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2015年10月 6日 (火)

『コルバトントリ』山下澄人(文藝春秋)を読む(その2)

■昨今話題の動画、味の素AGF「ブレンディ・卒業編」のCM。

はじめて見た時、ぼくは即座に『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ(早川書房)の小説と映画に登場する、ヘールシャム寄宿学校の講堂と女の校長先生(『愛の嵐に出ていた、シャーロット・ランプリングが演じていた)を思い浮かべたのだが、ツイッターのタイムラインを見ていて同じように感じている人が案外少なくて驚いている。

まず間違いなく、このCMの映像作家は映画『わたしを離さないで』を見ていて、その発想の原点にしているに違いない。ぼくはそう思った。でも、そう指摘した人が2人しかいなかったのだ。(もちろん、検索してみると「そう言っている人」は数多くいるわけだが、ぼくがフォローしている集団では、ほとんどいなかったということ)

この本を読んでいるか、もしくは原作は読んでいなくても「映画」を見ている人なら、絶対にそう思うはずなのに、そう思う人があまりいないということは、世の中のほとんどの人は、小説『わたしを離さないで』を読んでないし、映画も見てないという事実に気づかされたのだった。

ぼく個人的には、日常ふつうに「本を読んでいる」という人は、日本の人口の3〜5%ぐらいだと思っている。300万〜500万人だ。でも、その中で『わたしを離さないで』を読んだ人は「1〜2%=3〜10万人」ぐらいだったんじゃないかな、結局。ベストセラーの海外小説と言っても、その程度なのだ。

つまりは、実用書・ビジネス本・雑誌を除くと、「文芸書」なぞ読んでるヒマ人は、この世の中に数%もいないという事実。ましてや、エンタテインメント小説ではない、いわゆる「純文学」の熱心な読者となると、さらにその1/10以下もいないんじゃないか。

そんな中で、ピース又吉が『火花』(発行部数209万部!)で芥川賞を取ったことは、純文学界にとって、いや出版業界全体に絶大な効果をもたらした。『紙の動物園』ケン・リュウ著、古沢嘉通=編・訳(早川書房)の帯には、ピース又吉の推薦文「激しく心を揺さぶられました。この物語の世界に触れている間、僕はずっと幸福でした。」という一文が載っているし、『アメトーーク』読書芸人の回で、ピース又吉オススメの10冊の中に、この『コルバトントリ』が入っているのだ。これは、ふだん本を読まない一般ピープルにも注目されるよね。

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小説『コルバトントリ』は、飴屋法水氏によって芝居になった。『コルバトントリ、』だ。

「この劇評」を読むと、作者の山下澄人氏も出演者として舞台に立ったらしい。山下澄人氏は元々が役者さんで、倉本聰の富良野塾第二期生。神戸出身で、劇団FICTIONを主宰していた。先ほどの劇評を読むと、

山下の実家は兵庫県だが、阪神淡路大震災の2日前に北海道の富良野に行ったため、本人は震災には遭わなかったらしい。家は全壊状態で彼の布団の上に屋根が落ちたそうで、もし家に居たら、この本も、この上演もなかっただろう。

と書かれている。

最近、演劇人で芥川賞候補になる人が多いな。宮沢章夫氏は違ったっけ。松尾スズキ氏は確か候補になった。本谷有希子、前田司郎、それに、最近では戌井昭人と山下澄人氏。

早くから、山下氏の作家としての才能を認めていたのが、作家の保坂和志氏と、評論家の佐々木敦氏だ。

保坂和志 × 山下澄人の対談が、池袋ジュンク堂で、2012年から毎年つづけて計3回行われていて、そのすべてが、今でも YouTube で見ることができてすごく面白いのだが、対談というより、保坂氏が一人でずっとしゃべっていて、しかも、褒めているのか貶しているのか、よく分からなくなってしまい、ちょっと物足りない。(ところで、映像でみると、保坂氏は、村上春樹とどことなく似ている気がする)


YouTube: 保坂和志×山下澄人 書く気のない人のための小説入門


そこいくと、下北沢の書店「B&B」で行われた、佐々木敦氏との対談が、山下氏の作風を分析する上でとても参考になる。

『コルバトントリ』刊行記念イベント 山下澄人 × 佐々木敦 対談


YouTube: 山下澄人(作家)×ゲスト:佐々木敦(批評家・早稲田大学教授・HEADZ主宰) “山下澄人と佐々木敦による、鳥の会議”


■山下さんには、今度こそ、芥川賞を取ってほしいものだ。(まだつづく)

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