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2010年3月27日 (土)

『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎(新潮社)読了

■ 休診にしている今週の水曜日の午後、冷たい雨の中を車で松本まで行ってきた。
東宝映画『ゴールデンスランバー』を見るためだ。


原作を読んだ息子たちが春休み中に是非見たいと言っていた映画なのだ。
幸いなことに、その前日の深夜、ぼくも読み終わった。『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎(新潮社)


3月は何かと忙しく、ちょうど真ん中へんで中断してしばらく読まかったので、緊張の糸が切れてしまったのだが、それでも、展開が全く読めなくて、主人公の気分でハラハラドキドキしながら読了した。いや、面白かった。


読みながら思ったことは、この小説自体がビジュアルを意識して書かれているので、映画にしたらさぞやヒットするに違いないということだった。実際、映画になったものを見て、やっぱりなぁ、というシーンが幾つか。そうして、おっ! 映画ではそうきたのか! というシーンもいくつか。例えば、iPod の使い方とか、トドロッキーの台詞とか。驚いたのは、小鳩沢役で登場したあの「サード」の永島敏行が、常に無表情で無言のまま次々とショットガンをぶっ放すところだ。小説のイメージとは違ったが、ものすごく不気味だった。彼は映画の方がよかったかな。あと、キルオ役の濱田岳もよかった。


そして何よりも、本を読んでいる時には「音楽」は聞こえてこないワケで。
ビートルズがどうのこうのと本に書かれていても、手元に音源がなければ判らない。


でも、映画では堺雅人が、吉岡秀隆が、そして劇団ひとりも「ゴールデンスランバー」を口ずさむ。それがとってもいい。そして、ポールのオリジナルではなくカバーだけれども、バックで流される「ゴールデンスランバ〜〜」と歌うサビの部分は心に「ジン」ときたな。


主人公を囲む昔の友達。あわせて4人。
ビートルズといっしょ。

LP『レット・イット・ビー』が、彼らのラストアルバムではあるのだが、
最後にスタジオで録音されたのは『アビーロード』のほうなんだって。
4人の心はもうバラバラで、
それでも、みんなの心をつなぎ止めようとポール・マーッカトニーは奔走する。
そうして、誰もいなくなったスタジオで、彼は歌うのだ。


『ゴールデンスランバー』を。

原作を読んだ時には、ストーリーを追うのにやっとで、
作者の本当の意図を理解することができなかったのだが、
映画を見て初めてわかった。

あ、そうか。これは青春小説なのだと。
理不尽な苦難に陥った、かつての仲間を、
他の3人がタッグを組んで救う話だったのだ。


謀略小説でも、経済小説でも、スパイ小説でも推理小説でもない。
やっぱり、青春小説の王道なのだと。

■さて、この本の中でぼくが付箋を貼った場面をいくつか抜き書きしておきます。


「おまえは逃げるしかねえってことだ。いいか、青柳、逃げろよ。無様な姿を晒してもいいから、とにかく逃げて、生きろ。人間、生きててなんぼだ」


「結局、人っていうのは、身近にいる、年上の人間から影響を受けるんですよ。小学校だと、六年生が一番年長ですよね。だから、六年生は、自分たちの感覚がそのままなんです。ただ、中学校に入れば、中学三年生が最年長です。そうなると、中三の感覚が、自分を刺激してくるんですよ。良くも、悪くも。思春期真っ最中の中学三年生が自分の見本なわけです。」

「花火大会ってのはよ、規模じゃないんだよな」
「その町とか村とかによって、予算は違うけどな、でも、夏休みに、嫁いでいった娘が子供を連れて、実家に戻ってきて、でもって、みんなで観に行ったり、そういうのは同じなんだよな。いろんな仕事やいろんな生活をしている人間がな、花火を観るために集まって、どーんっ打ち上がるのを眺めてよ、ああ、でけえな、綺麗だな、明日もまた頑張るかな、って思って、来年もまた観に来ようって言い合えるのがな、花火大会のいいところなんだよ」


「イメージというのはそういうものだろ。大した根拠もないのに、人はイメージを持つ。イメージで世の中は動く。味の変わらないレストランが急に繁盛するのは、イメージが良くなったからだ。もてはやされた俳優に仕事がなくなるのは、イメージが悪くなったからだ。」


「分からない」青柳雅春は返事をする。「ただ、俺にとって残されている武器は、人を信頼することくらいなんだ」
 そいつはいいや、と三浦は噴き出した。「そんだけ騙されて、まだ信じるんですか? 物好きだなあ。」

「びっくりするくらい空が青いと、この地続きのどこかで、戦争が起きているとか、人が死んでいるとか、いじめられている人がいるとか、そういうことが信じられないですね。」

「前に小野君が言ってたんです。天気がいいとそれだけで嬉しくなるけど、どこかで大変な目に遭っている人のことも想像してしまうって」

「偉い奴らの作った、大きな理不尽なものに襲われたら、まあ、唯一俺たちにできるのは、逃げることぐらいだな」

「俺ね、頭は良くないけれど、それでも知ってるんだよね。政治家とか偉い人を動かすのは、利権なんだよ。偉い人は、個人の性格とか志とかは無関係にさ、そうなっちゃうんだ」

「なんか、そんな気がするんですよね。今はもうあの頃には戻れないし。昔は、帰る道があったのに。いつの間にかみんな、年取って」
 その通りだなあ、と樋口晴子は思った。学生時代ののんびりとした、無為で無益な生活からあっという間に社会人となり、背広を着たり、制服を着たりし、お互いに連絡も取らなくなったが、それでもそれぞれが自分の生活をし、生きている。成長したわけでもないが、少しずつ何かが変化している。

「みんな勝手だ」と青柳雅春は言った。「児島さん、今は信じられないかもしれないけどさ」と続ける。「マスコミって意外に、嘘を平気で流すんだ」とテレビを指さす。


「ビートルズは最後の最後まで、傑作を作って、解散したんですよ」学生時代のファーストフード店で、カズが熱弁をふるっていた。 
「仲が悪かったくせにな」と森田森吾が言った。
「曲を必死に繋いで、メドレーに仕上げたポールは何を考えていたんだろ」こう言ったのは誰だったか、思い出せない。「きっと、ばらばらだったみんなを、もう一度繋ぎ合わせたかったんだ」
 青柳雅春は背を壁につけ、膝を折ったまま、目を閉じた。聴きたかったのではなく、身体に吸収しているという気分だった。

「分かるのか?」
「信じたい気持ちは分かる? おまえに分かるのか? いいか、俺は信じたんじゃない。知ってんだよ。俺は知ってんだ。あいつは犯人じゃねえよ」

「結局、最後の最後まで味方でいるのは、親なんだろうなあ。俺もよっぽどのことがない限り、息子のことは信じてやろうと思ってんだよ」児島安雄は目を閉じたままだった。


「気にはしてるけど、あれだよ、児島さん、人間の最大の武器は、信頼なんだ」



■なんでここに付箋貼ったんだ? ってところもあったけれど、
次に読む妻のために付箋をはがさなきゃならないので、自分の覚え書きとしてここに残しておこう。

確かに荒唐無稽な話ではあるのだが、案外現実的だったりするところがかえって怖い。
市橋容疑者とか、中国の「毒入り餃子」犯人とか。


■原作者の伊坂幸太郎さんが映画の感想を述べているサイトを発見した。<ここ>です。
そうか、伊坂さんはいま、子育て真っ最中のパパなんだ。
ぜひ、子供関連の新作が読んでみたいものだぞ。

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