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2013年7月15日 (月)

伝説のジャズ歌手「安田南」のこと

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■今の若い人にも、案外「有名人」なんじゃないかな、安田南。

西岡恭蔵が作った『プカプカ』に登場する「あたい」が、安田南であることは誰もが知る事実だからだ。

でも、僕ら昭和30年代生まれで「深夜放送黄金時代」と併走してきた人間からしてみれば、安田南と言えば 1974年にFM東京で始まった「気まぐれ飛行船」なのだった。声が渋い片岡義男氏に、やる気のない適当な合いの手を入れるのが彼女の役目だった。

放送中でもたぶんタバコをプカプカ吸ってたんじゃないかな。いつも痰がからんだような『プレイガール』の元締め、沢たまきみたいな、ちょっとしゃがれた声をしていたように思う。


YouTube: 安田南 in 気まぐれ飛行船 with 片岡義男[1/6]

■検索すると、「気まぐれ飛行船」のラジオ放送がちゃんとアップされている。沢たまきの声じゃなかったな。もっと素敵な、落ち着いたアルトの声。


■先日、松本の丸善で購入した『ジャズ批評7月号』 の特集が「日本映画とジャズ」で、さらにその巻頭特集記事が「伝説の女優=ジャズシンガー 安田南と沖山秀子」だった。

寺岡ユウジ氏が、彼女たちのことを昔からよく知る人たち(佐藤信、片岡義男、渚ようこ、渋谷毅、杉田誠一、五所純子、柳町光男)にインタビューして廻って、記事にまとめた労作だ。安田南に関しては、佐藤信、片岡義男。そして沖山秀子に関しては柳町光男監督のインタビューが読ませる。


黒テントの佐藤信氏は、安田南の中学時代からの付き合いがあり、俳優座養成所第14期生で同期だった串田和美、吉田日出子と共に劇団自由劇場を旗揚げした。原田芳雄は一つ下の第15期卒業生だった。この「花の15期生」には、太地喜和子、林隆三、地井武男、高橋長英、秋野太作、浜畑賢吉、前田吟、夏八木勲、河原崎次郎、村井国夫、三田和代、栗原小巻と、キラ星のような有名俳優がいる。

安田南も同期で入ったようだが、卒業はしていないらしい。

面白かったのは、黒テントと関西フォーク人の密接な関係で、当時、吉田日出子と岡林信康がデキていたとか、名曲『プカプカ』誕生の様子とかだな。「俺のあん娘はタバコが好きで」の「俺」とは、西岡恭蔵じゃなくて、やっぱり原田芳雄のことなんだね。


■沖山秀子といえば、映画『十九歳の地図』だ。監督は柳町光男。音楽は板橋文夫だった。『あまちゃん』の「じっちゃ」役で人気急上昇中の蟹江敬三が映画の中で「かさぶただらけのマリアさま」と仰ぎ見たのが沖山秀子だ。


■安田南の名前を、意外な人が書いていてビックリした。

先週の「週刊文春」7月18日号 p56「本音を申せば」連載第757回だ。小林信彦御大は、最初に「毎日、NHKの朝ドラ『あまちゃん』を観ている」と書く。しかも、前半(東北編)で見逃したのは2回のみ!と豪語する。流石だ。

小林信彦氏は、とにかく美人好きだし、アイドル好きだ。最近では、映画『桐島、部活やめるってよ』を見て、すっかり橋本愛のファンになったらしい。でも、この週刊文春のでの連載では、小林氏が「アキちゃん」押しなのか「ユイちゃん」押しなのかは明らかにしていないのが不満だな。

小林信彦氏は、次のパートで女優「真木よう子」を絶賛している。美人で巨乳好きなのか!?

で、最後に取り上げているのが「安田南」だったのだ。以下引用する。

 

        「ある歌手のこと」

 昨年の本誌に、2009年に亡くなった安田南さん(ジャズ歌手)の想い出を書いたせいか、彼女の特集をした「ジャズ批評」という雑誌が送られてきた。ぼくの文章は「映画の話は多くなって」(文藝春秋刊)に収められている。

 この特集のおかげで、ぼくが彼女の歌をきいたのは青山のロブロイという店であること、彼女とFM放送をやっていた片岡義男氏がSPレコードのアンドリュー・シスターズからジャズに入ったことを知った。

 すでに書いたように、ばくはアンドリュー・シスターズが好きで、CDを数枚持っている。彼女が三人ならんで敬礼する姿を夢想した。


■ところで、当時南青山にあった「ロブロイ」は、あの阿部穣二の奥さんだった、もとスッチーの遠藤子さんがママをしていた。本も2冊出ている。青森から上京してきたばかりの、まだ10代だった矢野顕子が、ロブロイでピアノを弾いていたことは有名な話。


ロブロイでのライヴ音源は、安田南+山本剛トリオ『South.』 のほかに、初代山下洋輔トリオのサックッスだった、中村誠一のレコードを持っているが、こちらもなかなかの熱演でお気に入りの一枚だ。


■安田南は「気まぐれ飛行船」のDJを辞めたあとは、ずっと行方知れずのままだった。それがなんと、2009年に亡くなっていたのか……

知らなかった。

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