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2021年2月

2021年2月28日 (日)

『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ著、友廣純訳(早川書房)

■最近ツイートした本の感想をまとめておきます。

なかなか読み進まない(酔っぱらうと、ツイートはできるが本は読めない)『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ著、友廣純訳(早川書房)だが、まだ120ページ。史上最低の父親は NHK朝ドラ『おちょやん』のテルヲか、はたまた本書のヒロイン、カイアの父親か? 今のところいい勝負だな。
 
あと、男も女も LGBTQの人も在日外国人も、みんな読むといいよ『さよなら、男社会』尹 雄大(亜紀書房)。日本という国に住む「居心地の悪さ」の原因が判ったような気がした。戦前の日本陸軍、オウム真理教の上九一色村サティアン、連合赤軍の榛名山のアジト。児童虐待、夫から妻へのDV。みな同じだ。
 
たったいま、『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ著、友廣純訳(早川書房)を読み終わった。いやあ、参った。ちょっと例えようがない小説だ。著者が70歳にして初めて書いた小説だという。ミステリーの体裁をとっているが、いやいやもっと怖い小説だ。
 
小説の舞台となるノースカロライナ州の海岸端の湿地帯は、アメリカ南部とはいえ、昔読んだロバート・マキャモンの『少年時代』『遙か南へ』ジム・ジャームッシュの映画『ダウン・バイ・ロー』の舞台ミシシッピ川河口よりは、ずいぶん北東になるな。でも、ボートで湖沼を行く様は、あの映画と同じだろう。

Img_2308

(写真をクリックすると、もう少し大きくなります)
地図上の【B】の「矢印の先」あたりが、小説の舞台のモデルとなった「ディズマル湿地」
 
そういえば、小説『地下鉄道』の主人公の少女も、確かノースカロライナで大変な目にあうんじゃなかったっけ、忘れちゃったけど。読みかけのまま止まっている『拳銃使いの少女』(ハヤカワミステリ)も同じだけど、虐げられた少女が1人孤独にサバイバルして、理不尽で過酷な運命に立ち向かう話。
 スカッパーは続けた。
「詩は軟弱なものだなんて決めつけないほうがいい。もちろん甘ったるい愛の詩もあるが、笑える詩もあるし、自然を題材にしたものもたくさんある。 戦争の詩だってあるんだ。肝心なのは----詩は人に何かを感じさせるという点だよ」
 
 テイトは幾度となく父から聞かされていた。本物の男とは、恥ずかしがらずに涙をみせ、 詩を心で味わい、オペラを魂で感じ、必要なときには女性を守る行動ができる者のことを言うのだと。
 
『ザリガニの鳴くところ』(早川書房) 70ページより引用。
『ザリガニの鳴くところ』追補。この小説では「クズ男たち」が徹底的に糾弾される。人間の男女の関係が特別視されることはない。鳥も昆虫も、この世界に生きとし生けるもの全ての雄と雌の関係と人間だって同じなのだ。主題は、同時に読んでいた『さよなら、男社会』尹 雄大(亜紀書房)と同じだった。
季刊誌『MONKEY vol.23』より、ルイス・ノーダン『オール女子フットボールチーム』を読む。めちゃ変な小説。男女の役割が完全に逆転している。主人公はアメリカ南部ミシシッピ川三角州に暮らす16歳の高校生。父親はペンキ職人でDVでアル中で無口な典型的南部の男『ザリガニの鳴くところ』の父親と同じ
 
 
古き良きアメリカの高校生といえば、高校対抗のアメフトの試合であり『バック・トゥー・ザ・フューチャー』のダンス・パーティだ。この短篇小説は、主人公の青年が体験する「よくある話」のはずが、彼の父親の介助によって、信じられないようなファンタジーの世界へと昇華される。そこが凄い。
 
 
そして彼は『はらぺこあおむし』の主人公と同じように見事に蝶に変態して羽ばたくのだ。僕はアメフトは不案内で、ハーフタイムに繰り広げられる応援合戦とか歌とか踊りとか分からないのだが、この小説を読んでいて、この場面はめちゃくちゃ気分が高揚した。 この父と息子の他の短篇もぜひ読んでみたい
 
 とにかく『ザリガニの鳴くところ』→『さよなら、男社会』尹 雄大(亜紀書房)→『オール女子フットボールチーム』を読んだ順番は、なんか必然だったんじゃないかと思えたな。
 
アメリカ南部、ミシシッピ河口近くのデルタ。ニューオリンズ近郊。ガンボにジャンバラヤ。いつかは本場で食ってみたい。映画は『ダウン・バイ・ロウ』。小説では『遙か南へ』だ。すっかりストーリーを忘れてしまったけど、確か、エルヴィス・プレスリーが登場した。
 

2021年2月21日 (日)

今月のこの1曲 吉田美奈子『ラスト・ステップ』


YouTube: last step 山下達郎・吉田美奈子 /covered by flexlife

■このところの「ヘビロテ」楽曲が、吉田美奈子『Flapper』に収録されている「ラスト・ステップ」。

山下達郎が提供した曲だ。聴いていてホント、気持ちイイ!

YouTube には、残念ながらオリジナルの吉田美奈子ヴァージョンはなかった。代わりにアップしたのは「flexlife」という、青木里恵(Vo)、大倉健(g) という男女2人組のユニットのカヴァー。雰囲気はよく出ているな。しかも、ギターの大倉さん。絵本作家で「トラや帽子店」メンバーだった「中川ひろたか」さんにそっくり! 最初見た時、てっきり中川ひろたかさんが弾いているとばかり思ってしまったよ。

■この曲は、山下達郎がシュガーベイブ時代に作った曲らしい。本家、山下達郎ヴァージョンが上がっていた。これだ。


YouTube: Tatsuro Yamashita (山下達郎) - ラスト・ステップ

 
YouTube: 山下達郎 - Last Step

■ところで、この「んぱ、んぱぱっ」というリズムは、一般的には「シャッフル・ビート」と呼ばれている。オフ・ビート(2拍、4拍)が強調されて跳ねる感じのリズムなのだが、ジャズの「スウィング」と違うのは、スウィングが4拍子の単なるあと乗りビート(んぱ、んぱ)なのに対して「シャッフル」は同じ4拍子なんだけれど、3連符が「タタタ、タタタ、タタタ、タタタ」と細かく刻んでいるのが違う。

スティーヴィー・ワンダーの「Isn't She Lovely」を聴くと、この3連符がよくわかる。マービン・ゲイ(ジェームス・テイラー)の「How Sweet It Is (To Be Loved By You)」も、おんなじだ。ドナルド・フェイゲン『ナイト・フライ』の1曲目「I.G.Y」も、レゲエっぽいけど、同じだね。


YouTube: Isn't She Lovely

この、決めの「タタタ、タタタ、タタタ。タッタ!」がね、気持ちいいんだよ。


YouTube: James Taylor - How sweet it is (to be loved by you)


YouTube: I.G.Y.

シャッフル・ビートを取り入れた楽曲は、他にもいっぱいあるぞ。

検索したら「こんなサイト」が見つかった。

https://sakkyoku.info/theory/shuffle-rhythm-songs/

2021年2月 6日 (土)

水谷浩章(ベース)× 夏秋文彦(鍵盤ハーモニカ+α)at the 「黒猫」

■2年半前のツイートを探し出してまずは以下に再録。
 
今夜は、赤石商店で「助川太郎 ソロギター ワールド」のライヴ。
 
オープニングアクトで、赤石商店で毎週土曜日の夜に出張カレー食堂「マクサンライズ」を開いている(めちゃくちゃ美味しい!)幕内純平さんが「口琴」の即興ソロを3曲披露してくれた。初めて聴いたが、これまた凄かったな。完全アコースティックなのに、ピコピコの電子音楽みたいな不思議な響き
 
続き)なんていうか、初めてエヴァン・パーカーのソプラノ・サックスを聴いた感じと同じような音楽だった。そう「倍音」の響き。口琴て、奥深いんだ。
 
 
続き)エヴァン・パーカーと言えば、最後に助川太郎さん、幕内さんと共にゲストとして登場した不思議なおじさん。3人で完全な即興演奏を繰り広げたが、一人アートアンサンブルオブシカゴを演じている感じの「このおじさん」も凄かったぞ。「鍵盤ハーモニカ」を「循環奏法」で吹いていたんだよ。
 
続き)ぼくは知らない人だったので帰宅後に検索したら、夏秋文彦さんだった。この伊那谷で農業をしつつ演奏活動を続けているとのこと。鍵盤ハーモニカでサーキュラー・ブリージング(循環呼吸)奏法とは、ビックリ。
 
この人です!
 
 
 
■で、今夜は伊那市「黒猫本店」で、その噂の、夏秋文彦さんと、2年前から伊那市在住のプロのジャズ・ベース奏者:水谷浩章さん(大友良英s' New Jazz Orchestra や、ジャズピアニスト:南博カルテットなどに参加)の完全な即興デュオ演奏のライヴがあって、聴きに行ってきた。
2年半ぶりでの夏秋文彦さんのナマ演奏だ。いや良かった凄かった。期待以上だった。ジャズのインプロヴィゼーションとはちょっとアプローチが違うので、最初は、夏秋文彦さんが勝手に自分のペースでずんずん演奏するのを、手探りながらも水谷浩章さんのベースが絡んでゆく感じ。
 
リズム感・タイム感覚がちょっと違う? でも、中盤から後半は二人の波長が次第に合ってきて、はっとする瞬間が何度もあった。心地よい緊張感。寒かったけれど、ああ、聴きに行ってホントよかったよ。
それにしても、夏秋文彦さんて、鍵盤ハーモニカ界の「ローランド・カーク」& 一人アート・アンサンブル・オブ・シカゴだよなあ、って改めて感動しました。 凄いぞ! 鍵盤ハーモニカの「サーキュラー・ブリージング」奏法(まったく息継ぎせずに、延々と吹き続ける奏法。鼻から息を吸いながら同時に口から息を吐く。そんなこと出来るのか? いや、できるのです)。
 
さらには、口琴、親指琴(カリンバ)、木の物差し?、ストレッチ用の板状ゴム(両手で伸ばしたり縮めたりしながら、まん中を口にくわえて、ビヨンビヨン音を出す)などなど、様々な楽器?も次々と演奏した。
 
あとラストの前の曲では、いきなり四国八十八ヵ所巡礼に持つ「弘法大師の杖」みたいな不思議な長い楽器をトントン地面に突きながら、やおらリードをくわえると、実はこれが「バスクラ」のオバケみたいなリード楽器(既製品)だったんだ。その不思議な音色といったら。
 
ちょっと、太古の地球に住んでいた人類の祖先が奏でた音を想像してしまったよ。
今回は、主役の夏秋文彦さんを立てる形で、サブに徹した水谷浩章さんだったが、もっともっとハイ・テクニックなベース・ソロを聴いてみたかったぞ。
観客の中には、伊那谷が誇るジャズ・アルトサックス奏者の太田裕士さんや、ギターの北川哲生さんも聴きに来ていた。次回は、富士見町在住のジャズ・ドラマー、橋本学さんも交えて、皆でセッションして欲しいな。期待しています!
 
追伸:あ、そうそう! 終演後「北原さんですよね!」と声をかけてくれた男の人がいた。マスクが大きくて僕は誰だか分からなかったのだが、「幕内です。赤石商店で『マクサンライズ』ってカレー食堂をやってた。」「あっ!! あの、口琴奏者の幕内さん? 八ヶ岳の向こうに引っ越した?」
 
そう、あの僕らが大好きだったインドカリーを作ってくれていた、幕内純平さんだったのだ。久々の再会。いや、嬉しかったなあ。
 
それにしても、あの絶品カレーをもう一度ぜひ食べてみたいものだ。
■このライヴを「伊那ケーブルテレビ」が取材に来て録画して行った。前半終了後の休憩時に、演者にインタビュー。「今回の演奏は全くの即興演奏だったのですか? 前もって何も打ち合わせとかせず」「ハイ。そうです」
 
 
インタビュアー:「夏秋さんが演奏する音楽は、民族音楽なのですよね?」 夏秋:「いや、違います。現代音楽です!」このやり取りには笑ってしまったよ。
 
「お名前と年齢を教えていただけますか?」 夏秋:「今年還暦です。」水谷:「58です」
 
なんだ、ぼくより若かったのか! まいったな。 
 
 
 
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