麻生久美子の舞台『同じ夢』。それから映画『亀岡拓次』のこと(その2)
■舞台『同じ夢』に登場する人たちはみな、それぞれに「手かせ足かせ」の左門豊作状態で、どうにもならない状況下にある。それでも自らの人生を破綻させることなく「いま」をただ、しょうもなく生きている、一見「夢も希望もない」無名で市井の、冴えない中年男ばかりだ。
主人公の「光石研」は、父親が始めた肉屋を引き継ぎ、妻を10年前に交通事故で亡くしたあと、男手一つで一人娘を育て上げた。娘は成人し就職したが同居中。父親は倒れて寝たきり状態だ。夜ひとりリビングを掃除し終わり、掃除機を仕舞おうとしてコード収納ボタンを押す。しゅるしゅるしゅる。また、コードを引っ張り出す。また押す。しゅるしゅるしゅる。
ふと、掃除機のコードを自分の首に巻いてみる。でも、いま死ぬことはできない。
なぜなら、通いのホームヘルパーさん(麻生久美子)と、あわよくば再婚できないか、という「はかない夢」があったから。
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■『同じ夢』は、地方公演ももう終わっているから、一部ネタバレします。ごめんなさい。
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・このお芝居では、役者さんがみな「タバコ」を吸う。驚いたことに、麻生久美子も登場早々にタバコを吸うのだ。でも、「タバコを吸うこと」に必然性があるのだ。特に何も劇的展開は起こらないこの舞台で、ぼくが最も「劇的」に感じた場面は、登場人物がみな肩寄せ合って1箇所に集まり「いつでも夢を」を唄う場面だった。
その、1箇所に集まる必然性が「タバコを吸うこと」なのだ。主人公の光石研は禁煙していた。だから、友人の田中哲司はタバコを吸う時に、キッチンの流し左横上にある「換気扇」を回して、その下で吸うのだ。大森南朋も麻生久美子も、換気扇の下へ行ってタバコを吸う。終いには光石研も禁煙を破ってタバコを吸う。(赤堀雅秋さんだけ吸わないので、一人離れて淋しそうだった。しかも、実際の赤堀さんはヘビー・スモーカーなのに)
そういう訳で、「換気扇の下」が、登場人物がみな肩寄せ合って集う場所になったのだ。
・キッチン流し台の換気扇の下でタバコを吸う芝居を以前に観た。三浦大輔・作・演出『母に欲す』だ。峯田和伸(銀杏BOYZ)・ 池松壮亮・片岡礼子・田口トモロヲが出演し、池松壮亮が何度も「そこ」でタバコを吸った。
・それから、舞台上で役者さんがタバコを吹かす場面が印象的だったお芝居に、宮沢章夫・作・演出『ヒネミの商人』があった。タバコをふかすのは、先だってテレビ東京の『テレビチャンピオン』を卒業した「中村ゆうじ」。このお芝居では、銀行員役だった「ノゾエ征爾」が履いてきた「靴」が、片方だけ無くなってしまう。
・『同じ夢』でも、光石研が舞台に登場した時から、片方だけ「靴下」を履いていない。行方不明なのだ。ところで、ノゾエ征爾は映画『ウルトラ ミラクル ラブストーリー』横浜聡子監督作品(2009年)の中で、主人公「松山ケンイチ」の幼なじみで農協職員、でも上京して役者になりたい男を演じていた。
・そんな松山ケンイチが一目惚れしてしまうのが、保育士の麻生久美子だ。彼女が同棲していた恋人(井浦新)は突然出て行ってしまい、他の女が同乗した車で交通事故を起こし死んでしまう。しかも首から上が未だに見つからない。彼女は東京からわざわざ青森に移り住み、カミサマ(イタコ)に「元彼の首」がいまどこにあるのか、どうして彼女のもとを離れていってしまったのか、死んだ彼に訊こうとするのだった。
・自閉症で衝動性と多動、軽度知的障害も合わせ持ったまま大人になってしまった「松山ケンイチ」の頭の中では、絶えず農薬散布のヘリコプターの爆音が聞こえている。舞台『同じ夢』でも、ときどき「肉屋」の上を自衛隊のヘリコプターが爆音を響かせ通過する。
・さらにこの4月から、障害児を育てる麻生久美子に恋してしまった峯田和伸(銀杏BOYZ)が、母子を支援するドラマ『奇跡の人』が、NHKBSプレミアムで始まる。しかも、このドラマの脚本は、あの『泣くな、はらちゃん!』の「岡田惠和」。
・『泣くな、はらちゃん!』には、光石研が出ている。生きて死んで、死んだまま、越前さんにマンガで描かれたことで復活するのだ。それから、あのヤスケン(安田顕)も一話だけ登場しているぞ。
そういえば、松山ケンイチも『ウルトラ ミラクル ラブストーリー』の中で農薬浴びすぎ、心臓はもう動いていないのに、町子センセイ(麻生久美子)のことが好きすぎる「彼の脳味噌」だけが生きているのだった。
・さらに、『泣くな、はらちゃん!』と同じワクで放送された『ど根性ガエル(実写版)』のヒロシ役が松山ケンイチで、どことなく子供のまま大人になってしまった「陽人」の面影があった。脚本は、これまた岡田惠和。
YouTube: 泣くな、はらちゃん 【私の世界】 ロックバージョン
・麻生久美子は舞台『同じ夢』の中で、光石研に彼の寝たきりの父親を介護する中で、自らのおっぱいを「そのエロじじい」に揉まれていたことを告白する。映画『俳優 亀岡拓次』の中では、大女優・三田佳子が舞台上で安田顕に自らの乳を揉まれる。
■なんか、ぼくの中では「いろんなこと」がリンクしてつながって行くのだった。
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光石研さんは橋口亮輔監督の映画『ハッシュ!』で田辺誠一の兄貴役の演技が光ってたので、今日のお芝居『同じ夢』を松本まで観に行ってきた。いや、よかった。すっごく面白かった。大森南朋に田中哲司。みんなよかった。橋幸夫の『いつでも夢を』だから『同じ夢』か?ナマ麻生久美子は想像以上だったよ。2016年2月24日・続き)それから、舞台が始まる前から劇場場内に「不思議な香り」が微かに漂っていたんだけれど、あれは、稲葉さん(赤堀雅秋)が付けていた、安物のオーデコロンの匂いだったのだろうか? 舞台『同じ夢』まつもと市民芸術館にて。・・昨日の昼休みに、伊那市役所ロビーに行って、伊那谷フィルムコミッションの展示を見てきた。「orange 松本ロケ地 Map」と「俳優亀岡拓次:呑んだくれロケ地 MAP」「伊那谷ロケぶらり」のパンフレットを入手。映画「俳優亀岡拓次」はすごく期待してるんだ。2月27日より伊那旭座で公開・続き)映画主演の安田顕さん。『水曜どうでしょう』に、たまにゲスト出演していた頃から注目していたのだよ。個人的には『下町ロケット』よりも『みんなエスパーだよ!』や『ゴーイング・マイ・ホーム』での、とぼけた演技が好き。(2016/02/06)・・映画にも実際に登場する「伊那旭座」で『俳優 亀岡拓次』を観た。しみじみ良かった。先週松本で観たお芝居『同じ夢』に続いての麻生久美子だ。安田顕が帰った後の居酒屋「ムロタ」のカウンター内で一人、立ったまま「お茶漬け」をすする麻生久美子。『麦秋』の原節子を彷彿とさせる名シーンだったな。2016年3月6日・『俳優 亀岡拓次』感想の追加。ヨーロッパ映画みたいだった。フィンランドの映画監督アキ・カウリスマキがフランスで撮ったような。テンポをわざと外して、前のめりに突っ掛かった所で観客を「くすっ」と笑かすみたいな。個人的には、山形のスナックで喝采を唄うオバサンが2度映る場面が一番笑った。2016年3月8日・変な映画『俳優 亀岡拓次』を観て引っかかった横浜聡子監督の『ウルトラ ミラクル ラブストーリー』のDVDをレンタルしてきて観た。おったまげた。めちゃくちゃ変。ラストシーンに唖然。監督の妄想が疾走している。otanocinema.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/p… 読んで、もう一度見ないとな。2016年3月22日・続き)幼稚園の子供たちが自然に過激だ。そこがまず凄い。それからカメラの長回し。麻生久美子が自転車を押しながら松山ケンイチと二人夜道を帰るシーン。画面奥の浜辺で花火をしている。緊張と緩和。ここが好き。まるで、テオ・アンゲロプロスか、相米慎二の『雪の断章』ファースト・シーンみたいだった。2016年3月22日・・
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