男性ジャズ歌手が歌う歌詞は「男言葉」なのか?(その2)
■じつは、アンドレア先生(オーストラリア出身)が、トニー・ベネットの『Duets II』を貸してくれる前に、いま一番の「お気に入りCD」を貸してくれたのだ。それが、
ロッド・スチュワート『ベスト・オブ・ザ・グレイト・アメリカン・ソングブック』だった。
ぼくは正直、「えっ?」って思った。あの、金髪兄ちゃんが豹柄パンツの姉ちゃんを抱きながら「イェィ!」って言ってるジャケットの人でしょ。ぼくがまだ高校生の頃のことだったかなぁ、彼の「セイリング」がヒットしたのは。日本人で言えば「もんたよしのり」のような「しゃがれ声」でハイトーンを正確な音程でシャウトできる稀有な男性ヴォーカリストであったことは認めるが、いかんせん、当時の印象では女の子受けだけを狙った、軟派の兄ちゃんといった雰囲気だった。
そのロッド・スチュワートが、ずいぶんと前からジャズのスタンダード・ナンバーをCDに吹き込んでいて、それが評判を呼んで、Vol.5 まで出ていたとは、恥ずかしながら僕はぜんぜん知らなかったのだ。で、昨年春に『ベスト・オブ・ザ・グレイト・アメリカン・ソングブック』が出たというワケだったのだね。
YouTube: Rod Stewart & Jeff Beck - People Get Ready.mp4
YouTube: Sailing ROD STEWART (ロッドスチュワート)
YouTube: Rod Stewart - I'll Be Seeing You
で、その『ベスト盤』を半信半疑で聴いてみたら、ほんと思いがけず、すっごくいい。
驚いたね。あの、ロッド・スチュワートがジャズ唱ってるんだよ。
そんな感じで、気軽に気持ちよく聴いてたら、ふと、苦しいときも、つらいときも、何度も何度も聴いてきた曲が流れてきてビックリした。それは「アイル・ビー・シーイング・ユー」って曲。これ、大好きなんだ。ビリー・ホリデイの名唱で世の中に知れ渡った曲さ。
こうしてね、目をつぶって聴いていると、なんか、ロッド・スチュワートに、あのビリー・ホリデイが憑依したんじゃないかっていう歌いっぷりなんだよね。節回しとか、そのままだし。ヘロインでダメダメになってしまった後の『レディ・イン・サテン』の頃のビリー・ホリデイにね。
あと、そうだなぁ『言い出しかねて』も、彼はビリー・ホリデイの唄い方を踏襲しているような気がする。それから、前回の写真に載せた『vol.3』 冒頭の「エンブレイサブル・ユー」も、「アイル・ビー・シーイング・ユー」や「水辺にたたずみ」が収録されている傑作『奇妙な果実』で、ビリー・ホリデイが唱っている雰囲気を感じる。
ロッド・スチュワートは、たぶんビリー・ホリデイを相当聴き込んでいるに違いない。そう思った。
ネットで読んだら、彼はサム・クックの熱烈なファンであることを公言しているので、サム・クックのレコードに『トリビュート・トゥ・ザ・レイディ~ビリー・ホリデイに捧ぐ』というのがあるから、こちらも影響しているのかな。
■ただ、「I'll Be Seeing You」って曲は、どう考えたって女性の唄だよな。
日本語だと、一人称で明確に男か女か判るし、例えば「AKB48」や「いきものがかり」が歌う歌詞には「僕」がよく登場するが、女の子が歌っていてぜんぜん不自然ではない。逆に、福山雅治は女性の一人称で歌うし、徳永英明は女性歌手の持ち歌をそのままカバーする。わざわざ歌詞を男用に変えることはしない。
で、ふと思ったのだが、英語で歌う場合にはどうなんだろうか?
I と You だけなら、どっちが男でも女でも意味が通じるのかな?
でも、さすがに「マイ・マン」とか、「ザ・マン・アイ・ラヴ」って曲は男性ジャズ歌手には歌えまい。
■ところがだ、今回、トニー・ベネットの『デュエット II』を聴いてみたら、シェリル・クロウと歌う曲がまさにその「ザ・マン・アイ・ラヴ」なのだが、何と「ザ・ガール・アイ・ラヴ」と男用に歌詞が変えられていたのだ。なるほど、そうだったのか。
YouTube: Tony Bennett & Sheryl Crow duet- "The Girl I Love" (Great Performances: Duets II - PBS)
いずれにしても、作詞・作曲された当時のオリジナル・ミュージカルで女性が歌ったのか男が歌ったのかで決まるのかな。うーむ、まだよくわからないぞ。(3月19日 追記)
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