『そこのみにて光輝く』佐藤泰志(河出文庫)
■忘れられた作家「佐藤泰志」の名前を初めて知ったのは、岡崎武志さんのブログでだった。まだ『海炭市叙景』の映画が完成するずっと前のことだたと思う。それ以来、函館出身の作家、佐藤泰志氏のことが気になっていたのだ。で、小学館文庫からでた『海炭市叙景』と、河出文庫の『君の鳥はうたえる』を読んだ。
そして、なんか気に入ってしまったのだ。佐藤泰志。この人、いいんじゃないか?
というわけで、3作目『そこのみにて光輝く』(河出文庫)を読了した。じつにいい小説だった。第一部の鮮烈なラストにも驚いたが、ぼくは案外「第二部:滴る陽のしずくにも」が好きだ。
達夫は鉱山師の松本から潮風でボディに穴の空いた廃車寸前の車を4万円で買うが、エンジンがちっともかからない。仕方なく前の持ち主である松本を呼び出す。松本は、ほとんど「あうん」の呼吸の域まで達した男と女の機微みたいな感じで、運転手とじゃじゃ馬みたいな癖の強いボロ車のエンジンとの駆け引きを、無駄のない言葉で淡々と達夫に伝授する。この場面で2人の関係が一気に親密になるのだ。ここを読んで、佐藤泰志は巧いなぁと思った。
この「第二部」は、神代辰巳監督作品の『アフリカの光』を思い出させる。田中邦衛とショーケンの、どうしようもない男二人組。拓児はショーケンだ。絶対に行けもしないアフリカを夢見ている。金鉱を掘り当てて、一攫千金の人生が待っていると、じつはマジで信じているのだった。そういう拓児を、主人公の達也と山師松本は、困ったなぁと思いながらも決して排除(仲間はずれ)しないのだった。
達也が海岸で自分の人間関係に思いをはせるラストの余韻もいい。ほんといい。
以下、ツイッターからの転載。
・『そこのみにて光輝く』佐藤泰志(河出文庫)を読み始めた。最初の部分は単行本を高遠町図書館から借りてきて、ずいぶん前に読んでいたのだが、文庫本を買ったので改めて読み始めた。猛暑の8月、函館は海岸通りが舞台だ。紫陽花と桔梗が同時に咲いている。「このあたりの地図」は『海炭市叙景』を読んで知っているのだよ。
・読みながら何だか懐かしい気分がしてくる。知ってる場所、知ってる人たち。主人公の達也。市場で行商をしていた父母は既に亡く、肉親は妹のみ。11年務めた造船所を早期退職して今は無職だ。これって映画版『海炭市叙景』の「まだ若い廃墟」兄妹の、あり得たかもしれない別バージョンじゃないか。
・この小説『そこのみにて光輝く』を映画化するとしたら、キャスティングはどうなるのか? 岡崎武志さんは、拓児:松山ケンイチ、達夫:妻夫木聡、千夏:小雪とすれば、ぜったい客が入るラインナップと書いているが、何だかそれじゃぁ『マイ・バック・ページ』じゃん。小雪はないだろ、絶対に。松山ケンイチと実の夫婦なんだから。
・ぼくのイメージでは、主人公の達夫は、西島秀俊か加瀬亮で、拓児はう〜む分からん。問題は千夏だ。難しい役だな。グラマラスなイメージはない。体躯は細身だ。キツイ目付きが魅力的なので、個人的には、梢ひとみか宮下順子なのだが、今のところ土屋アンナの雰囲気で読んでいる。ちょっと違うか。
・佐藤泰志『そこのみにて光輝く』(河出文庫)読み終わった。これはいい。好きな小説だ。暫く余韻に浸っていたい。どうもこの人の文章のリズム・テンポが僕に合っているのだ。タッタッタと一定のペースで走っている感じ。それにジャズの間合い、呼吸の感じ。そんな彼の文章がとても心地よいのだ。
・佐藤泰志『そこのみにて光輝く』が、もしも映画化されるとしたならば、そのキャスティングはこうだ! この際、NHK朝ドラ『おひさま』組でいったらどうか? 達夫:髙良健吾、千夏:満島ひかり。拓児:柄本時生。松本:串田和美、松本が別れた元妻:樋口可南子。拓児の母親:渡辺えり子。
■■この本に関して「ブクログ」に載った感想の中に、「ライトにした中上健次っていう感じ」というのがあって、上手いこと言うなぁと感心した。なるほど、当時の作者のねらいはそうだったのかもしれない。でも、ぼくがいま読んでみて感じたのは、中上健次の小説とはぜんぜん違った肌ざわりだった。(つづく)
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