ハチドリの物語『私にできること』
■2016年1月13日(水)の信濃毎日新聞夕刊のコラム『今日の視角』。担当は落合恵子さん。ネットでは読めないので、一部転載させていただきます。
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「ハチドリ」
年下の友人が亡くなった。自転車にぶつけられて、その痛みがなかなかとれないと言っていたのだが、痛みの原因はほかにあったのだ。(中略)
少女の面影が残る彼女だが、口癖は「ハチドリは踏ん張るからね」。
「ハチドリのひとしずく」の話はご存知と思う。
森が燃えさかっていた。森の生き物たちは必死で逃げていく。自然の逃走本能が彼らを急がせる。
しかし、クリキンディという名前の小さなハチドリだけは逃げることはなかった。クチバシに水を含んでは往復して、燃えさかる炎の上に落とすのだ。そんなことをしてもどうにもならない、と逃げることを促すほかの動物たちに、ハチドリは答える。「自分にできることをしているだけ」。彼女はこの話が好きで、自分をハチドリにたとえもした。鳥類の中でも身体が最も小さなグループであるハチドリである。
さまざまな未決の問題が、わたしたちの目の前に山積みになっている2016年。新しい年、といった晴れやかな気分にはなれずにすでに1月は半分近くたってしまった。それでも、と彼女のきれいな遺影に手を合わせながら誓う。
時に忍び寄る「わたしひとりがやったところで」という意識。それに自分を明け渡すことは、わたしたち自身の生存権、「自分が紛れもなく自分自身であること」を諦めることでもあるのだ、と。
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■この「ハチドリの物語」を、恥ずかしながらぼくは知らなかった。検索してみたら、『私にできること 地球の冷やしかた』(ゆっくり堂)が見つかった。この本のことを、落合恵子さんは 2005年6月1日の信毎夕刊『今日の視角』で取り上げていたのだ。
この小冊子自体を手にしてないので分からないのだが、本が出版された本来の意味は「地球温暖化防止」だったようだ。
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■TBSテレビで、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』をドラマ化し、現在放送中だ。この小説は読んだ。ずしりと心に残った。調べてみたら( 2006/11/15, 11/23, 11/25 )に感想が書いてある。おぉ、ここにも落合恵子さんの「今日の視角」の話が。
この小説では、自分の意志とは関係なく、あらかじめ決められた運命を静かにただ受け入れる若者たちの諦観が描かれている。もちろん、わずかな望みに全てを託す努力はする。それがまた、あまりにも切ない。
■先だってのSMAP独立・解散騒動を見ていて、なんともやるせない気分になってしまったのだけれど、この『わたしを離さないで』や、先日観てきたお芝居『消失』のこと、それに菊地成孔氏が『時事ネタ嫌い』の「あとがき」で言っていた「炭鉱のカナリア」の話が妙にシンクロして、このところずっと暗く落ち込んでいたのだ。そうは言っても、「炭鉱のカナリア」でもあることも大切だが、ぼくも「ハチドリ」になりたい。そう思い直して、明日からまた、諦めずに生きて行こうと思いを新にするのだった。
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