今月のこの1曲。RCサクセション『スローバラード』と、NHKBSドラマ『奇跡の人』(その2)
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オリジナル・LPレコード・ヴァージョンには、梅津和時(as)の、むせび泣くサックス・ソロが入っているぞ!(これはシングル盤のほうか?)
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■脚本家・岡田惠和さんがDJを務める、NHKFMの番組『今宵、ロックバーで』。次回(本日午後6時〜)登場は、BSドラマ『奇跡の人』の大金持ち(なんと、ブラックカードを持っている!)大家「風子さん」役で出演中の宮本信子さんだ。
前回は「花子さん」役の、麻生久美子が登場した。でも、タイマー録音に失敗してしまい、結局聴けなかったのだが、来週火曜日の午後8時から、NHKラジオ第一で再放送があるので、今度こそ聞き逃さないのだぞ。
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番組では、このところずっと『奇跡の人』出演者特集が続いていて、山内圭哉さんの回は聞き逃したけれど、峯田和伸さんが出た回は、それこそ奇蹟的に、録音に成功した。今日、改めて聴いてみたら、RCサクセションの名曲『スローバラード』がかかったのだ。
なんでも、峯田さんが「もう歌うのやめようか」と思うくらいメチャクチャ落ち込んだ夜に乗ったタクシーの「カーラジオ」から流れてきたのが『スローバラード』だったんだって。彼はあわてて運転手さんに頼んで、ラジオのヴォリゥームを最大にしてもらい、2人して大盛り上がりだったんだって。峯田さんは、カーラジオから流れてきた忌野清志郎に救われた。出来すぎじゃね!
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「この曲」に関しては、カップルの男と女とで、感覚がぜんぜん違うと思うのだ。車を運転していた男にとっては「最低な夜」だ。今夜も一発きめてやろうぜぃ! って「ラブホ」目指して国道に出たやさき、車はパンクして、仕方なく市営グランド駐車場になんとか車を入れた。結局、彼女とは出来なかったワケさ。歌詞の雰囲気では、その夜の車中では何もなかったんじゃないか。
でも、女のほうからの視点で考えると、ぜんぜん違う。すったもんだの末、パンクした車を押して深夜の駐車場へ。大好きな彼氏との思いがけない大冒険。おまけに、その彼といっしょに毛布にくるまって、手つないで、シートを倒した狭い車中で横になっている。絶対的な愛に包まれた感じ。今夜、世界一幸せな女は私よ! そう思っているに違いない。
だから、「悪い予感のかけらもない」からこそ、彼氏といっしょで安心しきっていたんだろうなぁ。じゃないと、「ねごと」なんか言うわけないもの。
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歌詞だけ読むと、男の視点なのに、女の気持ちが語られていて、そこが変なのだ。幸せの絶頂のはずなのに、清志郎が唄うのを聴くと、どうしてこんなに悲しく泣けてくるのか? それは、清志郎が「男」だからで、「悪い予感のかけらもないさ」って、無理矢理自分に信じ込ませている(それは、男も女も同じだ。何故なら、それが恋というものだから。)嘘の哀しみを、聴いていて感じ取ってしまうからなのだろう。
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ところで、RCサクセションの『スローバラード』と言えば、まっ先に思い浮かべるのは、作家の角田光代さんだ。清志郎さんが亡くなった時の追悼文は、ほんと心に沁み入った。『これからはあるくのだ』角田光代(理論社→文春文庫)の巻頭に収録されたエッセイ「わたしの好きな歌」で、彼女は「この曲」を取り上げている。以下引用。
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この歌を初めて聴いたのは十五歳のときだった。ライブハウスで、あるバンドがコピーしていた。そのときは、いい歌じゃん、とそれしか思わなかった。けれど三年後、本物のスローバラードを聴いて私は実に驚いた。同じメロディ、同じ歌詞の歌が全然違ったのである。泣きそうになった。声、というものがいかに力を持つものかそのとき知った。
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何度も何度も繰り返して聴き、ようやく泣きそうにならずに落ち着いて聴くことができるようになったとき、私は一つの決心をした。好きなひとができたら、絶対車の中で毛布にくるまって寝よう。絶対そうしよう。運のよいことにそう決心した私は女子校を卒業して大学生になり、同い年の男の子というものに接する機会を与えられた。
いきなりたくさん現れた若い男の子たちに緊張しながらも、「車の中で一緒に手をつないでラジオを聴いて寝てくれるようなひと」を捜した。(中略)
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年を重ねるにつれ、私の中でこの歌の意味はいろいろと変わり続けた。確かに恋愛は、ドライブした車の中で仲良く手をつないで寝るだけのものではなかった。愛しさも涙も嫉妬も汚さも美しさも、全部を乗せて時間はどんどん過ぎ去ってしまう、その残酷さも、この歌には全部つまっていた。
一番最初に聴いたとき、どうして泣きそうになったのかわかった。恋愛がどんなものか知らなかった私にも、この歌の持つかなしさだけはちゃんと届いたのだ。声とメロディとがとけあって、こんなにも饒舌な歌を私はほかに知らない。
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この歌を聴き続けてもうずいぶん時がたち、さすがに「スローバラード実戦作戦」を真剣に練ったりはしてないが、「毛布にくるまってラジオを聴きながら車の中で一緒に眠れるひと」、つまりこの歌の良さを共有できるひとが好みなのは変わっていない。『これからはあるくのだ』角田光代(理論社)7ページ〜10ページ。
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