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2011年8月16日 (火)

『ジェノサイド』高野和明(角川書店)読了

■『ジェノサイド』高野和明(角川書店)を昨夜11時54分に読了した。
 足かけ3日で一気に読んだ。

「ページターナー本」とは、まさにこの本のことを言うのだな。
それから、壮大なスケールの「ホラばなし」であるということ。しかも、
「ホラ」であることは読者は判りきっているのに、読み込むうちに何時しか「リアル」にこの物語を信じ始めるのだった。これって、結構スゴイことじゃない?


こういうワールドワイドな冒険小説の傑作本が日本から生まれるとは、ビックリだ。


ふと思い返してみて、これほど読者の予測を裏切って最後まで圧倒的なリーダビリティを保証した日本の小説が最近あっただろうか? 個人的に思い出す小説は、『安徳天皇漂海記』宇月原晴明(中公文庫)か、『ワイルド・ソウル』垣根涼介(幻冬舎文庫)、あとは『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎(新潮文庫)ぐらいか。


それくらい『ジェノサイド』という小説は「大ホラ本」であるのだが、現代社会の矛盾をとことんまでリアルに追求した「ノンフィクション本」的な要素も多大に秘めている点が注目に値する。特に、プロローグから登場するアメリカ大統領バーンズは、ジョージ・ブッシュその人であり、副大統領のチェンバレンは、ブッシュ政権でのチェイニー副大統領を彷彿とさせる。


それから、いつまでたっても人間同士で殺し合いを続ける現世人類の「どうしようもないイヤな面」を、作者はこれでもかと見せつける。それは小説のタイトルとも呼応しているのだった。


■ただ、こういう荒唐無稽な構造を小説内に形成すると、直ちに小説のリアリティが瓦解ししてしまい、読者は小説についてきてはくれない。そのあたりの塩梅が、作者は巧みなのだった。巧妙に複線が張ってあって、ミスディレクションの罠もあるし、読者を煙に巻きながらもグイグイと引っ張って行き、終板に向けてその複線たちがみな見事に収拾されてゆき、破綻のない納得のいく物語となっている。いやはやまったく、この作者はただ者ではないぞ!


それから、CGを使ってレセプター(受容体)の立体構造を見極め、そこに結合して本来の反応をブロックする物質をコンピュータ上でデザインして新薬を開発する方法は実際にいま盛んに行われている。例えば、抗インフルエンザ薬の「タミフル」はまさにそうやって開発された薬だ。

インフルエンザ・ウイルスは最初「ぶどうの房」のようにつながって出来るのだが、ヒトの細胞から出るときに、ノイラミダーゼという酵素が「ふさ」をちょん切って1粒づつのウイルス粒子となって外に出て行く。「タミフル」は、インフルエンザ・ウイルス表面にあるノイラミダーゼが結合する部位に先にくっついて、酵素が反応できなくさせるのだ。

このため、ヒトの細胞内でウイルスがどんどん作られても、みんな「ふさ」でつながったままになり、細胞の外へ新たにウイルスが出て行けなくなる、という仕組み。じつによく考えられているのだった。

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