『妙高の秋』島村利正を読む
■『奈良登大路町 妙高の秋』島村利正(講談社文芸文庫)から「焦土」と「妙高の秋」を読む。どちらにも高遠がでてくる。やはり、高遠が舞台となる小説「仙醉島」「庭の千草」「城趾のある町」、それに「奈良登大路町」と読んできたので、まさにその続きのような私小説「妙高の秋」が特にしみじみと心に沁みた。いいなぁ。すごくいい。
島村利正氏は、江戸時代後期の内藤高遠藩で御用商人も務めた、高遠町本町にある老舗の海産物商店の長男として生まれた。明治45年3月25日のことだ。その日、彼の父親は秋葉街道沿いの下伊那郡大鹿村まで集金に行っていて留守だった。
父は二日がかりの集金から帰ってきて私の出産を知り、女児ばかり三人続いたあとなので、両手をあげて喜んだそうである。そして首からかけていた財布をはずすと、懐中時計も一緒に枕もとへ置いて、これも坊のものだ、これも……と、云いながら、覗きこんだという。(p130)
老舗の商家の長男である。父親は島村氏が小学校を卒業したら、松本か諏訪の問屋へ見習い奉公に出すことに決めていた。家を継ぐ長男には学校はむしろ邪魔だったからだ。父親の期待も相当大きかったのだろう。
でも、長男の島村氏は家を継がずに、奈良の飛鳥園に行ってしまう。
そんな、父親と長男との確執と和解が「妙高の秋」の主題だ。
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