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2012年8月18日 (土)

映画『おおかみこどもの雨と雪』を見てきた

■いろんな人が誉めていたのでね、これは映画館で見ようって、決めていたんだ。そしたら、伊那「旭座」で上映中じゃん。で、お盆休みの最後の日に妻と次男と3人で見に行ってきた。

アニメ映画なのに2時間もあったから、旭座の座席が例によってスプリングが硬く、尻が痛くなってしまいちょっと辛かった。でも、映画は2時間全く飽きさせることなく面白かったぞ。

ネタバレなしで感想を書くのは正直不可能な映画だ。

でも、見て直後の感想をツイッターに書いたので、以下に載せます。

今日の午後、伊那「旭座」に映画『おおかみこどもの雨と雪』を見に行く。木曜サービスデイで、大人1200円、中学生1000円だった。ラッキー。映画は泣けた。なんか切なくってやるせなくって……。無償の愛。子育てって、そういうものかもしれないなあ。

あと、ラストで流れるアン・サリーの歌がよい。子育て真っ最中の母親の気持がよくでていた。こんなにもこんなにも、子供たちのことを思ってあげてるのに、一人で勝手に大きくなったみたいな気になって、家を出て行く。


YouTube: おかあさんの唄【歌ってみた】おおかみこどもの雨と雪/主題歌

0歳児と5歳児の母であるらしい「愛書婦人会」さんの感想を読んだが、う〜む。なんか違うんじゃないか。クーヨンもシュタイナーも本筋とは関係ない。大切なことは、おおかみこどもは確かに「あっ」という間に大きくなるけど、人間の子供だって、あれよあれと大きくなるよ。親子が同じ屋根の下で暮らす、いっしょにいる期間、時間て、じつは本当に短いんだよ。

だからこそ、いまここの親子の時間を、子供たちも、母親もそれぞれに掛け替えのない、二度と戻らない切実な時間として大切に忘れないで欲しい。そういう映画なんじゃないか。

■ネットでこの映画の感想をいろいろと読んでみたが、思いのほか賛否両論だったので驚いた。確かに僕自身も見ながらいっぱい引っかかる点がある映画だったので、大絶賛するつもりはなかったのだが、それでも大いに感心したから「4つ星半」を進呈する。

正直、子供を育てたことのない独身の若者には「わからない」映画だと思った。ただ、もしかして勘違いし、子育てしてみたいなぁ、なんて思った若者もいたかもしれない。そしたら儲けもんだな。

意外だったのが、案外、現在子育て真っ最中の「おかあさん方」の評価が厳しいことだ。あれだけ「母親礼賛」の映画だというのにね。

で、つらつら考えを巡らせてみて気が付いたのだが、彼女らは、近い将来訪れるであろう「子別れ」をリアルに想像できないのではないか? ということ。

■少子化のこの時代、最も成功した子育ての結果として、ロンドン・オリンピックを見た人が何人いただろうか? たぶん、何万人もいたんじゃないか?

 

例えば、卓球の愛ちゃん。それから、柔道の中矢力のおかあさんを見よ。

子供がまだ小さい頃から、母親が全てを支配して、母親の思うとおりに我が子の人生を導いてゆく。それって、子供にとってはいい迷惑だよね。たぶん、そうした母親の思いに正しく応えることができた子供って、オリンピック選手になって、メダルを取るくらい稀なことなんじゃないかと思う。

つまり、成功例はマレだっていうこと。


じゃぁ、母親支配に失敗すればどうなるのか?そういう例は、世の中ごまんとある。

例えば、引きこもりの40代男性。

それから、先だって亡くなった絵本作家、佐野洋子さんの母親「シズ子さん」。「女ねずみ小僧シリーズ」で一世を風靡した小川真由美の娘が書いた『ポイズン・ママ―母・小川真由美との40年戦争』や、斉藤環『母は娘の人生を支配する―なぜ「母殺し」は難しいのか』(NHK出版)を読めば、たぶんよく判ると思う。(ぼくはまだ読んでいないけれども)


つまりは、それだけ我が子の人生を支配しようとする母親が多いということだ。

それに対して、この映画は容赦なく「否」を突きつける。


■個人的には、「ここ」が一番大切なんじゃないかと思った。子供は子供自身の人生を生きて行く。それは決して母親が引いたレールの上には決してないのだよ。

たぶん、現在子育て中のお母さんは、その事実をじつは認めたくはないんじゃないか。



■追記:あと、この映画を見た感想で、ぼくが感じたもろもろのことを、うまく文章にしてくれたサイトを以下に挙げます。勝手に引用ごめんなさい。それから、決定的に「ネタバレ」ですのでご注意ください。


1)「おおかみこどもの雨と雪」に見る、絶望的なまでの父性と野生の喪失

「おおかみこども」は傑作でした。徹夜明けで観たのに寝なかったし。僕の睡眠採点法では★★★★1/2。ちなみに「ダークナイト・ライジング」は★★★★。前半寝たから。

しかし傑作といえども何点か問題はある。韮崎が登場するなり菅原文太にしか見えない件と、「花」がずっとアメ玉を頬張っている件。母性神話を体現する崇高なヒロインなのに…

感想は色々あるけど、やっぱり「キャラの孤独な出立」を繰り返し描く点はパヤヲっぽい。あと「水」関係の描写! 画面の湿り気がハンパない。台風と雨が嫌らしいほどリアル。台風の午後の”ほの明るい”あの感じも。

伊藤剛のいわゆる「マンガのおばけ」ならぬ「アニメのおばけ」のマジックも素晴らしい。とくにカーテンごしの雪の変身シーン。これはテクスチャー抜きでキャラが描けるアニメ絵の勝利。メリダの頭髪を一本単位でレンダリングするピクサーには無理だろうな。いや観てませんけどもあっちは。

おおかみこどもは可愛いけど、それは爪とか耳とか鼻とかまでの話。もし雪の密生する体毛が実写やCGで描かれたら、きっと草平でも「ちょwケモノとかwwマジ勘弁」と謝るレベル。むろん草平がケモナーという裏設定もありです。

ただ草平の発言「ケモノくさい」はヤバい。リアルなら雪は三〇代まで自己臭症とか引きずりかねない。そもそも前思春期に「女の子」を選んだ時点で、体毛の密生するオオカミの身体は徹底して抑圧されるはず。

あ、でもオオカミなので思春期はないのか。動物には青年期も老年期もないか、あってもごく短いからね。あ、でもそうすると雨も雪もドッグイヤー的に短命になるのかな。それは嫌だな。

母性に関して。オオカミなので自立も早いし本能もあるから教育もたいして必要ない。身体が決定的に異質な個体に自然な愛着が湧くとも考えにくい。そもそも子育てに費やした人工的努力の総体が母性なのであって、そこにはかけらも『自然』などない、という作者のメッセージが聞こえたが幻聴かも知れない

母性神話については、リン・ラムジー監督「少年は残酷な弓を射る」がお勧め。これぞ母性のディストピア。ありえないのにホラーな感じは、母性神話支配の強固さを逆照射する。いやパンフに解説書いただけなんですけども。

3)

「おおかみこどもの雨と雪」、ポスト「隣りのトトロ」と言っていいかもしれない。トトロの飛翔感に対してこちらには疾走感がある。トトロでは里山は精霊と人とが出会う場所だが「雨と雪」は精霊と人が別れる場所なのだ。ただし、「雨と雪」は子供の物語ではない。妻であり母でもある女性の物語。傑作。

 

4)宮台真司:TBSラジオ「荒川強啓 デイ・キャッチ!

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