カマシ・ワシントン(その6)追補:KENDRICK LAMAR『TO PIMP A BUTTETRFLY』
■カマシ・ワシントンも、6曲目「U」と、ラストに収録された「Motal Man」のバックで(まるでコルトレーンみたいに)演奏するテナー・サックスで参加し、その他の曲でもストリングス・パートのアレンジをいくつも手がけた、ケンドリック・ラマー『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』。やっぱり聴いてみるしかないなと思い、先だってようやく日本盤を入手した。
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恥ずかしながら初めて聴いたが、こいつ、凄いな。
画面中央の星条旗じいさんの向かって右奥にいるモジャモジャ頭の人が、カマシ・ワシントンだ!
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YouTube: Kendrick Lamar - For Free? (Interlude)
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「俺のチンポはタダじゃねぇ!」 って、かなりヤバい歌詞だぞ。
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YouTube: Kendrick Lamar - Alright
YouTube: Kendrick Lamar - King Kunta
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■言うまでもなく「クンタ・キンテ」は、小説&テレビドラマ『ルーツ』の、アフリカから奴隷船の船底に乗せられて新大陸まで強制的に連れてこられた主人公の名前だ。
このCDは、アメリカ在住の黒人に関する一大叙事詩、絵巻なんだと思った。
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■「ここの解説」は、かなり詳しいぞ。あと、
「ケンドリック・ラマー『To Pimp A butterfly』の怪物性とは? 」。
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■ケンドリック・ラマー(1987年生まれ)は、ロサンゼルスでも一番ヤバい地区(コンプトン)の出身。「King Kunta」のPV撮影現場が「そこ」だ。「For Free?」のPVの巻頭でアルトサックス・ソロを吹いているのが、このCDのプロデューサーでもあるテラス・マーティン。
カマシ・ワシントン(1981年生まれ)と同じく、LAのサウスセントラル出身で、1978年生まれのロバート・グラスパー(テキサス州ヒューストンの出身)とは、15歳の時に、全国から選ばれた才能のある高校生プレーヤーがコロラド州で開催されたジャズ・キャンプに集まって、その時に出会っている。だから、このCDにはグラスパーが参加しているのだ。
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『Jazz The New Chapter 3』p23 では、インタビューに答えて、テラス・マーティンはこんなことを言っている。
---- ロバート・グラスパーにインタビューした際にこの曲「For Free ?」について「あなたの演奏はマッコイ・タイナーみたいでしたね」と伝えたら、「テラス・マーティンにマッコイ・タイナーみたいに弾いてくれって言われたから」と言ってました。
Terrace Martin:「ほんとうは、彼にはケニー・カークランドみたいに演奏してほしいと言ったんだよ。ケニー・カークランドはもう亡くなってしまったけれど、俺が一番大好きなミュージシャンの一人なんだ。ウィントン・マルサリスとブランフォード・マルサリス周辺のミュージシャンは、俺の音楽に多大な影響を与えてくれたのさ。」
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■テラス・マーティンは、グラスパーと同い年くらいだと思うが、ウィントン兄弟をdisることなく、心からリスペクトしていることが分かる発言だ。
ウィントン・マルサリスが1961年10月生まれだから、かつての神童も今年で55歳になる。ジャズ界の最前線でまだまだ活躍している、ハービー・ハンコックは 1940年4月生まれだから75歳、ウェイン・ショーターは 1933年8月生まれの82歳。ファラオ・サンダースだって75歳の今やご老体だ。
ぼくらは、いつまでも「彼ら」にすがっていてはいけないのではないか? 若い彼等に、これからのジャズを任せてみてもいいんじゃないか? そう思った。
今年の夏には、ロバート・グラスパーもカマシ・ワシントンも自分のグループで再来日し「フジロック」に出演することが決まった。会場を訪れた、ジャズなんて牛角か小洒落たラーメン店のBGMで流れてる音楽っていう認識しかない若者たちが「彼等の熱い音」を初めて聴いて「カッコイイ!!」って思ってもらえればしめたものさ。
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■話はループして、最初の「村上発言」に戻る。続きの部分を以下に引用すると……
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どちらの言い分が正しいのかというというのは、言うまでもないことだが、どちらの立場に立ってものを見るかによって変わってくる。僕個人の意見を言わせていただくなら、どちらの見方もそれなりに正しい。
こういう結論の下し方はいささか優等生的すぎるかもしれないが、僕ら日本人はもしジャズを真剣に聴こうとするなら(あるいはブルーズやラップ・ミュージックを真剣に聴こうとするなら)「音楽は音楽として優れていればそれでいいんだ」という以上のリスペクトを、アメリカにおける黒人の歴史や文化全体に対してもう少し払ってもいいんじゃないかと思うし、今日随所で見られる「こっちには金があるんだから、札束を積んでジャズ(に限らず他の何かなり)をオーガナイズしてやろう」という風潮はできることなら改めた方がいいと思う ---- 少なくとももうちょっと控え目になった方がいいと思う、たとえ悪意はないにせよ。
またそれと同時にマルサリス兄弟をはじめとする若い黒人ミュージシャンたちも、文化的独占権を声高に言い立てるよりは、自分たちの音楽をもっと世界に拡げていくことによってより幅広い民族的アイデンティティーを確立するというパースペクティヴを持った方がいいのではないかという気もする。
そういう一般論で締めくくるには現今の社会状況はあまりに閉鎖的で重すぎるかもしれないけれど、少なくともレーシズムに対する逆レーシズムといった構図からは、真に創造的なものはうまれてこないのではないか。(『村上春樹 雑文集』より「日本人にジャズは理解できているんだろうか」p125,126)
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■村上春樹さんが、20年以上も前に書いたこの文章は、ケンドリック・ラマーの『TO PIMP A BUTTERFLY』によって、まさに実現されていることに、今更ながら驚く。
(おわり)
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