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2016年7月18日 (月)

木ノ下歌舞伎『勧進帳』 まつもと市民芸術館小ホール

■先週の土曜日の夕方、松本まで行ってお芝居を観てきた。

まつもと市民芸術館では、2年に1度の「信州まつもと大歌舞伎」として、今年の演目は『四谷怪談』をやっている。チケットはあっという間に売り切れて取れなかった。前回の『三人吉三』の時は、最上階一番奥の4等席(2000円)で観た。この日は「主ホール」で昼夜2公演。ロビーは大賑わい。芸術館裏の駐車場も満杯で駐められず、駅方面に戻って何とか駐めてから大急ぎで芸術館へ。

「小ホール」のほうで同時に上演されている、木ノ下歌舞伎『勧進帳』を観るのだ。ぼくは歌舞伎座で歌舞伎を見たことがない。その昔、市民劇場で来た前進座の『俊寛』を見たくらいだ。あとは、串田さんの『三人吉三』。そんなぼくでも、賴朝に追われて奥州平泉の藤原氏のもとへ山伏に変装して逃げようとする、義経・弁慶一行と、安宅の関所で待ち受ける富樫左衛門との、生死を賭した丁々発止の攻防を描いた『勧進帳』の「あらすじ」は何となく知っている、歌舞伎では最も人気のある演目の一つだ。

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その『勧進帳』を、「古き皮袋に新しき酒を」入れるように、歌舞伎という古典芸能を「木ノ下歌舞伎」として現代劇に再構築することで、いまの観客に「その魅力」を分かってもらおうと、まだ若いのに京都を拠点にここ10年精力的に活動を続けている木ノ下裕一氏(1985年生まれ)と演出家の杉原邦生氏(1982年生まれ。共に京都造形芸術大学卒)が見せてくれると聞いて、正直ぼくは『四谷怪談』よりも「こっち」を絶対観たい! そう思ったのだった。で、観れて本当によかった。大正解だった。

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■ステージは、写真(「こちらのサイト」から勝手に拝借ごめんなさい)にあるように、舞台上にさらに一段高く、ちょうどフェンシングの試合会場みたいな長細い「まな板状のステージ」が作られていて、バックステージにも観客席が設けられていた。ぼくは、お相撲で言うところの「向こう正面」中央の最前列(いわゆる砂かぶり席)での観劇。じつは全席自由だったので、悩んだ末に係員の薦められるままに「この席」を選んだのでした。その結果、今までに経験のない「かぶりつき席」で見上げる役者さんの一挙手一投足に、ただただ圧倒された80分間だった。ほんと、凄かったな。面白かった! 期待10倍以上だった。

■木ノ下歌舞伎『勧進帳』は、2010年に横浜で初演されている。しかし、今回松本での再演では、役者さんは亀島一徳(ロロ)重岡漠(青年団)の2人を除いて5人が刷新された(初演時は全部で5人だったのが、今回、四天王役が2人増員され、7人になったのだ)。

弁慶役には、吉本所属のお笑い芸人で巨漢のアメリカ人、リー5世。義経役は、ニュー・ハーフの女優、高山のえみ。さらに、四天王役&番卒として、岡野康弘と大柿友哉が招集された。最も重要となる「富樫左衛門」役には、個性派若手俳優:坂口涼太郎が抜擢された。

この、坂口涼太郎くんがよかった。難しい役だ。頼朝配下のしがない地方役人にすぎない富樫左衛門(調べてみたら、石川県知事ぐらいの役職だった!)。

富樫は、ここで是非とも手柄を上げ、主君に褒めてもらおうと思っている。しかも、前日まで人違いの山伏たちを関所で何人も無駄に切り捨てているのだった。しかし、役職の前に理知的な教養人としての矜持があった。変装しているとはいえ、部下の番卒に助言されるまでもなく、山伏たちが義経・弁慶一行であることは一目瞭然であったはずだ。なのに何故、彼は関所を通したのか?

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( 信濃毎日新聞朝刊/ 7月14日付:新聞記事をクリックすると、写真が大きくなり、記事が読めます。

あと、こちらは「東京新聞」での紹介記事です。)

■『勧進帳』というお芝居を「ひとこと」で表現するとすれば、それは「越境する物語」ということになるな。もしくは、登場人物がそれぞれの「結界を破る」はなし。(さらに続く予定)

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