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2015年7月27日 (月)

細野晴臣『とまっていた時計がまたうごきはじめた』(その3)

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このところ続けて「音楽本」を読んでいる。その音楽分野に関して既によく知っていればいいのだが、知らないミュージシャン、聴いたことのない楽曲が出てくると、読書を中断して YouTbe で検索し実際に聴いてみることになる。

ただ、これからは電子書籍で実際の楽曲とリンクさせたり、あるいは「紙の本」でも、著者が「Apple Music」に「プレイリスト」を作っておいて、読者は本を読みながらアクセスし、ストリーミングで「その曲」を聴くことができるようになって行くのだろうなぁ。特に、いろんな音楽ジャンルのガイドブックの立ち位置が激変する予感がする。

田中康夫『たまらなく、アーベイン』(河出書房新社)も、再刊にあたっては取り上げたレコードのジャケット写真くらいは新に載せて(もちろんカラーでね)、最後のインデックスも、今現在「その音源」を入手アクセスできる形で丁寧に作り直してくれてあれば、もっと売れたんじゃないか? 著者があくまでも「完全復刻版」にこだわった意味はなに?

米歌手ホイットニー・ヒューストンさんの娘ボビー・クリスティナ・ブラウンさんが26日に亡くなりました。22歳でした。今年1月末に自宅の浴槽で意識不明でいるところを発見されて以来、意識が回復しない状態が続いていました(英語記事) 

つい先程の、ぼくのツイート

ちょうど『松尾潔のメロウな季節』松尾潔(SPACE SHOWER BOOK)を読み始めたところで、いま47ページ。ボビー・ブラウンの項のラスト。ホイットニー・ヒューストンが愛娘ボビー・クリスティーナを抱っこして出てきた場面。次のページの追記も読んだ。なんということだ。享年22。

 

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■ さて、細野さんの本『とまっていた時計がうごきはじめた』(平凡社)の続きです。

 

たぶん我慢してるわけじゃないんだよ。堪え忍んでいるという感じもぼくにはぜんぜんない。きっと忘れてるだけだよ(笑)。日本人は本当に忘れっぽいんだと思うな。

---- 単に、忘れっぽい?

ぼくもそうだけど、どんなにイヤなことがあってもすぐ忘れちゃうから。

---- それってある種、日本人の才能なんでしょうか?

そう、才能かもしれない。それでも忘れちゃいけないことはあるんじゃないかとは思うよ。特にこの一年くらいの間の出来事は、まさか忘れることはないだろうとは思うけど、忘れようとしてる空気は感じるね。(24〜25ページ / 2012/7/11 白金のスタジオにて)

SP盤は聴くよ。だけど、普通のレコードを聴けるプレーヤーはどっかにしまっちゃったから。

---- 蓄音機だけがある?

 地震のときに倒れちゃって、脚が折れたのね。それで横倒しのまま。直さなきゃ。あれは停電のときのために取ってあるようなもんだね。蓄音機は電気を使わないから。(75ページ)

 こないだまたキャラメル・ママが集まって、なおかつユーミンも来てね、大貫妙子トリビュートをやったんだよ。前に集まったときもそうだったんだけど、みんななにも変わってないなと思った。若いなと思ったの。みんな還暦だけど、いろいろなことが巡って、最近またキャラメル・ママのみんなとつながってる感じがしてるんだ。

---- いいですね。やっぱり、大きくひと巡りしたんですね。

 そうかもね。そういえば震災後2年以上経つけど、あれから最近まで自分のなかの時計がとまっていたことがこの前はっきりしたんだ。

---- 細野さんのなかの時計がとまっていた?

 うん。震災から放置していた部屋の荷物を整理しはじめたのがきっかけなんだけど。自分の声が聞こえたの、天の声みたいに。「いま片付けないと寿命が縮むぞ」って言われたんで、もう少し生きたいから部屋を片付けたんだ(笑)

 (中略)

 それで十月に入ってやっと取りかかったんだけど、地震で倒れたままだったゼンマイの蓄音機を起こして、脚が折れていたのを直したんだ。なかにホーギー・カーマイケルの「香港ブルース」のSP盤が入ってたんだよ。それでゼンマイを巻いてかけてみたら、ちゃんと音が出た。そこから時計がまたうごきはじめて、いろんなことが起こりはじめた。(中略)

福島に行くとみんなそうなんだよ。みんな時計がとまってるって言うんだ。ぼくもそこは共有してた。(283〜285ページ)

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■「香港ブルース」は、『泰安洋行』の2曲目で、細野さん自身がカヴァーしている。

ホーギー・カーマイケルと言えば、ジャズ・スタンダード「スターダスト」の作者として有名だが、まだ学生時代に、薄倖の天才白人トランペッター、ビックス・バイダーベックに見出され、彼のバンドでピアノを弾いていた。

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---- そういえば最近、大瀧さんと連絡を取られたって聞きましたけれど。

 うん。そう。人づてにメッセージを伝えてもらったんだよ。

---- なんてお伝えしたんですか?

 作品をつくる気になったらいつでも手伝うよ、ってなことを伝えたんだけどね。

---- 返事は来ましたか?

 来た来た。「それは細野流の挨拶だ」って(笑)。(中略)

そういえば、昔、はっぴいえんどがやくざにからまれた話ってしたっけ?

---- なんですかそれ?(笑)

 昔、霞町のあたりに新しいうどん屋ができたって言うんで、みんなで食べに行ったんだよ。そしたら、ぼくらが食べてる向こうに、着流しを着たやくざと弟分がいてね。

---- 着流しですか?

 そう。あのころはまだいたんだよ。で、大瀧くんがあの目つきでしょ。「なにガンくれてんだ」ってその着流しの五分刈りにからまれてね。「表に出ろ」って言われて、仕方なく出て行ったわけ。で、舗道に並ばされて、五分刈りが「懐には匕首(あいくち)がある」って脅かすんだ。

---- で、どうしたんですか?

 まず大瀧くんの謝罪からはじまった。この流れじゃとりあえずそうするしかない。悔しかっただろうな。で、そのあと順番にメンバーの腹を殴っていくわけだよ。まず、鈴木の腹をどん。で、茂が「うっ」ってうずくまる。次に、松本がどん。で、「うっ」って。

---- で、いよいよ。

 そう。自分の番になって、どん、ってどつかれるんだけど、なんと驚いたことに寸止めなんだよ。

---- え? どういうことですか?

 あてないの。寸止めで殴ってるフリをしてるわけ。

---- 細野さんどうしたんですか?

 こっちも殴られたフリをするわけだよ。「うっ」って(笑)。

---- どういうことなんですか?

 つまりね、その着流しは、連れの舎弟に向けて自分の強さを見せつけてるわけだよ。

---- 一種のプレイなんですね。

 そうそう。あれはなかなかの職人技だったよ。

---- ある意味、洒落てますね。

 そうとも言えるね。ダンディズムというか。昔はそういうのがいたんだね。霞町のあたりって、あのころはちょっと怖い人もいたんだ。

---- へえ。初めて聞く話ですね。

 内緒にしといてね(笑)。

(288〜291ページ / 対話8 / 2013/10/29 神保町カフェ・デ・プリマベーラにて)

 

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■この(対話8)が収録された2ヵ月後に、大瀧さんは帰らぬ人となってしまった。

次の(対話9)は、7ヵ月後の2014年6月17日に細野さん家の白金のスタジオで行われている。もちろん、大瀧さんの話から始まるわけだが、詳細は「原著」をあたってください。

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  いや、その(大瀧さんの追悼曲を書くこと)前にやることがあるんだよ。

---- そうなんですか?

 大瀧くんとの出会いは、はっぴいえんどからはじまってるわけだけど、そのころのいろんなことを最近よく思い出すんだよ。ぼくは最近カバーをやることが多いじゃない? バッファロー・スプリングフィールドなんかも、ついこの前は「ブルーバード」をやりはじめたんだよ。レコーディングでね。

---- 元に戻っちゃったんですね。

 そうそう(笑)。だから、はっぴえんどを自分のなかで再確認したいというかね。順番としてはそっちのほうが先なんだよ。「Daisy Holiday!」というラジオ番組で大瀧くんの特集をしたときも、大瀧くん本人の曲はかけなかった。ぼくにとって重要なのはバックボーンだから。

そういうことを、もう一度会って話したかったし、確認したかった。どういう時代に生まれて、どういう音楽を聴いてきたのかということはすごく大事なことだから、それをもう一度確認し直すということが、いまやっている仕事の目的。それが、カバーをやってるということの意味なんだ。(318〜319ページ)

---- 世の中のことは考えてます? 新聞のクリッピングはいまでもやってますか?

 やってるよ。新聞じゃなくてネットのあらゆるソースだけど。(中略)

 パソコンに「アカンやろ」っていうフォルダがあるんだけどさ、そのニュースは「アカンやろ」行きだね。

---- 「アカンやろ」? なんで関西弁なんですか?

 わかんない(笑)。(329〜331ページ)

 打ち上げでアッコちゃんと話したよ。アッコちゃんのレパートリーの曲でね、ニューオーリンズ的なリズムの、アラン・トゥーサンっぽい曲があるんだよ。それをティンパンでやると、なんの説明もなくても、すぐにそのノリになる。一拍子みたいな感じにね。

アッコちゃんはそれを意識しているみたいで、このノリが出せるのはあなたたちしかいないから長生きしてねって言われたよ(笑)。

---- 本当ですよ。もはや国宝級。

アッコちゃんはいつもアメリカでレコーディングするでしょ。ミュージシャンたちに毎回「Roochoo Gumbo」を聴かせるんだって。みんな「コレはすごい」って言うんだけど、同じことはできないんだって。不思議だよね。

---- 以前、清志郎さんがメンフィスでレコーディングしたときに、細野さんが日本から送ったトラックを聴いたプロデューサーのスティーヴ・クロッパーBOOKER T. & THE MGs のギタリストだった)が、「こいつは誰だ、何者なんだ? ナニ人なんだ?」って言って、その仮歌のハミングをそのまま採用したという話がありましたよね。

 あったね。

---- すごく好きな話なんです。細野さんは、仮歌だから適当に歌ってるんだけれど、ノリをちゃんと理解してやっていることがクロッパーにもわかるわけですよね。本歌取りっていうヤツですね。向こうのミュージシャンができないことを、日本人がやってるっていう。(352ページ)

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■それから、載せきれなかったけど、注目すべき箇所を最後に挙げておきます。

・映画監督ロマン・ポランスキーの奥さんが惨殺された「シャロン・テート事件」の真相

・細野さんの血液型がA型だったということ

・日本語ロック論争で犬猿の仲だったはずの内田裕也さんが、楽屋に挨拶に行った細野さんをジョー山中に「こいつナイスガイなんだよ!」って紹介したはなし。

・『ロング・バケイション』が出る少し前に、大瀧さんが細野さんの白金の家へキャデラックで乗り付け会いに来たこと。YMOで大活躍の細野さんへの「決意表明」だったと。こんどは俺の番だという。

・いまの若い人たちの音楽観への苦言

 ただ、なりゆきを見ると、ひとりひとり持っている音楽の世界を、それぞれが間違ったやり方で表現しちゃったように見えるな。自分が聴いたものを、そのまま表現しちゃう。自分のなかから出てくる音楽じゃなくてね。

じっくり煮詰めてないし、勉強が足りない感じだ。音楽をより深く知るということが足りないんだ。音楽という、昔から続いている文化の流れが、どれくらい自分にも入ってるか、そこにどうやって自分が加わるのか、音楽の海に自分がどうやって入っていくのか。そういうことについての勉強はみんな足りなかったね。(『とまっていた時計がまたうごきはじめた』143~144ページ)

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コメント

細野って坂本龍一と一緒でうじウジウジしてそうだもんね。陰湿そう

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