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2013年3月22日 (金)

想田和弘監督作品・観察映画『演劇1』『演劇2』感想(その3)

■『演劇1』のファーストシーン、アゴラ劇場の稽古場で3人の役者が『ヤルタ会談』の稽古をしている。役者の実に些細なセリフの言い回しや間合いに何度も「ダメだし」する平田オリザ。その度に、役者たちは同じシーンをはじめから何度でも繰り返す。しごく当たり前のように。観客はまずここでビックリする。


次のシーン。どこか地方の体育館。平田氏が「演劇ワークショップ」を行っている。”エアー長縄跳び”の実演だ。平田オリザは言う。


「演劇ってのは基本的にこのイメージを共有するゲームなわけです。舞台上でなんかやってて観客が観てるわけですけど、これしょせん嘘ですから。裸の大様みたいなもので、子供がとことこ入ってきて『なんか一生懸命やってるけど、ここ劇場じゃないか』って言ったらシラケちゃうような、架空のイメージを作る仕事ですね。ただ、このイメージが上手く作れると、それが伝わって観客もあたかもそういう世界で生きているような気分になる。」


この説明を聞いていて、あぁ、落語と同じじゃん。そう思った。もしかして平田オリザは、先代の「桂文楽」を目指していたんじゃないかな。何度でも、同じ演目を数秒違わず再現して見せた桂文楽をね。

実際、ぼくは映画を観ながら、ドキュメンタリー映画『小三治』のことを思い出していた。あの映画も、3年半にわたって被写体に密着し撮影を続けたドキュメンタリーだ。こういう映画って、監督の直向きな「被写体への愛」がなければ絶対に完成しないんじゃないか。


■平田オリザ氏は「まさか自分が生きているうちに、自分のドキュメンタリー映画ができるとは思ってもいなかった。」と書いているが、じつは「似たような番組」をテレビでは毎週日曜日の夜にやっている。TBSの『情熱大陸』だ。

最近『笑っていいとも』のテレフォン・ショッキングに登場した「ノマドワーカー」の姉ちゃんも、確か「あの番組」を足掛かりに名前を売った。有名になった。かっこいいナレーションに、葉加瀬太郎のテーマ曲が被さって、彼女が颯爽と街をかっ歩している映像がテレビで流れた。

『情熱大陸』の毎日放送スタッフは、相当しつこく時間をかけて取材を続けるのだそうだ。たしか、中川ひろたか氏がそう言ってた。でも、たかだか30分番組で、CMタイムを差し引くと正味何分だ? で、あのナレーションとBGMだろ。だから、なんか毎回みんな「おんなじ雰囲気」になっちゃうんだよ。


そうじゃないんだ。

本来のドキュメンタリー映画ってぇのはね。

想田和弘監督は、きっとそう思っているに違いない。

だから彼は、ナレーションも、テロップも、BGMも使わない、こだわって作った「観察映画」と言うのだろう。


■ただ、テレビの『情熱大陸』では、必ず被写体の「私生活」にTVカメラが潜入する。オンとオフ、その両方をカメラに収めるためにね。

そういうふうに見てみると、映画『演劇1』『演劇2』に、平田オリザの「オフシーン」は、ほとんど撮影されていないことに気がづく。電車のシーンだって、ましてや寝ているシーンだって、平田オリザにとっては「オン・タイム」なのだ。そこが、この映画のものすごいところなのかもしれない。


平田オリザの私生活が唯一垣間見えるのが、大阪大学でのロボット演劇の場面で初めて登場する平田オリザ氏の妻が語るシーン。この場面が撮影させた2年後、平田氏は彼女と離婚している。

そういう「大切なこと」は、この映画では一切説明されない。平田オリザは、「平田オリザ」という公的な役柄を「この映画」の中で、ただひたすら演じ続けているのだな。

いや、たぶん平田オリザ氏は「オフタイム」だって全く変わらぬあの笑顔のままで、何にも変化ないんじゃないか? その直向きさ、一生懸命さに、観客である僕らは感動するんじゃないか。


■あと、この映画で隠されている「トリック」がもう一つあって、まだ民主党政権が誕生する前に撮影されている「この映画」の中で、当時の民主党参議院議員、松井孝治氏が暗躍しているのが、確かな証拠として映っているのだが、

このあと、民主党は選挙で大勝し鳩山政権が誕生するワケだ。鳩山さんの元で内閣官房副長官となった松井孝治氏は、民間から人脈をいろいろと参入させた。平田オリザ氏がその筆頭だ。あと、湯浅誠氏やさとなお氏にも声がかかった。


フランス政府のように、文化資源に関して最大限の予算を配布するのと、真逆な政策(事業仕分けとして)を打ち出す民主党政権の中にあって、いったい平田オリザ氏はどのように行動してきたのか?

ぼくは「この点」を最も知りたかったのだけれど、この映画では語られることはなかった。アゴラ劇場は、はたして文化庁から、東京都から「拠点施設」としての特別支援事業として、予算が認められたんだろうか?


いずれにしても、これらのことはみな、取材撮影が終了した後の出来事のワケで、文句を言っても仕方ないことなんだけれど、ぼくのこうした疑問に、観察映画『演劇3』として、想田監督がはたして答えてくれるのかどうかは定かではない。


そのあたりのことは、『演劇 vs 映画 --- ドキュメンタリーは「虚構」を映せるか 』想田和弘(岩波書店)に書かれているんだろうか?

とにかく、読んでみなくちゃね。


それから、『演劇2』のラストシーンで平田オリザ氏が着ている黒いTシャツ。「ツール・ド・フランス」の公式ロゴが入っているな。めずらしくオシャレ。フランスみやげかな。 

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