« ロックて、何だ?(その2)『奇跡の人』→『ガケ書房の頃』 | メイン | 木ノ下歌舞伎『勧進帳』 まつもと市民芸術館小ホール »

2016年7月 9日 (土)

ロックて、何だ?(その3)『ガケ書房の頃』→ 小田嶋隆

■『ガケ書房の頃』山下賢二(夏葉社)の追補。 <ロックという概念> が載っている部分「ライブはじまる」p139〜145 の前後を含めて、もう少し抜粋する。

 今考えると、とても恥ずかしくなるのだが、ガケ書房のオープン時のキャッチフレーズは、ジャパニーズ・サブカルチャー・ショップというのと、ロックの倉庫というものだった(ああ、恥ずかしい)。カテゴリーイメージとしてはサブカルチャーもロックも、今の時代、微妙になってしまった言葉だ。しかし、店のイメージを限定されそうなサブカルチャーはともかく、ロックという言葉に関しては、そこに僕の明確な価値基準があって、ぜひ使いたかった。

 そのころの僕は、物事の判断基準に<ロックかどうか>を用いていた。僕にとって、ロックという概念は、音楽のジャンル以上に、あり方や考え方を指す言葉だった。それは、存在としての異物感、衝動からくる行動、既存とは違う価値の提示、といういくつかの要素を、どれか一つでも兼ね備えているものを指した。僕は、そういう本や音楽や雑貨をオープニング在庫として集めた。そして、それに追随してくれる人たちを待った。

 しかし、すでに使い古されていたロックは、たくさんのゆるい解釈を飲み込んでしまっており、僕と似たような概念でロックを捉えている人は少数のようだった。むしろ、そうではないのに、という誤解のイメージにさいなまれることの方が多かった。なので、すぐにそのフレーズは封印した。(『ガケ書房の頃』139,140ページより)

■生き方そのものが「ロック」な人と言えば、内田裕也さんだ。裕也さんは、舛添元東京都知事騒動にコメントして「舛添はロックじゃねぇ。フォークソングだ!」と言ったそうだが、そんな裕也さん自身が「すでに使い古された、ゆるい解釈を飲み込んだ」ロックのイメージを作り上げてしまったのではないか。

それで思い出したのが、少し前に話題になった「フジロックに政治を持ち込むな」論争だ。最近、毎日新聞に「特集記事」が載ったが、小田嶋隆氏が「日経ビジネスオンライン」で連載している『ア・ピース・オブ・警句』2016年6月24日(金)の記事「音楽は政治と分離できるか」 が、最もしっくりくる内容だった。そのとおり、彼らは奥田愛基とSEALDs が単に嫌いなだけなのだ。

ただ、ひとつ気になったことは以下の部分だ。

具体的には、「音楽」なり「ロック」なりが、もはや往年の影響力を失っているという、今回の議論を通じて私が到達した感慨が、たぶん、若い人たちには了解不能なのだろうな、ということが私の伝えたいことの大部分だということだ。

 私の世代のロックファンにとって、「ロック」ないし「音楽」は、人生の一大テーマであり、それなしには生きていくことさえ不可能だと考えられるところのものだった。

 大げさに聞こえるかもしれないが、私はある時期まで本気でそう思っていた。
 いまにして思えば、その考え(No music no lifeとか)は、半ば以上錯覚であり、それ以上に思い上がりだった。

 どういうところが思い上がりだったのかというと、私の世代の若者は(あるいは「少なくとも私は」と言った方が良いのならそう言うが)、音楽に惑溺している自分を、人並み外れてセンシティブだからこそ音楽無しには生きられないのだというふうに考えていたのである。

 現時点から見れば、どうにも手に負えない自家中毒だと思う。現実逃避でもある。
 バカみたいだと思う若い人たちは、笑ってもかまわない。

 が、ともあれ、そういうふうに「こじらせて」いるというまさにそのことが、当時は、ロックファンがロックファンであるための条件であると信じられていたのだ。

『ア・ピース・オブ・警句』2016年6月24日(金)小田嶋隆

■小田嶋さんは、これを書く少し前のツイートでこう言っている。

 

小田嶋隆 小田嶋隆
@tako_ashi
6月20日
個人的には、滑稽であれ、空回りしているのであれ、大真面目にロックを語っている人間に好感を抱いている。ほかの誰かがロックについて真剣に語る様子を嘲笑するタイプの人間は好きになれない。

基本、ぼくもまったくそのとおりだと思っている。青春時代に「音楽」が唯一の信じ得る「生きる糧」であった人間にしか言えない言葉だ。だから、ぼくは小田嶋さんの言葉を信じる。

トラックバック

このページのトラックバックURL:
http://app.dcnblog.jp/t/trackback/463039/33878825

ロックて、何だ?(その3)『ガケ書房の頃』→ 小田嶋隆を参照しているブログ:

コメント

コメントを投稿

Powered by Six Apart

最近のトラックバック