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2013年5月11日 (土)

『あまちゃん』の感想を書いてみる(その2)

  大切なことは、あえてクドカンは「朝ドラ」の定石に則ってドラマを書いていることだ。頑固な祖母と一途な孫娘。孫娘はいきなり海へ落とされる。これは『てっぱん』を踏襲している。富司純子のおばあちゃんも良かったが、『ちりとてちん』の江波杏子も凛として格好良かったな。

 

 貫地谷しほり演じる、愚図でダメダメな冴えないヒロイン和田喜代美(B子)と対極にあるクラスメイトでライバルの和田きよみ(A子)佐藤めぐみの存在。これは『カーネーション』での尾野真千子と栗山千明に引き継がれ、今回は天然キャラの能年玲奈に対して、クールな美少女、橋本愛を配した訳だ。つげ義春の漫画に登場するキクチサヨコ(紅い花)や、コバヤシチヨジ(もっきり屋の少女)を彷彿とさせる橋本愛は、まさに正統派美少女だ。

 

 ヒロインのライバル栗山千明も佐藤めぐみも、ドラマでは奈落の底まで落ちて行くのはお約束だったし、天野アキ(能年玲奈)の母親、天野春子(小泉今日子)が、足立ユイ(橋本愛)に対して心配するのもその点だ。夢を抱いて田舎から上京したアイドル志望の少女が、芸能界に蠢くハイエナのような男どもの餌食となってお払い箱となり、心身共にボロボロとなって田舎へ帰る。そういう展開が見え見えだからだ。

 

  しかし、予想に反して「現実の」橋本愛は高校生(17歳)にしてめちゃくちゃ「したたか」だった。有名になるためなら、男もスキャンダルも芸の肥やしにしてやろうじゃないかという確かな覚悟がある。たいしたものだ。実際にそうなのだから、ドラマでも予想外の展開を期待してるぞ。

 

  その橋本愛に気があるのが、ヒロインの先輩で爽やか好感青年役の仮面ライダー・イケメン男優の福士蒼汰。「自分(ずぶん)は……」と訛る素朴さとのギャップが新鮮だ。  

 

Amachan


 一方、先輩に片思いのヒロイン能年玲奈は、母親が高校時代を過ごした1984年で時間が止まったままの子供部屋で、YMOの『君に胸キュン』を聴きながら、瞳をキラキラさせて「キュン!」と言うシーンがめちゃくちゃ可愛い。

 

 

 このドラマのもう一つのポイントが、1984年だ。三陸鉄道「北リアス線」が開業し、ヒロインの母親(高校生時代の小泉今日子役・有村架純)が家出した年。ジョージ・オーウェルや村上春樹が、小説のタイトルにした年。

ぼくが医学部を卒業したのが1983年だったから、あの頃はやっぱり松田聖子だな。『赤いスイートピー』がヒットした後、サントリーのビールのCMでペンギンが『スイート・メモリーズ』を唱っていた。

 

 


 

 ドラマでは小道具にもこだわりがあって、館ひろし(『純と愛』にホテル社長として出ていた)のグラビアが載っている月刊誌は『明星』ではなく『明凡』だし、橋本愛が「誰?これ」と言った雑誌『POMB!』(「BOMB!」でなく)の表紙は、シブがき隊の布川敏和と結婚した「つちやかおり」だった。つい先日は、斉藤由貴のデビュー曲『卒業』が当時の映像で流れた。もうたまらなく懐かしい。いま4050代のオジサン、オバサンの心を鷲づかみだ。

 


 そうして、当時のアイドル最高峰といえば、なんてったって「小泉今日子」なのだった。『ヤマトナデシコ七変化』は今でも持っている。その小泉今日子も、なんと今年47歳になった。ドラマでは変に無理して若作りせず、わざと顔に影が出来るライティングに素顔に近いメイクで臨んでいる。当初は正直あまりのギャップに違和感があった。しかし、回が進むごとに熟年・小泉今日子の魅力がじわじわとアップしてきているのを感じる。女優魂。いや、アイドル魂か。演技にも凄味が出てきた。今後の彼女が実に楽しみだ。


 脇を固める助演人にも触れなければなるまい。海女軍団の面々では、渡辺えり(劇団3○○主宰、山形県出身)のとぼけた演技が最高に可笑しい。あんべちゃん・片桐はいり(ブリキの自発団、東京出身)もよかった。宇都宮へ行ってしまって淋しいぞ。さらに、木野花(劇団青い鳥、青森県出身)、美保純(にっかつ、静岡出身)とベテラン芸達者が並ぶ。吹越満(WAHAHA本舗、青森県出身)、荒川良々(大人計画、佐賀県出身)、皆川猿時(大人計画、福島県出身)など、東北出身や小劇場出身の役者さんが多いのもポイントだ。


 音楽は、福島高校卒でフリージャズ・ギター奏者&ノイズ・ミュージック作曲家の大友良英。宮藤官九郎も宮城県出身。つまり『あまちゃん』には東北人パワーが結集しているのだった。

 

 ドラマの後半は、ヒロインが東京へ出て来て「AKB48」みたいな、地元ローカル・アイドル寄せ集め集団「GMT47」に入り、

いよいよ芸能界デビューするらしい。それはドラマ上での来年(2009年)の話。


ということは、その2年後には 3.11. がやってくる。

クドカンは、いったいどうするんだろう? ちょっと不安。

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