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2011年10月11日 (火)

日曜日夜のETV特集『希望をフクシマの地から~プロジェクトfukushima!の挑戦』を見て、いろいろと考えさせられた。

■ETV特集『希望をフクシマの地から~プロジェクトfukushima!の挑戦』を、10月9日(日)よる 22:00〜23:30(Eテレ)で見た。で、大きく心を動かされた。ただ「感動した!」とかそういう感情ではなくって、何だかよく判らないのだけれど、心の奥底から突き上げて来るマグマのような混沌とした感情に打ち震えた。とでも言えばよいか。もちろん、中心人物である大友良英さんの奢りのない正直で真摯な言葉と行動力には、心からリスペクトを憶えたし、番組そのものに対しても高評価を与えたいと思った次第。


■大友良英さんはギター1本でインプロビゼィションを繰り広げ、ワールドワイドに活躍するフリージャズ・ミュージシャンだ。大友氏は福島県の出身。この3月11日以降、予定していた海外公演を全てキャンセルし日本に留まった。いや、留まざろうえなかった。


そのあたりの彼の想いは、4月24日に行われた「芸大での講演」で読んで知っていた。こうした流れから、ごく自然に8月15日の『プロジェクトfukushima!』の企画が展開されていったのだな。こちらの「6月26日付のインタビュー」を読むと、その経緯がよくわかる。


■この番組『希望をフクシマの地から~プロジェクトfukushima!の挑戦』を見ていて一番に感じたことは、単なる「音楽イベント」のダイジェストにするつもりは毛頭ないぞ! という番組担当NHKディレクター山岸氏の確固たる意志がじんじん伝わってきたことだ。いままで数々の傑作音楽ドキュメントがあった。『真夏の夜のジャズ』とか『ウッドストック』とか。マイナーなところでは『吉祥寺発赤い電車』とか。ただ、どの映画も監督の強烈な個性が全面に出たことで傑作たり得たのだと思う。


大友氏と同じく福島出身である山岸ディレクターは、当事者である大友氏とは別の視点にこだわった。それは、ドキュメンタリー作家としての意固地な信念だ。そうして、その思い(問題提起)は視聴者に確かに伝わったのではないか。


山岸ディレクターの意図は、この番組の中で「福島」をめぐる人びとを「5種類」に分けで、視聴者がそれぞれの人の立場になって考えてみる場を提供しようとしたことだと思う。その5種類とは、

1)かつて福島で暮らし生活していたが、今は遠く離れて東京で日常をおくっている人びと(大友良英氏、遠藤ミチロウ氏、NHK山岸番組担当ディレクター)


2)昔から福島で生きてきて、3月11日以後もそのまま福島で生活を続けている人びと(現役高校教師で詩人の和合亮一氏、安斎果樹園の年取ったお父さん。福島から避難したくてもできないで、昼も自宅の雨戸を閉めたまま生活を続ける、まだ若い父母と、娘の誉田和奏ちゃん)


3)生まれた時からずっと福島で暮らしてきたのだが、原発事故のあと、もうこれ以上の放射能被曝を避けるべく、福島県外へ脱出していった人たち。


特に、3月11日の翌日、いち早く原発事故を予測し、まだ福島第一原発が爆発事故を起こして放射能をまき散らす前に、北海道へ避難した人がいた。安斎果樹園の息子さん家族だ。夫婦と幼い子供2人。祖父母は福島に残り、家族は分裂した。結果的には、彼の行動は素晴らしいほどの大正解で、子供たちは被曝をまのがれることができたのだ。

4)大震災前後とも、福島とは関係のない土地に住みながら、当事者気取りで好き勝手な発言を繰り返す人たち、自分には関係ないことと思っている人たち、ずっと何となく気にはしているのだけれど何もできないでいる人たちなど(ぼくを含め、日本全国にはここに入る人たちが一番多いはず。)


5)3月11日以前は、福島とはぜんぜん関係なかったのだけれど、その日以降、頻回に福島入りして活動し、終いには福島へ定住しようとしている人(『ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図~福島原発事故から2か月~」』に登場した木村真三先生。)

 フェスティバルを県外から見に来た人たち、出演者として参加したプロのミュージシャンたちも、ここに入るかな。

■3)の安斎果樹園の息子さん安斎伸也氏は、山岸ディレクターとは福島高校の同級生だ。だから、山岸ディレクターは自らカメラの前に登場し、避難先の北海道まで追いかけて行って安斎氏と対峙する。普通、ドキュメンタリーではこういう展開はない。出しゃばり好きのマイケル・ムーア監督は別だが。


安斎伸也さんは、桃の収穫のために単身一時帰宅する。そして、8月15日には「プロジェクトfukushima!」屋外会場に隣接した物販販売コーナーで安斎果樹園の桃を売る。でもぜんぜん売れない。美味しそうな桃が並べられた大きなざるに、通り雨の大粒の水滴がただ無残にたまる映像が鮮烈だった。


振り返ってみれば、安斎伸也さんが取った行動は、誰が何と言おうと全くもって正しい。誰からも非難される筋合いはない。それなのに、番組では彼が一番冷たい視線を浴びせられていたように感じた。何と理不尽なことか。何という悲劇か。彼は何にも悪いことしてないんだよ! 正しい行動だけしてきたんだよ! それなのに、この仕打ち。あぁ、これが今の福島県民の想いなのか。


■番組を見た人たちの感想をぜひ聞きたいと思い、Twitter で検索したら、音楽評論家・プロデューサーの高橋健太郎氏をはじめ、思いのほか否定的な意見が多く挙がっていて驚いた。大きく分けて、今現在も被曝の怖れあるこの時期に、福島で屋外音楽フェスティバルを行ったことに対する否定的意見と、番組ディレクターの演出方法に対する否定的な意見に分けられる。


一連の発言のまとめが「こちら」にアップされているのでご覧ください。


ぼく自身は、この番組を傑作として高く評価します。


詩人の和合亮一氏が、自作のポエトリー・リーディングの結びに、

「明けない夜はない」

と、静かな声でゆっくりと語った、その言葉が、何よりも一番心に残った。


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コメント

私もこの番組に好感を持ちました。たしかに少しづつ立場が違う人達を交錯させ織り込んだところが良かったのだと思います。特に印象的だったのは、安斎果樹園の桃でした。検出された放射線量を明示していましたね。他の販売コーナーの食品では確か「未検出」と表示されていたと思います。「未検出」とは「ゼロ」なのか?「基準値以下」なのか?と思っていたのです。
とても美しい桃が雨に浸かっていくシーンが忘れられません。無念さに耐えている伸也さんの表情も胸につまりました。

kitafukurou-N43 さん コメントありがとうございました。ぼくも「そのシーン」が目に焼き付いて離れません。この番組に関して言及するブログが案外少ないので、ぜひ再放送してもらって、もっとたくさんの人に見てほしい、そしていっしょに考えて欲しいと思いました。

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