西寺郷太  日(21:00〜22:00)

・NHK FM    『夜のプレイリスト』 月〜金(24:00〜24:50、再放送18:00〜18:50)

・NHK FM    『ジャズ・トゥナイト』 大友良英    土(23:00〜25:00)

・FM長野    『汐入規予 I’m with You』         土(18:00〜18:30)

 

4)ラジオドラマ 

・FM長野    『NISSAN あ、安部礼司〜BEYOND THE AVERAGE〜』 日(17:00〜17:55)

・NHK FM   『青春アドベンチャー』      月〜金(21:15〜21:30)

・NHK FM   『FMシアター』         土(22:00〜22:50)

・FM長野    『Yes! 明日への便り』  語り:長塚圭史  土(18:30〜19:00)

5)映画情報 

・TBSラジオ  『赤江珠緒たまむすび』 町山智浩「アメリカ流れ者」火(15:00〜15:20)

・TBSラジオ  『アフター6ジャンクション』 ライムスター宇多丸「週間映画時評ムービーウォッチメン」金(18:30〜19:00)

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