『子どもにかかわる仕事』汐見稔幸・編(岩波ジュニア新書)
■小児科医として「子供とかかわる仕事」をしていながら、案外「その他の子供とかかわる仕事」に就いている人たちが、具体的にどのような仕事をしているのか、どういう思いで子供たちと向き合っているのかが、ぜんぜん分かっていないことに気付いたのは、「伊那のパパズ」という父親による絵本の読み聞かせ隊活動を通じて、小学校の先生、幼稚園の先生、こどもの本屋さん、市役所の学校教育課職員という、職種は違いながらも「子供とかかわる仕事」に携わるお父さん方とお付き合いさせていただくようになってからのことだ。
もう7年以上いっしょにやっているけれど、いまだに子供に関して新たに教えてもらうことが多々あり、仕事に対してマンネリ化しつつある自分の態度に毎度「喝」を入れてもらっているのだった。
■「この本」は、これから自分の将来の職業を考える中学生・高校生を対象に書かれたものではあるのだが、本当は、現在「子供と係わる仕事に就くわれわれ」こそが読むべき本なのではないかと思った。
図らずも、編者の汐見稔幸先生は「はじめに」の中でこう言っている。
執筆者はみんな、子どもを相手にする仕事をしてきたことに喜びを感じ、そうしたことを可能にしてくれた子どもに感謝しています。すぐれた指導者と出会って感謝することは誰にでもできます。偉い人にお世話になったことを感謝することも当然です。でも患者さんに医師が感謝すること、クライアントにカウンセラーが感謝すること、幼児に保育者が感謝すること等々は、一般的ではありません。私は、生徒に謝ったり感謝する喬師がたくさんいれば、日本の教育はもっともっとよくなると思うのです。
そうなのだ。ぼくらは子どもたちがいてくれるおかげで、生かされているのだ。そういう本質的なこと、根本的なことを「この本」は改めて知らしめてくれるように思う。だから、大人こそ必読本なんじゃないか?
■以下、13人の執筆者の文章から少しだけ引用させていただきます。
・鈴木せい子さん(助産師)
助産師は、新しいいのちを迎えるたびに、こうした胎児の ””生命力のすごさ”” に圧倒されます。お母さんもがんばった、でもあなたもがんばった。さらにすごいことは、あなたがいるだけで、周りのみんなにも生きる希望を与え、多くの喜びと幸せをもたらしているということです。だから、あなたは「生きているだけで百点満点」。(p15)
・細谷亮太先生(小児科医)
病棟の子に亡くなられるたびに、誰もいない非常階段で声を上げて泣きました。どうしてこんな理屈にあわないことがあるのかと、心の底から悲しく、医者をやめたいと思ったこともありました。 子どもたちの死はあまりに不条理でした。子どもは、死んではいけない人たちなのです。今もそう思っています。(p23)
・井桁容子さん(保育士)
たとえば、年齢が同じなら、同じことができて当たり前、同じ量だけ食べ、何をやるにも同じ時間で動く、そんなことはまずありません。ですから「同じ」を子どもたちに求めるような保育、また保育者であってはダメだということを、まず理解する必要があります。そのうえで、一人ひとりが違っていることを大事にはぐくみ生かしあえる関係づくりができる保育および保育者であろうとすることがとても重要です。(p47)
・渡辺恵津子さん(小学校教員)
この本を手に取ったあなたは、「先生の仕事」をどんなものだと想像しますか? 成長段階にいる子どもたちを「教え導くこと」と思う人も多いかもしれません。私も教員になりたての頃は、そう考える気持ちが少なからずありました。しかし今は、「教え導くこと」が必ずしも喬師の仕事ではない、と実感しています。むしろ今は、自らの力で人生を切り拓いていこうとする子どもたちに伴走し、励まし支え、それぞれの「持ち味を十二分に引き出してあげること」ではないかと思っています。
たくさんの子どもたちと出会って思うのは、一人ひとりが本当にかけがえのない存在であり、いのちであり、可能性をいっぱい秘めた発展途上人だということです。(p65)
初めまして。「子どもにかかわる仕事」(岩波ジュニア新書)13人の分筆者の一人です。お目通しいただき、コメントをいただきましてありがとうございました。いのちの現場で30年以上新しいいのちの誕生に向かい合っています。
その間、見て、触れて、感じたありのままを伝えたい・・。そうした思いで著しました。先生から、、“本当は、現在「子供と係わる仕事に就くわれわれ」こそが読むべき本なのではないかと思った。”ありがとうございます。私もそう思っております。私もブログをアップしております。もしお時間がありましたら、お訪ねいただければ嬉しく思います。(鈴木助産院院長のブログ)
投稿: せいこ | 2011年8月17日 (水) 10:19
鈴木せい子さん コメントありがとうございました。この本の執筆者の方から直接コメントいただけるなんて光栄です。
この本は、もっとたくさんの人たちに読んで欲しいと思います。13人それぞれの子供たちへの思いが、これほどストレートに読者に響いてくる本はないと思うからです。
投稿: しろくま | 2011年8月18日 (木) 08:09