『赤ちゃんと絵本をひらいたら ブックスタートはじまりの10年』(つづき)
■3月13日の日記にも少しだけ書いたが、「この本」は文章がいい。
努めて抑えた筆致で、淡々と綴られてはいるのだけれど、
何故か読みながら、書き手の、そして登場人物たちの「熱い血潮」を感じてしまう。
その点が、ルポルタージュとしても非常に優れているところだ。
「第三章:地域に根ざした取り組み」に登場する、北海道恵庭市、鳥取県鳥取市、岡山県西栗倉村でブックスタート実現のために頑張ってきた人たちのことが丁寧にルポされているのだが、読みながら彼らの息づかい、体温、そしてその笑顔がビビッドに感じられるのだ。例えば、116ページにはこんな記載がある。
そして恵庭市の関係者は、「最終的に活動の継続にとって一番大切なのは、人だ」と口をそろえる。例えば地方自治体の財政難の流れがさらに深刻になり、ブックスタートが予算カットの対象とされてしまいそうな時に、「これは単なる配布物のための予算ではなく、子育て支援の方策として継続するべき事業の予算なのだ」ということを、きちんと説明できる人の存在が必要になってくるという。内藤さんは、新しくブックスタートに関わる人たちに、活動を立ち上げた時の気持ちをどう伝えていくかが、これからの課題だと言う。「泣いている赤ちゃんが、自分が絵本を読んだことで初めて泣きやんだ時の喜びは忘れられません。最初に始めた人には大変な苦労もありましたが、やっぱり立ち上げた時の喜びも大きくて、ブックスタートを誇りに思っている人が何人もいるんです。このあたたかい思いのつながり、ブックスタートの大切な核の部分を、人が変わっても代が変わっても、ちゃんとつなげていくことが大切なんです。」
ブックスタートは恵庭市の図書館を変え、健診を変え、市民と行政の関係をも変えてきた。恵庭市に蒔かれたブックスタートという種は、関係者が協力して土を耕し、水をやり、肥料を与えて、手間をかけ、大切に育ててきた結果、恵庭の地にしっかりと根を張り、花を咲かせ、今、最初の果実が実りはじめているのかもしれない。そして豊かになったその土壌には、また違った種から出た新しい芽も元気に育ちはじめているのだろう。
■富士見町でガーデニングを始めた頃、よく苗を買いに訪れたのが小淵沢の五十嵐ナーセリーだ。
今から15年くらい前のことだったが、現在ホームセンターで当たり前に売られている花々が、当時はまだ珍しかった。訊けば、五十嵐さんが自分でイギリスから種を買い付けて、ハウスで大切に育てきたのだと言う。同じ品種でも、同じに育てても、種によって微妙に違った色合いの花を咲かせるのだそうだ。当然、同じ種でもイギリス本国と輸入された日本とでは咲かせる花も違ってくるのだろう。
ブックスタートもまったく同じだな。
佐藤いづみさんがイギリスから持ち帰った種を、
いまのNPOブックスタート実働部隊である斉藤かおりさん他のスタッフが苗床に蒔き育てて、全国各地で待つ「生まれたすべての赤ちゃんの幸せを願う子育て支援に携わる人々」に彼女らは苗を配って回っているのだ。
新たに事業を始める人たちのために、基本的な大切なポイントが書かれた『ブックスタート・ハンドブック』はあるが、それは、マクドナルドの新人スタッフ研修マニュアルでも、セブンイレブンお客様接待マニュアルでもない。その地区の実情に合わせて話し合い、試行錯誤を繰り返し、さまざまな工夫をしながら、毎日水をやり、肥やしを蒔き、汗水たらして畑を耕すのは、その土地に住む人々なのだ。
北海道と九州では気候も違えば土質も違う。
土地の広さだって、日照時間だって違うはずだ。
だから、同じ苗を育てても、咲く「その花」実る「その実」は、
それぞれの土地特有のオンリーワンになるに違いないのだ。
そのことが、このブックスタート活動の一番大切なポイントなのだと
改めて思った次第です。
ぜひ、読んでみてください。
ブックスタートに 関わっていたので
早速 図書館から借りて 読み始めました。
投稿: takko | 2010年3月29日 (月) 06:31
takko さん、こんにちは
ブックスタートも10年近く続けば、地域によっては形骸化してしまったり、予算がつかずに廃止されてしまった所もあるでしょう。
この本には、「初心忘れるべからず」という意味合いも大きいのではないかと思います。
投稿: しろくま | 2010年3月30日 (火) 07:31