『創世の島』バーナード・ベケット(早川書房)
■何故か、SFが読みたかったのだ。
で、『創世の島』バーナード・ベケット著、小野田和子・訳(早川書房)を手に取った。
松尾たいこさんのカヴァー・イラストに誘われて。彼女が描いた表紙を見て「おっ!」と思った本は、ほぼ間違いなく「当たり!」だからだ。例えば、シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』それから『輝く断片』(河出書房新社)。
『創世の島』の表紙には、岩場の海岸線を裸足の少女が一人、後ろ向きで描かれている。海の水平線は見えない。何故なら、諫早湾に作られた堤防と同じような、高さ30mにも及ぶ隔壁が島の全周を包囲しているから。
この「大海洋フェンス」が築かれたのは、2051年。「最終戦争」が始まってから11ヵ月後のことだった。2052年末にはじめて伝染病菌がばらまかれた頃には、アオテアロア(ニュージーランド)はすでに外界から隔絶された状態になっていた。外界からの最後の放送が受信されたのは 2053年6月。その頃には、大富豪プラトンがアオテアロアに建設した<共和国>は完成していたのだった。
2058年、共和国にとっての救世主となったアダム・フォードが生まれる。
このスーパースター「アダム・フォード」の生涯(2058 - 2077)とその業績に関して、主人公である少女アナックスは、共和国の最高機関である「アカデミー」への入学試験(4時間にわたる口頭試問)に臨むのだった。
■いやぁ、面白かった。短いから一晩で読めた。
でも、ぼくの評価は 3.75点かな。
だって、98ページまで読んだところで、主人公の置かれた状況が読めてしまったからだ。
たぶん、すれっからしのミステリ・ファンなら誰だって気が付くと思うよ。
それくらい「使い古されたネタ」ではあるからだ。
でも、この小説の優れているところは、ネタがばれたとしても最後まで予断を許さずに納得がいく結末に読者を導いてくれている点に尽きる。そうか、そういうことだったのか! ぼくは読み終わって十分に満足した。
■この小説でキーワードとなる言葉は「思考」だ。心や魂(たましい)も関係する。
免疫学でノーベル賞をとった、利根川進先生は、次は「脳」だとばかり、人間の記憶は遺伝子(RNA DNA)によって保存されているという仮説を立てた。しかし、それは間違いだった。
記憶は核酸でできた遺伝子ではなくて、シナプス「回路」だったのだ。
じゃぁ、意識とは何か? 思考とは? 心とは?
動物にも意識はあるのか? 心はあるのか? そういう話なのだ。
またしても、ネタバレなしには紹介できない本なので困ってしまったのでした。
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