林明子『ひよこさん』(福音館書店)のこと(その2)

『ひよこさん』林明子(こどものとも 0.1.2. / 福音館書店)は傑作だと思う。


今までの「林明子さんの絵本」と絵のタッチがちょっと異なる「この絵本」のポイントは、『でてこいでてこい』と同じく、被写体の輪郭を「ふちどらない」ことにある。

ここは実はすごく重要な点で、「赤ちゃん絵本」の代表と言えば、ミッフィーの絵本でしょ。オランダの絵本作家、ディック・ブルーナさんは「うさこちゃん」を太い「黒のふちどり」で「かたどる」ワケです。赤ちゃんには、単純でハッキリした「かたち」と「色」の方が認識力が高まると考えられていたからね。

でも、現実の世界ではさ、物体は「黒くふちどられて」はいない。もっと境界不鮮明で、なんとなく「ほわん」と存在してる。実際にはね。たぶん、そこのところを、絵本編集者で作家の征矢清さんと、画家の林明子さんは「こだわった」のではないか? そう思ったのだ。

「質感」って言ったらいいのかな。例えば、落ち葉一枚の丹精な描き方を見よ! それから、

ひよこの毛の「ほわほわ」感、おかあさんの毛の何とも暖かそうで、全てをやさしく包み込んでくれる感じが素晴らしいじゃないですか。

あとは時間の経過ね。夕方から夜も更けて、やがて夜明けで日が昇る。
その時間を、刻々と変化する空の色の微妙なグラデーションの色合いで表現している。これが何とも美しい色が出ていて、とにかく素晴らしい。


絵本のストーリーはいたって単純だ。
いわゆる「行きて帰りし物語」。

母親の元を離れて、ちょっと冒険の探索行に出たはいいけれど、おうちへ帰れなくなってしまったやんちゃ坊主。でも、案外困ってない。おかあさんが迎えに来てくれることを確信しているから。安心しきっているのだね。この何とも言えない「あっけらかん」とした「ひよこの表情」が好きなんだなぁ。


■林明子さんは、この「ひよこ」を描くにあたって、いろんな「ひよこの玩具」を集めたのだそうで、ご自宅の飾り棚には、さまざまな「ひよこ」が並んでいた。でも、どうも満足のいく「ひよこ」がなくて、結局『こんとあき』の時と同じように、自分で「ひよこの縫いぐるみ」を作ってしまったのだそうだ。

ただ、いまひとつ、かわいくない。

そこで、思い切って「ひよこの足」を太く大きくしてみたら、すごく可愛くなったんだって。たしか、そう仰っていたな。(もう少し続く)




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