ドクター・ジャズ(その1)
■ジャズ好きの医者は多い。
持ち前の探究心が昂じて、玄人はだしの「ジャズ評論」を専門誌で展開した先生もいた。粟村政昭氏がまさにそうだ。粟村氏は、京都大学医学部卒。1933年生まれだから、ご存命であれば現在83歳。ただ、ネットを検索しても最近の消息は全く分からない。スクロールして行くと、2013年に亡くなったというツイートを見つけた。寂しいな。
「スイング・ジャーナル」で同じく古くからジャズレコード評を載せていたのが、牧芳雄氏だ。じつはペンネームで、本名は牧田清志。児童精神医学の専門医で、慶応大学医学部助教授だった。1974年に東海大学医学部精神科初代教授に就任。ジャズ評論では、ビッグ・バンドや女性ヴォーカルに造詣が深かった。彼のコレクション(3000枚以上のレコード収集)は現在、東海大学湘南校舎図書館に寄贈され保管されているそうだ。
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■それから、1990年代に突如出現した気鋭の若手ジャズ評論家がいた。加藤総夫氏だ。『ジャズ最後の日』洋泉社 (1993/06)、『ジャズ・ストレート・アヘッド』講談社 (1993/07)の2冊の著書が出ているが、現在は絶版。当時ジャズから気持ちが離れてしまっていた僕は、これらの本を読んでいない。
それでも、納戸から『名演! Jazz Saxophone』(講談社)を出してきて見たら、207ページに彼が書いた文章を発見した。『アウト・オブ・ドルフィー(笑)』加藤総夫 だ。冒頭の部分を引用する。
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まずは「笑う」ことからエリック。ドルフィーを聴きはじめることにしよう。その早すぎた死の重さに沈み込むのではなく、ドルフィーを聴いて不意に笑い出してしまうという経験をその入口として共有するために、たとえばオリバー・ネルソンの代表作『ブルースの真実』あたりから聴きはじめてみることにしよう。
曲は「ヤーニン」。冒頭、ビル・エバンスとしてはちょっと珍しい「ゴージャス」(笑) な2コーラスのソロが、いやが上にも「ジャジー」(笑) な雰囲気を高めたのち、きわめてネルソン的な、現代楽理によるブルース解釈ともいうべき4管のアンサンブルが、感動的にテーマを唱い上げる。
そしてその最終小節、ロイ・ヘインズの派手なスネア・ロールがズドドドーッとクレッシェンドする。さあ、アドリブ。ソロだ。その瞬間、我々の耳に凄じい速度をもって飛び込んでくるドルフィーのアルトの音に耳を傾けることからまずはまずは始めてみよう。
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さて、このような圧倒的な体験を、あるいは感覚を、いったい我々はどう受け止めたらいいのだろうか? このあまりにも突然の、あまりにもとんでもないソロへの導入を耳にしたあとでできることといったら、ただ茫然自失としてぽかんと口をあけたまま、形にならない「笑い」を浮かべることしかないのではあるまいか。(『名演! Jazz Saxophone』p207)
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吉田隆一/黒羊㌠
@hi_doi
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12月18日 | |
大学生のころに読んだこの本にはむちゃくちゃ影響うけたのですが、その中でも特にこの一節は印象的でした。著者の加藤総夫さんは現在、慈恵会医科大学教授(神経科学研究部)jikei.ac.jp/academic/cours…
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つい最近、バリトン・サックス奏者の吉田隆一氏の「このツイート」を読んで驚いた。知らなかったな。加藤総夫氏は、慈恵医大の神経生理学教授だったのか!
検索してみたら、加藤総夫氏は慈恵医大卒ではなくて、東大薬学部卒だった。医者ではないけれど、薬学博士でかつ医学博士。1958年生まれだから、オイラと同い年じゃないか!
(まだ続く予定)
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