今月のこの1曲。 タートルズ『Happy Together』
YouTube: Happy Together - Turtles
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■この曲は、アメリカのロックバンド「タートルズ」が 1967年に全米ナンバーワンを獲得し、世界中で大ヒットを飛ばした曲で、僕も小学生の頃に聴いた憶えがある。先日、この曲がじつに印象的に使われている「お芝居」を観てきた。ケラリーノ・サンドロビッチ作・演出、ナイロン100℃公演『消失』だ。
■何処か知らない国の近未来。戦争の終わった片田舎で、仲よく慎ましく暮らす兄弟二人をめぐる、クリスマスから大晦日までの7日間のおはなし。
最初と最後に「この曲」が流れるのだが、開演時はガット・ギターでのカヴァー・ソロ演奏、ラストで舞台が暗転してスクリーンに出演者の名前が次々と映し出され、そのバックで流れるのが、このオリジナル版だった。
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お芝居は、年末まで下北沢「本多劇場」にてもう数ステージ公演が続くので「ネタバレ」できないワケだけれど、3時間強の公演時間(前半2時間、休憩をはさんで、後半1時間)が、ぜんぜん長くは感じられなかった。やっぱり傑作だよ。でも、感動の涙というのとは正反対の、見終わった後に圧倒的な「虚無感、虚脱感」が襲ってくる舞台だったな。
ケラさんは、この芝居の脚本を執筆中に「小津安二郎」の映画を集中的に見ていたそうだ。で、映画『晩春』の最重要シーンから、原節子と笠智衆のセリフをそのまま4ページ拝借したのだという。え、どこに? と思ったら、休憩のあと第2幕が始まってすぐの、弟(スタン:みのすけ)と兄(チャズ:大倉孝二)の会話が「まさにそのまま」だったので、ゾクゾクっときた。
かたや「父と娘」、かたや「兄と弟」。あれ? でもちょっと変だよ。いっしょにいて楽しいのは、恋人同士の「男と女」なんじゃないか?
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■芝居の感想をもう少し。大倉孝二さんて、ひょろりと背が高いんだね。テレビでしか見たことなかったから、実寸大のデカさに驚いてしまったよ。あと、みのすけさんの声がよかったな。
それから、ケラさんの舞台といえば「プロジェクション・マッピング」の妙だ。松本で観た『グッドバイ』でも、WOWOWで見た『わが闇』でも、スタイリッシュで実にかっこよかったけれど、『消失』の舞台でも驚くほど効果的に機能していた。
後半、兄(チャズ)がずっと隠してきた事実が、皆の前であらわにされる場面で、突如、舞台セット全体がドロドロと溶解しはじめるのだ。今まで、確かな現実として、そこにあったものが、あれよあれよと溶けて無くなってゆく。いわゆる「現実崩壊感」っていうのは、こういう感じだったんだ。
不気味で居心地の悪い厭な気分に、観客はみなさらされたはずだ。
でも実際には、プロジェクターでイリュージョン映像がセットに重なって映し出されていただけで、本物のセットは溶け出したりはしてなかった。でも、あの時のぼくは、まるで統合失調症の患者さんの内面をリアルに体感しているみたいな気分だった。なんかこう、ぞわぞわと居心地の悪い、全てを消し去りたい気分。
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■このお芝居を観ていて、登場人物6人の誰に一番感情移入したかというと、僕はやっぱり、犬山イヌ子さんが演じたホワイト・スワンレイクだな。弟のスタンより1歳若いとはいえ、もう40代の独身女性。過去にはいろいろとあった。でも、ネアンデルタルー人のことが好きで、果てしない宇宙のはなしが大好き。忘れ去られても、また、一から「二人の想い出」を作っていけばそれでいいのだ。記憶とはそういうものさ。
このお芝居の中では、彼女の孤独と哀しさが際だっていたように思う。
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YouTube: "Happiness comes only through effort" - Late Spring (1949, Yasujiro Ozu)
■「おとうさんはもう、56だ。おとうさんの人生はもう終わりに近いんだよ。」と、笠智衆は言っているが、おいおい、57歳の俺より、実は若かったのかよ! ビックリぽんや。
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YouTube: Yasujiro Ozu - (1962) Sanma no aji / Autumn Afternoon/ Il gusto del sakè [Scena del bar]
小津安二郎の『晩春』を YouTube で探していたら、『秋刀魚の味』で僕が一番好きなシーンが見つかった。
笠智衆:「けど、負けてよかったじゃぁないか」
加東大介:「そうですかね。ふーむ、そうかもしれねぇなぁ。バカな野郎が威張らなくなっただけでもね。館長、あんたのことじゃありませんよ。あんたは別だ。」
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