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2012年7月28日 (土)

『サラダ好きのライオン』村上春樹(マガジンハウス)

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■犬を飼い始めて、ツール・ド・フランスもあって、とにかく本が読めない。そしたら、オリンピックが始まってしまった。


こうなると、じっくり集中して読まなければ頭に入ってこない長編小説はまず読めないので、「お気楽エッセイ」ばかりに手が伸びる。このところトイレでずっと読んできたのが、宮沢章夫の『青空の方法』(朝日文庫)『アップルの人』(新潮文庫)『よくわからないねじ』(新潮文庫)。宮沢さんのエッセイはほんと癖になる。読み始めると止められなくなるのだ。

まるで、かっぱえびせん的エッセイだな。


同様に、村上春樹氏が雑誌「アンアン」に連載したエッセイ『村上ラヂオ』のシリーズも、たあいのない内容なんだけれども、読んでいて何とも心地よく止められなくなってしまうのだった。ただ、その最新刊『サラダ好きのライオン』(マガジンハウス)は前著『おおきなかぶ、むずかしいアボガド』と比べて滋味にあふれるフレーズが随所に散見されて、思わず何度もほくそ笑んでしまった。


「ブルテリアしか見たことない」「献欲手帳」「シェーンブルン動物園のライオン」「プレゼントする人される人」「昼寝の達人」「猫に名前をつけるのは」「無口なほうですか?」「こういう死に方だけは」「ひどいことと、悲惨なこと」「いちばんおいしいトマト」あたりが好きだな。


■例えば 130ページの「カラフルな編集者たち」は意味深だ。


彼女によればドイツの出版界では、本来は作家志望だったのだが、成功せず編集者になったというケースが、男性に関してはとても多いのだそうだ。「でも不思議なことに、女性にはそういうケースはないの。もともと作家志望だった女性編集者なんて、一人も知らない」

 だから男性編集者にはけっこう屈託のある、面倒なやつが多い。それに比べると女性の方は実務的にさっさと働くから、そのぶん仕事がやりやすい、ということだった。彼女はもう少し婉曲な言い方をしたけど、ざっくり言うと、まあそうなる。

「で、日本ではどうなの?」と訊かれて、僕は返答に詰まった。さあ、日本ではどうなんだろう。よくわからない。(『サラダ好きのライオン』p130 より)

いや、よくわからない訳がないのだ。


そのむかし中央公論社には優秀な男性編集者がいた。村松友視という。彼は文芸誌『海』の編集に携わったあと、作家として大成した。その彼の同僚に安原顕(愛称はヤスケンさん)がいた。ジャズ愛好家でもあり、月刊誌『ジャズライフ』創刊当初から、ひと癖もふた癖もある個性的なレコード評を書いていて、その名は僕でも知っていた。


そのヤスケン氏が、その当時担当していた村上春樹氏の自筆原稿を、後になって古書市場に流した事件を(彼の死後)最初に公にしたのが坪内祐三氏だ。ぼくはその詳細を『文学を探せ』(文藝春秋)で読んで知った。その後、村上春樹氏自身が「ある編集者の生と死―安原顯氏のこと」と題して、その顛末を文藝春秋(2006年4月号)に書いている。


その解釈は、この内田樹先生の考察が最も鋭いと思うぞ。


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