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2012年5月27日 (日)

3.11 後のエンタメ小説『標高二八〇〇米』樋口明雄(徳間書店)つづき

『標高二八〇〇米』樋口明雄(徳間書店)は、そのタイトルや表紙イラストから本格山岳冒険小説かと思われるかもしれないが、月刊誌『問題小説』2008年12月号〜2011年7月号に断続的に掲載された7つの短篇に、書き下ろし1篇を加えた短編集で、「幽霊譚」5篇+「近未来譚」3篇から成っている。


しかも、よくある「山男が語る冬山の怪談話」は、ひとつもない。


ポイントは、「3.11」の前と後とで発表された作品が収録されているということだ。
だから、幽霊譚とは言っても、最愛の人を失った者たちの深い悲しみや後悔の念がベースにあって、その読後感は辛く苦しい。


ただ、この短編集一番の読みどころは、やっぱり残りの「近未来譚」3篇にある。


「渓にて」は、『問題小説(2010年12月号)』に発表された。「3.11」の前だ。
でも、どう考えても「3.11」後に書かれたとしか考えられない内容だ。


たぶん本にするに当たって大幅に加筆されているのだろうが、それにしてもやはり「炭鉱のカナリア」ではないか。ネタバレになるので内容は書けないのだが、勘がいい人なら、映画化もされたネビル・シュートのSF小説を直ちに思い浮かべたことだろう。


「標高二八〇〇米」は、小5の息子と2人で南アルプス北岳山頂(3193m)を踏破した主人公が体験する不条理な話で、これは面白かったな。ちょっと、最近の鈴木光司みたいな感じになりそうで危惧したのだけれど、最後に収録された「リセット」が「標高二八〇〇米」の続編となっていて、これが実にリアルで読ませる。われわれがいま直面している現実と、そのわずか先の未来の話「そのまま」ではないか。あぁ、確かにそうだよなぁ。そういうことになるワケだよなぁ。そう、しみじみ思ったよ。


読後、何とも言えない「やるせなさ」と「無力感」に包まれ、『極北』や『ザ・ロード』に残された「微かな希望の火」は、「リセット」においていとも簡単に吹き消されてしまう。ほんとうに切ないし悲しい。それでも………

■「リセット」でじつに印象的だったシーンがある。


スウェーデンの映画監督イングマール・ベルイマンが撮った『第七の封印』を彷彿とさせる場面だ。ぜひ、読んで確かめてみてほしい。






YouTube: Det Sϳυחde Ιחseglet (1957) 1/9

ところで、著者は執筆後この本が出るにあたって、facebook で「こう」言っている。


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