« 伊那のパパズ絵本ライヴ(その74)甲府市、山梨英和幼稚園 | メイン | 『海炭市叙景』(つづき) 函館、そして高遠。 »

2011年2月19日 (土)

『海炭市叙景』佐藤泰志(小学館文庫)を読んでいる

■市居の人々が日々暮らす土地とささやかな日常を、地味に丹念に描いたのが島村利正という作家だと思う。戦前から何度も芥川賞の候補に挙がりながら、結局受賞することはなかった。

東京での生活をあきらめ、生まれ故郷の函館に妻と子供を連れて戻り、職業訓練所に通いながら「この短編集」の構想をねったといわれる作家佐藤泰志氏は、僕の中では島村利正氏と重なる部分がすごく大きい。佐藤氏も5回も芥川賞の候補になりながら、結局受賞することはなく、妻子を残して41歳の若さで自死した。


そんな彼の最後の短編集(未完)が、この『海炭市叙景』佐藤泰志(小学館文庫)だ。


先だってから、少しずつ読み進みながら、Twitter に感想を書いている。(以下転載)


●『海炭市叙景』佐藤泰志(小学館文庫)を読み始めた。これ、映画になったんだ。さっき読み終わって強いインパクトに打ちのめされた「裂けた爪」の晴夫役が加瀬亮なのか。ちょっとイメージ違うな。加瀬亮は「まだ若い廃墟」のお兄ちゃんだろう。12:05 AM Feb 16th webから(追記:「まだ若い廃墟」のお兄ちゃんは、竹原ピストルが好演したらしい)


●『海炭市叙景』佐藤泰志(小学館文庫)より「一滴のあこがれ」を読む。これいいなぁ。切手収集が趣味の14歳中学2年生の男子が主人公。ビクトル・エリセ『ミツバチのささやき』の事がでてくる。少年の希望を感じさせる函館山の描写がすばらしい。
6:11 PM Feb 17th webから


●『海炭市叙景』(小学館文庫)より「夜の中の夜」を読む。パチンコ屋の2階に住み込みで働く店員、ワケありの中年男「幸郎」のはなし。これはハードボイルドだね、北方謙三か志水辰夫の小説の感じがする。


●『海炭市叙景』より「週末」を読む。34年間毎日路面電車を操作してきたベテラン運転手の、ある3月末の土曜日の午後「いつもと変わらぬ」勤務の様子が淡々と描かれる。この街に関して、少なくとも電車の車窓から見える範囲のことは誰よりも一番よく判っている。プロとしての自信と心意気が沁み入る。


●『海炭市叙景』佐藤泰志(小学館文庫)より「裸足」を読む。アノラックの男が切なく可笑しい。「俺が何か悪いことでもしたか。自分で稼いだ金だ(中略)俺は一滴も酒を飲んではいけないのか、女と寝てもいけないのか」しかし、港の娼婦たちもその道のプロ。自分の仕事に彼女らなりの誇りがあるのだ。


●『海炭市叙景』(小学館文庫)より「まっとうな男」を読む。「裸足」に似て、この話の主人公も切なくて可笑しい。元炭坑夫の男は50過ぎ。成田空港建設の出稼ぎ先で反対闘争の連中に殺られる思いをして地元へ帰ったが仕事はなく職業訓練所に通う日々。ある夜、理不尽にも覆面パトカーに捕まってしまう


●『海炭市叙景』(小学館文庫)より「大事なこと」を読む。水産高校の投手で、地区予選の二回戦でコールド負けした主人公はいま、町内の朝野球チームの投手だ。彼は横浜高校の愛甲投手がロッテに入団した時から打者としての素質を見抜き密かに応援してきた。でも、チームの幼稚園園長の息子は彼を嫌った


●(続き)幼稚園園長の息子が、プロの選手で誰が一番好きかと訊いた。主人公は勿論、あいつの名前をいった。すると彼は「あの男は不良だぞ。根性の悪い、狡い奴だ」といった。すると主人公はこう反論したのだ「それがどうしたんだ、あいつはプロの野球選手だ、ものにできる投球は確実にヒットにできればいい、違うか」


●『海炭市叙景』(小学館文庫)より「夢見る力」を読む。電力会社に勤める35歳の男が競馬場のオーロラビジョンを一心に見つめる。サラ金から借りた8万円はすでに五千円を残すのみ。このダメダメ男、どんどんギャンブルのドツボにはまっていく様が滑稽ではあるが、読みながらいつしか男の気持ちになっている自分がそこにいた。


●『海炭市叙景』(小学館文庫)より「昂った夜」を読む。18歳の女の子が主人公。教育者の父のもと一人娘として育ったが、暴走族の仲間とパクられて私立女子校を退学。いまは空港レストランのウエイトレスをしながら、1〜2年後には東京へ出て行くつもり。東京への最終便がもうすぐ出るある夜の出来事。


●『海炭市叙景』(小学館文庫)より「黒い森」。プラネタリウムに勤める市職員49歳。妻は9歳年下、一人息子は高校1年生で八畳と六畳のアパート住い。マンションを買いたい妻は、1年前から友人のスナックで夜のバイトを始めた。最近では土曜の夜に外泊してくる。ウジウジした男が疎ましくも切ない。


●『海炭市叙景』(小学館文庫)より「衛生的生活」を読む。「黒い森」と同じ公務員なのに、何なんだこの嫌らしさ。47歳の職安相談窓口職員。ゴロワーズには笑った。かまやつひろしの歌にもあったね。それにロミー・シュナイダー、死んじゃったねぇ。「見栄っ張りで尊大で自分を何者かだと思っている」でも、俺にも似たところがあるなぁ。


●『海炭市叙景』(小学館文庫)より「しずかな若者」を読む。誰かも書いていたが、村上春樹の短篇みたいだ。7月の終わり、別荘地でひとり過ごす19歳の大学生。ジャズが好きで、ジム・ジャームッシュの映画も好き。なんだ俺といっしょじゃん。でもオスカー・ディナードは知らないな。夏なのに静かでクールな若者。この小説の雰囲気、ぼくは好きだ。


■函館の街は、過去に2回訪れたことがある。

1回目は学生時代。真冬に常磐線の夜行列車に乗って青森に着き、青函連絡船で北海道に渡った。このとき、八雲町のジャズ喫茶『嵯峨』のマスターとママにお世話になり、函館では『バップ』のマスター松浦さんに会っている。この時泊まったのは、市電に乗ってしばらく行った先の競馬場に近い温泉街の安宿だったと思う。函館の老舗ジャズ喫茶『バップ』は、近隣の火事のための放水で地下の店が水浸しとなり一時休業していたが、別の場所に移転して再開したのだそうだ。よかったよかった。


2回目は結婚した年の7月だったな。

名古屋から函館空港に着いて、その夜は函館山の麓のペンションに泊まった。そこからロープウェイの発着所まではすぐで、チェックインの後にロープウェイに乗って山頂へ行き、あの有名な函館の夜景を眺めたのだった。

翌日、レンタカーを借りて羊蹄山の麓まで行き、翌々日は小樽で寿司を食った。

あの、関根勤のマネージャーの実家で、女性の女将さんが寿司を握るといことで話題になっていた店だ。

トラックバック

このページのトラックバックURL:
http://app.dcnblog.jp/t/trackback/463039/26013597

『海炭市叙景』佐藤泰志(小学館文庫)を読んでいるを参照しているブログ:

コメント

コメントを投稿

Powered by Six Apart

最近のトラックバック