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2014年10月

2014年10月31日 (金)

今月のこの1曲。『 アフロ・ブルー』

Mongo Santamaria - Afro Blue
YouTube: Mongo Santamaria - Afro Blue

■本当は8月に取り上げる予定だったのだ。モンゴ・サンタマリアが作ったとされる『アフロ・ブルー』。彼が1959年に録音したオリジナルがこれだ。

■ヴォーカル盤で一番有名なのが、アビー・リンカーンのこれ。

Afro Blue - Abbey Lincoln
YouTube: Afro Blue - Abbey Lincoln


■この曲を一躍有名にした「本命」といえば、やっぱりコルトレーンだな。

John Coltrane Quartet - Part1 - Afro Blue
YouTube: John Coltrane Quartet - Part1 - Afro Blue

ぼくは「バードランド」のライヴ盤よりも、ハーフノートでのライヴをラジオ放送した『ONE DOUN, ONE UP / LIVE at the HALF NOTE』での演奏が気に入っている。

とにかく、マッコイ・タイナーの気迫が凄い!

ラジオ放送なので、演奏の途中でフェイドアウトしてしまうのが本当に残念だ。

 

■ただ、最近よく耳にするのがこのヴァージョンだ。ロバート・グラスパーのヤツね!

Robert Glasper Experiment - Afro Blue (Feat. Erykah Badu)
YouTube: Robert Glasper Experiment - Afro Blue (Feat. Erykah Badu)

■あと、ディー・ディー・ブリッジウォーターが、1974年に日本で録音したデビュー盤のA面1曲目。

これもいい。

Dee Dee Bridgewater - Afro Blue (1974)
YouTube: Dee Dee Bridgewater - Afro Blue (1974)

■意外なところでは、『矢野顕子×上原ひろみ Get Together - LIVE IN TOKYO』の、2曲目。

それから、ぼくが大好きなのは、向井滋春『フェイバリット・タイム』

板橋文夫、渡辺香津美が参加しているレコード。CDは持ってないんだ。

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『霧に橋を架ける』キジ・ジョンスン著、三角和代・訳(東京創元社)

キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』(東京創元社)を読む。これはよかった。

以下ツイートから。

10月7日
キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』(東京創元社)より「26モンキーズ、そして時の裂け目」と「スパー」を読む。猿のサーカスの話はしみじみよかった。「スパー」は……凄まじすぎるぞ。検索したら、いろいろと深読みできるんだね。不変の愛か。愛なんかないじゃん。


続き)「スパー」って、普通はボクシングの「スパーリング」のことを言うのか。まぁ、エイリアンとのスパーリングみたいな話だもんなぁ。


10月9日
キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』(東京創元社)より、「シュレディンガーの娼館(キャットハウス)」を読む。どこかで聞いたことのある名前だ。読み終わって思い出した。『昔、火星のあった場所』北野勇作(徳間デュアル文庫)94ページ。量子力学の怪談「シュレーディンガーの猫」の仮想実験の話


10月13日
キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』より「蜜蜂の川の流れる先で」を読む。西村寿行『蒼茫の大地、滅ぶ』みたいに、蜜蜂の大群が川のようになって連なる先を目指して、老犬のジャーマン・シェパードと旅する話。伊藤比呂美『犬心』も同じ犬種だったな。泣けた。


キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』より、表題作を読む。7年かけて巨大な吊り橋を建設する話。これは読み応えがあった。淡々とただ工事の進行具合が綴られてゆくだけなのだが、いやいやどうして、しみじみと味わい深い傑作だ。


小説の冒頭は、西部劇みたいだ。主人公の設計士キットが「川」の右岸町に到着する。よそ者には冷たい人々。触れると皮膚が爛れてしまう腐食性の霧の中には《でかいの》が何匹も潜んでいて、川を渡るのは容易でない。椎名誠『武装島田倉庫』の感じでもあるな。だから、橋を架けるのだ。


そこに、ナウシカみたいな男勝りで凜としたヒロインが登場する。左岸町のラサリ・フェリーだ。名前には職業を付ける。フェリーとは、川の渡し船の船頭という意味。映画『ダンス・ウイズ・ウルブス』を思い出した。だから、この小説の原題は「The Man Who Bridged The Mist」なのだ。ただ、この二人。読んでいてじれったくなるほどのプラトニック。


野坂昭如の『黒の舟歌』ではないが、川とか、七夕とか、舟を出すとか、橋を架けるという言葉は安直に考えると「理解不能な相手に対するコミュニケーションの可能性」を象徴している。しかし著者が言いたいことは逆で、ディスコミュニケーションの諦観なのだった。ただ著者は諦めきってはいない。最後に祈りと微かな希望がある。


誤解を恐れずに言えば、著者は『火星の人類学者』ほどではないかもしれないが、人間関係に困難を感じているに違いない。だからこそ、動物(犬や猫やポニー)の気持が判るのだ。テンプル・グランディンさんみたいにね!

 


10月27日
キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』(東京創元社)より「《変化》後のノース・パークで犬たちが進化させるトリックスターの物語」を読む。面白い。我が家にも、いま僕の横のソファーで寝ている犬がいる。犬は「今ここ」の瞬間瞬間を生きている。もしも彼らが「言葉」を獲得したら…という話。


続き)犬は、仲間の犬たちに向かって「とある犬の物語」を語るのだ。10匹の「とある犬の物語」を。こうして犬たちは「記憶」を共有し、子孫に語り継いでゆく。「言葉」はそのために必要なのだ。なんか、人間との関係は『猿の惑星』みたいでもあったな。

("覚えている"というのは枠組みだ。犬は言葉を知る以前のことを"覚えて"はいなかった。長いか短いかのいまを生きていただけだ。記憶は憤りを生む。あるいは、そのようにわたしたちは恐れている)。『霧に橋を架ける』p255〜256より。

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「読書メーター」にあがった感想を読んでいたら、「vertigo」さんの感想が完ぺきだった。そうだよ。そのとおりだよ。ほんと、上手いこというなぁ。リンクがはれないので、すみませんが勝手に転載させていただきます。ごめんなさい。

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「vertigo」8月10日

素晴らしい。『26モンキーズ、そして時の裂け目』の不思議な猿たちがなぜ消え、なぜ現れるのかの理由。壮大な物語の何気ない始まり『水の名前』の爽やかさ。『スパー』や『ポニー』の絶望。表題作の永遠に一緒にいられないことはわかっている男女の触れ合いの切実。私がフィクションに求めるものの嗜好はこういう方向なのだなあ。残酷なディスコミュニケーションの物語を描いてもキジ・ジョンスンは「わかりあえなさをわかりあおう」とする者たちの孤独や淋しさや願いの切なさに対してどこまでも優しい。身を切られるように痛いけど優しい短編集。

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2014年10月13日 (月)

伝説の佐々木昭一郎が還ってきた。

■以前、松尾スズキ氏の初期エッセイを集中的に読んで感想を書いたことがあった。

師匠とその弟子の関係は連鎖して行く(その1)

師匠とその弟子の関係は連鎖して行く(その2)

師匠とその弟子の関係は連鎖して行く(その3)

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(その2)にある、松尾氏が「那智チャコ・パック」の常連投稿者であったというくだり。本人自身が書いた文章を見つけた。『永遠の10分遅刻』松尾スズキ(ロッキング・オン)138ページ「私の文章ルーツ、私の演劇ルーツ ---- 松尾少年と野沢那智」(初出不明)だ。以下引用。

 もう二十年になりましょうか。

 私だって子供だった時期がありまして。

 野沢那智の声のファンだったんですね私は。そう、子供の頃から「声」というものに興味があったんです。(中略)

 さて、その野沢那智が同じく声優の白石冬美と一緒にやっていた『パック・イン・ミュージック』という深夜の人気ラジオ番組に、中学高校と私はせっせと手紙を投稿しておったのです。葉書ではなく手紙です。

何しろその番組はリスナーのお便りをおもしろければ10分でも20分でも、野沢那智がいろんな声色で読み続けてくれるというもので、だから葉書では当然分量が足りないということで、レポート用紙にボールペンでびっしり5、6枚。私は「北九州の黒タイツ」というペンネームで随分読んでもらったものでした。

足が毛深いから黒タイツ。ラジオの前に齧り付き、大ファンである声の達人に10分も自分の作品を読んでもらっている時間、それはまさに至福の時でした。

読んでもらったのは、泥酔して他人のうちの庭で寝込んだ兄の話、毛深さに悩んで脱毛ワックスを使った話、エトセトラ。うれしかったな本当に。

漫画家になるのを夢見てデザインの学校に行き、絵の勉強こそすれ、小説も大して読まなかった私が何で今文筆の仕事を生業にできているのか、考えてみるとティーンエイジャーの頃、私はラジオで自然と文章修行をしていたのかもしれません。一月に一本は書いていましたから。

(中略)

 野沢那智は今はなき「薔薇座」の座長でした。で、当然芝居に関するエピソードが中心になってくると。それらは、今思うと赤面したくなるほどマバユイものでしたが、九州の田舎町で育ち文化的情報にもうとかった私の演劇への興味は、実はそんなところから育まれていったものだったのです。(中略)

*野沢那智さんはよく三茶で見かけるんだけど、どーしても声かけられないんだよね。恐れ多くて。みなさんにもいるでしょ。そんな人。

『永遠の10分遅刻』p138〜141

(追記)ところで、「この本」のラストに収録された、NHKラジオドラマ『祈りきれない夜の歌』の脚本を読んだのだが、たまげてしまった。松尾スズキって、天才なんじゃないか? 以下、今朝(2014/10/16)のツイートから。

松尾スズキ『永遠の10分遅刻』(ロッキング・オン)より、NHKラジオドラマ脚本『祈りきれない夜の歌』を読む。ラストで異様な感動を覚えた。これは凄いな。障碍児の出てくる話では『時には懺悔を』打海文三(角川文庫)に匹敵するデキだ。ネットでドラマ版も聴いた。ほぼそのまま放送されたんだ。

続き)『祈りきれない夜の歌』は、先月NHKで再放送のあった『君が僕の息子について教えてくれたこと』(11月24日午前10時から NHK総合で再々放送予定)に登場した『自閉症の僕が跳びはねる理由』を書いた東田直樹君とも密接に通じるものがある。

「このラジオドラマ」は、2001年3月3日に放送された。NHK名古屋放送局の制作。「ニコ動」にファイルがあって、ネット上でいまも聴くことができる。

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■佐々木昭一郎・著『創るということ』【増補新版】が、平安堂書店の新刊コーナーにあったので、びっくりして即購入した。2種類の旧版は以前から読んでみたかったのだが図書館にはなく、古本でも高値が付いていて入手困難だったのだ。

佐々木昭一郎氏も、最初はNHKで「ラジオドラマ」を作って認められた人だ。

■これも以前に書いたものだけれど、是枝裕和監督が、佐々木昭一郎の映像を初めて見た時のはなし。

『物語論 17人の創作者が語る物語が紡がれていく過程』木村俊介(講談社現代新書)に載っていた「是枝裕和」インタビュー(2012/12/30)

『紅い花』つげ義春・原作、佐々木昭一郎・演出(2013/01/06)

Respect 佐々木昭一郎
YouTube: Respect 佐々木昭一郎

■その、伝説の佐々木昭一郎が還ってきた。

20年ぶりの新作『ミンヨン 倍音の法則』が、先週土曜日から「岩波ホール」で公開されているのだ。

さらには、11月には「NHKBSプレミアム」で、佐々木昭一郎初期の代表作が一挙放送される! これは必見! 必録画だ。

「詳細パンフレット」 

■検索していたら、「日曜日はテレビを消せ」の「佐々木昭一郎アーカイブス」を見つけた。リンクが切れてしまっているものもあるが、これはすごく貴重な資料集だ。

それから、ホッタタカシさんのブログ「スローリィ・ステップの怠惰な冒険」の

佐々木昭一郎のテレビドラマ全作品解題・そして新作『ミンヨン 倍音の法則』 が、すばらしい。ものすごく力が入っている。

2014年10月 6日 (月)

小津安二郎記念・蓼科高原映画祭で『そして父になる』を観てきた

■昨日の日曜日、茅野市民会館で開催されていた「小津安二郎記念・蓼科高原映画祭」に今年も行ってきた。

『彼岸花』デジタル・リマスター版は、土曜日午前中の上映だったのでダメだったが、『そして父になる』をずっと見よう見ようと思いながら未だだったので、会場一杯の観客と共に大きなスクリーンで見ることができて幸せだった。

ただ、上映15分前に着いたら、入場を待つ人たちでいっぱい。最後列に並んでようやく場内に入ると、空いている席はステージ前の最前列正面のみで、仕方なくスクリーンを2時間見上げての鑑賞となった。

映画は、いい意味で「福山雅治」の魅力を世界に知らしめるための作品であり、それに見事に成功したのだと思った。後半まで、今回は泣かないぞと思っていたのに、福山が涙するシーンが横顔のアップで撮られているのを目にして、思わずいっしょにグッときてしまい、結局泣かされました。

それから、これは是枝監督の映画はみなそうなんだけれど、二人の対照的な子役の男の子がじつにいい演技をしているのだ。あと、リリー・フランキー&真木よう子家の3人の子供の中でも特に次男の子。これまた実に無邪気な子供らしさにあふれていて、スクリーンを見ながら思わず何度も微笑んでしまった。弁当屋の店先での場面とか、お風呂のシーンとか。

そしてリリー・フランキーさん。

ピエール瀧もちょこっと出ていて、正反対の映画『凶悪』を未だ見てなくてよかったな。

あと、音楽がよかった。今回は「ゴンチチ」じゃなくて、クラシックのピアノ曲。オリジナルの「絆」という曲がいい。それから、エンドロールで流れる、グレン・グールドのバッハ。優しいようでいて厳しく敬虔なピアノの響きが、映画を見終わった余韻と重なる。何かこう、ずっしりとくるのだ。

上映終了後、是枝裕和監督がステージに登場し、長野日報でいつもスルドイ映画評を書いている映画コラムニストの合木こずえさんが聞き手となって、30分間『そして父になる』の裏話をしてくれた。これまた面白かったな。あやふやな記憶でいけないが、思い出した話題を以下に挙げてみたい。(会話はニュアンスのみで、二人が正確にそう発言した訳ではありません)

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合木:まずは、福山さんのキレイなお顔が存分に拝める映画を作って頂き、感謝いたします。

是枝:いや、本当に美しいんですよ。特に、彼の横顔。ここぞという大切なシーンに彼の横顔をアップで使わせてもらいました。

合木:福山さんの一家が、リリーさん一家に会うために車で移動する時に挿入される風景のカットが素晴らしい。首都高を車がカーブして行く時の流れゆく防音壁を見ていて、主人公の気持ちと完全に同調してしまった。その後の、並んだ高圧送電線の風景とか…。

是枝:撮影監督の瀧本幹也さんは、元々はスチール・カメラマンで、トヨタのクルマのCMとかたくさん撮っている人なんです。あの風景のカットは、ものすごく時間をかけて撮っている。彼がクルマを撮ると違うんですよ。無機質じゃなくて暖かみがあるとでもいうか。

 あと、マンションの部屋の中にテント張って模擬キャンプするシーン。外からガラス越しに撮っている。あれ、素晴らしいですよね。

合木:尾野真千子さんが息子の慶太くんを迎えに行って電車で帰る、あの車内の母と子の二人のシーンも本当に素晴らしかったです。あれは、どうやって撮ったのですか?

是枝:じつは、あのテイクはNGだったんですよ。何度も撮り直して上手くいかなくて、暗くなってくるし。最後に撮ったのがこれ。セリフが終わらないうちに駅に着いちゃって、乗客が乗り降りする中でまだ撮ってたんです。撮影の瀧本さんが「NGだったけど、すごくよかったね!」って。結局、これが一番良くって。撮れたのはまったくの偶然だったんですよ。

合木:「琉晴くん」役の男の子。前から子役で出ていたのですか?

是枝:いやぁ、オーディションではまず真っ先に落とされる感じの子ですからねぇ。とにかく絶えず動いている。じっとしてない。いつも「なんで?」「なんで?」って訊いてくるんです。だから「あのシーン」では逆に、福山さんの前でいつもみたいに「なんで?なんで?」って、ずっと言ってればいいからねって撮ったんですよ。

合木:リリーさんが「スパイダーマンて、蜘蛛だって知ってる?」って子供に言うところ。あれは、リリーさんのアドリブですか?

是枝:いいえ、台詞にあるんです。ただ撮影に入る前、子供たちと仲良くなるためにリリーさんが「そう」話していたのが印象に残っていて、台詞に使いました。

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翌日の「長野日報」に載った記事。記者さんと同じ話を聞いていたのに、印象に残ったポイントがぜんぜん違うのが可笑しい。

 

■福山雅治「オールナイト・ニッポン 魂のラジオ 2013.12.14」ゲスト:是枝監督、リリー・フランキー を見つけた。『そして父になる』の裏話を3人が寛いだ雰囲気でしていて、すごく面白い。

福山雅治 魂のラジオ ゲスト:是枝 裕和 監督・リリーフランキー〔トーク部分のみ〕2013.12.14【転載・流用禁止】
YouTube: 福山雅治 魂のラジオ ゲスト:是枝 裕和 監督・リリーフランキー〔トーク部分のみ〕2013.12.14【転載・流用禁止】

■あと、宇多丸さんがラジオで『そして父になる』を激賞している。

宇多丸が映画『そして父になる』を語る
YouTube: 宇多丸が映画『そして父になる』を語る


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