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2021年12月 1日 (水)

映画『海辺の彼女たち』を、赤石商店で観てきた

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■日曜日に伊那市「赤石商店」で映画『海辺の彼女たち』脚本・監督:藤本明緒(2020年/日本=ベトナム 88分)を観てきた。ずっと見たかったのだ。期待以上だった。劇映画なのだが、出演者がみな自然な演技をしていて、撮影はハンディ・カメラだし、ドキュメンタリーかと見紛う出来だ。これは、佐々木昭一郎の演出手法だね。

この映画は、観客の五感をことごとく刺激する。ベトナムから3ヵ月前に技能実習生として来日した若き女性3人。超ブラックの職場を早々に脱出して、同国出身の闇ブローカーの斡旋で北の海辺の寒村へと派遣される。在留身分証明書も保険証もない不正滞在労働者となって。そんな危険な身にに陥ってまでも

彼女等は本国で貧乏な両親と弟妹たちに仕送りしなければならない責務があるのだった。もちろん、闇ブローカーの男は法外な仲介料を請求する。保険証がないから、病気になっても医者にはかかれない。

■フェーリーに乗って逃避行した彼女らは、港に到着後さらにワンボックス車で長距離移動。ようやく到着した雪深き海辺の寒村は青森か?

 彼女等は腰まで一体化された長靴(天竜川で鮎釣りしてる人が履いるヤツね)で、厚手のゴム手袋はめて漁船から水揚げされたイワシを選別する。もしくは網に取り付ける丸い大きな「浮き」にこびり付いたフジツボをノミでこぎ落とす作業。彼女らは雪降る堤防わきに座って、ただ黙々と専念する。寒いだろう、冷たいだろう。

スクリーンから、彼女等の長靴の中の足の小指が、しもやけになる冷たさと、頬に突き刺さる北風が僕の肌でも感じられた。あと、主演のホアン・フォン(彼女の演技がホント素晴らしい!)がお腹痛いのを我慢しながら、病院を探して延々と街を彷徨うシーン。

ここは見ていてほんと辛かったな。もういいよ、もういいよって、画面を見ながら思わず願っていた。

そうして、ようやく辿り着いた総合病院。はたして事務受付で偽造保険証を見破られないか? 見ていてハラハラした。よかった!大丈夫だ(でも、医療従事者としては、それほど日本の保険医療機関は甘くはないぞ!とも思うけれど。)

外来はエレベーターで5階だ。そこで診察してもらって聴く「ある音」に、彼女は涙する。ここは泣けたな。夜遅く飯場(はんば)に帰り着いた彼女は、ストーブの上の鍋で煮えたスープをカップによそって啜る。彼女の舌が感知するスープの熱さと故郷の味。判るよ!

■映画『海辺の彼女たち』の感想追補。 観客の「五感」を刺激する映画だと言いつつ、嗅覚については触れてなかったな。それは彼女等の作業場に漂う魚の生臭さだ。フォンは途中で耐え切れなくなって、雪の上に嘔吐する。あと、ラスト近くのスープのにおい。何故かナンプラーとパクチーの匂いがした。

■上映時間が88分しかない映画の中で、異様にむだに?長いシーンが2つあった。それが主演のフォンが弘前の町を延々とさまよう場面と、この夕食の場面だ。ここには間違いなく監督が一番言いたいメッセージが込められているのであろう。だからこそ観客はみな固唾を飲んでスクリーンを見つめるのだ。

この夕食の場面。いろいろな思いが交錯する。ベトナムから一緒にやって来た仲間二人の思い。映画をずっと観て来た観客の思い。そして当事者フォンの思い。人間どんなに辛い事があっても「おなか」はすくのだ。生きてるから。明日も生きてゆかなければならないから。そんな覚悟が彼女の瞳に表れていた。

■そのことを僕が実感するのは、自分の母親が死んだ時と、受け持ち患者さんが亡くなった日のことを思い出していたからだ。こんなに辛いのに、こんなに申し訳ないのに、それでも俺の腹は空くのか! そんな絶望的な気分に陥ってしまった「あの日」のこと。

映画のポスターに書かれているキャッチコピーにはこうある。そういうことだ。

--- 生きていく。この世界で ---

■さらに追補。

映画のロケ地が弘前だったかどうかは分かりません。ただ、弘前駅から町の中心街へはかなり遠くて、バスに乗らないと無理です。冬の弘前は学生の時に一度だけ行ったな。

ジャズ喫茶「Suga」が繁華街の近くにあった。この日は弘前市民会館でマービン・ピーターソンのライヴを何故か聴いた覚えがある。もう1軒寄ったジャズ喫茶は「オーヨー」だったかな? いや『仁夢』か。

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